蜩ノ唄7

その声を聞いた者は皆、彼の虜になってしまうらしい。
実際に耳にした事はなかったが、どうしてもその声を自分のものにしたかった。
その為の手段を選ばなかったのは最大の罪。
行為への罪悪感は、彼の自分を見る怯えた瞳を見た瞬間に生まれた。
それまではただ、彼をこの腕に抱けた事への喜びの方が上回っていた。
たとえそれが同意を得たものではない、犯罪行為だったとしても。







侑士が跡部の手に汚されてた翌日より、慈郎は屋敷から離れなくなった。
それまで頻繁に出掛けていた喫茶店や学校へ係の仕事をしにも行かない。
何より、書生達が出入りに使っていた庭の戸口を針金で留めて動けなくしてしまっていた。
不便だと怒る宍戸や岳人を滝は何かを察し二人を宥める。
慈郎をそこまでさせる、何か、があったのだ。
それが何かを薄っすらと察していたが、口に出す事はなかった。
正確には口に出せなかった。
それを示す先にあるのが、誰も幸せになれない絶望だけだったからだ。

慈郎はかつて隣家と自宅を繋いでいた戸口をぼんやりと眺めながら縁側に寝転がっていた。
先日、ここで侑士が無体をはたらかれ酷く傷付いた。
それを思えば腸が煮えくり返る思いだ。
しかし慈郎は決して現実から目を逸らさなかった。
今まで散々に目を逸らし続けてきた現実すら、全てを受け止めるほどの心意気で。
「あつ…」
真夏の光が容赦なく照りつける。
昼を少し過ぎて天頂を越えた太陽は部屋の中にまでその暑さを届けてくる。
そんな日差しを避けるように瞳を閉じていると、庭の土を踏みしめる音がした。
岳人か、宍戸、書生の誰かが来たのだろうかと目を開けると、そこには樺地を従えた憎き相手が立っている。
「……跡部」
あの出来事よりこちら、彼の姿は見ていなかった。
意識的に避けていたのだ。
今会えば確実に怒りを押し込められず、自分がどうなるかすら想像がつかなかった。
着物を乱してこの部屋で震えていた彼を見た瞬間言った事を実行してしまうかもしれない。
そう思っていた。
「何の用だよ」
体を起こし、睨み付けながら言うと跡部は一拍置いて口を開く。
「あいつは?」
今日ほど侑士が法事の手伝いに行くと言ってくれて助かったと思った事はなかった。
侑士は朝から本陣へと出向いていたのだ。
しかしそれを彼に言う筋合いなどない。
「おめえには関係ねえだろ」
慈郎は睨みつけたまま吐き捨てた。
しかし相手は存外に安堵の溜息を見せる。
微かな音だったが、確かに慈郎の耳に届いたものはそれだった。
「なら構わねえだろ。少し上がらせてもらうぜ」
「お…おい」
縁側から無遠慮に上がりこむ跡部を、どういう了見だと止めようとしたが後に続く樺地の持っている物に動きを止める。
黄色と白のリボンのかかった籠に大量に盛られた見るからに高価な数々の果物。
それが仏壇に供えられるのを見て跡部が何をしに来たのかを察した。
今日は慈郎の父親の命日だ。
跡部は仏壇の前に正座すると蝋燭と線香を手向け、静かに手を合わせた。
目を閉じ、何を熱心に思っているのかは慈郎にも、普段側仕えをしている樺地にも知りえぬ事。
暫しの後、跡部は顔を上げるとじっと遺影を見つめ、その視線を慈郎に戻した。
そして睨むような視線を慈郎に向けたまま、樺地に先に戻れと促す。
忠臣は逆らう事も何かを問う事もなく部屋を出て行った。
完全に足音が遠ざかるのを聞き届け、跡部が先に口を開く。
「お前、俺が何をしたのか解ってんだろ。何故何も言ってこない」
この期に及び、何を言い出すのだと慈郎は目を鋭く細めた。
「………ほんと…は、ブッ殺してえ…けど、あいつに止められてっから……何もしねえ」
「ふん…随分と丸くなったもんだな。此間までは狂犬みたくキャンキャン吠えまくってたくせに」
言い返す言葉がない。
確かにこれまで散々な態度を取り続けてきたのだ。跡部にも、侑士にも。
今更何を勝手なと言われても仕方ないだろう。
だが今の自分にはそれだけの理由があるのだ。
もう二度とあんな思いを侑士にさせたくないという事だけは確かな気持ちとして慈郎の心に存在する。
だからただ唇を噛んで跡部の言葉に耐えた。
「けどまあ…その様子なら話しても大丈夫そうだな」
「…え?」
跡部は礼儀正しく正座していた足を崩し、無作法に手で仏間の中央ににじり寄り胡坐をかいた。
縁側に座る慈郎とは少し距離はあったがお互いそれぐらい間があった方が話しやすい。
「あいつが…新地で何をしていたかが解った。お前の父親との関係もだ」
「親父との関係?」
直射日光照りつける縁側は苛立ちを増すだけだと、慈郎は部屋の中へと移動して跡部と一定距離を置き座る。
漸く聞く体勢に入ったのを見届け、跡部は言葉を切り出した。
曖昧な言い方を嫌う彼らしく、直球で本題に入る。
「あいつ、新地の覗き小屋で見世物にされてたらしい」
「………は…?」
それは以前二人の想像した最悪の過去を、更に凌駕する内容のものだった。
それだけにその一言だけでは慈郎は信じられない。
表情を凍らせ、ただ目や口を呆然開けたまま固まった。
「…え……?見世物…って………マジ…かよ…」
数分固まった後、漸くそれだけを喉から搾り出し口を押さえた。
ただ新地で男相手に体を売っていた、と言われた方がましだと思わされる。
恐らくは慈郎の脳に映し出された映像で正しいのだろう、跡部の表情は硬い。
「……お前、あいつの体の秘密、知ってんだろ」
「秘密?何だよそれ……」
誤魔化す様子もない慈郎が本当に事実を知らないのだと跡部は察知する。
ならば話すべきか、話さざるべきか暫し考えた。
今この状況であれば慈郎も信じるだろうと確信を持ち、再び口を開く。
「……たぶん…あいつは…この事をお前に知られたくないはずだ。それでも聞きたいか?」
それを脅しの材料に使っている。
この切り札を出してしまえば跡部の手元には何も残らない。
本来ならば蹴落としてやりたい恋敵であるはずなのに、何故この様な話をしようと思ったのだろう。
跡部は自身が何をしたいかが今ひとつ解らなくなってきていた。
ただ、彼を傷付けた事実だけは変わらず、そしてそれを癒せるのが自分ではない事だけが確かなのだ。
あんなに悲しげな声を聞きたいわけではなかった。
自分がした事は、過去に彼を金で買っていた奴ら以下の行為だった。
少なくとも金という等価ではなくとも代償を払っていた輩の方がまだ幾分ましだろう。
信頼を酷く裏切った、自分のした事はそれだ。
だが後悔は不思議となかった。
方法を間違えた事は解っているが、ただ腕に残る温もりと冷えた視線、そして少しの罪悪感だけが残っている。
「おい、跡部」
ぼんやりと他所事を考えていると、訝る慈郎の視線が向けられているのに気付く。
話の途中だったと思い意識を切り替えた。
「それで、どうなんだ」
「……俺…は、知りたい………あいつが…どんな傷抱えてここに来たのか…」
慈郎の強い意志は瞳に宿り、それは揺ぎ無いものである。
その事実を彼が信じるか、嘘吐き呼ばわりするかは解らない。
だが跡部は真実を語った。
「…あいつは幼い頃に去勢されている。それが所為で男に順応するように調教されて小屋で見世物として売られてた。
上げる嬌声は極楽へ導くって看板ぶら下げて…」
「―――っっ」
聞きたくない、それ以上はと、咄嗟に顔を背ける慈郎に跡部の鋭い声が突き刺さる。
「聞け!!ちゃんと………お前、あいつが好きなんだろ」
低く響く跡部の声が鈍器のように頭を殴る。
宍戸や滝を前に言った、あの言葉に偽りはない。
ただそれを跡部に言うのは憚られた。
「おい、慈郎」
しかし跡部は誤魔化す事を許さず明確な答えを欲した。
暫し睨み合い、慈郎は観念したように小さく頷く。
それを見届けると、跡部は言葉を続けた。
「ヤってる最中の声を聞きたい男が列成して小屋の前集まって覗いて、
そして気に入ってあいつを抱きたいって男が大枚はたいて次々買っていったって話だ」
「……んな…バカな…そんなのありかよ…」
何かありそうな雰囲気、どころではない。
彼にそんな凄惨な過去があったとは想像もつかなかった。
それだけ自分の生きてきた世界とはかけ離れた場所に彼はいたのだ。
では何故、そんな人がこの家にやってきたのか。
そんな慈郎の心に浮かんだ疑問を知ってか知らずか跡部は父親との関係を話し始める。
「あいつに父親はいない。母親は新地で一、二の人気だった女郎だが子供なんていらないと捨てた。
だから店の遣り手に引き取られて、その婆はしばらく面倒見た後、当時界隈にあった見世物小屋に売ったらしい。
新地で男が売りをやっても大した稼ぎにならないと踏んだ香具師は去勢して見世物として売り出した……金糸雀の声を持つ少年ってな」
「カナリア?」
「あいつの掠れた声が感じて高く張りあがった時に出るらしいぜ、聞いた事もないようなイイ声がな。そう調教されてる」
それまで淡々と語っていた跡部の表情が卑猥なものを含んで歪む。
その様子に慈郎はカッと頭に血が上がるが、ある記憶が脳裏を霞め、意識は一瞬そちらにそちらに向かった。
だがすぐに跡部の言葉が耳に届く。
「そんな環境から更に金で買ったのがお前の親父だ」
「……は?」
「だから、女郎で言うところの身請けだよ。もうその店で働かせない代わりに、大枚はたいてあいつをこの家に連れてきた」
「親父が?何で?」
「それはお前が一番解ってんじゃねえの?」
跡部の言葉に先刻一瞬過ぎった記憶が呼び起こされる。
慈郎の耳を介した記憶は、確かに脳に刻まれていた。
忘れようとしても決して忘れられなかったのだ。
慈郎は確かに知っていたのだ。
その金糸雀の声を。

それは慈郎が徹底的に侑士を避ける事となった切欠ともなる出来事だった。

まだ父親が生きていた頃、この茹る様な暑さの今とは正反対の季節、年末押し迫った頃の雪の夜だった。
底冷えする京都の夜は長く辛いもの。
あまりの寒さに慈郎は目を覚ました。布団と薄い毛布だけでは寒さが凌げない。
もう一枚毛布を用意してもらおうと侑士の部屋へと向かった。
しかしそこに人の気配はなく、布団を用意した様子もない。
どこへ行ったのだろうと広い家の中をうろうろと探し回る。
だが侑士を探すより自分で毛布を出した方が早いだろうと思い直し、屋敷の奥へと向かう。
玄関のすぐ近くにある納戸は、衣類や日用品の類しか置いていない。
敷地の一番奥にある布団部屋として使っている小部屋にあるだろうとそこへ向かって歩き出した。
時間が時間だけに住み込みの使用人も全て寝静まっていて家の中は異様な静けさに包まれている。
庭に沿ってある板張りの回廊を歩きながらふと外に目をやる。
だんだんと薄く雪が降り積もり白く染まり始めていた。
垣根の朝顔は全て取り払われ、剥き出しの枠組みが残っているだけだ。
花の類も緑の類も無くなった庭の中で、一際目を引くのは椿の木。
次第に白くなる中で映える深緑の厚い葉と真っ赤な花。
降りしきる雪の重さに耐え切れなくなった花は首からぽとり、ぽとりと音を立てて落ちていく。
真っ白な雪に広がる赤の斑点。
強烈な印象で目に入るそれを暫く眺めていたが、骨まで凍みるような寒さに我に返る。
「うー…寒…早く戻ろ」
布団部屋に入り、手近にあった一枚を掴みそれを頭から被って暖を取りながら部屋に戻ろうと木戸を開ける。
ふと畳敷きの廊下の奥がぼんやりと照らし出されていた。
誰かが電気を消し忘れたのだろうかとそちらに向けて歩を進める。
そこが父親の私室に続く廊下であると気付き、警鐘が響く。
部屋に居なかった侑士、そして屋敷内で踏み入れていなかった場所である父親の私室。
何かがある。
そう直感してしまい、頭の中に鳴り響く警告音を無視してそっと近付いた。
しかしそれは距離を詰めるにつれくぐもった声に変わる。
何をしているのか、見てはならない。
思いながらも慈郎はそっと襖を開けてしまった。
音も無く糸ほどの隙間が開く。
途端に凍える廊下へと漏れ出るのは行灯の淡い光と奇妙な空気を孕んだ熱、そして細く泣くような声。
一瞬何が起きているのかを理解できなかった。
糊の効いた真っ白な敷布の上にパサリと真っ黒な髪が落ちるのが見え、その隙間から見える顔は慈郎の良く知るもの。
確信に近い思いを抱いてはいたが、そうだとは信じたくはなかった。
だが、そこにいたのは確かに侑士だった。
父親に組み敷かれ、背後から覆われている体に着物はなく、冬になり白くなった侑士の肌には玉の様な汗と赤い痕が付いている。
苦しみから逃れる為に出された腕は敷布を握り締め、震えていた。
二人が何をしているか、それが解らないほど慈郎は子供ではなかった。
だがまさか自分の父親と侑士が情を通じていたなど、想像もしなかったのだ。
元々女関係にだらしなく、愛人と名乗る女性を何人も見てきた慈郎にとって父親の行動はそれほど驚くべきではなかった。
ただその相手が侑士であるなど、どう想像しようか。
否、しかしどこかそれも心の隅に可能性として植わっていたのかもしれない。
あの男が、何も無く慈善で少年を一人引き取ろうなど考えるはずもない。
そう考えれば至極納得のいく光景でもあった。
今この場から立ち去らないのがいい例である。
とは言うものの、半分は動けないという表現が正しいのだが。
「う…あっ……はあっ…せ…んせ…も、離して…くださ…」
うわ言のように吐かれる言葉が慈郎の耳に届く。
「まだだ。もう少し我慢しなさい」
「も…あかん…てば、堪忍して………やぁっっ」
冷たく響く父親の声とは対照的に熱を孕んだ侑士の声は心臓を抉り、不自然な程の動悸を引き起こした。
慈郎は息をするのも忘れ、食い入るようにその行為を凝視する。
父親の腕が白い体に巻きつき、不自然に股間へと回って、彼のそれを握っているのが解る。
煽られるように繋がった場所を何度も揺すられ、嫌がる侑士が頭を振るが父親はそれを許そうとしない。
だが次第に限界が訪れたのか、侑士の腰を両手で掴むと激しく抜差しを始める。
淫猥な肉のぶつかる音や水音より鮮明に耳に届くのは細く泣きそうな声。
侑士の口からは普段の掠れた声など微塵も感じさせない艶を帯びた音が漏れている。
「はあ…っんんっ…せん…せえ……」
「さあ、今日も聞かせてくれ…侑士」
「――――っぁっっ!!!」
父親の何かを促す声に続いて聞こえてきたのは、この世のものとは思えぬほどに高く張り詰めた美しい善がり声だった。

その声を合図に行為が終わりを告げたのを察し、慈郎は音を立てないよう急いで自室に戻った。
部屋に入り襖を閉めてもまだ動悸は止まらない。
浅い息ばかりを繰り返し、このまま酸欠になりかねないと慈郎はゆっくりと深呼吸をする。
だがそんな事で心臓の音は治まってはくれない。
「ん…だよ、あれ……」
昼に見る優しげで明朗な彼とは別人だった。
淫靡で陶酔とした表情が頭から離れない。
少年らしさを残した細く白い体も、その表情も充分に慈郎を煽る材料になる。
真っ白な敷布に白い体、そこに散る赤い痕が雪舞う庭の椿のようだった。
しかし一番心奪われたのは、あの声だった。
えも言えぬ艶を含み、思い出すだけで背筋をぞわぞわと何かが這うような感覚を起こす。
おかしい。こんなのはおかしい。
ここは侑士をなじるべき場面だ。
気持ち悪い。淫蕩な好色めと罵倒してやるところだ。
なのに何故、今自分の頭を占めるのはあの声をもう一度聞きたいという思いなのだろう。
慈郎は持ってきた毛布の存在を忘れる程に体が熱くなっている事に気付き絶望した。
その思いの出所に気付かない振りをしても、湧いてくる邪な気持ちは抑え切れなかった。
それを回避する術を慈郎は知らない。
その歪んだ欲望は憎悪に似た感情で覆う事でしか己を誤魔化す事はできない。
翌日よりただ顔も見ず避けて過ごす以外に方法はなかった。
相手も何か言いたげにしていたが、かける言葉が見つからない。
父親からの行為である事は明白であるが、いつしか頭の中で摩り替えていた。
あれはあの淫乱男が誘った事であると。
そうして怨みでもしなければ気が狂いそうだった。
侑士に向かう気持ちを止められなかった。




あれが金糸雀の声だったのだ。
慈郎は記憶に残るたった一度聞いた声を脳内で反復させる。
それだけで体に熱が篭る思いがする。
「どうした、慈郎」
「……別に」
ぐっと拳を握り締める慈郎に気付き跡部が声をかけるが素気無く返す。
「ま、それが事の真相だ。信じる信じねえはお前に任せる」
信じないも何も、裏付けるだけの事実を知っているのだ。
黙ってじっと俯いていると玄関から物音がする。
侑士が帰ってきたのだ。
足音を聞きつけるや否や、跡部は立ち上がる。
「おい、謝れよ……まだ謝ってねえだろ、あいつに」
「……あいつは俺の顔なんざ見たかねえだろ」
その声が僅かに堅いのは慈郎の聞き間違えだろうか。
しかし表情も何か思いつめたようなものだ。
「ただいまー」
玄関から聞こえる独特の抑揚がついた声に、やはり入ってきたのが侑士だと解る。
畳の擦れる音が近付いてくると跡部は仏壇に背を向け縁側に出た。
そして履いてきた靴に足をかけたところで襖が開く。
「ただいま、じろ……う…」
その後姿を見るや否や、顔を青くして硬直する侑士に慈郎は慌てて腰を上げ近付く。
「大丈夫?」
「…あ…う、ん……」
無理に笑顔を作る侑士が痛々しく、慈郎は早く帰れと跡部を見遣る。
刹那、目に飛び込むその表情に慈郎は驚かされた。
怯える様子を見せる侑士に酷く傷付いたような顔をしていたのだ。
自業自得であるはずの結果だというのに、何故。
跡部の性格からして開き直り何か厳しい一言を残し立ち去りそうなものだが、
苦しげな表情で視線を外したままの侑士を見ている。
十数秒時が止まったままでいたが、ふっと視線を外すと跡部は何も言わず庭から帰って行った。
跡部が何を考えているか、慈郎には解らない。
ただ、彼の抱えている気持ちが、思った以上に重いものであるという事だけは確かなようだった。


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