サイン/サイレン/サイレント9

Side;Kuranosuke Shiraishi



いじける謙也なんか可愛い事も何もない。
っていうか俺の話聞いてるんか。
むすーっとした顔してもそもそネットなおしてる後姿に声かける。
「謙也ー」
聞こえてるはずやのに返事がない。
「けーんや!」
後ろから耳引っ張って大声出したら飛び上がってびっくりしとる。
「きっ…聞こえとるわ!!」
「聞こえてんやったらちゃんと返事しなさい」
「へぇへぇ…」
「返事はー?」
「はいはい」
「ハイは一回!」
「はいっ!」
返事だけは元気にしてるけどしかめっ面はやめへん。
今のこの不機嫌はさっき千歳が光に構ってたからやろ。
ほんましゃーないやっちゃなあ。
「あんなあ謙也…」
「蔵ーっっ!!」
窘めようと口開いた時、血相変えてユウジが飛んできた。
ああ、何か嫌な予感。
前もこんな事あったわ。
って悠長に構えてる場合やなかった。
「あっ!丁度よかったっ!!ちょぉ来い謙也!!光が暴れとるんや!」
「え?…けど最近は…」
「久々にやらかしよってんて!早よ来て止めぇ!今師範と金太郎が力ずくで押さえとるけどボロボロやど」
ユウジが焦った様子で謙也を急かすけど、意地張って謙也は動こうとせぇへん。
ほんまにどうしょうもないな。
俺とユウジは頷き合うて謙也を両脇からがっちりとホールドして倉庫に急行した。
「ちょっ…離せっ」
「お前のしょーもないやきもちなんかどーでもええんじゃ!早よ来て光安心させたれや!」
逃げ腰の謙也にユウジの声は届くんやろうか。
たぶん今光が癇癪起こしてんのは無意識に謙也を呼んでるからや。
途中までは渋々やった謙也も、倉庫に近付いてきて皆の声が聞こえてきてからは自分の足で走ってった。
光は声にならん声上げて、うーうー唸りながら銀に押さえられてる。
その現場見て謙也はブッサイクに顔歪めて立ち尽くした。
久々に見る光のこんな姿に流石にショック受けてるんやろ。
「あ!謙也ぁー!」
金ちゃんが真っ先に俺らに気ぃついて声上げた。
そしたらこっちに気付いた光が腕振りほどこうとし始めた。
それまでただ我武者羅に暴れるだけやったけど、明らかに違う動き見せた事に銀は力緩めた。
途端に光は泣きそうな顔で転がるように駆け出して、一目散に謙也目掛けて走ってきた。
周りなんか一切見んで、謙也に抱きついてやっと落ち着き取り戻したみたいや。
謙也の背中に手ぇ回して掌色変わるぐらい謙也のユニフォーム握り締めて震えとる。
ほら見てみぃ。
やっぱり光にはお前しかおらんねやないか。
「アホ謙也」
光抱き締める謙也の後頭部思いっきり殴ったる。
ほんまは顔面に拳入れてやりたいところやけど光の目の前やしそれは勘弁しといたろ。
「解ったか、ボケ。大ボケ」
ユウジも、小春も金ちゃんも、小石や銀までもが順番に謙也の頭小突いていく。
ユウジに至っては手加減なしのタコ殴り状態。
まあそんだけここ最近の謙也の態度に腹立てとったんやろ。
俺は止めずに思う存分殴らせといた。
俺の態度は弟心配する兄って自負しとるけど、こいつのこれは完全に妹の心配するブラコン兄のもんやな。
そんでユウジの気ぃ済んだところで俺ももう一発頭どついとく。
「光がこんだけ全身全霊でお前ん事好きや言うとんのに…何で解ったれへんねん。アホ。どアホ。せやからお前はアカンたれや言われんねん」
「……すまん」
「謝る相手ちゃうやろ」
必死になってさっきの俺の言葉否定してけぇへんって事はたぶん、もう謙也の声しか聞こえてへんはずや。
俺はちっこなって震える光指差した。
「ごめんな…ごめんやで光。ほんまごめん……俺のアホなやきもちやってん。お前がめっちゃ千歳に懐いてんの見て腹立って…ほんまアホでごめんな」
アホ、ボケ、ほんま信じられへん、何考えとんねん、もうお前なんか知らん。
光は指で悪態の限りを吐いてるけど、謙也はそれ見ながらうんうん頷いて只管謝ってる。
「光、もう十分通じたて。許したり」
ぽんって肩叩いたらようやく自分が何したんか気付いたみたいで顔真っ赤にして謙也を突き放した。
その後昔みたいにユウジの背中に隠れた。
ほんまこいつらは手ぇかかるし目ぇ離せへんし。
どっちもしゃーないわ。
けどほっとかれへんねんから、俺も皆もしゃーない。
「千歳もごめんやで……ほんま、俺がアホやったわ」
謙也は千歳に頭下げた。
変なとこで頑固なくせにこういうとこで素直に謝れるんは謙也のええところや。
ムカつくよって口に出しては言うたらんけど。
千歳も元々あんま気にしてへんかったみたいやし、すぐに許したってた。
それどころか、意外な心境を明かしてくれた。
「本当にな、嬉しかったんよ」
「え?」
「一人でこっち来て、上手い事チームに馴染めるか心配やった。ばってん…俺んこつこがん意識してくれてるって解ったけん、全然怒ってなかよ」
形は歪んでるけど、自分の存在を認めてもらえたようで嬉しかったのだと千歳は笑う。
ほんま、こいつもアホやわ。
うちのチームはみーんなアホばっかりや。
けどええ奴ばっかりで、無理さしてでもこの学校来させてよかった。
色々あったけど、光にとっては最高の場所になった。
「だけん、俺にも守らせてほしか。こぎゃん皆で守っとる、大事なもんば、な」
千歳はユウジの影に隠れて出てけぇへんようなった光を見てそう言うた。
千歳も含めて俺らは光にとってサプリメントか栄養剤みたいなもんや。
別にあってものぉてもかまへん。
栄養素を別の方法で摂取する術もある。
けど一番身近で便利で手軽で、光の為に働く存在。
せやけど謙也は違う。
絶対に代わりのきかん光の大事な心の薬やって事、このアホにもようやっと解ったやろ。
ちょっとその分光には辛い目ぇ遭わせてしもたけど。
せやけど二度目はない。
もし今度こんなアホな事しくさったら全力で叩き潰したる。
それが兄貴分としての役目やからな。


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