サイン/サイレン/サイレント10
Side;Kuranosuke Shiraishi
何やかんやあってバラバラになりかけてた謙也と光も、やっと元の、いや、それ以上に仲良なった。
これでやっと安心して大会に臨めるわーって思てたのに。
何でこうも次から次から問題起こすんやあいつは。
俺は連絡受けて思わず項垂れた。
『謙也さん?』
携帯切ると一緒に昼飯食うてた光が電話の相手知って心配そうに見上げてくる。
内容が内容だけに伝えるべきか、悩んだ。
けどここまで聞かれてたら言わんわけにいかん。
俺は次の光の行動を予測して先にユウジを召喚しといた。
小春と一緒に飯食うてたのにってぷりぷり怒られたけどな。
光の一大事やって言うたら文句垂れながらもすっ飛んできた。
やっぱりこいつはブラコンや。
まああんま人の事とやかく言えんけど。
「謙也、な。目ぇ怪我してんて」
『……は?』
予想外、てゆうか、最早範疇外やった光はぽかーんって口開いたまんま動かんようなってしもた。
それ見てユウジが代わりに言う。
「それで?」
「あー…怪我自体は大した事ないねんて。目ぇ日焼けしただけやから」
「ああ、そうなんや。昨日日なたで長時間試合しとったもんなあ」
「そんなんで痛いよって目ぇ開けてられへんから2,3日は包帯取れんねやて。今家で安静にしとるて」
「ほんまかいな…ほな学校も来られへんや…ん?おい光?!」
ユウジの声聞くや否や、光は荷物まとめて立ち上がった。
あーやっぱりユウジ召喚しといて正解や。
二人がかりで走っていこうとする光を宥める。
「ちょっ…待ちぃや!!」
「落ち着き、光。今行っても謙也に気ぃ使わせるだけやねんから」
「そうやど、光」
「今日は部活休みにして見舞いに連れてったるから、ちゃんと6限まで授業受けるんやで?」
不満そうにしとるけど、光は頷いてくれた。
試合前やどーって怒るオサムちゃん何とか言いくるめて部活休みにしてもろて、俺は光を連れて謙也の家に向かった。
謙也の家は共働きやけど、流石にこんな状態の息子一人ほっとかれへんのか珍しく謙也のオカンが出迎えてくれた。
「ほら、上がらせてもらお」
謙也の部屋に行って、目の周りに包帯巻いてベッドで寝てる謙也見て、俺はある事に気付いた。
今の今まで肝心な事に気ぃつかんかったんは迂闊や。
光もここに来て気ぃ付いたんか、部屋の入口で立ち尽くしてる。
「謙也」
「え?蔵?何、見舞いに来てくれたんか?」
俺はこうやって声かけれるから存在知らせる事ができる。
けど声の出せん光は今の謙也にとってここにおらんも同然。
謙也の目は光の声を聞く耳でもあったんや。
それを奪われた今は、
「ああ、俺と…」
触れる事でしか存在を示されへん。
俺が代わりに言う必要もないやろ思て光の背中押して謙也の側に行かせる。
そんで躊躇う光に目配せして手ぇ握らせた。
大丈夫、こいつやったら気ぃつくわ。
「え…え?もしかして光?」
せやから何で解るんや。
自分でけしかけといて何やけど。
「光やんな?」
何べんもぎゅうぎゅう手ぇ握って確信持ったみたいで、握った手ぇ引き寄せて思いっきり抱き締めた。
「うわーめっちゃ嬉しいわ」
光は俺に見られるん恥ずかしいんかもたもた暴れて腕から逃げたけど謙也は手だけは絶対に離さんかった。
光は握り締められた手をそっと動かした。
「い、け、ん、の……いけんの?おお、大丈夫やで。ちょぉヒリヒリするけどな、すぐよぉなるし心配いらんで」
今は謙也の手が耳になってる。
光の指文字に手ぇ添えて、何言いたいんか読み取ってた。
けど俺がじっと見てるんが恥ずかしいんか手ぇ離してしもた。
そしたら謙也は必死こいて手探りで光の事探しだした。
「光…?あれ?光ー?どこやー?」
「大丈夫や、ここにおるよ」
逃げていこうとする光の肩掴んで謙也の前に差し出す。
「あ、そうなん?光、こっち来てぇや。触ってな光おるか解らんやん」
「やて、光。今は謙也の目ぇここやねんから。ちゃんと握っといたり」
謙也の手ぇ指差して言うたら恥ずかしそうに目ぇ彷徨わせた後、ぎゅっと握った。
「恥ずかしいんやったら俺先帰るよって、離したらあかんで?」
光が頷くのを見届けて、俺は謙也の部屋から出ようか思た。
けど気になる。
あの二人がどんな会話してるんかめっちゃ気になる。
幸い光が出て行けって言わんかったから、俺は部屋の隅で地蔵になる事に決めた。
声さえ出さんかったら謙也には俺はおらんのも同じ事やし。
これぐらいの聞き耳は許して欲しいわ。
っていうか、普段の貢献度から考えて、これは当然の報告やわ。
腹の中で適当に理由つけて、謙也の勉強机の椅子に座って二人を観察した。
光はベッド脇の床にちょんと座ってじーっと謙也を見てる。
普段は謙也と目ぇ合うん恥ずかしいんかあんまり顔見たりせんようやけど、今は視線遮られとるから思う存分に凝視してる。
その顔は心なしか嬉しそうや。
元気にしとんの見て安心したんかな。
オサムちゃんにはだいぶ文句垂れられたけど来てよかったわ。
「お前いっつも手ぇ冷たいなあ。今日結構暑いのに」
光の右手握りながら謙也が呟く。
そういや改めて考える事少ななってたけど、光は体温が低い。
火事の影響で調節狂ったみたいで体温上がったり下がったりが酷い。
熱ある時は心配やけど、ちょっと低いぐらいのが体楽らしい。
異様に下がって動けんようなってびっくりする時もあるけどな。
謙也の様子からして今はそないに低うはないんやろ。
「ここ熱酷いから冷やしてや」
謙也は光の手を目のとこに持ってきて乗せた。
その温度にびっくりしたんか光の肩が揺れた。
けど珍しく甘えてくる謙也の言う事を黙って聞いたってる。
いつもは光が甘えの一辺倒やしな。
ただ手ぇつないで、謙也の傷付いた目に手ぇ添えて、光はそこにおるだけやけど謙也は嬉しそうやった。
謙也が一方的に話して、時々光が手握り返して合図して、それだけやったけど何やあったかい空気が流れてる。
あかん、だんだんいたたまれんようなってきた。
俺ここにおったらあかんような気分になってきた。
ドアに手ぇかけて出て行こうかと思た時、謙也の声が聞こえてくる。
「早よ良ぅなりたいわ。光の顔早よ見たい。今どんな顔してんやろな」
その言葉に光は握ってた謙也の手を自分の顔に持って行く。
一瞬びっくりしたみたいに謙也は動き止めたけど、すぐ優しくほっぺ撫でたってる。
猫みたいな仕草で謙也に甘えてる姿に、もしかしたらって思った。
そしてずっと聞きたかったその言葉を、光は自分から言うてくれた。
謙也の家からの帰り道、鞄からノートを出して何かを書いて見せてくれる。
『はよしゃべれるようになりたい』
今日の事は光の心に重く圧し掛かったみたいや。
けど、
「そうやな…けど、あんまり焦ったらあかんよ」
焦りは禁物や。
光が今焦ってまた心のバランス失ったら元も子もない。
謙也かてそんな事望んでない。
もちろん、俺らも。