サイン/サイレン/サイレント11
Side;Yuji Hitouji
光がこっちに戻るって聞いて俺が一番心配やったんは、元同級生に会うてしまう事やった。
必然的に光は辛い事思い出してまうからや。
俺も、蔵も、謙也も他の奴らも。
もちろん光の家族も、誰も光があの火事をやったとは思ってない。
けど周り、特にあの亡くなった奴の親はそうは思わん。
まあ色々と不可解な事が多い事件やったから、そう思うんもしゃーないとは思うけど。
「光、もう大丈夫やて。心配かけたな」
笑顔で診察室の方から歩いてくる謙也に光がホッとした顔向ける。
謙也が目の診察に行くて聞いて、光はついて行くて聞かんかった。
俺は帰り遅なったら心配やからお前一緒に行けて蔵にお守り押し付けられて渋々ついてきた。
自分行けや、言うたら部長の仕事で忙しいんやと切り捨てられた。
断ったら何言われるやわからんし、しゃーなしに俺はついてきたんや。
そんで謙也が診察終えるまで一緒にロビーで待っとった。
何で俺がこんな子守せなあかんねんて思たけど、来てよかったと思える出来事があった。
光は俺が送って行くからて言う謙也と二人仲良ぅ歩いていくんを正面玄関出たとこで見送った。
それやったら別に俺来んでもよかったんちゃうんけ。ほんまあの迷惑なバカップルめ。
やれやれ俺も帰ろかいな、て振り返ったところで誰かにぶつかった。
「ってぇ…あっ!すんません!!」
「いや、こっちこそ。ちゃんと前見て歩いてへんかったから…怪我ないか?」
ぶつかった相手はここの医者らしく、白衣着てる。
足腰弱いジジババやのぉてよかったわほんま。
せやけど、あれ?こいつの顔どっかで見た事ある。
相手も俺見て変な顔しとるし、どっかで会うたんやろか。
「あっ…思い出した!あのモノマネの子ぉや!せやろ?」
「え?あ……はあ…まあ」
じーっと見とったら相手は掌叩いて俺指差した。
やっぱりどっかで会うたんや。
どこで会うたっけ。
全っ然思い出せんわ。
「俺の事覚えてへんかな?君の友達…名前、はー…ああ、そうや。光君。あの子の治療した医者言うたら解るかな?」
「あ…あーっっ!思い出した!」
火事ん時光が病院に運び込まれた時治療してくれた医者や。
けど何でここにおんねん?
病院変わったんやろか。
って思てたら、あん時はまだ研修医で勤務するようなってこの病院来たんやって教えてくれた。
そういや何やめっちゃ若いなあと思って見とった気ぃするわ。
医者なんかえらそうなオッサンばっかりや思てたのに。
「結構印象的やったからあの子ん事よぉ覚えてるわ。元気にしてるんかな?」
「あー……まぁ元気っちゃー元気…やな」
特にここ一年は。
っつーかあいつもうちょっとここおったら会えたのに。
謙也がとっとと連れていきよるから。
全部謙也のせいじゃボケ。
「何?……あ、もしかしてまだ喋れんの?」
「はあ…まあ……」
この人は救命救急の担当やったけど、光ん事気にかけてくれてて入院中ちょいちょい病室見に来てくれとった。
最後の最後まで、退院するまで結局喋れんでおったんを覚えてるみたいや。
「そぉかー……まあ友達にあんなんされたらそらショックやわなあ…」
「…え?」
何やて?
今何て言うた?
友達に、されたら?
「ちょぉ……先生何か知ってるんですか?!」
「え?どうゆう意味や?」
「あいつ、あの火事の事何も言うとらへんねん!!せやから何あったか誰も知らんからっ」
俺の言葉に先生はちょっと困った顔した。
いらん事言うたかって、そんな顔を。
「お願いします!どんな事でもええんです!教えてください!!」
必死になって頭下げたら、先生は慌てた様子で肩叩いてきた。
「解った!解ったから…移動しょーか」
あ。そうやった。
ここは病院の正面玄関。
通る人通る人こっち見とるし。
恥ずかしい事してもぉたな…
俺は先生に連れられて玄関からちょっと離れた植え込みの側にあるベンチに座った。
隣に座っとる先生の表情は硬くて、あんまええ内容やないんは察する事が出来た。
「たぶん、内容的に子供に聞かせるようなもんちゃうよって、周りの大人は君らに教えんかったんや思うで」
別に根性悪されてるなんか思わんけど、先生は先にそう断ってきた。
「君らが光君に会うたんは、もう傷が癒えてからやったから知らんかったんやろけど…光君、な………首絞められた痕あったんや」
「ええ?」
そんなん聞いてへん。
医者も警察も救急の奴も光のオトンもオカンも教えてくれんかった。
ほな光は…誰かに殺されかけた?
そうゆう事やんな。
「…手ぇで絞めた痕やってんけど…それが……」
言いよどむ姿にピンときた。
「…子供の手ぇやった?」
先生は何も言わんと黙って頷いた。
やっぱり、そうやったんや。
あの場におった子供言うたら、一人しかおらん。
何となく光が何をずっと隠してるんか、その輪郭が見え始めた。
ちょぉ待てよ。
光が癇癪起こすタイミングを思い出して俺は気付いてしもた。
一番は火の気見た時。
それが一番酷かった。
最近はなくなっとったけど、それでも火には近付こうとはせんかった。
それ以外の時のタイミングは不規則なもんやと思とったけど、違う。
たぶん、俺の思た通りのはずや。
「先生ありがとう!!」
「へ?お、おいっ…」
「今度光連れて遊びにくるよってな!!あと俺のモノマネの新作も見せたるわ!」
俺は思い立ったらいてもたってもおれんようなって引き止める先生置いて病院後にした。
そんで帰り道、歩きながら俺は千歳に電話かけた。
出るかどうか心配やったけど、いつも通りの何ね、ってのんびりした声が聞こえてくる。
「ちょぉ変な事聞くけどや、こないだ光が癇癪起こした時一緒におったよな?自分」
『ああーあん時な。ほんなこってたまがったばい。光の首筋に抜けた毛がついてたけん、取っちゃろかって手ぇば伸ばした途端暴れ始めて…』
「やっぱそうやったんや……ありがとう千歳!!」
『へ?ユウジ?ちょっ…』
まだ喋っとる千歳ほっといて通話切って、そのまま次は蔵にかけた。
『どないしたん?』
「ちょ…今から会えんか?!」
『何やねん、さっき離れたばっかしやのにもう会いたいんかー?可愛い事言うてくれるやんか』
「いちびってんなボケ!!光の話や!」
『光の?何かあったんか?』
光の名前出したら途端に真面目な声になった。
ほんまこいつブラコンやな。
「電話で話すような事ちゃうし、とにかく今から行くわ!」
俺は電話切ってすぐ蔵の家向けて走ってった。
病院から電車乗り継いで蔵の家着く頃にはもう日ぃ傾いてきとった。
ピンポン押したらすぐに中入れてくれた。
俺は病院での出来事と、千歳の話をする。
途端に蔵は手で顔覆った。
「……光…あの死んだ奴の事かばっとんやろか…」
俺の言葉に蔵がまた顔上げて、ムカつくぐらい綺麗な顔泣きそうに歪めながら言うた。
「さあ…どうやろな。まだ何かあるんかもしれんし」
確かに。
俺が今日知ったんはまだ断片でしかない。
ただ、光は火が怖くて、首元に手が近付くんが怖い。
それだけの思いをした。
早よ光がもっと楽になったらええのに。
謙也と一緒におる時みたいな可愛い顔ずーっとしてられるようんなったらええのに。
「光、早よ楽んなったらええのにな」
今の俺、どんな顔しとったんやろ。
蔵は苦笑いしながら俺が思とったんと同じ事言うて俺の頭撫でてくれた。
光にするみたいに優しいに何べんも。