サイン/サイレン/サイレント6
Side;Kuranosuke Shiraishi
まさかの展開が起きて、三ヶ月が経った。
ほんまにまさかやった。
謙也が光好きになるんも、光がそれ受け入れるんも。
けどなるようになったんかもって、最近はそう思えるようになった。
一番は光が癇癪起こさんようになった事。
そしてもう一つは謙也と目ぇで会話しとるん見た時。
あいつらほんまありえへんやろ。
野生の勘か?ってぐらいに謙也は光の考えとる事が解るみたいや。
その事を指摘したら、またアホみたいな顔でへらへらしながら、
「何でやろなあ、光の顔見たら何言いたいか解んねん」
って言いやがった。
こっそり光ノート見たら、時々見当違いな事言うてるけどだいたい合ってる。せやし謙也さんの気持ちが嬉しいって書いてあった。
何やかんや言うて相性ええんかもな。
光は甘え下手やから謙也みたいにドロドロにホットなタイプがぴったりなんやと思う。
あいつは優しさの加減知らんからな、甘やかしたいだけ甘やかせよる。
普通の奴やったらワガママ助長させるだけなんやろけど、ドライな光にはそれぐらいが丁度ええんやろな。
そんな二人見てたらもしかしたら、って思た。
けど、それでもやっぱり光は声を取り戻せへんかった。
いよいよ年の瀬も押し迫った、今日はクリスマスイヴ。
そして終業式って事もあって校内はいつも以上に騒がしかった。
テニス部も例に漏れず、部室でクリスマスパーティする事になった。
珍しくオサムちゃんがおごったるわー言うてくれたから。
競馬でボロ儲けしたんやろか。
それともパチンコか。
まあ金の出所は知らんけど、俺はオサムちゃんから預かった金入った財布渡して光に買い出し係を押し付けた。
そしたら自動的に謙也も付いて行くやろし。
何て無駄のない人選なんやって思てたのに、またとんでもない事言い出しよった。
あのアホは。
「おかえり光。寒かったやろ」
『ただいまー』
音のない唇は白なってて冷えてんやなって感じする。
風冷たかったんかほっぺた真っ赤やし。
俺はお釣りの入った財布受け取りながら、その手で光の唇に触った。
「ここ、えらい色悪いけどいけるんか?」
途端に手ぇ振り払われた。
ほんで手で唇押さえて恥ずかしそうに顔背けたか思うと、横で暇そうにしとるユウジに持ってた荷物押し付けて逃げるようにドアから出て行こうとする。
ああもう。
うっかりピンときてしもたやんけ。
そしたらタイミングよぅ光と入れ替えに謙也が大荷物抱えて戻ってきた。
「あれ?光?どこ行くんや?」
謙也の声もお構いなしに光は部室から出て行ってしもた。
聞くともなしに俺との会話耳に入っとったんやろうな。
「謙也ぁぁぁぁ!!!お前っ…光に何したんやっっ!!」
俺より先にユウジが、俺のやりそうなってた事先にやってくれた。
謙也は襟締め上げながらいきなり怒鳴りつけられて、訳解らんって顔してる。
「え?え?」
「落ち着きやユウジ」
「光汚されて落ち着いてられるかぃ!」
それは俺も同意や。
けど謙也は相変わらず意味解らんって顔してキョドってる。
「は?はぁ?何の話や?」
「落ち着けて。周りよぉ見ぃや」
今ここにおるんは俺らだけやない。
平部員もおるし、銀や小石川も不思議そうにこっち見とる。
小春は何か察したみたいに嬉しそうにニヤニヤしとるし、これ以上言わせたらあかんわ。
ユウジもやっと自分が何したか気ぃついたみたいで謙也から離れて準備に戻った。
結局光はパーティ始まるギリギリまで戻ってこんかって、戻ってからも俺に何か言われんの嫌やからか、
謙也の次に懐いとる銀の側にべったりでこっちに寄ってもけぇへん。
光に構ってもらえんで拗ねてんか思たけど、謙也は謙也で楽しんどるみたいや。
二時間ぐらい騒いでから平部員らは皆帰って、レギュラー陣だけで片付けながら軽い打ち上げみたいな事してた。
小春とユウジの漫才みたいなやり取りが始まって皆の意識がそっちに向いてる隙に謙也を手招きして呼んだ。
部室の端にあるベンチやし、皆小春らに夢中でこっちには気付いてへんから丁度ええやろ。
「何や?蔵」
謙也はジュース入った紙コップ持ったまま来て隣に座る。
「お前、何か俺に言いたい事あるんちゃうん?」
「えっ」
「顔、ずーっとニヤけとる」
さあきっかけは作ったったで。
どう出るんやって思ったら、心底嬉しそうな、とろけそうな笑顔で言いよった。
「さっきな、光とキスした」
やっぱり。
光の恥ずかしそうな顔見た時は、ああついに光がって思って何かこう切なーくなったけど、謙也のニヤけた顔見てたらめっちゃ苛々する。
何でこいつの惚気話聞かされんとあかんねん。
光のやったらなんぼでも聞いたるけど。
…って、聞き出したん俺か。
「もー光めっちゃ可愛いねん。ほんま掠るようなんやってんけどな」
いや、そこまで聞いてませんよ謙也君。
しかしファーストキスがイヴて。
どこのベタな少女漫画やねん。
「けど照れて全然顔見てくれんようなってやーそんな顔されたら我慢ならんっちゅーねん、なあ?」
「なぁ?やないわ!!我慢せぇ我慢!!それ以上は許しませんよ!!」
「もっ…物のたとえやんけ!そんな手ぇ早ないわ!」
「十分早い!!まだ中二やぞ?!光なんかまだ中一やぞ?!せやしお前らまだ付き合うて三ヶ月やろ?!
そんな事までスピードスターにならんでええっちゅーねん!」
「三ヶ月目やったら妥当やろ!!むしろ遅いぐらいじゃ!」
「アホか結婚するまでは禁止や禁止!!キスもそれ以上も絶対許しません!!婚前交渉なんて汚らわしい!!」
「ど…どないしてん蔵っ!何オカンになっとんねん?!」
いつの間にか小春とユウジの漫才よりこっちの方が声大きなってたみたいや。
慌てた様子でユウジが止めに入ってきた。
けど、
「光汚されて落ち着いてられるかぃ!」
自分がちょっと前のユウジと同じ状態やって事に気付いたんは、光に頭思いっきり殴られた後やった。
「あー痛……手加減なしやなぁ光」
恨めしそうな目ぇして光は銀の影に隠れてこっち睨んでる。
まあ確かに見境なくなってあんなやり取りやってもぉたんは悪かったけど。
「蔵リンってばほんまに光が可愛いねやなあ」
「そうやでー、なあ光?」
小春のからかいに懲りんと光に笑顔で言うたったら拗ねたみたいに顔背けられた。
「まあまあ、そんな顔しなさんな、財前」
銀に頭撫でられてちょっと頷いてからようやく機嫌直してくれたようや。
ほんま先に部員帰しててよかったわ。
あんな漫才聞かせられへんし。
小春は薄々気付いてたみたいやし、銀や小石はびっくりしとったけど応援してくれるって言うた。
大きい声では言えん関係やけど、身近な奴らだけでもこうやって受け入れてくれるんは光にとってええ事かもしれんわ。