サイン/サイレン/サイレント4
Side;Kuranosuke Shiraishi
あの一件以来、光は更に癇癪起こす頻度が少ななった。
やっぱり完全になくなる事はなかったけど、謙也が側にくると途端に大人しなる。
謙也にやと安心して甘えられるって思うんか、はたまた謙也に迷惑かけられへんって正気に戻るんか。
まあどっちにしろ光にとってはええ事やと思う。
癇癪起こす度に傷ついてたんは周りよりも光自身なわけやし。
腕や足に増えていく傷や痣はほんまに痛々しくて見てられへんわ。
謙也の存在が日に日に光の中で大きくなっていってるんは俺もユウジも感じてた。
けどまさかこいつまでそんな風に思ってたやなんて。
夏休みが終わって新学期が始まった。
休み中も部活はあるし、休みの日に皆で遊びにいったりしてた。
そして夏の大会を最後に引退した先輩の跡目を継いで、いよいよ俺らが中心になって部を引っ張っていく事になった。
光もレギュラー入りが決まって、ますます謙也と過ごす時間が増えた。
そんな中、ある日突然宣言しやがった。このアホは。
「お…お父さん」
「………俺はお前みたいな息子持った覚えないでー…」
いつものアホ丸出しの表情をしまい込んで、似合えへん真面目な顔で真っ直ぐ俺の事見てくる。
見てるゆうより最早睨んでる。
人が真面目に宿題しとる時に何やねんこいつは。
まだ人の集まってない部室で、ホームルームが早よ終わった謙也と俺と、授業サボっとったユウジの三人。
各々勝手に過ごしてたらいきなり謙也が俺の前の椅子に正座して畏まってきた。
ユウジもびっくりしてそれまで読んでた雑誌横に置いて謙也を見る。
「光君を僕にください」
そういうて机に手ぇついて頭下げる謙也に、俺もユウジも固まった。
何言い出すんやこいつは。
突然すぎるし、
「……謙也」
「はい?」
「笑えん冗談はギャグとして認めません」
ふざけてるとしか思えへん。
「ちょっ…!!ちょけてんちゃうねん!!マジやねんって!!」
「ほんなら尚更悪いわ」
「何でやねん!俺ほんまに光が…!!」
「お前は優しいからな、光に同情しとるだけや」
優しいし、アホやしと言わんかった俺を誰か褒めてくれ。
こんなんよくある勘違いや。
あんな状態になってる光がほっとかれんようなって、そんで庇護欲刺激されただけに決まってる。
歪んだヒロイズムや。
ユウジも同じ事思ってたんか、はたまた光取られるんが嫌なんか、全力で否定した。
ありえへんって。
絶対ない!勘違いやから目ぇ覚ませて。
謙也自身よぉ解ってへんのか、俺らの強い否定の言葉に不満そうにしながらもそうなんかなって頷いた。
この件はこれで一件落着やと思った。
…思ったのに、数日後、また謙也はとんでもない爆弾を投下してきよった。
部室で部誌書いてると、一人、また一人と帰ってって気付けば謙也と二人きりになってた。
謙也はそわそわと何か言いたそうにしてたけど、あえて俺は何も聞かんかった。
言いたかったら自分で言うやろ。子供やないんやし。
それにあんまり聞きたない気ぃする。嫌な予感して。
ほんで、当たるねんなあ…こういう予感て。
「あの、な…蔵」
「知らん」
「ちょっ…まだ何も言うとらんし!!」
「だいたい想像つくしやな……どうせ光の事やろ?」
顔真っ赤になって解りやすい事。
「お前や、こないだ勘違いや言うてたやん」
「ああ」
「ほんでな、ずっと考えてたんやけど…」
「ああ」
「や…やっぱりな、勘違いちゃう思うねん」
「……そのココロはー?」
どうせしょーもない事やろうって、決め込んで謙也の方見んと真面目に部誌なんて書いてる場合やなかった。
「ゆ…夢にな、光出てきてな、……ほんで俺…光ん事な、抱い」
「あーストップ!!」
先は読めてしもた。
俺は頭抱えた。
何て単純な奴なんや。せやからアホアホ言われんねん。
けどこれでハッキリしてしもたやんか。アホ。
はあーっと思わず深い溜息吐いてしもた。
「せ、せやから!!やっぱ勘違いちゃう思うねん!っていうか違うわ!あの夢、正夢なってほしい思うし……うん、俺間違いなく光ん事好きやから、せやから蔵!俺に光…」
「どアホ!!!!!!!襲いかかるん目に見えてて大事な大事な弟御お前なんかにやれるかボケ!!」
手元にあったんがこれしかないから、俺は部誌で思いっきり謙也の頭を殴った。
しぱぁーん!!って見事な音が部室に鳴り響く。
と、同時に入口からする物音にびっくりして振り返った。
「ひ…光っ」
ああ、何ちゅーええタイミング。
いや、この場合は悪いんか。
部室のドアのところには光とユウジが呆然と立ってた。