サイン/サイレン/サイレント2

Side;Yuji Hitouji


アホやアホやと思とったけど、ここまでアホやとは思わんかった。
あんだけ仲良うしてるんやから当然知ってるもんやと思ってたんや。
俺は説明せえへんかったし光も自分で話さんやろから蔵が言うたもんやとばっかり思てた。
せやのに謙也は何も深い事は考えてまへんでーって呑気な顔して俺らに聞いてきよった。
「そういや光って何で喋れんの?何かの病気か?」
「…………は?」
「…………は?」
蔵と二人、仲良う同じ反応返してしもた。
だってそうやろ。
もう夏休みも近い七月やぞ?ありえへんやろ。
お前この三ヶ月、何の疑問も持たんと光と付き合うとったんかい。
そう言うたらやっと自分がおかしいんに気付いたんか、謙也はほんまやなあって頷いた。
「けどやー俺にしてみたら喋らん光が普通やしなあ…別に何も変や思わんかったわ」
謙也の言葉は俺の心にも蔵の心にも重く響いた。
俺にとっては喋る光が普通で、蔵にとっては周りが正常に戻そうと必死になってる喋らん事が異常な光が普通。
そんな中で、別に話さんでもええんやでって言うてくれる謙也の存在は異色で、けどそれが光にとってよかったんやろう。
この学校に入って、そんでこいつと出会うて光は確かに変わった。
相変わらず一匹狼で周りに干渉されるんが嫌でクールでハードでドライで取っ付き難さは学校一。
けどどこがって言われると困るんやけど、何や雰囲気は柔らこなった気ぃする。
昔俺や兄貴の後ろくっついて回ってた頃の可愛い光に近い雰囲気になった。
せやから謙也に事情話すんはちょっと心配やった。
知って光を嫌うたらって。
けどこんだけアホなんやし、まあ話しても大丈夫やろ。
光が喋らんようになった訳を。

初めは怪我が原因で身体的に声が出んようなったんやけど、それが治ってからも光は声を取り戻さんかった。
せやから医者も精神的なもんが原因なんやろうって診断した。
あの時の光はほんまに見てられへんような状態やった。
光はこんな風になる前からスカした態度で一匹狼気取ってて、友達は少なかった。
顔があれやから女子には人気あったみたいやけど、それがまたいきってる言うて男子からははみごにされとったみたいや。
けど別に寂しいわけでもなさそうやったし、自分の事ほんまに解ってくれてる俺も含めた幼馴染らがおるからええんやと言うてた。
クラスというちっこい単位にたまたま気ぃ合うやつがおらんかっただけやし、と随分達観した考えしとった。
まだ小4のくせに。
当時の光のクラスには、光の他にもう一人おったらしい。どの輪にも入らん奴が。
ただ光と違て、そいつは虐めの対象になってて一人になってたみたいやけど。
結構酷かったらしぃて学校上げて問題になってたから俺もちらっと耳にはしてた。
クラスでは光以外の男子は皆そいつを虐めてるて。
光は我関せずで止めもせんし参加もせん中立の立場におったらしい。
まああいつらしい言うたらあいつらしいわ。
面倒事は嫌いやし、基本自分以外どうでもええ奴やし。
そんな平行線上におった二人が交わったんはたった一度やった。
ようガキらがやるような秘密基地ごっこ。
小学校も高学年になってきたら流石にそれもエスカレートしていって、光の同級生らは学校の近所にある廃屋をそれにしとったらしい。
光もその虐められっ子もそことは関係なかったはずやのに、何でかその日、夏休みも終いの頃二人してその廃屋におった。
5年生でクラス替えあって、二人は別々のクラスになったはずやのに。
それでどうゆー経緯か知らんけどその廃屋が火事になって、虐められとった奴は亡くなって、光も大火傷負った。
目に見える体の傷は大した事なくて、火事の規模からしたら奇跡的に背中や手足にケロイドが残っただけやったけど、
熱風吸い込んだ時の気管の大火傷はそうもいかんで三ヶ月ぐらい声が出んまんまやった。
けどその火傷も治ってもう声が出てもええはずやのに、光は喋らんかった。
誰が聞いても喋らんの一点張り。
喋れんやのぉて、喋らん言うた。
子供なりに俺も原因には薄っすら勘付いてた。
あの同級生や。
最期に何かあったんやろ。
けどその場におったんは光だけやから事の真相は謎のまま。
光が喋らん限りは明るみに出る事はないって事や。
俺は後から知ったんやけど、事故当時光は被害者の親に相当キツイ事言われてたらしい。
お前が殺したんや、とか。
同じクラスやった女子らが光だけがその子を虐めてなかったんやっていくら言うても聞き入れてもらえんで、光一人が非難受ける破目になった。
光は巻き込まれただけやのに。
光のオカンに聞いたら、光はその日誰かの電話でそこに呼び出されてたって言うてた。
せやから光は何も悪ないし、むしろ被害者なんや。
それから精神的に追い込まれて光はストレスで何べんも病院に行く日が続いた。
学校どころか外にも行けんでずっと家におったんやけど、引越しでもしたら気持ち変わってまた外出れるんやないかって、
光はすでに独立してた兄ちゃん夫婦の家に預けられる事になった。
兄ちゃんは年の離れた光ん事異様に溺愛してたし、嫁さんは兄ちゃんの幼馴染みで光を生まれた時から知っとって気ぃ使わんでええし、
何より看護師やってるから何かあってもすぐ対応できる。
しかもそんなんで忙しい義姉ちゃんに代わって小学校上がったばっかりの甥っ子の面倒を光が見たるっていう持ちつ持たれつの同居になった。
ほんでその家の隣が蔵の家やって、二人は知り合うた。
蔵は面倒見ええから光の事も気にかけてよぉ遊んだってたんやて。
そんな日が続いてやっと学校に行く気になった光は、喋れんままやったけど六年の夏休み明けには学校に行けるまで回復した。
蔵の助けもあって、光は随分明るくなった。
元の言いたい事いいの毒舌キャラに戻った。
でもやっぱりまだ声は出んままやった。
俺も蔵も、兄ちゃんらに教えてもらった五十音と数字、アルファベットの指文字覚えて光の言いたい事はだいたい理解できたけど、
ほんまに何考えてるかまでは、今も解らんままや。


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