サイン/サイレン/サイレント18
Side;Yuji Hitouji
アホな話に脱線させてしもたけど、気持ち切り替えて真面目な話し合いや。
俺の頭にはまだちょっとさっきのショックが残っとって気ぃ緩んだら泣いてまいそうなんやけどな。
けど案外早よ立ち直った謙也が先に話進めてくれた。
「あんな、光…これからの事なんやけど……」
さっきまでのふざけた様子なんか微塵もない謙也に、やっと俺も蔵も落ち着けた。
千歳はちょっと離れた椅子に座って黙って聞いてる。
「光は、どないしたい?このまんま黙ってんか、この真実相手に伝えるか」
難しい顔して光は俯いてしまいよった。
そらそうやわな。いきなりそんな事言われても、答えれるわけない。
ぎゅって自分の手ぇ握って、それ見つめたまんま固まってしまいよった。
蔵が一歩前出て何や言おうとしたけど、謙也はそれ手で制した。
ほんでカバンからちっこいノート出して光の前に置く。
何やあれ。新しい光ノートか?
蔵も何やろ、って感じでそれ覗き込んどる。
「光、ここに書いてや。どないしたいんか。ちゃんと自分で考えて」
ちょっと吃驚した。
昨日の出来事は謙也も変えたようや。
ただ光に甘いだけやったこいつが、光に自分で考えぇって言いよった。
光はしばらく固まっとったけど、ノートと一緒に置かれたシャーペン手に取って何や書き始めた。
それを皆で頭突き合わして読む。
千歳も立ち上がってそれ覗き込んどる。
でっかいなこいつ…ちょっと暗なって見えにくいど。
って思とったら自分も見難いって思たんかそそっと光りの邪魔にならん方に移動しよった。
やっと手元明るなって見えるようになった。
ノートには光のいつものちっこい字が並んでる。
"このままでええと思う"
「…ずっと光が真実抱えて、一人重荷背負ったまんまでええんか?」
謙也が尋ねたら一瞬間置いて光はちっさく頷く。
けどそれが正しいて思ってる様子はなくて、ちょぉ迷ってるようにも見えた。
「その重荷な、あのオバハンもおんなしだけ抱えてんやで…?光だけやのぉて。傷つけてんやで、あのオバハンの事を」
その言葉は光にも、蔵や俺にも衝撃与えた。
考えてた事やった。
けどそれは怖ぁて言えんかった言葉や。
せやかてそうやろ。
それは光の必死の思いを真っ向から否定するもんやねんから。
「それがどんなに辛い事でも、あのオバハンには知らなあかん…それ背負う義務と、知る権利があんねん」
『……けど…』
光は一瞬顔上げて謙也見た後、何か訴えようとして、またうつむいた。
「光が勇気出して、この真実打ち明けても…もしかしたらあの様子やったら信じてもらえんかもしれんし、嘘つくなって状況悪なる事かってあるけど…
…それでも、今のこの状態から動ける事は確かやで」
「せやな…今のまんまおってもしゃーないんはその通りやし、光ももうちょっと勇気出す時来たんかもせぇへんな」
謙也の声に蔵の言葉が重なる。
ほんで座ってる光の目に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「光、大丈夫や。どんな事あっても、お前が一人になる事はないんやで。俺もユウジも千歳も他の皆も……それから、こいつも」
顎しゃくって示した先におる謙也に光の視線がいく。
「謙也がおったら何も怖い事あらへんやろ。何あっても光守ってくれるし…何あっても光は謙也守る覚悟かて持てるやろ?」
ちょっと恥ずかしそうに視線さまよわして、光は頷いた。
ほんで自分からノートに何か書き始める。
"全部話す。手紙も、あのおかんに見せる。どんな結果になってもええ。俺は全部言う。
怖いけど、ほんまにできるんか不安やけど、でも自分で伝えたい"
その言葉に皆ホッと溜息吐いた。
一瞬の勇気が持てんで、今このままの状況でええわけないんや。
「よっしゃ、ほな頑張って一歩踏み出そか。けど俺らは手伝えへんで。手ぇ引いてやる事もせんし、背中も押さん。
見てるだけ…見守るだけや。それでも頑張れるか?」
光は一瞬考えた後、それまでの不安げな表情崩してちょっと生意気な笑み浮かべて書きよった。
"あんたらこそ、我慢できんでおせっかい焼きたなってもしゃしゃり出てこんといてくださいよ"
「お前なぁー!調子のんなや!」
俺は久々に見る光のそのふてぶてしい態度が何や嬉しいて思わず頭わーっとかき混ぜるように撫で回したった。
途端に謙也が不機嫌そうに俺の手ぇ払い退けよった。
「何やねんコラァ!!ちょっと光と色々やったからって調子乗っとんちゃうど!!」
「うるさいわアホ!光に触んな!」
「うわぁ嫌なやっちゃなぁ…ちょーっと一回エエ雰囲気持ち込んだだけで彼氏ヅラしよって…これやから男は嫌やねん!」
「かっ彼氏ヅラ?!彼氏やねんから彼氏ヅラして何が悪いんじゃ!!だだだだだいたいお前かって男やんけ!」
うわっムカつく謙也のくせに反論しよったムカつく。
掴みかかって怒鳴りつけたろかって思ったのに、謙也の胸倉掴んだとこで誰かに手首掴まれてしもた。
蔵が止めに入ったんかと思ったけど、光やった。
「な、何やねん」
『触んなアホ』
「……へ?」
俺も蔵も、謙也もハトが豆鉄砲食ろたような顔してしもた。
一瞬何言うてんや解らんかったけど、確かにそう言うたはずや。
思わず蔵と顔見合したわ。
せやかて、まさか光にまでそんな感情あったなんて思わんやん。
謙也はいつでも誰にでも何や敵意ムキ出しでヤキモチ妬きまくりやけど、光も同じように思ってたんやなぁ。
ちょっと淋しなったけど、光の拗ねた顔見てたら何やそれも一つの成長なんかなって思った。
けど謙也のアホみたいなゆるんだ顔見てたらムカついたから、とりあえず一発頭どついといた。