サイン/サイレン/サイレント17
Side;Kuranosuke Shiraishi
次の日、仲良く並んで登校してくる二人を見てホッとした。
いや、別に二人の間に何もなかったんやって、そういう事やなくてやな。
光の様子が落ち着いてる事に、ホッとした。
謙也も昨日は不安そうにしとったけど、ちゃんと光の事支えてやれとったんやって安心した。
昨日途中で帰ってその後の事気にしとった千歳にも全部話した。
帰り際、光に聞いたら話しても構わんって言うとったし。
どんな反応するやろうって思ったけど、千歳は神妙な面持ちで黙って聞いてるだけやった。
ほんで放課後、部活で会うた光の頭ぽんぽんっと撫でてやっとった。
千歳がそうゆう事すんのは別に珍しないから光はいつもの事かって感じで見とったけど、謙也の反応が違っとった。
いつもは毛ぇ逆立てて俺の光に触んなって顔して睨んどるくせに、今日はちょっと困った顔して笑うだけや。
謙也には千歳にも話したからって言うといたから、千歳が何でそんな事してるんか解ったんやろ。
ほんで光も落ち着いてきたようやから、部活後光を部室に残して話する事にした。
もちろん謙也もユウジも、それから千歳も一緒に。
これからどないするかって相談や。
部員全員帰した後、椅子に光座らせる。
昨日と同じ場所やけど、今日は昨日みたいに死にそうに青い顔はしてへん。
ちょっとこわばってて、何が始まるんやって不安そうにしとる。
ああ、悪い癖出とるなあって心配になった。
光は極度の緊張状態になると、過剰に瞬きするんや。
回数やのぉて、えらい力入れてぎゅって瞑る。
表情が崩れてまうぐらいに。
今もそんな感じで何回も瞬きしとったけど、すぐ隣に立っとる謙也が肩に手ぇ置いたらちょっと安心したように表情を和らげた。
それにうっかりピンときてしもた。
こいつら昨日、何かあったな。
「光、正ー直に答えなさいよ」
いきなり肩に手ぇ置かれて光がびっくりした顔でこっち見る。
不穏な空気察したようにオロオロし始めて謙也と俺の間で視線さまよわせる。
「謙也に何されたん?」
「っっっ…はぁ…はあ?!」
「はあああああぁああっ?!」
俺の言葉に固まったまんまの光の代わりに謙也とユウジがでっかい声で聞き返す。
「光?謙也に、な・に・さ・れ・た?」
「なっ…ん…何もしてへんわっっっ!!」
でっかい声でおがってくる謙也は無視してじっと光見つめとったらほっぺ真っ赤にして目ぇ逸らしてしまいよった。
うわ、確定や。何されたんや光。
ありえへんやろほんまに。
キスは去年のイヴにしたって、聞いてもないのに謙也が勝手に話しよったから、つまりはそれ以上の事があったって事やろ。
ありえへん。許されへん。
俺の光が汚されてしもた。
「こんの……ご不浄がー!!!」
「いいいいいいいいきなり便所扱いってどないやねん!!!そそそそそそんな悪い事してへんわ!!」
謙也のド頭カチ割らんばかりの勢いで殴って襟掴んで首締め上げる。
そんな俺を止めるどころか加勢したユウジは謙也の腹やら足やら殴るわ蹴るわのタコ殴り状態。
しかも半泣きやし絶叫しとるし、俺より酷い有様や。
まあ俺もあんま変わらんけどもやな。
「悪いわドアホー!!!!!俺の光返せーっっ!!」
「おおおお俺のって何やねん俺のって!意味わからんっ」
「そうやぞユウジ!光は俺のや!」
「なっ…お前のもんでもないわアホ!!」
千歳はオロオロと三人とも止めんねって言うとるだけやし、普段仲裁しとる俺がこんな状態なもんやからだんだん収集つかんようなってきた。
けど許されへんのや。
昨日あんだけ言うといたのに光に手ぇ出しよってから。
謙也のくせに、謙也のくせに、謙也のくせに!
ぎゃーぎゃーうるさい三つ巴戦線が終結したんはええ加減キレてしもた光が部室の机割らんばかりの勢いで叩いた音聞いての事やった。
ダァンって鈍い音した思たらそれまで不安そうな顔しとった光が珍しく怒った表情隠さんと俺とユウジ睨んできとった。
「ひ…光…?」
そのあまりの迫力にそこにおった全員がぴたりと動き止めた。
『ええ加減にせぇや自分ら…』
音にはなってへんけど声聞こえてきそうやねんけど。
こんな光見たん初めてやし、どないしょーってオロオロするユウジや俺押しのけて光は謙也の腰に抱きついた。
ほんでとんでもない大宣言しよったんや。
『俺が襲ったんや!謙也さんに抱いてほしかったから!!』
口の動き読み間違えたんや思った。
いや、そうあって欲しいと思ってただけなんやけど。
けどユウジはそれ見て卒倒するし、謙也はタコもびっくりなぐらいに真っ赤っかになっとる。
ああ、俺の空目ちゃうんや。
そんな中で千歳だけが呑気に、
「大人しそうな振りして意外と肉食系…」
なんて言いやがるし。ムカつくから一発腹に食らわせといたった。
「………けーんーやーくぅーん…」
「なっ…何っ」
ショックのあまり机に突っ伏しとった体ゆっくり起こしてまだ腰に光ぶら下げとる謙也にめっちゃ笑顔満開で近付く。
「それで、君は据え膳食ろたわけですか…」
「いやあの……ごっ…誤解や蔵…」
「ほなこん身の思いで誘た光に恥かかしたんかー?!」
「おおおおおっお前ら俺にどないせぇっちゅーねん!」
矛盾しまくっとるのは解ってるけど、どっちもムカつく!どっちにしてもムカつく!
抱きついて離れへん光を力ずくで引き離して更に謙也に詰め寄る。
「据え膳食ろたんか?!食ろたんやな?!」
床に這うとったユウジもムクっと起き上がって俺に加勢するように謙也に詰め寄っていく。
ほんで二人してじっと睨んだら、とうとう観念したようにはにかみながら言いよった。
「ちょ…ちょっとだけ…」
「ケダモノ――――――――――――――――――っっっ!!!!!」
二人声揃えて絶叫した後、ユウジは再び白目むいて卒倒しよるし、俺も目の前真っ白や。
光が、俺の、俺らの可愛い光が汚されてしもた。
いや、ちゃうな。
光は何あっても汚なったりせぇへんわ。
汚いんはこいつや、と謙也の腹に膝蹴りを入れる。
「ちょっ、いや、待て待て待て待て待て。ごかっ…誤解や!ほっほんまに、ほんまにはしてへんし!」
「何やねんそれ…どっちやねん!はっきりせぇや!」
若干イラっとしながら問い詰めとったら横から千歳の呑気な笑い声がしてくる。
なるほどなって勝手に納得しとる千歳の前には光がおって、それで事の真相を光から聞いたんやって解った。
ああ知りたいけど知るのが怖い。
「謙也はビビって最後までしてくれんかったって愚痴っとるよ、光君が」
「えっ」
現金なユウジは千歳の言葉に魂戻ってきたみたいでクルリと起き上がって謙也を睨みつけた。
「そうなんか?」
「いや……うん…まあ…ちょっ…ちょこっとな、ちょこーっと……さっ…触りっこした…かな?」
「そんな生々しい話聞きたないわーっっっっっ!!!!!」
ユウジはとうとう顔覆ってさめざめと泣き出してしまいよった。
あーあ、泣かせよった。
けど俺かて泣きたいわ。
俺はユウジを胸に抱いて二人で涙した。
ほんま何順調に大人の階段上らせとんねん!
しばらくは二人で苦い涙流しとったんやけど、千歳の遠慮がちな脱線しとるよ、という一言と、
光の気持ち悪いものでも見るかのような視線に負けて、俺らは気持ち切り替えて話を元に戻した。