サイン/サイレン/サイレント15

Side;Hikaru Zaizen



いつも一人やったけど、クラスに友達おらんかったけど、ユウジくんとかユウジくんの兄ちゃんとか、
他にも遊んでくれる奴いっぱいおって、せやからクラスに友達なんか別にいらんと思ってた。
俺の事解ってくれる人はいっぱいおるから淋しくない。
せやからクラスでいっつも一人でも大丈夫やった。
それやのに俺は強い人間なんやって勘違いされた。
小四の時おんなしクラスやった奴に。
四年なった時どっかから転校してきたそいつは、クラスの連中にめっちゃいじめられてた。
俺もそいつらにいきっててキモいて無視とかされてたけど、あいつは殴られたり物隠されたりしとった。
口はさんで巻き込まれんのめんどいから知らんぷりしとった。
ガキっぽいいじめでほんまアホちゃうかって言うてやりたかったけど。
一回だけガマンできんでええかげんにせぇやって言うた。
うざいっていうた。
ほな今度は俺がなぐられた。
いきってんちゃうぞって。囲まれてめっちゃどつかれた。けられた。
せやから倍返しにした。
ナメられんのごめんやってボッコボコにしたらいきなり態度変えてへぇこらしだして俺にそいついじめろ言うてきた。
ほんま頭弱いやつばっかりや。ムカつく。
するわけないのに。
けどその年はもう俺にビビって俺のおるとこではいじめんようなってた。
それ以外は知らんけど。どうでもええしって思ってた。
五年になってクラス替えあってそいつとはクラス離れた。
そしたらまたいじめられてるって聞いた。
けどもう俺には関係ない話やって無視しとった。
そしたらいじめられとった奴が俺に助けてくれって言うてきた。
何で俺がそんな事せなあかんねん。
だいたいこいつもこいつや。
やられたらやられっぱなしで言い返しもせんと、俺に助けてって。
おかしいやん。やから自分でなんとかしろって言うた。
まず自分で行動起こして、それからどうにもできんかったら周りに助けてもらえばええやんか。
自分一番可哀想とか思ってんちゃうぞって感じや。
いじめる方も悪いけどいじめられる方もいじめられる方やわ。
理不尽ないじめやったら俺もちょっとは可哀想やって思ったけど、こいつは違う。
せこいしずるいし性格ひとりよがりやし自分勝手でわがままやし思い込み激しいし被害妄想ばっかやし。
人の事えらそうに言えるような性格やない俺でも絶対友達になりたないって思ってた。
せやのに被害者ヅラして親や先生にチクって悲劇の人になっとった。
何でそんなやつのためにまた俺が殴られたりせなあかんねん。ありえへん。
せやから俺は言いたい事全部言うたった。
お前なんかの為に何で俺が動かなあかんねんって。
ほんでお前が変わらん限りは誰もお前になんか見向きもせんねやって。
それで理解してもらえたんやと思ってたのに、全然通じてへんかった。
俺もその時のクラスに全然友達とかおらんかった。
けど一人でも平気やった。ユウジくんら遊んでくれたから。
クラスなんかちっこい単位で友達おらんってだけで何悲劇ぶってんかさっぱり理解できへん。

五年の夏休みの終わり頃にそいつに電話で呼び出された。
今から言うとこ来てくれって。
めんどかったけど何や様子変やったから急いでそこ行った。
町外れにあるでっかい廃屋。中はボロボロできたなかった。
こんなとこに何の用やねんって思った。
話あんねやったらここやなくってええやんって。
そしたらいきなり一緒に死んでって言われた。
意味解らん。
しょーもない冗談言うんやったら帰る言うたら不意打ちでなぐられた。
何すんねんってやり返そうとしたらナイフで脅された。
ほんでいっぱい変な話聞かされた。
お前に傷つけられたとか、強い俺にあこがれてたとか。
俺別に強くない。勘違いも甚だしいわ。
いっつも一人でいじめに耐えててとか言われたけど、俺別にいじめられてへんし。
いじめなんかいじめられてる側の自己主張やんけ。
俺はただクラスのアホがアホ同士群れてアホなことしとるとしか思ってへんかった。
せやかてほんまにガキくさいアホの所行やってんもん。
それやのに勝手に思い込まれてほんまに迷惑や。
迷惑やからはっきりそう言うた。
勝手に妄想ふくらまして俺の誇大評価せんといてくれって。
ほんだらいきなり手とか足とかナイフで切られて財前君の事は俺が一番解ってんやって、俺にしか解らんのやとか、ほんま訳解らん事言われた。
せやから一緒に死んで楽になろうやって。
アホか。
そんなに死にたいんやったら一人で死ねやって言うて帰ろうとした。
そしたら後ろからいきなり殴られた。
不意討ちやったからバランス崩して前にこけた。
ほんなら、馬乗りになってきて、首しめられた。
苦しくて苦しくてほんまに殺されるって思った。
必死に抵抗したけど全然力緩まんかって、変な汗出てきてだんだん意識とおのいてきて、けどそんな中で聞こえてきた声に現実に戻ってきた。
「もし今ここで助かっても、絶対誰も君の言う事なんて信じないよ」
って言われた。
意味わからんかって、せやから必死に声ふりしぼって、何でって聞いた。
「僕が被害者だからだよ」
「僕は君に傷つけられたんだ」
「皆僕に同情して、普段からキツい事を言ってた君を悪者にするんだ」
「君の言葉は人を死に追いやるんだって皆思うよ」
「そんな君の言う事なんて誰が信じる?」
悪魔、死神、殺人鬼。
好き勝手言われた。
けどもしかしたらその通りやったんかもしれん。
だって俺は人の気持ちなんかこれっぽっちも考えてへんかった。
自分の言葉が知らん間に人を死に追いやるなんか。
知らんそんなん。
けどもしかしたら、ほんまに俺の言葉がそいつを知らんうちに傷つけて、死ぬほどの思いさせてたかもしれへん。
俺にとっては何気ない一言やったのに、傷つけてたんかもしれん。
いじめられとったそいつを俺も一緒んなって追い詰めてたんかもしれん。
そいついじめてた奴と俺は一緒なんかもしれん。
そんなん考えもせんかったけど、そう言われて急に怖くなった。
殺されてもしゃーないかもしれんって思った。
そしたらもう俺の言葉で誰も苦しめんで済むって、その時そう思った。
だんだん意識なくなってきて、そのまんま気ぃ失った。
そんで次に目ぇ覚めたら周り火の海になっててパニックになった。
俺の見える範囲にあいつの姿はなくって、変な臭いがした。
ガスでも漏れてんかってほんまに怖くなって、けど出入り口がどっちかも解らん。
このまんま死ぬんかって思ったその時、外にサイレンが聞こえた。
うーうーうるさいそれ聞いて、助かったって思った。
熱くて苦しくて死ぬかと思ったけど、助かったって。
それで自分は死にたくないんやって気付いた。
こんなことで死んでたまるかって。
さっきまでは死ぬの覚悟しとったけど死ぬんは嫌や。
そう思って必死になって周りにあるもん手当たり次第に音鳴らした。
声上げたかったけど上手い事しゃべれんかったから。
俺はここにおるって。
存在主張しまくってたら、炎の向こうに人影が見えて助かったて思った。
そんでホッとして力抜けてしもて消防のおっさんら見た瞬間気ぃ失ってしもた。

次に気ぃついたらもう病院やって、声は出んし体中熱いし痛いし、ほんまに何でこんなんで生きてんやろって思った。
けど生きててほんま良かったって思った。
泣いて喜んでる家族見て、死んだあかんねやって心底思った。
けどうちとは逆で、あいつの家族は悲しんで泣いてた。
あの家の二階で亡くなってたんやって。
俺だけ助かって、俺を殺そうとしたあいつは死んだ。
元々死にたがってたんはあっちなんやし、俺は巻き込まれただけやねんけど、それでも耳から離れへんかった。
君の言葉に傷ついたって言葉が。
俺の言葉があいつを殺したんかもしれん。
直接手ぇかけたんはいじめてた奴らで、最終的に引き金ひいたんは自分でやったかもしれんけど、俺もそこまで追い詰めてた一人なんや。
そう思ったら声出すんが怖い。
もう誰も傷つけたくない。
怖い。しゃべるん怖い。
声にしたらまた同じような奴出てくるかもしれへん。
そんなんばっかし考えてたら、火傷治ってからも声は出せんかった。
声は出る。けど喋りたくない。
もうあんな思いしたないし、あんな思い誰にもしてほしくない。

一番ひどいケガ治って普通の病棟入ったとたん、あいつの、死んだ奴の母親が来た。
めっちゃ責められた。
俺が殺したんやって。
何でお前だけ生き残ってんや、お前が死ねばよかったんやって。
そんなん言われても困るわほんま。
俺かってどんな状況かもわかってへんのに。
けど言葉って怖いと思った。
たとえそれが事実やなくても言われ続けたらほんまにそうなんかもしれんって気にさせられる。
あいつの母親の言う通りなんかもしれへん。
そう思うようになってきた。
それでも、こんな俺の事信じてくれて、オトンもオカンも、兄ちゃんら家族も、ユウジくんらも。
光はそんな事するやつちゃうって信じてくれて、それで十分やって思った。
あいつが生前書いたっちゅー日記とか見せられて、いじめてた奴の名前の他に俺の名前もあった。
ノートに走り書きみたいに何べんも名前書いてあった。
それ見てあいつの母親は俺もいじめてたって思ったみたいや。
けど真実は全部飲み込んだ。
ほんまはあいつが俺殺そうとしてたんとか、俺にあてた遺書とか、全部誰にも見せんと俺の中だけにとどめてしまうことにした。
何もできへんし、こんなことしても死んだ人間は戻らんけど、何もしてやれんからせめてあいつが殺人犯そうとしとったって事は俺の中にとどめとくことにした。
このまま俺が真実飲み込んだまんまにしといたらええんや。

けどやっぱり一人で抱えるんはしんどい。重い。苦しい。
時々発狂しそうになる。
しそうっていうか、実際暴れてまうんやけど。
自分でも分かれへんけど火見るん怖いし首に手近付いてきたらわけわからんくなって、自分でも知らん間に暴れてまう。
特に首締められた時の事思い出したらほんまに怖くて気ぃ狂いそうになる。
誰も傷つけたくないのに。
俺の事理解してくれる人らで大事な人らやから余計に傷つけるん嫌や。
せやのに俺は自分で自分もコントロールできへん。
それがほんまに嫌や。
いつか皆俺に嫌気さして離れていってまうかもしれへん。
それも怖い。
俺は一人で全部真実飲み込んだけど、その重い体支えてくれてる皆おらんようなったら、そん時はほんまにもう生きていかれへんと思う。
どこも行かんといてって言いたいけど、そんなわがままよお言わん。
迷惑かけたないとも思う。
けどもう一人は嫌や。
こんな汚い思い引きずってる俺なんか嫌がられてもしゃーないけど、けど俺はもう一人では生きていかれへん。
これからもずっと一緒におりたいって思えた。

小さい頃からいっつも一緒に遊んでくれてたユウジくん。
昔も今も、ユウジくんがおってくれたから、俺はクラスで一人でも平気やった。
引っ越してからずっと一緒におってくれた蔵さん。
めんどくさい俺にいっつも優しくしてくれたんが嬉しかった。
蔵さんがおるならまた学校行こうって思えるようになった。
テニス部の皆。
何も話せん、声出ぇへんでややこしいのに皆仲良くしてくれた。
俺のこといっつも心配してくれて親身になってくれた。
年下の金太郎にまで心配かけてしもて先輩失格やけど、あいつがいっつも明るく接してくれて、
ひまわりみたいな笑顔で光光って呼んでくれると腹ん中のどろどろした黒いもんがキレイになるような気ぃしてた。
師範も千歳先輩も小春さんも副部長も。
皆優しいにしてくれた。
俺がカンシャク起こして面倒かけても嫌な顔一つせんと気にせんときって言うてくれて、その度に泣きそうなぐらいうれしかった。
皆あったかくって俺のこと受け止めてくれて優しく包み込んでくれて、うれしかった。
ほんまは素直にそう言えたらええねんけど、全然出来んでいっつもごめんなさいもありがとうも言われへん。ほんまカッコ悪い。
けどほんまはいっつも心の中では叫んでた。いっぱいありがとうって。ごめんって。
それから一番その言葉言いたいんが謙也さん。
こんな俺好きや言うてくれて一緒におってくれて、めっちゃ感謝してる。
蔵さんに謙也は光の心の薬やなって言われて、ほんまにそうやって思った。
謙也さんがおってくれたらいつかこのガサガサに傷ついてた心がキレイに治るんちゃうかって思えた。
面と向かっては恥ずかしいから何も言われへんかったけど、ほんまはずっとずっと一番に言いたかった。
ありがとうって。
ごめんなって。

皆にありがとうって言いたい。
いっぱいありがとうって言いたい。
声にして伝えたい言葉がいっぱいある。
けどまだ声出すんは怖い。
せやから、もうちょっと時間をください。


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