セト8-1

この国において、偉大なる母を意味する称号、ネイトを名乗る事の出来た女王は数少ない。
そんな彼女達には一つの共通点があった。
その傍らには必ず忠実なる騎士が存在する。
女王の片腕として比類なく優秀であり、同胞として、忠臣として、そして誰より側で支える最愛の者として、
無二の存在としてのナイトを手に入れた女王は国家繁栄をさせる存在として歴史に名を残している。
今新たなる、そして歴代で最も優れたネイトが誕生しようとしていた。

初めての事で不慣れである事はお互い様だ。
衣服を全て取り払い、全裸を晒し合って恥ずかしいのもお互い様。
それにしたってこの緊張度合いはないだろうと赤也は必死になって柳の背を撫でて慰める。
「力みすぎなんですってば」
「そ……そんな事をいっても…っ…」
四つん這いになり敷布に恥ずかしそうに顔を埋め、ぶるぶると震える柳を見ていると何だか苛めている様な気分になり複雑だと赤也は天を仰ぐ。
「俺に触られんの嫌なんですか?」
「そっ…そんな訳ないっ……!」
「じゃあ恥ずかしい?」
「こんな事をしていて恥ずかしくない訳がないだろうっっ!!」
いつになく必死な様子に妙に納得させられる。
恐らく幼い頃に世話係である乳母以外に見られた事がないであろう場所を無遠慮に眺められているのだ。恥ずかしくないわけがない。
そんな目に遭わせている赤也とて、こんな格好をしろと言われても出来ない。
だがこの人は確か以前挑発的に俺を抱いてみるかなどと言っていたはずだ。
しかし知識に現実がついてきていないのか完全に余裕をなくし、赤也にされるがままとなっている。
潤滑油を秘部に垂らし、ゆっくりと指を挿入すると柳は電流が走ったように体を震わせた。
「痛い?」
声にも出来ないのか、柳は黒く艶やかな髪を振り乱し否定の意を伝える。
それならばと傷付けないようになるべく優しく中を探るように指を動かす。
だが体は硬く強張ったままで、苦しそうに肩で呼吸をしている。
「もっと力抜いてってば」
「ん…わかっ…ている」
やはり頭で解っているだけなのか、一向に力が抜けるようにない。
しかし赤也が背中や首筋に何度もキスを落とすと次第に柳の体がしどけなくほぐれていった。
その隙を突き、赤也は指の本数を増やし、少し強く内部を擦った。
「んあっっ」
急に艶を帯びた声を上げられ、今度は赤也の方が体を強張らせた。
普段の閑寂な話し口とはかけ離れている。だがもっと聞きたいと思わせる色のある声だ。
もっと引き出してやると赤也が中を抉ると引っ切り無しに嬌声が上がる。
しかし恥ずかしいと柳は口を押さえてしまう。
「声我慢しないでよ」
「い…いや…だ」
「聞かせて」
「いやっ…ああっ」
不意打ちのように奥を抉られ、思わずといった風に大きな声が上がる。
それを境に、もう声を抑える事は出来なくなってしまった。
崩れるように体の力が抜けていく事に気付き、赤也は我慢ならず自身をそこに押し当てる。
「まっ…待てっ」
「待てない」
「あかやっ…!!」
力の入らない体で抵抗をされても大した障害にはならない。赤也がベッドに押しつけるように手首を握ると途端に大人しくなった。
だが無理矢理しているような気分になり、一旦体を離す。
「…今日は止めときますか?」
「っっいや…だ!」
あれも嫌だ、これも嫌だと言われほとほと困り果てていると、組み敷いた柳の体が仰向けになった。
「止めたくない…続けて赤也…」
ゆっくりと誘うように足を開き、赤也の体を挟むと腕を伸ばし体を引き寄せる。
「け…けどこのままやったら辛いっスよ」
「…辛いのは……お前の顔が見れない事だ…」
それで先程は抵抗をしていたのかと赤也は納得した。
不自然な体勢での行為が柳の齎す負担は相当だろう。
だがどうしてもこのままで、と譲らない柳の中にゆっくりと押し進めていく。
「んっ…あっ」
「……っ痛くない?」
懸命に頷いてはいるが、目に涙を浮かべ額には大粒の汗が浮かび上がり、苦しみや痛みを我慢しているのは明らかだ。
赤也は息を詰め必死になって動き出したい衝動を抑えた。
その甲斐あってか柳の体から次第に力が抜け、吐く息も徐々に甘いものとなってくる。
ゆっくりと腰を揺すると、びくりと体を跳ねさせた。
「あっ…あ…かや…あかやっ」
「やなぎさ…っっ」
好きな人と一つになるのは体だけではなく心まで沿う事なのだと赤也は初めて知った。
必死になって動きについてこようとする柳が愛しい。
無理をさせる事は承知だが抑えられず、赤也は中に埋めたまま柳の体を力強く抱き締めた。
「ああっ」
甲高い声と腹に感じる柳の放った熱に触発され、赤也もそのまま中に放った。
しかしまだ治まらない熱に、体を抱き締めたままでいると震える肩に気付いた。
「…柳さん…泣いてる?」
「赤也…あかや…」
「痛かった?ごめんね…」
「あ…あか…や…違う…違うんだ…」
体を離そうとするが縋りつかれる。その表情に痛みを訴えるものはなく、不安げに見上げるだけだ。
唇が何か言いたげに震えているが音になる事はない。
「あか…やっ」
「うん?」
「赤也…あかやっ」
「うん…ここにいますよ」
何が柳をこのようにしているのかが解らず、赤也はただ背中を優しく撫でる事しか出来ない。
だが微かに聞こえた声に動きを止める。
「柳さん…?それは……」
「すまない…でも……っ…気持ちを伝えられないのは…こんなに辛い事だとは思わなかった…」
「駄目ですよ柳さん」
本人の意思に反し、思わず漏れた気持ちが音になり赤也の耳に届いた。
「あかや…好…き…」
「駄目ですって…約束したんでしょ?幸村さんと…」
「ん…ぅ」
これ以上言葉を紡げなくする為に、赤也は唇で塞いだ。
苦しそうに顔を歪めながら必死に舌を絡め合わせる柳からはまだその言葉が漏れている。
「あかや…っ好…」
「声にしたくなったら、俺がこうやって全部飲み込んでやるから……泣かないでよ」
「…わか…った…」
「ちゃんと伝わってきてるから、大丈夫です」
声にならない思いは肌を合わせる事で伝える以外にない。
赤也はもう一度唇を合わせ、静かに律動を再開した。

【続】

 

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