Home Sick Child7
それから数日後。
精市は発作を起こし入院してしまった。
幸い症状は軽いという事ですぐに退院できるだろうと言われ安心した。
胸を掻き毟りながら倒れこむ精市を目の当たりにして、ただオロオロとすることしか出来なかった。
普段冷静でいられるよう努めている。
だがこんな時、人は驚くほどに動揺してしまうのだ。
その時の弦一郎の死にそうな顔が忘れられない。
倒れた精市よりも青白い顔で何度も何度も呼びかける姿が。
本当に相手を必要としているのだと思い知らされた一件だった。
翌日、仕事を休んで精市を見舞いに行くと言う弦一郎について病院へと向かう。
完全看護の病院なので患者に付き添えないため毎日こうして見舞いに行くのだ。
もう慣れてしまった入院生活で退屈そうにしている精市も別れ際は淋しそうにしている。
しかし回診に来た主治医に明日には帰れますと言われ久々に精市に笑顔が戻ったのだった。
「よかったな。早く退院できて」
「あぁ…すまなかったな、心配をかけて」
「そんな風に言うな弦一郎」
心配してるのはお前だろう、と。
弦一郎の見せる苦虫を噛み潰したような渋い顔を首を振って否定した。
「そうだ。郵便局に用事あったんだ。悪いがここで待っていてくれ」
病院から出てしばらく歩いたところにある商店街。
精市と初めて会った商店街で弦一郎は踵を返し数十メートル前にあった郵便局に引き返した。
先に帰ろうかとも思ったが、すぐに済むだろうと道端に寄り精市から預かった荷物の整理を始める。
中には弦一郎が持って行った本がたくさん入っていた。
直後、後ろから不意に肩を叩かれた。
「何だ…早かった……な……」
振り返った視線の先にいたのは、弦一郎ではなかった。
「久しぶりっスね」
「ど…して……お前が………」
手に持っていた精市の本をバラバラと落としてしまう。
だがそれも目に入らない。
目の前にいる人物から視線を外すことができなかった。
「どうしてって…俺だってこの辺に住んでるんだし…ばったり会っても不思議じゃないでしょ?」
足が勝手に後退りしている。
冷たい汗が背筋を幾本も流れ落ちているのを感じる。
だがその場から逃げる事は出来なかった。
目の前の人物の鋭い眼光が言葉も動きも何もかもを封じてしまっているから。
「や―――」
「蓮二!」
何かを言おうとしたその言葉は、後ろからする強い声にかき消された。
同時に振り返ると、そこには弦一郎がいる。
「……げ…いちろ…」
安堵と新たなる恐怖の狭間で思うように声が出ていない。
「…む?友達か?」
何も答えられなかった。
代わりに、目の前の男が口を開いた。
「アンタは?この人の新しい飼い主?」
唇の端を上げて冷笑を浮かべたまま言う男に瞬時に弦一郎の表情が豹変した。
「―――何…?」
「はっきり言ってやりなよ。俺の恋人ですって…」
「止めろ!」
もうこれ以上気持ちを掻き乱されるのは嫌だと、大きく頭を振りその場から逃げ出した。
真っ直ぐに弦一郎と精市の家へ向かう道。
後ろを追いかけてくるのは弦一郎だった。
ほっとした。
だが男が最後の言葉が耳から離れてはくれない。
「俺から逃げられると思うなよ」
【続】