Home Sick Child6
帰る家がほしい。
ただそれだけだった。
裏路地を息急きかけて走る。
ただあの腕から逃げるために。
だが体は言う事をきかない為、すぐに追いつかれてしまった。
「待てよ!!」
がっしりと掴まれた腕を強く振り解き、勢いあまって近くに積み上げてあった段ボールの山に倒れこんだ。
「離せっ!もうお前と一緒にはいられない…居たくない!!」
その訴えは強烈な平手打ちにかき消される。
「何言ってんだよ…今更俺から逃げられるとでも思ってんのか?」
唇の端が切れ、口の中に鉄の味が広がっていく。
だが何も感じない。もう何も感じる事ができない。
眼光鋭く睨み上げると真っ赤に燃え上がった、しかし驚くほど冷たい瞳とぶつかった。
冷たい瞳。
冷たい唇。
冷たい体。
いつの間にか降り出した雨に打たれながらしばらく無言で睨み合う。
「言ったはずだよな?アンタは俺なしじゃ生きていけないんだよ」
唇の端を上げ、不敵な笑みを浮かべたまま吐かれる無情な台詞。
「五月蠅い黙れ」
それは間違いじゃない。
だけどもう限界。
体も心も。
力なく否定するその言葉も雨音に消されてゆく。
「何度だって言ってやるよ。もうアンタは俺なしじゃ生きていけないってね」
「やめろ」
「アンタだって好きなんだろ?俺のこと」
「ヤメロ…」
渇ききった喉からはもう機械的にしか声が出ない。
「何言ったって無駄だよ。絶対に逃げられないんだから…」
「やめてくれ―――――っっ!!!」
頭を抱える。
その腕にはまだ昨日縛り上げられた痕が残っている。
震えが止まらない。
体はまだその温もりを忘れてはいないのに。
「……一生逃さないからな」
静かに吐かれる死刑宣告。
そのまま静かに意識を飛ばし、次に気がついた時目に飛び込んできたものは愛しいはずのお前ではありませんでした。
【続】