Guilty or Not guilty9
うなだれて部屋の隅で落ち込んでたら、いつの間にか光が風呂上がって部屋に戻ってきてた。
「あの…謙也さん…おばちゃんが片付かんからさっさと風呂入れって……」
どっかぎこちない態度で、距離保ったまま話し掛けてくる光にますます落ち込む。
とりあえずこれ以上オカンにやいやい言われるん嫌やから風呂に入った。
ああもう。どんな顔して光見たらええねん。
まずは怒らせてしもた事謝って、けど何であんな事してん言われたら何て言うたらええか解らん。
うんうん唸りながら悩んでいつもより長風呂になってしもた。
ほんだらいきなり光が浴室に顔覗かせて、本気でビビった。
「あーよかった。おっそいから風呂で溺れてんか思いましたわ」
「ちゃっ…ちゃうわボケ!そんな事するかい!!」
「早よ上がって来なデザートのわらび餅全部食うてまうで」
そう言い残して出ていった光はさっきまでの態度が嘘みたいに普通やった。
もしかして怒ってるわけやないんか?
とりあえず上せてきたから風呂から上がった。
そして意を決して部屋に戻った。
そーっとドア開けて中覗いたら光は携帯いじりながらわらび餅食うてるみたいや。
甘いもん食って機嫌ええみたいやし、今のうち仲直りしよ。
俺は部屋ん中入って光の前に座った。
途端に光はまたそわそわと落ち着きなく携帯開けたり閉じたりしながら時々俺に視線を向けてきた。
「さ…さっき、な…」
きた!
俺はいよいよ核心ついた言葉に心臓破裂しそうな思いや。
何言われんや。
先謝った方がええんか?!
けど光が怒ってるようには見えんし、だいたいあれもちょっと突っ走ってもうただけで、俺は悪ない!
……と、思う。
ああ不安やってめっちゃドキドキしながら言葉待ってたけど、俺は別の意味で心臓破裂するか思てしもた。
「お…俺、そない物欲しそうな…顔してましたか?」
「……は…はい…?」
「えっと、せやから……」
あーあーうーうー言うたか思たらいきなり頭抱えて膝に顔埋めてしもた。
顔は見えんようなったけど、耳も首筋も真っ赤や。
「あーもうムカつく!!謙也さんがあんな顔して見てくるよってめっちゃ期待して待ってもうたんか!」
「え?え?何?!」
光今何にキレてんのや?
訳解らんってオロオロしてたらいきなり抱きつかれて頭真っ白になった。
「ひひひひひかる?!」
「せやから!きっ…キスされる…思たんです…」
だんだん言葉は尻すぼみになって肝心な部分はかすれてしもてるし、光は照れて思いっきり腹殴ってくるしで散々や。
けど、俺の心配は杞憂やったて事や。
俺は横っ面殴ろうと振りかざした左手を掴んでそのまま抱きしめた。
「き…期待しとったって事は……してええんやんな?」
何確認してんねん俺。
ほんまありえへんわ。カッコ悪すぎやろ。
けどこれ以上殴られるんはごめんやから一応光の意思を確かめとかな。
どうなんや、って答え待ってたらカスみたいな声でいちいち聞いてくんなハゲ言われた。
ハゲてへんっちゅーねん。
どいつもこいつもあんまブリーチしすぎたらハゲるハゲるて事あるごと言いくさりよって。
むっとして顔覗き込んだろ思ったらいきなり光のどアップが目ん中飛び込んできて、あったかいモンが唇に触った。
「へ…?」
いいいいいいいいい今のってもしかして…もしかせんでも光の唇…?
何が起きたか全然解らんでボケーっと光見てたらほっぺた両手でぱっちん叩かれて至近距離で睨まれる。
「いっぺんしたら二へんも三べんも一緒やろ。早よしてこいやヘタレ」
挑発するようにニヤリ笑われて、俺はそのまま二度目のキスをした。
こんな緊張して心臓爆発するかって思うようなキスは初めてやった。
正直人生におけるファーストキスより感動しとる。
いや、たぶん今日が、今のこれが俺のファーストキスなんや。
じっくり味わうように俺はシャツにしがみつく光の手ぇ取って思いっきり抱き締めながら何べんもキスした。
「んっ…け…やさ…んっぅ!」
あかん。そんな声出されたら我慢できんわ。
ただでさえ堪え性のぉていらちでせっかちやのに。
スピードスターは理性切れるんも手ぇも早いっちゅーねん。
光限定やけど。
押し倒そうとしてぐっと肩抑えたら、光は思いっきり焦った様子で体押し返してきた。
「ちょっ…!!」
「何?」
「まっ…まだ早ないっスか?」
「えっ…嫌やった?」
どないしょ。
もう引っ込みつかんとこまできてるんですけど。
今更止め言われても正直無理や。
「光…」
ああもう殴ってでも止めてくれな無理矢理やってまう。
普段は冷たい肌が風呂上がりでほんのり温いってだけで馬鹿正直な俺の体は反応しよる。
シャツの裾から手ぇ入れて腹撫でたら思っきり暴れて体離れさせてしもた。
「ほっ…ほんまにこれ以上はっ…」
「嫌なん?嫌なんやったらはっきり言うてんか」
でないとほんまに暴走してまう。
拒否られんのはショックやけど。
「いっ嫌言うか…おっちゃんもおばちゃんも順也もおんのにバレたらどうすんですか」
「あー…ちゃんと鍵かけるし」
「無理!俺絶対声抑える自信ない!もし聞かれたら恥ずかしいてもうこぉへんようなるわ!」
「大丈夫やって。皆もう寝るやろし」
部屋のドア向けて逃げようとする光の腕掴んだ途端、
「おばちゃーん!おばちゃーん!」
あろう事か大声でオカン呼びやがった。
オカンもオカンですぐすっ飛んでくるから俺の内なる狼はすっかり元気なくして巣穴に帰ってしもた。
「どないしたん?!またうちのアホが何やしたんか?!」
「ちゃうちゃう。ゴキブリ。ゴキブリ出てん」
「なんやーそうかいな。びっくりしたわー謙也、ゴキブリぐらい殺したりぃや。情けない子やな」
訳解らん!俺はゴキブリかー言うねん!
「どないしたんや?」
光の声聞きつけたオトンや順也までやってきて、もうとてもやないけどそんな気ぃ失せた。
「光…何、お前ゴキあかんの?」
「無理無理。ゴキブリおるような部屋でよう寝んわ」
「せやから部屋綺麗にしときーていつも言うてんのにお母ちゃんの言う事ききゃへんから」
違うっちゅーねん!!
っちゅーかこの部屋いっぺんもゴキブリなんか出た事ないわボケ!
「ほなおっちゃんと一緒に寝るかー?」
ふざけんなクソじじい!!
調子乗ったオトンが光連れていこうとしたけど、結局何やゲームする言うて順也の部屋に行ってしもた。
何これ。
ほんまショックなんですけど。
何やもう別に馬鹿にされてもええから誰かに話聞いて欲しぃて白石にメールした。
襲いそうになったらゴキブリ扱いされて逃げられたて。
ほんだら二十分後、もっと詳しぃに聞かせぇて電話かけてきよった。
あかん。こいつ完全に声笑とる。
いらん事してしもた…おもろがるん目に見えとったのに。
けど俺が何気に一番ショックやったんは光に拒否られた事やない。
その内容やった。
「声抑えれへん言うとった…やっぱやった事あんねやー千歳と」
『半年以上付き合うとったらする事するやろ、普通』
ご尤も。
けどショックもデカいけど、湧いて出る好奇心はそれ以上やった。
「抑えられへんぐらい出る声てどんななんやろか…」
めっちゃ聞きたい。
普段の人ん事馬鹿にしくさったような声からは想像できひん。
『知らんわ』
「ちょっ…冷たいなー真剣に悩んどんのに」
『ほなお前、俺が想像して財前で抜いてもかまへんねや?』
「それは困る!っていうかすんな!妄想も想像も許しませんよ!!」
『何娘の心配するオカンみたいな口調なっとんねん』
うっ、確かに今のはちょっとうちの子に何すんのって言い方やった。
そんなしょーもない話ぐだぐだしとったら、気ぃついたら一時間近く経っててだいぶ気ぃ紛れた。
そろそろ寝よかって思てたら、誰かがドアノックしてるんに気付いた。
返事したらさっき順也と出ていったはずの光が入ってきた。
「ひっ光!」
「あ…すんません…電話中でしたか」
遠慮して出ていこうとするよって慌てて引き止める。
「あー待って待って!こんなんただの白石やから!すぐ切るし!」
「白石先輩?」
『こんなんって何やねん、ただのってどういう事やー謙也』
電話口でやいやい言う白石黙らせよう思たけど財前に代われってうるさいから光に携帯渡した。
何や余計な事言わんやろな白石…
心配や。
そんで俺の心配は的中したみたいで光が真っ赤な顔で余計なお世話っスわ!って怒鳴って携帯床にほりよった。
「ちょっ…何すんねん!俺の携帯やど!!」
「知らん!もう寝る!!」
光はぷりぷりふくれながら俺のベッドに入って寝る体勢になってしもた。
俺は呆然としながら床に転がる携帯拾い上げた。
結構すごい音したけどまだ電話切れてなくて白石の笑い声が聞こえてくる。
「お前何言うてん…」
『あんまり謙也イジメたら泣きよるでって言うただけやよ』
「嘘や!お前絶対いらん事言うたやろ!!!」
『いらん事やて失礼やなー…お前の事思ての事やのに』
絶対嘘や!!
やっぱりこいつにメールしたんが間違いやったわ。
光は勝手に俺の布団で寝とるし、散々や。
っちゅーか俺どこで寝ろゆうねんコレ。