やっとこさ千歳が登場。
これだけ話の深部にいるくせに出てこない放蕩者です。
Guilty or Not guilty10
やいやいうるさい白石からの電話を切って、ベッドの脇座って俺の布団で横になる光を眺めた。
まだ眠れへんのかもぞもぞと動いてる。
「光、眠れんのか?」
「……ん…まあ…」
「ちょぉ待っときや」
俺は光の被っとる布団ぽんぽんて叩いて部屋出て台所に行った。
甘くて温いもんでも飲んだら落ち着いて眠れるようなるやろ。
光は慢性的な寝不足みたいで、うちでも時々夜中に飛び起きとる。
俺が気付いてるだけでも結構な回数やから、やっぱストレス溜まっとんねやろなあ。
でも真逆に死んだように眠りこけとる時も結構多い。
謙也さんごめん、ちょぉ横なってええですかって言うた端から寝息が聞こえてくる。
丁度ええ匙加減ないんかあいつは。
ほんま目ぇ離せへん。っていうか離したくない。ずーっと見てたい。
そう思たら急に心配なって、マグカップ手に慌てて部屋に戻る。
もう家族は皆寝たんか廊下も部屋も静まり返ってる。
物音立てんように部屋戻ったら、光は俺のベッドからは出て自分用に敷いてある布団の上でぼーっと座ってた。
「はい、これ飲み」
「…何これ」
「牛乳やん、温い」
「温い牛乳好かん…」
「子供みたいな事言いないな。蜂蜜入れて甘いよって飲みや」
光はしぶしぶマグカップ受け取って口をつけた。
好かん言うてたけど嫌そうな感じやないし、美味そうに飲んでる姿にホッとする。
「美味いか?」
「…まあ…これなら飲めん事ないですけど……」
「素直に美味いって言えや」
「美味い美味い。あー美味い。めーっちゃ美味しいわー」
ほんまにこいつは素直やない。
棒読みでわざとらしぃに言うんが憎そいし、でもやっぱり可愛い。
全部飲み終わる頃には体も温もってきたんかまたほっぺたピンク色になってきた。
ごちそうさまですって返ってくるマグカップを勉強机の上に置いて光の顔覗き込む。
「眠れそうか?」
「謙也さんは…?」
「は?俺?」
何で俺の話になんねんって思たら、めっちゃ睨まれた。
「あ…あんな風に人ん事襲っといて……そのまんま寝れんスか…」
折角巣穴で大人しぃにしとった狼叩き起こすなよ!!
光の恥ずかしそうにもじもじする姿にまた顔出そうとする狼を必死で巣穴に追い返す。
「そんな心配せんでええて…もう無理から襲ったりせんし」
またゴキブリにされるんはごめんやわ。
そう思ったのに光は凄い剣幕で弁解してくる。
「べっ…別にあんたとすんのが嫌なんとちゃいますからね!」
「は?」
「せやから白石先輩に変な事言わんといてくださいよ!」
「ちょっ…ちょぉ待て、何の話やねん!!あいつに何言われてん!」
「せ…せやから……あの…させたれへんから…謙也さんが俺の事考えて…一人でするとか…」
「言うてへんわそんな事!!」
あのどアホ!!!
何ちゅー事言いやがったんや!
みてみぃ!光信じてめっちゃ睨んどるやんけ!
「……ほんまですか?」
「ほんまやって!!」
あーもう、最悪や。
ますます光が警戒してもーとるがな。
けど待てよ。
さっき光は何て言うた?
「…俺とすんの、嫌ちゃうん?」
「えっ…は…はい……」
「ほんまに?」
「ひつこい!何べんも聞くなや恥ずかしい!」
「ほな誰もおらん時やったらかまへんねやな?」
この機会逃したらもう言われへん気ぃする。
俺は光の前に正座して聞いた。
ほんだら顔真っ赤にした光に布団の上から突き飛ばされて、光は布団に入ってしもた。
「光?返事はー?」
掛け布団の上からゆさゆさしながら言うたら、まだ真っ赤っかな顔した光が跳ね起きた。
「あーもう!わかったってば!!あー…恥ずかしいついでに言うけど、俺別にオカズにされてもええし…むしろ他の女ですんなアホ」
光のいきなりの大宣言に俺の脳ミソは完全に機能停止した。
ぽかーんなって固まってたら、またいきなりキスされた。
「ひっ…ひか…」
「寝る!おやすみ!!」
あかん、やっぱりこのまんま寝られへんかも。
俺は光の寝息が聞こえ始めたのを確認して、そっと部屋を抜け出した。
けどそうそう二人きりになんかなられへん。
俺の家は敷地内の医院と繋がってていつ誰が来るやも解らん。
オカンもそこで事務やっとるからしょっちゅう行き来しとるし。
それに折角今日は!って日あっても光がダルそうで、いけるか?って聞いたらちょぉ無理っスわって寄っかかってきて、
そのまま俺の肩やら膝やらに頭乗せて寝てまう事が多い。
こいつ家で眠れてないんやろか。
そう思たらもう邪な気持ちはどっか行ってまう。
…まあ至近距離で寝顔眺めてたらムラッとしてまうけど。
それも光をよぉ知っとる奴らに聞いた話にびっくりして、あんま感じんようなった。
いや、ちゃうな。
正確には我慢できるようなった、や。
それ聞いて光がほんまに俺を信用してくれて、頼ってくれてるんやと解った。
中間も終わった頃。
久々に去年の全国メンバーで集まろうって話になって、トントン拍子に話は進んでいった。
折角やし千歳も呼ぼうて小春が言い出してちょっと焦った。
けど全員の都合のええ日は模試や言うて光だけ欠席になった。
残念がる周囲とは裏腹に、俺はちょっとホッとした。
今はまだ千歳に会せたくない。
俺の嫉妬より、光の状態見ててそう思った。
不安定やけど、不安定ながらに穏やかになってきたのに今またかき乱したら光はどうなんねん。
それ思たらとてもやないけど光をここへは連れてこれんやろ。
アホみたいに盛り上がる小春やユウジ、金太郎に。
狭いカラオケボックスのテーブルの対角線上に座る千歳も珍しく一緒に盛り上がっとる。
中学の卒業以来やから半年以上ぶりや。
全然変わってない穏やかな笑顔がそこにあった。
千歳の周りには不思議な、独特の空気があって、何やそこだけゆったり進んでるようなイメージがあったけど、それは今も変わらんようや。
銀や白石と喋りながら笑とる。
千歳ももう光の事忘れたんやろうか。
光が来んでホッとしとる?それとも会いたかった?
そんな事考えてぼーっとしとったら思いっきりユウジに頭はたかれた。
お前も歌えや、暗い顔しやがってってマイクを押し付けられる。
変に思われたないから俺はそっから先は余計な事考えんと、いつもの調子で盛り上がった。
一通り歌って騒いで、店から出たら夕方近くになってた。
突然千歳が中学行きたいて言い出して、俺らも卒業以来行ってへんかったからその話に乗った。
今も現役で通とる金ちゃんだけはつまらなそうにしてたけど。
それでも久々に千歳と会うて、折角やし試合したいて言い出して駄々こねて千歳はしゃーないなって顔で苦笑いして1ゲームだけ相手したった。
金ちゃんは物足りんわー言うたけど、白石が次は俺の番な、言うて千歳と打ち合い始めよった。
昨日も光がうちきてて微妙に寝不足やったから俺はコート脇のフェンスもたれて大あくびこいた。
途端に隣におったユウジが茶化してきよる。
「"昨日は光が寝かしてくれんかったんやー"」
「俺の声で変な事言うなや!!」
「ヘン?ユウジいっこも変な事言うてへんでぇ謙也ー」
「うっ!聞いてたんかい金ちゃんっ」
誰も試合してくれへんって膨れながら金太郎が俺の隣に座る。
そういやこの二人て、どっちも光の幼馴染みや。
金ちゃんは光と同小で家も近所やて聞いたし。
光ん事聞き出すには絶好のチャンスやんけ。
「なあ…光やー…あいつてどっか具合よおないんか?何かな、あいつうち来て俺とおってもよぉ居眠りしとるから」
俺の言葉に金ちゃんもユウジもびっくりした顔しよった。
信じられへんって顔や。
「え?何?俺変な事言うたか?」
「変て、なあ?」
「なあ?変やんなあ?」
ユウジと金ちゃんが顔見合わせて頷く。
何や。何がおかしいんや?
俺か?俺がそんなにおかしいんか?
「謙也、自分えー加減な事言うてんなや」
ユウジが俺責めるように睨んでくる。
「はあ?!」
「せやかて光なー誰か側おったら寝れんねんでぇ?」
「えっ…」
嘘やろ。
せやかてあいつ、いっつも俺の横で寝とったど。
確かに時々うなされて飛び起きてたけど、最近はそれより俺の膝に頭のっけてくぅくぅ気持ちよさそうに眠ってる姿のが印象深い。
「ほんま警戒心強い猫みたいやで。修学旅行ん後も寝不足やーてぼやいとったしな」
「うち泊まった時もなーいっつもワイより後寝て、ほんでワイ起きたらもう起きとったで」
「うち来た時は寝顔覗いたろって側寄っただけで飛び起きとったしな」
この言葉に寝顔覗いて何するつもりしとってん、て一瞬思たけど、こいつの事やしどーせ顔に落書きしたろとかそんなんやろ。
口ではきっつい事言うとるけど、光はこの二人には心開いとる気ぃする。
金ちゃんは可愛がっとるし、ユウジにはなついとる。
そんな二人でもあかんのに俺やったらって、それってつまり。
「可愛いとこあるやなーい!!!!」
「うわぁああああ!!!」
いきなり現れた小春に俺らは飛び上がった。
「話は聞かせてもろたわよ謙也君!いやぁ〜ん光ちゃんもかぃらしとこあるやなーい!」
「なっ何やねん小春!!いきなり出てくんなボケ!!」
流石のユウジもボウフラみたいに湧いて出てきた小春にびっくりして固まってツッコミそこねとるから俺が代わりにツッコミ入れる。
「光はほんまに謙也君の事信頼してんのやね」
「えっ」
「猫ちゃんもそうやない?飼い主の側やったら安心して眠ってるやないの」
「光て猫なんかぁ?」
無垢な金ちゃんの言葉に裏なんかないのに、性春全開の俺の脳ミソは誤変換しやがった。
「いやぁ〜ん謙也君今何想像したん?」
「うううううるさいわ!!」
うねうね体よじらせて変な事言うてくんな!!
ってゆーか、そもそも何で光との事知っとんや小春は!
「お前バラしたんか?!」
「はあ?何をやねん」
俺はユウジの肩掴んで小声で怒鳴る。
けどこいつはほんまに何の事やってきょとーんとしとる。
「アタシの情報収集能力ナメんやないでぇー…」
メガネ光らせながら、小春はまた背後から湧いてきた。
怖すぎやろ!!他に何知っとんねん!!
俺は顔引きつらして思わず一歩引いた。