大変なフラグが立ちました……ね。
あっちにもこっちにも。
Guilty or Not guilty11
けど小春の言う通りや。
光は俺の側におってくれて、安心しきってるから寄っかかって寝れる。
それ思たら何も言えんし手ぇも出せんやろ。
ああエロい俺よりオカンな俺が先頭きって走り始めた。
これはしばらくは何もでけんわ。
小春とユウジは俺の気持ち逆撫でするようにいちゃいちゃし始めよって、金ちゃんは目ざとく試合終えた千歳とっ掴まえてまた試合しようやてわめき始めた。
二人からちょっと離れてコート脇のベンチに座ると千歳との試合終えた白石が来て隣に座った。
「千歳の奴、まーた強なっとる。気ぃ抜いたらワンポイントも取れんと負けてまいそうやわ」
「ほんまやな」
確かに。
金ちゃんや白石との打ち合い見ててこいつまた強なったって俺も思た。
千歳の飛躍考えると、東京進学は間違いやなかったって言えるけど、未だにその影にハマっとる人間間近で見とる俺にしてみたら複雑や。
「謙也」
「何?」
急に真面目くさった顔して何やねん。
白石は顔の汗拭いてたタオル頭から被って俺からの視線を遮った。
「俺、な…まだ言えてへんねや」
「何をや?」
「千歳に、財前がもう他ん奴好きやて」
「……は?」
どうゆう意味やねん。
それって、千歳はまだ光を好きで、諦めてへんて事なんか?
「すまん。けど、俺には言えんかった。何べんも財前の様子気にして俺に聞いてくるあいつに言うたれんかった。
光は元気にしとっと?今付き合うとる奴おるとね?好きな奴は?って聞かれた時も、さあ、俺財前とはそういうん話さんからって嘘ついた」
白石が悪いわけやない。
こいつに謝ってもらう事なんか全然ない。
この件噛んで、一番の功労者やし。
けど俺は何も言えんかった。
そうやったんや。千歳はまだ、光を。
「今日もな、光は来ると、って聞いてきて、けーへん言うたらめっちゃ残念そうにしとった」
「そう…なんや…」
さっきから何べんも周り気にしとったんはそれやったんか。
千歳は待ってるんや。
ここに光が来るんを。
せやから解散にならんようここに来たい言うたんやろ。
あかん。ますます光には会わせられへん。
自信満々に光は俺のもんじゃ!って啖呵切れたらええけど千歳相手に正直その自信ないわ。
光の好き言うてくれた気持ちを疑うとるわけやないけど、人の気持ちなんか何がきっかけで崩れるや解らんわけやし。
現に俺かて去年の今頃はまだ光を好きやなかったのに、それからものの二ヶ月ほどでめっちゃ好きになってた。
些細なきっかけで光の気持ちが再燃したらって思うと。
「あかんで、謙也」
「何がや」
「財前の事、絶対離したらあかんで」
被ってたタオル取って、白石がめっちゃ真剣な顔して俺睨みつけてくる。
「何かのきっかけでもしあいつらヨリ戻しても、結局堂々巡りしてまう思うんや。そうなったら今度こそ財前立ち直れんようなんで」
白石の言葉に、光が見せてくれた本心を思い出した。
光は俺がおってくれてほんまによかった言うてくれた。
その俺と別れて、千歳とヨリ戻して、もしあかんかったらってシミュレーションして目の前真っ暗んなった。
「俺はもう財前ヘコんでるところ見たないんや。せやから何があっても絶対――…」
白石の訴え遮るようにポケット入れとった俺の携帯が鳴り始めた。
この着信音は、
「すまん、光からメールや」
俺は白石に断り入れて画面見た。
『模試終わった 疲れた 迎えにこい 5分で』
絵文字なんて使われてへんそっけない内容のメールに思わず撃沈して、俺はそれを白石に見せてしもた。
そしたらそれまでの態度翻して大爆笑を始める。
「あいつは男足にするOLか和田アキ子かい。しかも5分て。こっからやとバスで15分はかかるやろ」
「ほんまやで…何や彼氏として自信なくなるわ」
「アホぬかせ。ちょっとの事で頼りにされて嬉しいてしゃーないて顔しやがって」
「まあな」
一番にこうやって連絡くれんのはほんまに嬉しいし、これもたぶん光からの会いたいってサインやろし。
「他の連中には上手い事言うとくよって、今日はもう戻ってこんでええよ」
「わかった」
俺は荷物持って立ち上がった。
けど、そうや、と思いついて進めかけた足を止める。
「光と俺の事、無理に言うてくれんでええからな、千歳に。聞かれたら言うてくれてええけど…けど、最後は自分でナシつけるわ」
俺の言葉に白石は一瞬びっくりして、それから声上げて笑い始めた。
「かっこええなあ謙也。俺初めてお前がヘタレ以外に見えたわ」
「初めてて何やねん!俺はいつでもカッコええっちゅーねん!」
「解ったから早よ行けアホ」
ケツ蹴られて送り出された俺は、急いで模試の会場へと向かった。
バス乗って府下では結構有名な進学校の仰々しい門の前にたどり着くと、光はそのすぐ側にある喫茶店のテラス席でぼーっと座ってた。
日ぃ暮れて冷えてきてんのにあいつは…
「光!」
道路から呼んだら一瞬表情明るくした後、すねたような、ちょっと退屈そうな顔こっちに向けた。
「遅いわアホ」
「めぇいっぱい飛ばしてきたっちゅーねん」
15分かかるとこ12分で来たんやぞ。
褒められてええぐらいやのに何で怒られなあかんねん。
店に入って二人がけの席のうちの一つにカバン乗せてある。
俺はそれ退けて座ると椅子の横に置いた。
「お前ここ寒ないん?」
「寒い…」
やろうな。
指先青白なってるし。
「ほな中の席座ってたらええやんけ」
「ここ入った時まだぬくかったんやもん」
「しゃーないやっちゃなあ…」
とにかくどんどん気温下がってきて肌寒いというより、むしろ寒い域に達しそうやからここから離れる事にする。
何でか遅かった罰や言うてここで光が飲み食いした分全部払わされた。
何でや。
迎えに来い言うたから慌てて迎えにきたったゆうのに、何やこの仕打ち。
ってゆーか光何やいつもとキャラ違わんか?
何でや何でやって、答え一つしかないやんけ。
千歳が来てるからや。
光の様子がちょぉおかしいんも、それが原因やわ。
まあ何でこんな事すんかは解らんけど。
やっぱり俺アホなんかな。
「光」
先に店出てぼーっと立ってる光の側に寄ったら、携帯いじっとった。
メールでもしてんかいなって思てたら思っくそ睨まれた。
「……あんたまた白石先輩に変な事言うたやろ」
「は?何も言うてへんわ!あいつに何言われてん!」
「謙也と仲良ぅな、やって」
何やびっくりした…さっきの続きかい。
「あー…ほんで、それより今日はどうすんねや?うち来るんか?」
さっきバス待ってる間にオカンからメール入ったん思い出した。
今日は光ちゃん帰ってくるんか?やて。
いつからうちは光の家なってん。
「今日は謙也さんうち連れて行きます」
「そーか、ほなオカンにそう……ってええええええええ?!」
「見事なノリツッコミやな」
「アホっそんなんちゃうわ!!」
何て言うた?
今こいつ何て言うた?!
「えっ……けど、俺行ってかまへんの?」
「ええっスよ。今丁度兄貴らオカン連れて旅行行ってておらんし。オトンは仕事や言うて行ってへんけどオカンおらんねやったら帰ってけーへんやろし」
それはつまり、二人っきりというやつなのでは…
思わず生唾飲んでしもて、それはバッチリ光に聞かれてしもた。
「……謙也さん、今何考えてるかサルでも解るぐらいやで」
「うううううるさいわ!とっとにかくオカンに連絡入れるわ」
あかん、メール入れる手震えとる。
光はそない緊張してるようには見えんけど。
俺ほんまカッコ悪いわ。
けどまさかのお持ち帰り宣言に俺の心臓は破裂寸前や。
いや、もう破裂した後かもしゃーへん。
この場で死んだら困るよってこの世の土産にもういっぺん光の顔見たら、さっきよりちょっとだけ顔赤なっとった。