光は何となくこういうイメージ。
人から見ると恵まれてるのに、大事なもんが足りない生活してそう。
そんで謙也の家は変な土産とか平気で飾ってそうだ。
Guilty or Not guilty12
光の家は駅前の新興住宅街の中にある一軒家やった。
広さはうちのがあるけど、それは医院も兼ねとるからやし、っていうか敷地の2/3は医院に取られてるから住んでるとこは大して広ない。
けどいくら二世帯住んでるからってこんだけの広さはいらんやろ。
光ん家って金持ちやったんや。
ほえーって感心しながら見てたら早よ入れって背中押された。
玄関入ったら吹き抜けになってて、上手い事よぉ言わんけど、何や「光の家!」って気ぃする。
おしゃれで綺麗でテレビとか雑誌に出てきそうな家。
でも人の住んでる形跡が薄くて、言葉悪いけど雰囲気冷たい気ぃする。
光はいっつもこの家帰ってきて、それで一人過ごしてるんやろか。
何や切なーなってきて玄関の鍵落とす光の背中抱き締めた。
「…謙也さん?何ぼなんでもこんなとこで盛らんとってくださいよ」
「そんなんちゃうわ」
ああけど、一時期に比べてちょぉ太ったやろか。
抱き締めても前みたいに無駄に骨ごつごつ当たらんようなった。
それでもまだまだ栄養足らん気ぃするけど、顔色もええしちょっと安心したわ。
存在確かめるみたいに首筋に顔埋めてぐりぐり押し付けたら、こそばいって体よじった。
「謙也さ…ちょぉほんま離れ…」
調子乗ってキスしたろ思ったら、いきなり後ろの玄関のドアがちゃがちゃいい出して飛び上がって光から離れた。
今日は誰もおらん言うてたのに、泥棒かって焦った。
けど入ってきたんは泥棒やのぉて、
「………お父さん…」
「へ?!」
光のオトン?!
向こうも予想外やったんかびっくりした顔してる。
何ちゅーか、もうめっちゃ仕事できます!!ってイメージのビジネスマンや。
光より更に顔つきキツいしお兄さんみたいに表情やらかくないし、メガネかけてて髪型もばっちりキマってて、見た感じめっちゃ若いし、
こんな親父やったら世の女子高生達もオヤジキモーいなんて文句言わんねやろなってぐらいにしゅっとしててカッコええ。
これが光の、って思てハッと気付いた。
そうや挨拶せな!
「はっ初めまして!光君と同じテニス部やった忍足です!!」
90度に腰曲げて頭下げたら隣におった光がテニス部の先輩って補足してくれた。
「そうですか。いつも光がお世話になってます」
「いっいえ…こちらこそ……」
ニコリともせんと単調に言われて、何やもう身の縮み上がる思いや。
初めて彼女の両親に会う時ってこんな感じなんやろか。
そんなしょーもない事考えてたら光のオトンはさっさと家ん中入ってった。
奥に消えるん見届けて、思わず脱力。
「あービビったー……」
「謙也さん足震てんで」
「あっ当たり前じゃ!めっさ緊張したっちゅーねん!」
「ああ、あの人無愛想で誰にでもあんな冷たい感じやしあんま気にせんでええ思いますよ」
それより上がってくださいってスリッパ出してくれる。
俺はお邪魔しますって言うて玄関上がった。
塵一つ落ちてない磨かれた廊下が寒々しい。
玄関にさりげなく置かれてる花瓶とかもええ値すんねやろな。
何やよぉ解らんけどキラキラしてて綺麗やった。
そこに花綺麗に生けてあって、玄関めっちゃええ匂いしてた。
オトンの学会行った時の土産順番に並べたぁるうちとはえらい違いや。
木彫りクマとシーサー隣同士に置くハイセンスっぷりやしな。
ええ匂いもせぇへんし。置いてあんの置き型ファブリーズやし。
「あ、俺ちょぉ食うもんとか持ってくるんで先部屋行っててください。二階の一番奥の部屋なんで」
「あ、うん解った」
廊下から伸びる横三人並べるんちゃうかってぐらい幅ある階段上がると、また広い廊下に出た。
ちょお待て光。
どっちに向けて奥やねん。
廊下は階段から左右に伸びててどっちが光の部屋か解らん。
しゃーない、ここで待ってよ。
俺は階段の上がり端にもたれて周り見渡した。
広いなあ。
この家十人ぐらい住んでてもまだ余裕ありそうや。
しばらくきょろきょろしとったら階段の下から声がした。
光のオトンの声や。
俺は吹き抜けになってる玄関の上にある廊下から見下ろした。
遊んでばっかりいてんとちゃんと勉強せえって言うて光のオトンは大きい荷物持って出ていった。
うわー…今の遠回しに俺への嫌味やんなあ…
ノコノコついてくるべきやなかったんやろか。
って考えてたらいつの間にか光が上がってきとった。
「あれ?部屋行っといて言うたのに」
「すまん…どっちか解らんかったから」
「ああ、どっちて言うてませんでした?すんません」
光は階段上がって右奥に向けて案内してくれた。
廊下の突き当たりのドア開けて中に入る。
めっちゃ広いし天井高いし、っていうか部屋の奥はロフトになっててその下には簡易キッチンまでついてる。
何じゃこの部屋。
貧乏学生のワンルームより遥かに条件ええやろ。
この部屋だけで全部事足りるんちゃうか。
クローゼットか思ったキッチンの横の扉はシャワールームとトイレやて。
何やねんこの引きこもり物件は。
螺旋階段で繋がったロフトの上にベッドやら勉強机やらが置いてあって、そこだけで俺の部屋ぐらいありそうやな。
フロア部分は光の好きなCDがいっぱい入ったラックやらステレオやパソコンが置いてある。
ぼけーっと部屋見渡してたらそこ座れってソファ指差された。
俺は言われるままにふっかふかのそれに座る。
光はキッチンでジュース入れて持ってきてくれて、それ目の前のローテーブルに置いてから隣に座った。
「すごいでしょ、ここ」
「え、あー…うん。何やここだけで生活できそうやな」
「それが目的なんで」
「え…?」
「親が、俺の顔見んように閉じ込める為に作った部屋やから」
「……嘘やろ?」
そんなアホな話って思ったけど、何やそれも言いきれん。
光は明言せんかったけど、それが逆に真実味を持たせる。
「冗談っスよ。ここは昔兄貴が使てて譲ってもらってん。受験の時勉強に集中できるようにて増築したらしいっスわ。
うち親父の仕事の関係で人の出入り激しいから」
「あ、そうなんや…」
何やそういう事か。
それにしても、その為に増築てすごいな。
「あ、そーいやお父さんは?」
「出張。2、3日は戻ってこんのちゃうかな……まあどこに出張しとんねんて感じやけど」
「は?」
「こんな時間から出張て、どう考えても女のとこやん」
「あ…えええぇ?!」
…けど何やモテ要素満載の親父さんやったしほんまの事なんやろう。
光がほっとかれるんもこーゆーとこも原因なんやろか。
一人でせんない事考えてたら光は肩にもたれかかってきた。
「何やめっちゃ変な感じっスわーこの部屋に誰か来んのなんか」
「え?」
「謙也さんが初めてなんですよ、ここ来るん。俺以外で入った事あんの兄貴と義姉ちゃんぐらいやし」
「けっ…けどちと…」
千歳は、って言いかけて自分で口押さえた。
俺からこの話題出してどないすんねん。
折角、折角念願の二人きりやのに。
言いかけた言葉はばっちりと光に聞こえたみたいで、苦笑いされてしもた。
「あらへんよ。俺ここに先輩連れてきた事一回もなかったから」
「そうなんか?」
「うん。何やこんな俺知られとぉなかったっちゅーか……心配かけたなかった。
こんな風に一人過ごしとるって知ったら絶対放っとかれへんようなるやろうなって思て…迷惑かけたなかったから」
俺かて心配でほっとかれへんっちゅーねん。
けどこんな風に光の内側見せてもらえたんって、ちょっとは頼りにされてるて自惚れてええんやろか。
「俺はええんか?」
「謙也さんには…逆やねん」
「逆?」
「めっちゃ迷惑かけたい」
「はあ?!」
光の事迷惑やなんていっぺんも思た事ないし。
かけられたとも思ってへんのに、どーゆうこっちゃ。
って考えて思いついた。
ああ、そうか。
甘えたいって事か。
光は自分で言われへんから迷惑って言葉使てるんや。
「嘘やん。そうやのぉて、謙也さんには全部知ってほしい思たんっスわ。うちのこんな変なとこも、俺のカッコ悪いとこも…前…その、…先輩との事も」
光は最初千歳の事を俺に知られるんが怖いって言うとった。
知ってほしいけど、それ以上に怖いって。
けど半年以上付き合うてきて、ちょっとは俺を認めてくれたって事やろか。
頼りにしてもらえてるって、そういう事やんな。
「あ、そうゆうん重い?せやったら俺、言わん――……」
「アホか」
もたれてた体起こして不安そうに見上げてくる光の肩抱き寄せる。
「いっこも重いことあるかい。そら軽いもんやないけど…それでも全部知りたい。光が重すぎて持ってられへんねやったら俺が半分もろたる」
またこんな台詞似合わんって笑われてまうんやろか。
案の定肩震わせて笑うん堪えてるし。
「笑うなやアホ」
ちょっと体離して頭はたいたら、何や知らんけどえらい嬉しそうな顔で見てきた。
「あーちゃうちゃう。そやのぉて…謙也さんらしいなー思て」
「はあ?」
「全部引き受けたるーやなくて、半分こって…ええなー思た。全部預けるんは俺も嫌やし謙也さんしんどいだけやけど、半分こがいっちゃん楽やわ。俺も謙也さんも」
くそっ反則やわ。
可愛い事言いよって。
「ほな半分もろてくれますか?」
じっと見つめる光の目は真剣や。
俺は頷きながらもう一回抱き寄せた。