Guilty or Not guilty8

インハイ出場叶わず大会は終わり、大量の課題を必死に消化するだけの夏休みが終わった。
その間も光はほんまうち住んどんちゃうかってぐらいに側におってくれた。
一応受験生やから塾行ったりもしてたけど、自宅よりうちからのが便ええからって、そのうちただいまって来るようになりよった。
しかもおかんもほんまの母親みたいにしっかり勉強しぃって言い始めよった。
それにしても、勉強せな謙也みたいになるで、うわっそれは嫌や、って会話は酷いと思う。
そんなこんなでだんだん光が家族の一員みたいな感覚になって変な感じする。
けどそれはほんまに嬉しい事やった。
新学期になって頻度は減ったけど、それでも光とはしょっちゅう会うとった。
年度の頭の頃に比べたらだいぶ顔色もよぉなったし、何より笑う事も口数も増えた。
せやから安心してたんやけど、光の心の闇はそんな簡単に消えるもんやなかった。
一緒におってもどっか遠くに意識あるような目ぇしてて、うち泊っててもしょっちゅう夜中に目ぇ覚ましてるような感じやった。
うちではオカンの飯腹いっぱい食うてるようやけど、他ではどうやろ。
あんま食欲もないみたいやしほんまに心配や。

光がそんな大変な状態やって解ってんねん。
解ってるんやけど、男っちゅーんはどーしょーもない生き物やねんなあ。
最近光が泊りに来るんがちょっぴり憂鬱だったりする。
嫌ってわけやなく、むしろ逆で、けど好きな奴と一晩同じ部屋にいてるって、やっぱり、なあ、そういう事も考えてまう。
早い話が、ぶっちゃけヤりたいです。
前は光が側におってくれるだけで十分やって思ってたんやけど、今は無理。
全部手に入れないと気ぃ済まんとこまで気持ちがきてもうてる。
光は千歳とそういう事やったんやろかって考えて、半年以上付き合うとったら当たり前やろとか、やっぱり光が女役なんやろなとか思い浮かんで無性に腹立った。
最近やっと千歳に対する妙な嫉妬心みたいなもんが生まれてきて厄介や。
けど俺は所詮光を二番目にしか好きやない男。
俺自身がなんぼ光が一番や思てても、それが事実になってしもてるんやし、やっぱり手ぇ出されへんわ。
そして今日も今日とて、光は俺の部屋来て眠そうな顔しながら勉強しとる。
このダルそうな顔がまた厄介やねん。
見とったらいらん想像してイライラムラムラする。
けど甘い雰囲気とは程遠いし、光は微塵もそんな空気出さんから結局毎回悶々としたまま過ごしてしまう。

「あかん…俺これ以上我慢しとったら光に襲いかかりそうや…」
昼飯食い終わって次の授業までの間、白石に思わずこぼしてしもた。
白石は一瞬びっくりして言葉失くして、三秒後に大爆笑を始めた。
「犯罪者にはなんなや。俺檻の中の友達はいらんで」
「…自信ないかも…」
白石は軽い調子で流してくるけど、俺にしたら深刻な問題や。
必死こいて我慢しとる分、反動で何するや解らん。
自分の事やけど、逆に自分の事だけに自信ないわ。
「ほないっぺん聞いてみたらええやん」
「何を?」
「財前に、ヤりたいんやけどかまへん?って」
「言えるかボケ!!!!」
「冗談やん。いちいち真に受けんなや」
絶対本気や。目がマジやった。
折角の男前が台無しな顔でへらへら笑いながらええ加減な事言いくさりよって…人が真剣に悩んでんのに。
けど正味の話、それ以外に方法ないねんなあ。
どないしょーかって考えてたら光からメールが入った。
「財前?」
「んー…今日も行ってええかやって」
あいつ最近オカンに先了解とってから俺の予定聞いてきよんねんなあ。
っちゅーか何で光はオカンや順也のメアドまで知っとんねやろ。
不思議でならんわ。
「チャンスやん」
「は?」
「付き合うてるって事実ある以上財前かて考えてんちゃうか?そういう事も」
白石の言葉は尤もや。
けどもしそんなつもりなかってん言われたら立ち直られへん。
はっきりさせたいけど、はっきりさせるん怖い気もする。
「いきなり最後までしやんと、段階踏みぃや」
「段階?」
「そうそう。手ぇつないだり…って自分、その様子やとキスどころか…」
手も握った事がない。
それどころか一番側におったんって、あの告白ん時背中にくっついてきて、その後勢いで抱き締めた時だけかもしれん。
あの時はやらしい気持ちなんか微塵もなくて、あまりの激痩せっぷりに何やおかんみたいな心配する気持ちになっただけやった。
これって付き合うとる言えるんか?
ちょぉ不安になってきた。
けど、光ははっきり好きや言うて…くれたけど、気持ち変わったなんて事ないよな。
もう何カ月も前やったわけやし。
いやいや、俺は信じてるぞ。
光はまだ俺を好きでいてくれとる。
………はずや。

「謙也さん?何ぼけっとしてん?」
「へ?!」
「もう10分ぐらい同じページ見たまんまやで」
しもた。
余計な事ばっか考えててぼーっとしてしもた。
光が勉強しとる間、宿題も終わって暇やし明日の授業の予習でもしよかと思って数学の教科書開いてたんやけど、うっかり遠い世界にトリップしてた。
「何かあったんですか?」
「なっ何もないで?何で?」
「いやけど…いつもに増して今日はぼーっとしとるから…」
「いつもに増しては余計や」
憎そい口ききやがって。
俺は正面に座っとる光の隣りに行って、すかさずヘッドロックかましたった。
「痛い痛い!」
「訂正するか?!」
「いーやーや!だってほんまの事やし!」
「何やとコラァ!」
俺も本気でやっとるわけやないし、光もそれ解ってるからか笑いながら離せって首に巻きついた俺の腕叩いてる。
こうやってじゃれ合うんは抵抗ないねんなあって考えて、ふと我に返った。
めっちゃ近ないか!?
すぐ側にある光の顔に急に意識してもうて、顔赤なるんが解った。
「謙也さん?」
いきなり赤面して体離したから光びっくりさせてしもた。
切れ長の目ぇまんまるにして驚いてる。
「どないしたんっスか?顔真っ赤っかやで。サルみたい」
「どないもせん!どないもせんから!」
つっこむ余裕もない。
頼むからそれ以上近づかんといてくれって思うんやけど、光は心配そうに顔を寄せてくる。
「何もないって顔ちゃいますやん」
「あの…せやから…」
「けん…」
ああもう。無理や。
我慢でけへん。
俺は思いっきり光を抱き締めた。
光はいきなりの事にさっきよりびっくりしてるんか、固まって動けへんようになった。
どないしょ。
衝動的にやったはええもんの、この先どないしたええんやさっぱりや。
しばらくは二人して固まったままやったけど先に光が動きをみせた。
「謙也さん…ちょぉ苦しい…」
「すすすすすまん!!」
変な体勢のままぎゅってしてもうたから、光がしんどそうな声で訴えてくる。
慌てて体離して顔見ようとしたらぷいっと逸らされてしもた。
よぉ見たら光の顔は真っ赤になってて、ほっぺたどころか首まで赤い。
「え……光?」
うつむいてぶるぶる震えてるんに気付いて顔除き込んだんやけど、いきなり顔上げたか思ったら思っくそ突き飛ばされた。
「謙也さんのどアホ!いきなりそんな事すんなや謙也さんのくせに!ムカつく!!」
ぽかーんなって光見上げてたら、怒鳴り声聞きつけたオカンが部屋入ってきた。
「何やの?!どないしたん光ちゃん!!うちのアホが何やしたんか?!」
言うや否やオカンに頭を叩かれる。
俺悪いん確定かい。
光は一瞬バツ悪そうな顔して、けどすぐにオカンの方向いた。
「おばちゃん、風呂入るわ」
「ん、かまへんよ。もう沸いたぁるから」
「ありがとう」
もう自分ちみたいになっとるからどこに何なおしてあるかも風呂の使い方も解っとる光は一人で風呂場に行ってしもた。
部屋にはまだ今一つ事態把握しきれてない俺と、鬼みたいな顔したオカンが残される。
気まずい。何言われんや俺。
「……謙也」
「は…ハイ」
今度は呆れたような顔して肩叩かれる。
「あんた…急いては事をし損じるて言葉、知っとるか?」
「うっ…」
心臓のど真ん中突き刺すような言葉やった。
せやけど何でオカンがそんな的得た事言うてきよんや。
まさかと思うけど、バレてんちゃうやろな。
白石の時といい、心臓に悪い事この上ない。
結局オカンはその事については何も言わんと、喧嘩せんと仲良ぉしいやとだけ言うて部屋出ていった。
それより全身全霊で拒否られたんですけど。
流石にショックや。
ほんまにショックや。

まださせてやんないよ。フフッ 

go page top