Guilty or Not guilty6

光はその日以降、試験前とかよっぽどの用ない限りは週一週二ペースで遊びに来るようなった。
オカンも弟もめっちゃ喜んどるし、俺も嬉しいんやけど光の家はそうもいかんみたいで色々言われとるみたいや。
邪険にしとんのに他所にも行くなてどうゆうこっちゃ。
ほんま勝手な奴らなんっスわ、と光はもう何も思てへんみたいに呆れながら言うとった。
そんなしょっちゅう寄せてもろて迷惑かけてんやないかって、一回だけお兄さん夫婦がうちに挨拶に来た。
一回り離れたお兄さんは顔は似とるけど光より骨太なイメージやった。
ちょぉ想像してたんとちゃうかも。
頭ええゆうてたしもっと神経質な感じなんか思とった。
意外にも温和そうな人や。
奥さんも明るくてめっちゃ優しそうな人で、何より甥っ子の太陽君が光のミニチュア版って感じでむちゃくちゃ可愛い。
光には絶対望めんニッコリって音しそうな笑顔を俺に向けてくれて、思わずニヤけてもうた。
ほんなら光に思いっきり睨まれて、けどそれすら何や嬉しかった。
ヤキモチ妬いてくれたみたいな気ぃして。
…まあ変な目でうちの子見んなやって感じなんやろけど。
お兄さんはオカンに迷惑かけてすんません言うてたけど、オカンはほんまに光の事可愛いて可愛いてしゃーないみたいやから大歓迎なんやって笑い飛ばしてた。
同じ年代の男の子の世話すんのなんか二人も三人も変わらへんから遠慮せんでまた来てやって。
たまにはええ事言うやんけ。
俺も光が来てくれるんは嬉しいから力入れてオカンに同意した。
そしたらお兄さんは俺に向こうて光をよろしゅう、仲良うしたってなて頼んだ。
何やこう…娘嫁に出すような挨拶やって、俺はまたニヤけてしもた。


お兄さんが上手い事口添えしてくれたみたいで、光はうちによう遊びに来るようなった。
泊まったりせんでも学校帰りに寄るだけん時もあったし、休み挟んで三日ぐらい居座る日もあった。
それどころか俺おらん間に来てオカンや弟と遊んで帰る日もあるらしい。
俺ハミって三人で遊んでんのとかめっちゃムカつくけど家におるより居心地ええんや言われたら断れんわ。
そんな日常が普通のリズムとして組み込まれるようになって数ヶ月、気付いたら夏休みになってた。
光は一応受験生やけど頭ええし、そのまま四天高進むつもりらしいからあんまり気合い入れて勉強はしてないようや。
親が煩く言うから府下でも指折りの進学校も受験するけど行く気は全くないんやて。
それ聞いてちょっとだけホッとした。
光が後で受ける親からの叱責考えたらあかんねやろけど、でもまた同じ学校通えるんはほんまに嬉しい。
安定してるように見えるけど、まだ心にいっぱい見えへん痛み抱えてる光を一人にしたない。
千歳の事は口に出さんけど、まだまだ忘れられんみたいや。
受けた傷は消えたけど痛みと恐怖だけが残っててそれが光を苦しめとる。
好きって感情はもうないんやとはっきり俺に言うてくれた。
けど自分から別れ切り出して大好きやった人を、離れても好きやって言うてくれてた存在を手放した時に受けた衝撃は相当なもんやったんやろう。
自分自身傷ついて、相手を傷つけた事がまた光に返ってきて、それは光のやらかい心えぐってしもたんや。
どないやって光を楽にしたろって考えんやけど、結局何も出来んで俺はただ見守ってやる事しかできへん。
それが歯痒うてならんかった。
俺は光の為に何をしてやれんねやろ。

「はあー……」
「人の顔見てため息つくなや、ウザい」
目の前におるユウジが嫌そうな顔して睨み上げてくる。
「あ、すまん。別にお前見てやったんちゃうねん」
丁度練習試合の間で暇しとった俺らは相変わらず無駄のない白石の試合を並んで観戦しとった。
「どーせ光ん事考えとったんやろ」
ユウジの言葉に思わずこけそうんなった。
ちゅうか実際もたれとったコートのフェンスから体すべり落ちそうになった。
「当たったみたいやな」
「なっ…なっ…」
「"何で知ってんねん!!"」
ユウジは俺の声で俺の言いたかった事言いよった。
「"俺昔っからユウジくんにはよぉ隠し事出来んのですわ"」
しかも返答を光の声でしやがった。
けど待てよ。ほな千歳との事も知ってるんやろか。
直で聞くんは流石にまずい。万が一知らんかったらいらん事した事なるし。
「まあけど、ほんまは光の義姉ちゃんに聞くまで知らんかってんけどな」
「え?え?」
「兄やんはいっこも気ぃついとらんみたいやけど、嫁はんはすぐ気ぃついたんやて。お前らが付き合うとるって」
「はあ?!」
「ほんま女て怖いわー…ほんま無理」
ユウジのさりげないカミングアウトも聞き流してまいそうな程の衝撃や。
そんな素振り全く出さんかったはずやのに。
何で解ったんや。
冷や汗だらだらかいてたらユウジに思っきしゲンコツ食ろた。
「そんな顔せんかて義姉ちゃん反対してへんわ」
「え、あ…それもそうか…」
せやなかったらこんなしょっちゅう遊びに来さしてくれんわな…
「むしろ光が元気なったゆうて喜んどったわ」
「ほーか…」
「あいつ冬から春にかけてちょぉおかしかったもんなあ…」
何でや知らんけど、って言葉にいらん事言わんでほんまに良かった思た。
たぶん光は誰にも、何でも話せる幼なじみにすら話せんで一人で悩んでたんやろ。
そらつついっぱいなって壊れてまうわ。
ぼーっと考え込んで俯いてたら、今度は思っきしケツ蹴られた。
「泣かしたら承知せんど」
びっくりした。
まさかユウジからそんな言葉が出るやなんて思うてへんかったし。
けど、
「アホ、今のは義姉ちゃんからの伝言じゃボケ」
って付け足してもう一回蹴られた。
言葉はお義姉さんからやろうけど、蹴りはユウジからの牽制のように思えた。
心配せんかてそんな事するかぃ、ボケ。
そう言うて仕返しにユウジの背中を思っきし叩いた。

光の甥っ子の名前は太陽君。
ブラコン兄が光の名前にちなんでつけたが嫁はんにはものっそい不評。
言い辛いわボケ!!と。
だって『ざいぜんたいよう』…言い難いて。

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