謙也の弟は順也。単純明快です。常識(J)で考えろ(K)コンビ。
そんでたまにはデレ光も悪くないだろう。
Guilty or Not guilty5
晩飯食うて風呂入ってからもまだ光に構いまくるオカンから何とか救い出して、やっと俺の部屋に連れてこれた。
俺のベッドの横に光の布団敷いて、やっとゆっくり話せる空気になった。
まずは謝っとこ。
「すまんなあ光…」
「何がですか?」
「オカンと弟…うるさかったやろ」
「はあ…まあ…けどあんなおもろい晩飯初めてやったんで楽しかったっスわ」
うっ…可愛い。可愛すぎるやろ。その顔は反則や光。
いつもはワックスで固められてツンツンに立てられた髪が風呂の後やからぺったんこになってていつもより幼く見える。
しかも光は上機嫌でいつもより素直になっとる。
「おばちゃんも弟さん…順也君やっけ?あいつも。二人ともめっちゃええ人ですね」
「そうか?五月蝿いだけやて…」
「何や今の謙也さんがどないやって出来上がったんか解った気ぃしましたわ」
「それ褒められとる思てええんか…?」
微妙な言葉やったけど、光は楽しそうに笑てる。
何やそれだけで嬉しなってきた。
今日うち呼んでよかった思えた。
「…また来てもええっスか?」
それまでの表情無くして光が不安げに聞いてくる。
けどそんなもん答えなんか決まっとるわ。
「もちろんや!大歓迎やでーあんなアホみたいなんでよかったらほんまの家族みたいにしぃや。な?」
俺、何やまずい事言うたか?
一瞬光の顔が泣きそうに歪んだ。
けどすぐに何でか解った。
俺は地雷踏んでしもたんや。
光に家族の話なんか辛いだけかもしれんのに、何一人浮かれとんねん。
「あ…あんな…ひか…」
「うちの話、聞いたんっスね」
もう泣きそうやない。けどまだちょぉ苦しそうな顔のまんま見上げてくる。
「ユウジ君に聞いた?」
「あ…いや、白石や……今日、あいつから聞いた」
「…そうっスか…ほなうちの話はだいぶソフトに伝わってますわ」
「え?」
「ユウジ君はもっとえげつない話知っとるけど…話せそうなんしか白石先輩に言うてへん言うとったし」
あれ以上何があるゆうんや。
ありえへんやろ。実の親やで?
光は何でもないみたいな顔しとるけど、ほんまはそうやないんや。
今にも泣き出しそうな目ぇしとる。
「家ん事はユウジ君のがよぉ知ってるから気になるんやったら聞いてくださいね。今更思い出しながら話すんムカつくし」
口先では悪態ついてごまかしとるけど、ほんまは辛いんやろな。
けどずーっとあの調子で当たり前みたいに親のありがた迷惑なぐらいの愛情もろてるから、俺は光の気持ちを解ってやられへん。
「あと…な、千歳との…事も……聞いた」
まずかったかな思たけど、今逃したらもう言えんやろから口にした。
光の心に陰落としてった奴の名前を。
家族の話しとる時より顔が硬い。
それに一言も喋らんようになってしもた。
「ごめんやで光…ほんまごめん」
「え…せやから何で謙也さんが謝るん」
「…一人浮かれててや…お前に好きやて受け入れてもらえるなんか思てへんかって…そんでお前が何思てんかとかまで考えてへんかった…
そんなテニス部辞める程思い詰めてるとか想像もしてへんかったから……今まで一人にしてごめんやで。
これからは白石だけやのぉて俺にも話してくれや。無理にとは言わんけど…光が話したい聞いてほしい思たら俺全部聞くし」
言いたい事上手い事まとまらへん。
自分でも何言うてんや解らん。
けど光にそれだけは伝えたかった。
そしたら光は俯いてぐいぐい体押してきた。
「な…何やねん」
「謙也さんちょおむこう向いてて」
「は?何でや」
「恥ずかしい事言うよって」
「お前が恥ずかしがってまで言いたい事やったら顔見て聞きたいんやけど」
「無理!早よあっち向けや」
結局強引に体壁側に向けられてしもた。
一体何やねん思うてたら、いきなり背中に何か当たってびっくりした。
それが光のおでこや気付いて急に恥ずかしなってくる。
光がこんな風に甘えてくるんは初めてや。
「ひ…光くん?何してんかな…?」
あかん。めっちゃカッコ悪い。声上擦っとるわ。
「ありがとう謙也さん」
「な…何がや?ああ、今日の事か?」
「それもやけど…これまでん事も全部」
これまで?俺何やしたか?って疑問だらけや。
「俺、な……ほんまにあと十年くらいせな立ち直れへん思てたんです…そんぐらい先輩と別れたダメージでかかったゆうか…」
「う…うん」
そないショックやったんかって、こっちがショックで寝込みそうやわ。
せやけど次にきたんは逆のでっかいショックで出来の悪い俺の脳みそはパンクしよった。
「やから、謙也さんが好き言うてくれてほんまに救われたんです……俺…ほんま謙也さんおらんかったら無理やった思う」
言葉を選びながら、ゆっくりゆっくり話すもんやからじわじわ心に染み込んでくる。
「こんなん…先輩と別れてまだそんな経ってへんから信じれへんかもしれんけど……俺………」
寝間着にしとるスエットの裾掴んどる光の手がちょぉ震えとる。
その震動に振り返ろうとした途端、縋り付くみたいにぎゅっと光の腕が腹に回された。
抱き着かれてるて気付いたんは、光の声で完全に意識飛んでた時やった。
「謙也さんが…好きです」
今まで光からはっきりと気持ち聞いた事なかった。
何となく一緒におるってだけで、こんなに明確に告白されたんは初めてや。
何やろ。俺今めっちゃ感動してる。
あの告白受け入れてもろたうやむやな時より断然感動した。
「俺こんなやし、たぶんもう今みたいに気持ち言うたりできんやろし…けど覚えといてほしいんっスわ…
俺、ほんまに謙也さんが好きです」
「忘れるかぃ、そんな大事な事!!他の何忘れてもそれだけは忘れるたかぃ!」
「うわ、ほな次の中間悲惨やな」
「それぐらい大事やっちゅーこっちゃ!俺はかまへんでー光が笑てくれんやったら赤点上等じゃ」
「ほんまに赤点やっても俺のせいにせんとって下さいよ」
こっちは真面目に言うたってんのにこの態度。
けど憎そい口叩いてても愛しい、可愛い。ほんまにこいつが好きなんやって思う。
俺は腹に回った腕掴んで思っきり引っ張って抱きしめた。
うわっ何やこれ。こいつ痩せすぎやろ。
前から線の細い奴や思てたけど、ここまで痩せたらちょぉ病的や。
「光、お前ちゃんと飯食うてんか?」
「え?」
「痩せすぎや…顔色もよおないし……ちゃんと寝てるか?しんどいんやったらすぐ言うんやで?」
「…あんたほんま優しすぎやねん」
本気で心配しとんのに笑われた。
むって顔しかめたら光は苦笑いして体離してしもた。
「そんな心配せんでいけますって」
「あかん。俺好きや言うてんからもう勝手は許さんで。俺はお前のもんやし、
お前は俺のもんやねんから…俺んもんなったからにはちゃんと大事にすんやで、自分の事。
俺の大事な大事な宝もんやねんから、光は」
「謙也さん…」
逃げんように手首掴んで言うたはええけど、俺もしかしてめっちゃ恥ずかしい事言うてへんか。
「……かっこええ台詞似合いませんね」
「じゃかましいわ!自分が一番解っとんねん!!」
照れ隠しに体離してさっさと布団の中入った。
肝心なとこであかんなあ俺。
キメきれんっちゅーか…白石辺りに聞かれたら物凄い勢いで笑われんちゃうか。
「…謙也さん」
「何やー俺はもう寝たで」
「まだ寝てへんやん」
「十秒後にはほんまになんねん」
枕元に置いてあったリモコンで部屋の明かり消したら光も布団に入ったみたいや。
暗がりでもぞもぞ動く様子があって、音も動きも無くなった。
けど確かに耳に入ってきた。
光のちいこい声が。
ありがとうってやらかい声が。