Guilty or Not guilty4
「あーあ…タイムアップやわ」
調子外れの予鈴が校内に響き渡る。
表は教室に戻ろうとする奴らの忙しない足音やら声やらで騒がしい。
ほんまは俺らかてその波に乗らなあかんねやけど、とてもやないけど授業受けれるような状態やなかった。
白石も察してくれたみたいで本鈴鳴ってからもずっと隣におってくれた。
「…いつからや…あいつらいつから…」
何分か黙ったままやって、やっとそれだけを声に出来た。
「近畿大会くらいやて」
「そんな前から!?」
確かにその頃は光の事はただの後輩としか思てなかったけど、それでも毎日一緒におって気付かんかった。
それぐらいあいつらは普通の先輩後輩やった。
むしろ俺や白石とおる時間のが長かったぐらいで、どっちかいうたら同じ部活におるだけ、みたいな関係に見えてた。
意識して一緒におらんかったんか、それはどうか解らんけど、あの二人は特別仲良うしてたわけやない。
まあせやから全く気付かんかったわけやけど。
光の相手が男や、ゆうんはあんま違和感なかった。
俺の前にも男と付き合うた事ある言うとったし。
けどそれは千歳と違て、ずっと一緒におった奴やから何とのぉ察しついとったっちゅーか、
まあほんまに付き合うとるとは思てなかったけど、
怪しいなあ、あいつ光ん事マジ惚れしてんちゃうんけとは思てた。
やから納得いったけど、千歳はほんまにかって疑いたい。
けど光があないなってしもた現実は確かや。
「お前や、千歳と連絡取ってん?」
「んー…まあ…時々な」
「それで光あんな事言うとったんやな…」
「何や?」
「白石先輩が心配しとるんは自分だけちゃうて。あれ千歳の事やってんな」
光はすぐに俺の為やてごまかしてたけど、たぶんそうや。
「まあ…別れた事にショック受けとんの財前より…どっちかゆうたら千歳の方やしな」
「どうゆう事や?千歳が東京行くから光フッてったんちゃうんけ?」
「いや、千歳は絶対別れたないてだいぶ説得したんやけど…結局財前は側におれんねやったら無理やて別れたんやて」
自分から言い出した事やのに、光は自分で自分を追い詰めとる。
まだ千歳の事好きなんやろか。せやからあんなに悩んで悩んで、テニスまで辞めてしもて、それで俺の事も。
って暗い考えに耽ってたら脳天にすんごい衝撃が降ってきた。
何やって見上げたら白石の手刀食らってた。
「何さらすんじゃボケ!頭割れたわ!!」
「まだ割れてへんから大丈夫や。言うとくけど未練あるんは千歳だけで財前はほんまに今は何とも思てへんみたいやで」
そんなに俺は解りやすいんか。
白石はまた先回りした答えを出してくれた。
「ほな何で…」
「トラウマやろなあ…毎度毎度誰とおっても二番手にされてきて…前に付き合うてた奴らも皆他に好きな奴できたから言うて別れたんやて。
せやけど千歳に愛されてもう全部信用してもいけるやろ思てた矢先に東京行く言われて…ショック大きかったんやろ。
やっぱし自分は後回しにされる存在やったんやって」
千歳が東京行くて決めたんは昔同しチームおった親友の存在がデカい。
たとえ千歳にそのつもりはのぉてもやっぱし光にしてみたら不安に思うんはしゃーないやろ。
ほんまに些細な事でも積み重なって傷付いてどうしょうもない事ならんうちに身引いたけど、やっぱきついよなあ。
嫌いで別れたんやないなら余計に。
「まあ遠恋なんか普通にやっても難しいのに傷付いた財前が…ましてや男同士でやなんてきついわなあ…」
白石の言う通りや。
けど俺はこれからどないしたらええんやろか。
今の話聞いて気持ち変わるとかは全くない。
千歳への嫉妬も不思議と湧いてけーへん。
まあこれは単にまだ実感ないだけやろけど。
それよりも光が心配や。
白石の話からして、ずっと一人で悩み続けてたんやろ。
今はこいつに話したりしてちょっとずつガス抜きしとるみたいやけど、悩みすぎてパンクせんようにしたらな。
とりあえずは何があっても俺が負担になるような事だけは避けなあかん。
となると、やっぱりずーっと二番手に置いとかなあかんねやろか。
ふうっとマヌケな溜息ついてもうた思た途端に白石に笑われた。
「まあ…お前もあんま悩みなや。ハゲんで」
「悩むなゆうたかて…」
「たぶんやけどな、財前は別にお前に何も期待してへん思うで?」
過剰に期待されても困るけど、全くない言われても立つ背ない。
「財前が何怖がってたか解るか?」
「何て…千歳との事…」
いや、違う。知ってほしいけど知られん怖い言うとった。
ほな何でや。
「財前はな、お前の反応怖がってたんや。知ってもらいたいし理解者んなってくれ思てても、
もし目の前でお前が拒否るような反応したらて思たら何も言なんだ…と、思うで」
「そんなん…ないわボケ」
「やろうな…まあお前は何も難しい事考えんで財前と一緒におったったらええねん」
「…わかった」
俺の返事待ってたみたいに頭上でチャイムが鳴り響いた。
五限目が終わったんや。
今の時間は授業なかったみたいやけど、次は解らん。
誰かにサボってん見つかって面倒な事になる前に俺らは教室に戻った。
同じクラスの友達が上手い事ごまかしてくれとったみたいで教師には怒られんで済んだけど、
何しとったんや聞かれて白石とサボっとった言うた途端に横の席で固まって喋っとった女子が何や嬉しそうにひそひそ話し始めよった。
それにピンときた。あの噂、ほんまやったんやな。
否定すんのもアホくさい。
俺は鞄に入れっぱやった携帯取り出して光にメールを送った。
今日部活の後んなるけど会われへんかて。
そしたらものの一分で返信が来た。
『ほな謙也さん家寄せてもろてええですか?』
返事なんか決まっとる。
もちろんかまへんで、何やったら泊まっていき、って別に変な意味ちゃうし!家遠いからゆっくりしてけって意味やし!
…って誰に対する言い訳かも解らん事腹ん中で繰り返しながら返信した。
今度はちょっと間空いて、授業始まってから返信がきた。
俺は先生にバレんように机ん下でこっそりメール開いた。
『変な事せんとって下さいよ』
暗に感じるイエスの返事に思わずガッツポーズ。心ん中でやけど。
ゆっくり話したいってのもあるけど、も一つ理由がある。
うちのうるさいオカンや。
あれに世話さしたら絶対光も甘えざるをえんようになる。
家でオカンに大事にされてへんねやったらうちのオカンに可愛がられて、ちょっとずつ人に甘える事覚えたらええんや。
親子やから解る。うちのオカン絶対光ん事気に入る。
ほんで息子そっちのけで可愛がる。間違いない。
って思ってうち連れて帰ったはええんやけど、俺の想像遥か越えるテンションで光を迎えよった。
お前ちょぉ落ち着けやオバハン!て何べん言うたか。
光も完全に引いとった。
けどそれも最初のうちだけで、気ぃ付いたら光もオカンにめっちゃ懐いてた。
この空気見覚えあんなあ思て気付いた。銀とおる時もこんな感じや。
光は自分から甘えていくんは苦手やけど甘やかしてくれる人間には素直やからな。
千歳とおる時もそうやったんやろかとか、いらん事考えて一人落ち込んでしもた。
あいつの事は考えんようにしよ。
飯の途中で弟が帰ってきてしもてますます賑やかになった。
五月蝿い。ほんまに五月蝿い。
俺と年子で光と同い年の弟も気ぃ合うみたいや。
普段は警戒心強い野良猫みたいな光が毛ぇ逆立てんと笑いながら話しとる。
ちょぉムカつくけど光が楽しそうにしとるしまあええやろ。
そうでも思わなやってられんわ。