Guilty or Not guilty3
次の日から、白石はちょっとずつ話をしてくれた。
けど一気に聞くには重い、重過ぎる話やった。
今日は特編授業がないから白石はわざわざ昼休みに時間作ってくれた。
昼時はどこも人が多て落ち着かん。
しゃーなしに選んだ場所は体育館やった。
昼休みはどの部活も活動禁止されてるから誰もおらんから丁度よかった。
表は食堂への行き道やから人の行き来激しいて騒がしいけど、壁一つで中は静かなもんや。
俺らは舞台の端に並んで腰かけた。
「こんなとこで二人でこそこそ会うとるて噂流れたら面倒やなあ…おとましいわ」
「何やねんそれ」
「知らん?一部の女子の間でめっちゃ噂んなってんやで。俺と自分出来てるて」
「はあ?!」
「二人ともモテんのに彼女おらんのは二人でデキとるからや、やって」
「何っじゃそら!!」
意味解らんしキモいし白石と俺とかありえへんやろ。
まあ光との事バレて面倒な事になるよりはマシかもしれんけど。
「…っつーか俺はともかく自分彼女おったんちゃうんけ」
「そんな大昔の話忘れたわ」
「よぉ言うわ……」
もう別れたんかい。
半月持ってないし、ってゆうか果たしてこいつに付き纏っとった女が彼女やったかすら甚だ疑問や。
勝手に彼女ヅラしとっただけで面倒やから否定も肯定もせんうちに離れていったとかそんな感じやろ。
最低や。
自分で言うんも何やが俺は一途や思う。
中学ん時初めて出来た彼女も、そら大事にした。
結局テニスにうつつ抜かしとる間に他に男出来た言うてフラれたけど。
二人目の彼女は確かに好きやったけど、俺から別れた。
気持ちが光に傾いてんのに気付いたからや。
最初の彼女と同じ事ならんようにきっちりケジメはつけた。
そんで、その後が光。
正直最初は戸惑ったし、ありえへんやろって自分自身否定もした。
けどなんぼ考えても答えは一つしかのぉて、俺は光が好きなんやて納得いった。
「まあ俺の話はええやん。財前の事話しにきたんやしな」
「お前がキモい事言い出したんやんけ…」
マイペースに事を運ぶ白石を睨む。
白石は指でコメカミ掻きながら、何か考えてるようや。
どっから話すか考えてんやろか。
けど待つの苦手やから俺は先に話切り出した。
「俺…光がどないしたいんやさっぱり解らんねやけど」
「…どうゆう事や?」
「あいつ告白した時も…こないだもや。めっちゃ変な切り返ししてきよってん」
「真面目に告白しとんのにちょけたんか?」
「何でやねん…つーか冗談にされた方がまだショック薄かった思うわ」
同性からいきなり好きや言われて、真に受ける方がおかしいやろ。
やからそれはまだ予想の範囲内やけど、光からの返事は斜めからきすぎてほんまに対処法が見つからんかった。
「あいつ…光な、一番目はいらんから二番目にせえて言うてきよった」
俺の言葉に白石は意外にも動揺せんかった。
俺はこいつの『はあ?』って態度予想しとったのに。
「……なるほどな…」
「何一人納得しとんねん」
頷いて一人で解った顔してるんがムカつく。
早よ話せ、もったいつけんな。
「財前はな、てっぺん恐怖症やねん」
「何じゃそら」
「誰かの一番になって、捨てられた後ん事考えて怖がってるんや思うで」
それってつまり、
「前にそうゆう事あったんか?」
確信持ってたけど、白石に頷かれてちょっとショックやった。
そら別に光が誰とも付き合うてへんとか、そこまで夢見てへん。
実際あいつのモテっぷりはかなりなもんやったし。
言いたないけどバレンタインやらイベント関係では告白件数完璧負けてた。
「…で、何あったか自分全部知ってんやろ?」
「知っとるよー…」
「勿体つけんと早よ言えや」
なかなか肝心の部分言いよらへん事にイライラしてたら白石は舞台の端から飛び降りて床に座った。
「お前やー…財前の前に何人と付き合うとった?」
「何やねんいきなり…」
「俺が知ってるだけでええんか?」
「まあ…そうやけど」
何でいきなりこんな確認されなならんねや。
「それあいつ知ってるんか?」
「直には話してへんけど彼女おったってぐらいは知ってんちゃうか?よお一緒におるとこ見られてたし」
床に下りたせいで白石の表情が解らんようになってしもた。
と、ゆうよりそれが目的で座り位置変えたんやと気付いた。
「ほな逆は?お前ん前、財前が何人と付き合うとったか知ってるか?」
「は?」
今更何の確認なんや。
知らんわけやないけど白石が何でそんな事聞いてくるんやさっぱり解らん。
けどふざけた様子はないし、俺は素直に答えた。
「三人やろ」
この話はいつやったか忘れたわけど光からしてきた。
数では俺の勝ちっスね、っていつものいきった口調で言うてきよったんや。
「ちゃう…謙也、お前五番目やで」
「はあ!?」
まさかの嘘に一瞬動揺したけど、すぐ冷静んなれた。
数の多さ自慢しとった奴が少なサバ読むて、理由は一つや。
「…四番目の奴が光あんな風にしたんか…」
「御明答や」
やっぱり。
白石は肩で思っくそ溜息ついて立ち上がった。
それでまた俺の隣座ってもう一回溜息ついた。
「他の三人どんな奴か知ってるか?」
「いや…別にそない好きやないけど告白されたからテキトーに付き合うとったとしか聞いてへん」
過去にどんな奴と付き合うとったかなんか、腹立つだけやし聞いてへんかった。
せやし光もあんま触れられたないみたいやったからいっこもその話はせんようにしてた。
白石はその辺たりも知ってんか、俺の言葉を否定してきた。
「本人はそう思て自分庇とるけど…最初はどれも真剣やった思うで…まあ終いには執着もなくサラっと別れたんやろけど」
確かに感情剥き出しに熱なる奴やないし、そうやって自分の気持ちコントロールしとったんや。
あ、ヤバイ。
たとえ一瞬でも光にそんな真剣に思われとる奴おったとか、めっちゃムカついてきた。
「謙也、顔変なってる」
「変言うな!!」
そら嫉妬剥き出しでぶすくれとる俺は間違えても男前やないけどやな、そないハッキリ言わんでもっちゅー話や。
「財前な、結構家ややこしいらしいてや…聞いた」
上手い事かわされた気ぃしたけど、内容はかなり重い。
「そうなんか?」
「まあそれはユウジに聞いたんやけどな…」
確か光とユウジは幼なじみや。兄貴同士仲ええからその繋がりで中学入る前から、ガキん頃からよお知っとったんや言うてた。
「構われんの嫌うんも家ややこしいからやろ」
「ややこいて…どんな風にやな」
「まあ簡単に言うたら"めっちゃ出来のええ兄貴持ったせいで親に見捨てられた弟"の典型やな」
優秀な兄貴と常に比べられて、どんなに努力しても兄貴の劣悪版としか扱われん。
両親は出来のええ兄貴ばっかり可愛がって、光には出来損ないのレッテル貼付けた。
けどその兄貴も結婚して独立したからようやく光に目が向けられる番来たんやと思った。
ところがすぐに子供出来て奥さん大変や言うて出戻ってきた。
両親は初孫を手放しに喜んで、今度はそっちにばっかり気ぃかけて光は完全に家ん中で孤立した存在になってしもたらしい。
今までは比べられてけなされても見てもらえてるって安心感があったけど、それすら無くなった光は今みたいなクールなキャラんなってしもたんやろ。
別に一人やろうが平気やしって自分から壁作って人と距離置いて、あんまり深いとこで他人と繋がり持たんようにして傷付く事から自分守ってきた。
「唯一救いやったんは財前の兄貴と嫁さんが財前の事めっちゃ可愛がっとった事やろな…
けどそれもあいつにしたら同情されて馬鹿にされてるようにしか思えんかったみたいやし…根本的に他人に甘えたりって出来んねやろ」
うちとは正反対やな。
うちはおとんもオカンもめっちゃ構いたがりやしウザイぐらいに絡んでくる。
こっちが嫌がろうがお構いなしにぐいぐいお節介押し付けるし世話焼きやし。
あ、そうか。
光はそういうんが嫌なんやのおて、どないしてええんや解らんかったんや。
やからあんなつれん態度になってしもて周りの反感買うてますます孤立しとってんな。
最初の頃は俺も何やこいつ可愛ないなあ思てたけど、毒舌にもだんだん慣れてそれが光やと思うようなった。
けどやっと納得いった。
人遠ざけたがるくせに、どっか淋しそうな目してたんや、いつも。
光は、ほんまは一人にされんの嫌やけど誰かと一緒におってもどないしたらええんか解らんからいっつも孤立してたんや。
ほんでちっこい頃からずっとそうやってきたから一人の過ごし方上手いよって誰も気付かんで一人にしてしもたんか。
あれ、けどちょお待てよ。
「ほな何でそんな光が…」
四番目の奴は、それに気付いたんか。
それで光の孤独から救って、別れてしもたから、せやからあんなショック受けとったんか!!
「自分何一人百面相しとんねん…めっちゃキモい」
「やっかましいわ!」
こっちは真剣に悩んでたゆうのに何ちゅー言い草やねん。
「…なあ…光の付き合うとった奴て…誰なんや?お前知ってんやろ」
「あー知っとるで。お前もよおー知っとる奴や」
「俺も?」
一通り白石と俺の共通の知人友人を思い浮かべるけど解らんかった。
白石は男前が台なしになるような情けない顔して俺を見た後、俯いて溜息ついた。
「…おるやろ、一人…財前があんな風なった頃…俺らん前から消えた奴が」
「………え…?……嘘…やろ?」
まさか、ありえへんやろ。
だってあいつらの事は毎日見とった。せやけどそんな素振り全くなかったやんけ。
俺が鈍かっただけなんかって思ったけど、白石も光から聞くまで全く気付かんかったらしい。
光と、この春上京してしもた千歳が付き合うてたやなんて。