うちの高校が選択コースで内容の変わる選択単位制の授業あって面白かったので四天高もそれ採用してます。
同じ普通科やねんけど理数コースと芸術コースでまるっきり違う授業してたの、週8時間。
ちなみに理数→謙也、クララ、小春 工業(芸術)→ユウジ 文系→銀さん、こいちゃんです。
でも皆一律同じ普通科なのでクラスはバラバラで混ぜこぜ設定です。都合よい感じに。
調子外れのチャイムもノンフィクション。初めて聞いた時の気持ち悪さったら無かった。
Guilty or Not guilty2
何でもっとあいつの事気にかけたらんかったんやろ。
と、いうか白石は何で知ってたんやという疑問が湧いて出てきた。
本人から直接聞けって事は、つまり事情も全部知ってるって事やろう。
何で俺に言えんで白石には言えんねん。
ちょっと腹立ったけど、何か事情あるんは目に見えとるわけやし一方的に責めんようにせんと。
「…也!おい謙也!」
「え?へ?」
「何ぼーっとしてんや。授業終わったで」
「マジでかっっ」
慌てて次の教室行く為に荷物まとめて立ち上がった。
小春も白石もめっちゃ変な顔してる。
俺がぼーっとしてんは別に珍しないけど、少なくとも高校入ってからは気合い入れて授業受けてたからなあ。
「謙也君具合悪いんちゃうの?顔色悪いわよ」
小春はおでこに手ぇあててきて熱はないけど、と首をかしげる。
中学の頃やったらユウジがすっ飛んでくるような場面やけど、あいつは工業科で今の授業は校舎が別。
長い休み時間とかは特編授業間でもしょっちゅうこっちの校舎に来てるけど、四六時中べったりやった頃を思えば漸く小春離れが出来たようや。
「小春、すまんけど先行って席取っててや。俺らちょおトイレ行ってくるよって」
突然の白石の提案にいきなり何やねんってうっかり表情にしてしもた。
けど小春は鋭いよって何かあると察してくれたみたいや。
それ以上何も聞かんと次の授業のある物理室に向けて行った。
話長なるようなら連絡ちょうだい、先生には上手い事言うとくからと言うて。
俺と白石は空気の読める小春に感謝しながら廊下の突き当たりにある人気のない自習室に入った。
放課後は人の多いこの教室も、今は誰もおらん。
俺は白石に視線で促されて教室の真ん中らへんの椅子に座った。
すぐ前の席に座ると白石はすぐにでっかい溜息ついた。
「誤解ないように先言うとくけど、別に俺は財前と何もないからな」
何でこいつは俺の腹ん中見透かして先先言うんやろ。
ちょっと不安に思てた事への弁解してきよった。
「財前テニス部辞めたん知ってたんはオサムちゃんに泣き付かれたからや。どないやっても辞めたいの一点張りでさっぱりわややーってな」
「んで?」
「あいつが辞めたいてよっぽどの理由あるんや思て聞き出した」
二年間部長を勤め上げた白石に絶大な信頼を寄せてる光は、少しずつ話しをしたらしい。
けどそれは俺には言えん言いよる。
まあ白石の言い分も解る。
光が信用して話した事、言えるわけないわな。
そういう軽そうに見えて意外とキッチリしとる部分があるよってに光も懐いてんやろし。
「ただなー…さっきは本人聞け言うたけど…たぶん財前はお前には言わん思うわ」
「は?何でやねん…そんなに信用ないんか、俺」
「そうやのうて……お前ら今付き合うてんやろ?」
今日二回目の青天の霹靂や。
俺はその事に関しては誰にも何も言うてへん。
と、すれば可能性は一つ。
「光に聞いたんか?」
「まあな」
どんだけの情報持っとるんやこいつは。
それネタに何や言われんか思て構えたけど、白石は真面目な顔のまんまやった。
「…お前があいつん事好きなうちは…自分の口からはよう言わんちゃうかと思うわ……知らんけど」
「ほな俺ずっと解らんままやんけ!そんなん…!」
「せやから、俺が間に入ったる」
強い調子になった俺の声に白石の冷静やけど、もっと強い声が被さる。
何言うてんって信じられへんかった。
こいつがこんなややこい事に自分から首突っ込むとかありえへんやろ。
けど白石はまだ真面目な顔して俺を見てる。
「このまんま平行線辿ったままでええはずないし…財前見とったら何やもうほっとけんようなったわ」
溜息混じりに言われた言葉に思わず固まった。
そんな深刻なんや、と。
何でて、だって光は俺の前でいっつも笑いはせんでも、びっくりするぐらい優しい顔しとった。
今まであんなつんけんしとったのに、こんな顔もできんやってもっと好きんなった。
「財前がええて言うたら全部俺の知ってる話したるから…あんま追い詰めんなや」
白石の言葉は俺への言葉にも、光を追い詰めんなとも聞こえた。
頭上のスピーカーが調子の外れた予鈴を鳴らし始めた。
それを聞いて白石は立ち上がった。
「次実験やろ。サボりたないわ」
「あ…ああ、せやな」
俺は荷物持って白石に続いて教室を出た。
その後も一時間もサボらんと最後の六限まで授業には出たけど、やっぱり頭ん中は光でいっぱいのまんまでいっこも身にならんかった。
今日は部活ないからゆっくり光に会える。
嬉しいはずやのに、複雑や。
何て声かけたらええか解らん。
とにかく責めるような言い方だけはせんようにしなあかん。
それだけ心に誓うて待ち合わせ場所に向かう事にする。
丁度学校と学校の中間ぐらいにある公園がいつもの待ち合わせ場所。
けど昇降口出て校門見たところで動きが止まった。
門の横にある塀にもたれ掛かってしゃがんでるんは光や。
間違いない。
何やあったんやないかと心配になって、試合中より速いスピードで近寄った。
「光!!」
「あ…謙也さん」
耳に付いたイヤホン取りながら、光はこっちに顔を向ける。
相変わらず青白い顔してあんまり元気そうに見えへん。
けど表情は穏やかで機嫌がええんは解った。
「どないしてん?」
「あの公園、今日清掃作業するて終日閉め切りらしいっスわ」
「そうなんや…ってそれよりお前大丈夫か?何や顔色めっちゃ悪いで」
「そうっスか?別に腹も頭も痛ないけど」
そうやない。
聞きたいんはそんな事やのおて、けどどっから聞いたらええんや。
「謙也さん?」
「…光…テニス部辞めたんやってな」
光は物凄いびっくりした顔して俺を見た。
何で知ってんやって顔で言葉も出ぇへん。
「ごめんな…ほんまごめん」
「…何で謙也さんが謝んねん」
「気付いてやれんかったから…光が部活辞めるとかよっぽどの理由やのに…おかしい思う事何べんもあったのにお前ほったらかしにしてもうた…」
たぶんこの顔色の悪いんも、何や知らんけど関わりあるんやろな。
そんな事思いながら光見下ろしてたら、顔見せんように俯いてしもた。
「光?」
「あんたほんまアホや…」
「は?何でやねん」
心配したってんのに何ちゅう言い草や。
って口に出したら頼んでへんって可愛ない事言われるだけやから言わんけど。
「俺が勝手に言わんかっただけやのに…あんたが責任感じるとこちゃうし」
「まあ…せやけど…いずれ解るんやしそれやったら早よ言うて欲しかったわ」
光は一瞬何か言いたそうに顔上げたけど、また俯いた。
「光?何でや?何があったんや?」
肩引っつかんで揺さぶって言え!って言いそうになるんを必死に堪えてるつもりやったけど、無意識に顔険しいなってたんかもしれん。
覗き込んだ光の顔は今にも泣きそうやった。
「けーんや」
「白石…」
いきなり後ろから肩叩かれて思わず飛び上がってもうた。
別に悪い事してるわけやないのに。
「何後輩いじめてんやーあかんで、泣かしたら」
「ひっ…人聞き悪い事ぬかすなっ」
白石は俺を押しのけるみたいにして光の顔覗き込んだ。
「何ちゅー顔してんや、財前。目ぇ溶けてまいそうやで」
光も情けない顔見られるん嫌なんか、目ぇ逸らしてまた俯いた。
「謙也にいじめられたんか?」
せやからちゃう言うてるやろ、って俺が言う前に光が首振って否定する。
「……いじめてんの俺やし」
「何やねんなそれ」
「肝心な事隠してしもた」
何があって言われへん言うてんやさっぱり解らん。
いじめられてるつもりはないけど光にしてみたら後ろめたい気持ちがあるんやろ。
「財前、謙也には言わんのか?何でテニス部辞めたんか」
「言わ…な、あかん…?あきませんよね…やっぱり……」
「ええか悪いかは俺はよう言わんけど…少なくともこいつは知りたがってんで?」
白石の言う通り、どんだけ深刻な理由あって光がこんな事になってるんか、気になってしゃーない。
けど光は何も言えんと俯くだけやった。
白石は肩で一つ息吐いて、俺をちらっと見た。
「光…俺にはよう話さん事なんか?知られたない?」
「違っ……違う…知ってほしい気ぃするけど…おんなじぐらい…」
言葉一回切ってから、噛み締めるみたいに呟いた。
「…怖い」
「怖い?何がや?俺が何かしそうって事か?」
「けーんやて。そんな問い詰めたらへんの。財前ビビってんで」
白石の言う通り、光は視線さまよわせて普段のふてぶてしい態度なんかどっかいったみたいに怯えきっとる。
俺はごめんて謝って一歩下がった。
「さっきはああ言うたけどな、俺は謙也には言うたった方がええ思うで?ちゃんと全部…」
白石の言葉に光も頷いてたけど、やっぱり言いにくいんか俺の方は見てくれへん。
「まあ…言いにくいわなぁ…それでのうてもお前口達者やないし」
光は再び頷く。
「ほな…俺から話してかまへんか?」
「…え?」
「心配せんでも謙也はお前ん事嫌いになったりせんよ」
白石の言葉にびっくりしたんは光だけやない。
むしろ俺のがビビった。そんな評価くれとるやなんて。
けどこいつの言う通り、絶対嫌いになんてならへん。
俺は光真っ直ぐ見て頷く。
そしたら光は白石に頭下げた。
「……すんません…変な事頼んで…」
「かまへんよ。お前心配なん謙也だけちゃうんやからな?」
「…はい…ありがとうございます」
「あーらー?光ちゃんやない?」
暗い場に相応しないアホみたいな声がする思たら後ろから小春らが肩組んでやってきとった。
「小春さん…ユウジくん…相変わらずキモいっスね」
さっきまでの泣きっ面なんか嘘みたいな偉そうな態度に変えて光は二人を見てる。
「もぅ!また可愛ない事言う!光も相変わらずやねえ」
「久しぶりやな、財前。元気にしとったか?」
「師範…」
中学おった頃からなつきまくっとった銀の顔見て、光はやっとこさ表情緩めてくれた。
ちょっと複雑やけど我慢や、我慢。
今はとにかく光の気持ち浮上させるが先決。俺のヤキモチなんか二の次や。
そんな決心しとる間に、勝手にこの後の予定を組まれてしもた。
せっかく皆集まったんやし飯でも行こかーとなった。
白石は塾あるから言うて帰ってしもたから、光の話は明日以降になった。
金太郎や小石川とかも呼んで始まったドンチャン騒ぎに、光もちょっとは気ぃ晴れたようやった。
それで帰り、駅までの道道、少しだけやが光はテニス部辞めた理由を話してくれた。
「俺…あかんねん…ユニフォーム着てラケット持ってコート入ったら色んな事考えてしもて足すくんでまう…」
「それがテニス部辞めた理由か?」
光は俯いたままちょっとだけ頷いた。
つまりはそんな思いするような出来事があって、それをよう言わんと。
考えてみるけどさっぱり解らん。
全然思い当たる節がない。
俺が知ってんは年明けたぐらいからだんだん元気のうなってきてて、俺らの卒業近なってきたらほとんど笑わんようなってた事だけや。
それも先輩の卒業淋しがるやなんて光も可愛いとこあるやんとしか思ってなかった。
そんな深刻にとらえてへんかった。
気楽なもんやで。その間も光は苦しんどったゆうのに。
「謙也さん…ほんまごめん……」
「え?」
「自分で話せんで…白石先輩にも悪い事したなあ……迷惑かけっぱなしやわ、俺」
「あー…白石の事やったらあんま気にせんでええ思うで?あいつあんなんで面倒見ええし、
光ん事めっちゃ可愛がっとるし…どっちかゆうたら心配やから首突っ込みたあてしゃーないんちゃうか」
自分で言葉にして俺もやっと納得いった。
そうや、あいつが自分から絡んできたんは光を心配しての事や。
「…先輩心配しとるんて…たぶん俺だけやない思う……」
「え?」
光の独り言みたいな声を聞き返すと何やいきなり慌てて首振った。
「あ、いや…謙也さんも心配なんや思いますわ…」
「そうやろか?俺の事は単におもろがっとるだけやて」
「そんな事……」
それっきり光は黙り込んでしもた。
別れ際、やっと口開いたか思ったら、出てきた言葉はまたあの訳の解らんあの一言やった。
「謙也さん…」
「ん?何や?」
「俺ん事……何番目に好きですか?」
正直、光がどんな答え望んでんかがさっぱり解らん。
解らんから光の言う通りにしてまう俺は、やっぱりアホなんやろか。
「ちゃんと好きやよ……二番目に」
何で一番やって言わせてくれんねやろ。
こんな風に言うてても俺は光が一番大事やし好きやのに。
けどこれが光の望みなんは確かや。
俺の言葉に心底ホッとした顔して、やっと今日初めての笑顔を向けてくれた。