Guilty or Not guilty1

謙也さんは俺の事何番目に好きなん?
そう言った彼の冷たく色のない瞳を、今でも忘れる事ができないでいる。





俺があいつに思いを告げたんは割と衝動的やった。
ノリというか、勢いというか。
せやからそんな訳の分からん事言うたんやとばっかり思ってた。
その頃のお気楽な思考回路の自分を思っくそ殴ってやりたい。
あいつに、光にそんな真っ暗闇があるなんてこれっぽっちも考えてへんかった。

けど自分でもびっくりしたんは、それを知っても全く気持ちにブレがなかった事や。
確かに始まりこそ軽いノリやったけど、今は違う。
人を遠ざけようとするわりに、淋しがりで一人を怖がってるあいつをほっとかれへん。
何より俺が側におってほしい。
あいつ無しで生きていけんとか、そんな押し付けがましい事やなくって、いてほしいんや。
冷たい事言うてても腹ん中にはちゃんとあったかい気持ち持ってて優しくて傷付きやすいあいつに。


中学卒業して、俺らは奇跡的にも皆仲良く四天中の提携高校へ進学した。
小春なんかめっちゃ頭ええから進学校行くんやとばっかり思ってたのに、大学入るまでは遊びや言うて実力半分の四天高に入った。
ただ、一人だけ、千歳だけは違う進路を選んだ。
てっきり九州に帰るもんやとばっかり思っとったけど、あっさりと東京の高校に進学すると告げられた。
淋しかったけど千歳が自分で決めた進路やし俺らが何やかんや言うべきやないと笑顔で送り出した。


高校入ってからは将来の事考えて理数科に入った。
おとんの跡継ぐかはまだ分からんけど、選択肢は多いに越したことはない。
知ってる人間の中で同じ理数科選んだんは白石と小春だけ。
せやから自然と過ごす時間は増えた。
とは言うてもクラスはバラバラやし理数科の特別編成授業だけやけど。
小春は常に人の中心で誰かしらと絡んで周り笑わせるんで忙しない。
俺と白石はそれを少し離れた、前後位置の自分らの席で笑いながら見てた。
けどしばらくして何気なく出した話題に白石の表情が変わった。

「そういやもうじきテニス部地区予選決勝ちゃうん?中学て」
「あー…せやなあ…もうそんな時期か。高校入って部活のサイクル変わったよって忘れてたわ」
次の授業は数T。
比較的得意で予習もそこそこな俺と対照的に、完璧主義の白石はまだ真面目な顔して教科書と向き合うとる。
俺は後ろの席の白石の頭頂部を眺めながら、去年までおったチームを思い浮かべて話を続けた。
「おいおい冷たいやっちゃなあ…お前の後継いだ光も大変やろし、しっかり俺らでフォローしたった方が…」
「は?」
「え?」
白石は甘えんな、ってな言い方やなく本気で驚いた顔して俺を見た。
何や変な事言うたやろかと心配になる。
「お前……知らんのか?」
「何がや」
「財前……テニス部辞めたやん」
こういうんを青天の霹靂言うんやと理解した。
そんなもん誰にも聞いてへんし、あまりにいきなりすぎる。
信じられへん。
びっくりしすぎてアホみたいに口開けて何も言えんかった。
「…怪我でもしたんか?」
やっとの思いでそれだけを言うと、白石は静かに首を横に振った。
「ほな何で…」
「本人に聞き。俺の口からはよう言わん」
「何やねん、気になるやんけ!そんな深刻な……」


俺はほんまにアホや。
深刻な理由があるから辞めたんやないか。
せやなかったら、あの光がテニス部辞めるなんかありえへんやろ。

去年までどんだけ辛い目遭うても練習しんどおても絶対辞めんかった光が辞めるとか、ほんまにありえへん。
俺は文句垂れながらもそうやって頑張っとる光をずっと近くで見てた。
せやから、そんな光ともっと一緒におりたい思て、けど中学と高校て離れてしもたら一緒におられへんようなる思てて、それで頭ぐちゃぐちゃんなって勢いで告白した。
あんま元気なかったから春休みも終いの頃遊びに連れ出した海遊館で、でっかいジンベイザメが泳いでんの見ながら。
ほんまは言うつもりなんか微塵もなかったのに、何やどっか淋しそうな目ぇして水槽見てる光の横顔見てたら自然と口から出とった。
「光ん事めっちゃ好きやで」
て。
開館してすぐの館内に人はまばらで、巨大水槽前は俺らだけ。
光の耳にもしっかり届いたはずや。
もうごまかしようない。
俺は腹くくって光の返事を待った。
光の黒い瞳が凍り付いたみたいにどんどん冷えていくんが解った。
ああこの後軽蔑されていつもみたいに毒舌吐かれて俺の淡い恋心は泡となるんか思ってた。
けど光は訳の解らん一言を呟いた。

「謙也さんは俺の事何番目に好きなん?」

一瞬理解できんかった。
ほんで何回腹ん中で考えても解らんかった。
俺の言うたんを冗談やと思ったんかて思たんやが、光の顔はほとんど無でとてもやないけどそんな雰囲気やない。
「…何番目て…」
一番に決まってるやないか、と言いかけたけどその声に被さるみたいに光は声を吐いた。
「一番やったらいらん…謙也さんの二番目にしてくれんやったら嬉しいっスわ」
「……え?」
「謙也さんの事、俺も嫌いやないし…」
それはつまり、好きでもないという意味なんやろか。
どういうつもりなんやって聞いたとこで後ろから子供連れの団体客が来てしもた。
どっかの自治体の行事か何かなんやろ、年齢層は見事にバラバラやった。
そんな場所でする話やないし、光の謎の言葉は結局宙に浮いたまんまになった。

このまま無かった事になるんか思たけど、意外にも光はマメに連絡をくれた。
中学と高校は同じ地区で徒歩圏内やからどんだけ忙しても週に一回とか二回は必ず会うとったし、メールは毎日きとった。
そのサイクルが部活やってる時と全く差がなかったし、話題にも出さんかったから今日の今日まで全く気ぃつかんかった。
せやけど変やと思ってたんや。
テニスバッグは持ってへんかったし、季節は夏に近付いていってんのにどんどん色白うになっていってた。
それに顔は青白さ増して不自然に痩せていってないかって、そうも思っとった。
どっか具合悪いんちゃうかて光に聞いても大丈夫、ただの寝不足やの一点張りやし、けどまさか部活辞めたなんか夢にも思わんかった。

色々捏造設定ですが許してね。
海遊館は府民なら必ず一度は連れて行かれる場所。
遠足のメッカやから。
あと子供会とか町内会の行事の周遊地に丁度エエらしく、結構便利に使われてる。
この背景写真も実は南港で撮ってきた物で、
向かいに海遊館と観覧車が見えます。
オタク祭開催のインテも見えます。
大阪は砂浜のある海岸が南の方にしかないので市内はこんな埋立地の海辺ばっかりです。

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