Guilty or Not guilty25

流石に三回目の海遊館デートともなると新鮮味ないかなー思たけど、この二年に起きた色んな事思い出して何や感慨深いもんになった。
初めて二人で来た時と同じような時間帯やけど、日曜日やからか結構館内は混雑しとる。
あの時は暗い、辛そうな、ほんまに見てられへん痛々しい姿やった光も今は水槽眺めて、見て見て謙也くん、美味そうやでーとかしょーもない事言うて笑とる。
魚指す指には俺があげた指輪がはめられてる。
光はチェーンの金具壊れてからずっと指輪を外さんでいてくれてて、気に入ったんないからやって言い張ってるけど、理由はどうであれ嬉しかった。
けどそんな光見ててふと思う。
俺は光に何してやれたんやろ。
光をここまで押し上げたんは俺だけやなくて、白石始めとするテニス部の仲間やうちの家族、光の兄夫婦やユウジの兄貴、光を囲む周りの皆のおかげやった。
俺一人やったらどないもできんで、今頃きっとまだ光を暗闇で彷徨わせてた。
「謙也くん?今日はえらい大人しいですね…何や悪いもんでも食うたんちゃう?」
「あ、いや……」
「…もっとはしゃぐんや思てましたわ。初デート記念の場所やなーとか言うて」
「うん、そうなんやけどな。色々思い出して…」
巨大水槽の前で光はびっくりした顔して立ち止まる。
あれ。変な事言うたかな。
「似合えへんで、そんなアンニュイな顔」
「…悪かったな」
すねて顔水槽の方向けた途端、腕引っ張られて今度は俺がびっくりした。
「ちょぉ、こっちこっち」
「えっちょ…っ」
丁度人ごみと人ごみの間にぽっかりできた空間に連れてこられて、光はきょろきょろ周り見渡した後、水槽の近くに立った。
「ここ」
「え?」
「ここが俺らの出発点ですよ」
光の言葉に思い当たる事が一つ。
今まさに光の立ってる場所は二年前俺が告った時光のおった場所や。
「…お…覚えてたん?」
「忘れるわけないやないっスか。結構衝撃的やったし」
そらまあなあ…そこそこ仲良かった言うたかて部の先輩にいきなり告られたら衝撃大きいわな。
そう思たけど光の思惑とはちょっとズレとった。
「あん時まで…ほんま俺電池切れたみたいやったけど、今思たらあの瞬間スイッチ入ったんかもしれん」
「スイッチ?」
「そう。財前光起動スイッチ」
そう言うて光は笑いながら胸の真ん中指で押した。
「ほんなら、世界にも明かりついたみたいでな、周りもちゃんと見えるようなったんっスわー。
そんで先輩しか見えんかった視界が広なって、俺の周りって結構ええ奴多いんやなーって思えたんです」
光は人の群れが近付いてきてるんに気付いて、また歩き始めた。
あの時とは違うすっきりした表情でまた水槽ながめながら、見て見てめっちゃおもろい顔してますよあの魚、ユウジくんそっくりやってまた笑った。
ああ、そうか。
今までもこれからも、俺が一番側におって、いっつもこんな光でおれるよう電池切れんようにしたらなあかんねや。
いや、あかん、とちゃうか。
してやりたいに訂正。
そんで光が迷わんよう足元照らしてやりたい。
先の事なんか解らんけど、とりあえずは手の届く範囲で光を幸せにできたらそれでええか。
光の為に大した事出来んねやったら、せめて光が自力で乗り越えられるだけのパワーをチャージしてやったらええんや。
それなら誰にも負けん自信あるわ。
「謙也くん…」
「何や?」
「あー……やっぱええわ。後で言う」
光は何か言いかけたけど、すぐ後ろに人来てるんに気付いてまた歩いて行ってしもた。
人前では言えん事なんやろか。
一通り見終わって、俺らは建物の外に出た。
今日は珍しく風が弱くて海からの匂いがあんまりせぇへん。
まあ風強かったら潮で髪べたべたなるよってどっか入ろ言われるかもしれんから丁度ええわ。
「次どこ行く?あ、観覧車乗れへん?」
海遊館のでっかい建物の向こうにある、更にでっかい観覧車指差したらお約束な嫌そーぅな顔された。
「えー……アンタHEPといいここといい…そんな観覧車好きなん?」
「自分こそそない嫌がって…もしかして高いとこ怖いんか?」
からかうみたいに笑いながら言うたら、光は顔歪めて思いっくそ睨んできた。
「はあ?そんな訳ないやん」
「えーどうかなぁ…ビビってんちゃうん?」
「ありえへんわ。謙也くんやあるまいし」
「それこそありえへんわ。俺は高いとこめっちゃ好きやっちゅーねん」
「アホやもんなあ。アホは高いとこ好きなんっスよ」
「ああ?!」
あかん、光に口では勝たれへん。
今日も諦めるかって思たけど、
「まあ…謙也くんがどうしても乗りたい言うんやったら…乗ったってもええですけど」
と、光が言うてくれた。
何でそない上から目線なんやと若干引っかかるけど、俺らは乗り場へ向かった。
けどそこにはカップルや家族連れで長蛇の列が出来てた。
とは言うてもそんな何時間も待たされるようなもんでもないやろ。
待たされてせいぜい15分か20分…そう思いながら列眺めてたら光が横から腕つついてくる。
「やっぱ止めときますか?謙也くん待つん好きやないやろ?」
「えっ、いや、これぐらい待てるって」
せやし今日はどこ行っても混んでるやろし、二人っきりなろ思たらここか便所の個室ぐらいしかないやろ。
俺は待ち時間よりさっき光が言いかけてた事が気になってしゃーない。
30分待ちは覚悟しとったけど、今日はグループ客が多かったせいか15分かからんと俺らの番がきた。
ゴンドラ乗り込んで向かい合わせに座る。
8人乗りに2人やから何や妙に広い感じするなあ。
時間は15分しかない。
俺は早速話切り出した。
「さっき、海遊館で何言いかけたん?」
「えっ……あー…うん」
光は黙ってうつむいてしもて観光用のアナウンスだけが箱ん中に響く。
ちょっとずつ地上から離れて周りの視界が開けてきた頃、やっとぽつりぽつり話し始めてくれた。
「最近…な」
「うん」
「俺…ちゃんと、腹の底から…笑てるなって思て」
「え?ああ、うん。せやな。ほんま明るなったで自分」
前は平坦で感情の起伏なんかほとんどなかったけど、今は違う。
笑たり怒ったりで結構せわしない。
俺やユウジに比べたら全然やけど、それでも光は感情豊かになった。
「ええ事やん。我慢ばっかしててもええ事ないで」
「……今まではあかん思とったから…俺一人の気持ちより我慢して周りに合わせなあかんて」
せやろなあ…色んな事我慢して押さえつけられた生活強いられてたわけやし。
俺やったらそんなん絶対無理やわ。
窒息してまう。死んでまう。
「けど…」
光が顔上げてこっちじーっと見てくる。
な、何や。
そない見られたら照れる。照れる。けど俺から目ぇ逸らされへんし、どないしよ。
「あの、俺、謙也くんと一緒におったら、何てゆうか……ちゃんと自分の言いたい事言えるから…俺が俺でおれるような気ぃします」
あの言いたい放題は素直になれてるって事なんか。
解りにくいやっちゃなー…俺完全にナメられてんか思とったわ。
「せやから……謙也くんと…一緒におるときの自分は…結構好きです」
「ほっっほんまか?!っうわぁっ」
「わっっ」
光の言葉にびっくりして勢いよく立ち上がったら、急にゴンドラが揺れた。
そのせいでバランス崩して光の方にひざまずいてしもた。
犬みたいな情けない姿になってしもたけど、それより光や。
目ん玉こぼれそうなぐらい見開いてびっくりしとる。
「あ…っぶなぁー…急に立たんといて下さいよ!」
「すっすまん!どこも怪我してへん?」
「それは…いけますけど」
光は座席でちょっとよろめいただけで済んだみたいや。よかった。
席戻ろか思たけど、俺はそのまま床に腰下して光の膝にもたれかかるみたいにして腕乗せて見上げた。
いつもと違う視線で何や新鮮やな。
「犬みたいやで」
「俺もそう思うわ」
「よしよしワンちゃん可愛い可愛い」
「わんわん…って何プレイやねん」
ほんまに犬にするみたいに光が頭撫でてくるから思わずベタなノリツッコミ。
けど光は楽しそうに笑てくれる。
「なぁ、さっきのほんま?」
「何が?」
「俺とおるときの自分好きって」
光は迷わず頷いてくれた。
「ほなずっと一緒におったら、ずっと光は自分好きでおれる?」
「たぶん…」
「ほなずっと一緒におるわ」
光の膝に顎と腕乗っけて笑ったら光はきょとんって音がしそうな顔して見下ろしてくる。
座席の上に置かれた光の右手握ったら、カツッって指輪同士がぶつかった。
光はそっちに一瞬目ぇやった後またこっち見てくる。
「好きやで光」
ほんまに、自然に口から出てきた久々の言葉に光がまたびっくりした顔する。
何や一緒におるんが普通になりすぎて、最近全然言うてへんかったしな。
顔近付けてキスしようとしたら、物凄い勢いで拒否られた。
真正面から顔面に掌べちってぶつけてきよった。
「ぶっ…何すんねんっ」
「こっ…こっちの台詞じゃ!調子乗んな!!誰かに見られたらどないすんねん!!」
あ、そうか。隣から丸見えや。
せやけどどうせどのゴンドラも自分らで精一杯やし景色とか見とって隣が何してても気にせぇへんやろ。
この観覧車でっかいから結構隣まで距離あるし。
まあ光が嫌なんやったら無理に出来んけど。
「てっぺん来たらしてもええ?」
「えっ…」
「そしたら誰からも見えへんで?」
光は窓の外見渡して、そろそろてっぺんにくるのを見てぽそっと言う。
「……好きにしたら…ええやないっスか…」
「ほな好きにする」
俺は繋いでた手ぇ引っ張って床に光引っ張り込んだ。
何も言わんといきなりやったからバランス崩して俺の膝の上に乗っかってきた。
これ幸いとそのまま思いっきり抱き締める。
たぶんどっからも死角になるんってそう長くないはずや。
俺は光に何べんもキスした。
光も嫌がる様子もなく受け入れてくれる。
けどゴンドラの角度が変わって下りていく感覚に体を離した。
席には戻らんと床に座ったまま向き合って手ぇ握り合う。
「好き。めっちゃ好きやで」
キスの代わりに今度はその言葉を繰り返す。
そしたら始めは恥ずかしそうにそわそわしとった光が不意にこっち見てくる。
「い…一番……好き…ですか?」
めっちゃ遠慮気味にやけど、こっち伺いながら聞いてくる。
乗り越えられたんやろか。
ずっと言いたかった言葉を、光に言うてええんやろか。
初めて好きって言葉かけた時は、暗い瞳で見つめ返された。
けど光の目はあの時と違て、澱みのない綺麗な色してる。
「世界一…もっと、やな。この世……いや違うな、あの世に行ってもやからー…」
「そんな訳解らん抽象論どーでもええわ。アンタの一番かどうか聞いてんねんから…」
「あ、そうか」
きっつい言い方してても不安そうな表情になってきた光のほっぺたに手ぇ添えてはっきり言うた。
「一番好きや。光が、俺の一番やで」
前にこの言葉かけた時は全力で拒否られてしもた。
怖がって嫌がる光に無理矢理押し付けて傷付けてしもた。
けど今は違う。
「ありがとう謙也くん」
はっきり嬉しそうな表情浮かべて頷いてくれた。
「光は?」
「そうやなー……七番目ぐらいにしたってもええですよ」
「ちょっ…そこは俺もです謙也くんて言うとこやろ!だいたい七番て何やねん七番て!何でそんな微妙に半端な位置やねん!!」
「中途半端が嫌なんやったら十番目にしといたりますわ」
「何で下がんねん!!おかしいやろ!!繰り上げて五番目ちゃうんけ!……ってちゃうやろ!一番やろ?一番やんな?!」
あーめっちゃカッコ悪いな俺。
何必死んなってんねん。
こんなん光の照れ隠しなん解ってんのに。
「もー…何必死になってんっスか…もっと自信持ちぃや。こんだけ俺変えたんアンタやねんから」
「光ぅー…ほなこうゆう心臓に悪い冗談止めようやー」
「ごめんて。一番好きやなかったらこんなに一緒におれるわけないしやな…」
情けなくも半泣き状態の俺見て苦笑いしながらまた頭よしよしって撫でてくれる。
俺はその左手取って胸の前まで下してぎゅって握った。
「そっちの手ぇも貸して」
「え?あー…はぁ…ちゃんと返して下さいよ」
しょーもない事言いながら手ぇ出してくるんを華麗にスルーして、右手の指輪を抜き取った。
ほんで俺の左手に付けてある指輪も取って二つを掌に乗せる。
「謙也くん?」
「こっちは二番目に好きな光君にあげた指輪です」
さっきまで光がしてた方の指輪つまみ上げて言うと、訳解らんって顔してこっち見てくる。
「は?…はぁ」
「ほんで、こっちは俺の一番大好きな光君へのプレゼントです」
俺がしとった指輪光の目の前に持ってって見せてから、二つの指輪をはめ込んで一つにした。
不自然な、不思議な、複雑な形しとった指輪が一年かけてやっと完全体になった。
それを俺は迷わず光の左手薬指にはめた。
「今までの二番目の光も、これからの一番目の光も全部俺の好きな光やから…光の本質は一緒なんやし、今まで通り何も変わらんでええんやで」
「謙也くん…」
「せやから、難しい事考えんとこれからも仲良ぅしょーな」
両手握ってこれからもよろしゅうよろしゅうって握手したら、光は真っ赤な顔して頷いてくれた。
さっきまで聞こえんかった観光アナウンスが急に現実に引き戻してくる。
地上まではあともう少しのようや。
けど光はゴンドラが着くまでずっと手ぇ握ったまんまでおってくれた。

天保山の観覧車はゴンドラでなくキャビンですね。
あとHEPの観覧車って今工事中でやってないんですね…シマッタ
本当は光が高1になった時にこの話を入れるつもりにしてたんですが、
まだ早ぇだろうと思って2話増えて1年後になりましたとさ。

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