Guilty or Not guilty24

一年前と同じ講堂で、同じような人の群ん中に今年は金ちゃんがおる。
俺は去年と同じ場所でそれ眺めてて、今年は隣に光がおる。
「うわぁー…あの金ちゃんが高校生やて…ほんま世も末やなあ……」
ギャラリーの柵にもたれ掛かってぼそっと呟く光に思わず笑ってしもた。
「白石もさっきおんなじ事言うとったわ」
返事もせんとしょーもなそうに肘ついてぼーっと眺めてるから、出よかって言うて光と講堂の裏口から出て行った。
外には明日の新歓準備してる在校生が結構な数おる。
テニス部の連中も皆来てるらしいけど、どこにおんねやろ。
まあそのうち会えるやろし別に探しに行かんでもええか。
別にどこ行くわけでもなく騒がしい校内歩いて、行きついた先は結局部室やった。
けど鍵締まったまんまやから中には入れん。
しゃーなしに俺らは誰かが鍵持って来るまで部室のドア前の石段に腰下した。
中に用あるわけやないんやし、わざわざ職員室に鍵取りに行くって選択は俺にも光にもなかった。
せやしもしかしたら白石が持ったまんまかもしれんしな。
あいつは高校でも部長任されて、去年の秋から部を牽引しとる。
その恩恵受けて俺らレギュラーも部室を我が物顔で使えてる。ありがたい話や。
しばらくは遠くに見える新勧出しモンの新喜劇の練習眺めてたけど、ふと光が口開いた。
「謙也くん………進路とか、決めた?」
「えっ?!あー…まあ、一応…」
「やっぱパパちゃんの後継ぐん?」
光はいつからか忘れたけどオトンをパパ呼ばわりしてる。
違う、間違えた。オトンが、無理矢理呼ばせ始めたんや。
せやのに、最初は光も嫌がっとったくせに、いつの間にやらパパちゃんママちゃんが定着しとった。
ほんまムカつくオッサンや。
おっちゃんって味気ないわーこんだけ仲良ぉなったんやし、パパって呼んでええんやで?ちゃうわ!!
あと小遣いやろうとすんな!光の欲しがるもん買うてやろうとすんな!!
パパが違う意味に聞こえるわ!!
ほんで光に変な呼ばせ方して可愛いなぁってデレデレしよって!
エエ年こいたオッサンのする事ちゃうわ!!
ってオッサンのせいで話し逸れたやんけ!ほんま迷惑ななぁ…
「まあ、な。一応市大の医学部狙てる」
去年から本格的な受験態勢入ってあまりのキツさに正直部活か受験、どっちか辞めよかなって何べんも思ったけど、何やかんやで続けてこられた。
中学ん時ほどテニス部の練習キツなかったし、光にカッコ悪いとこ見られたないってのもあったからな。
まだB判定の微妙な位置におるからでっかい顔して言えんけど、目指すべき道は見え始めてた。
「ふーん……」
自分で聞いといて興味なさそうな返事すんなよ。
何やねんいきなり。
「どないしたん?急に…」
「…別に…金ちゃん入学したって事は、あと一年やねんなって…思ただけですわ」
えっ、それって。
「俺おらんようなるん淋しなったんか?」
聞いた途端にすねて顔逸らしてしもた。
その可愛い肯定に思わずテンション上がってしもて、がーって頭撫でくり回したら心底嫌そうに逃げられた。
その拍子に足元のコンクリがカツンってゆうて何や落ちた。
「もー…謙也くんがいらん事するよって外れたやんか」
光が拾い上げたんは去年行った卒業旅行前に渡した指輪やった。
校則の緩い学校やから付けてても別に誰も何も言わんねやけど、小春やユウジにからかわれるんが嫌やからて光はずっとネックレスに通して服の下に隠してた。
そのチェーンも一緒に落ちてたから俺はそれ手ぇ伸ばして拾い上げる。
「あれ?これ留めるとこ緩んでんで」
引っ掛ける金具がゆるゆるになってて、それで軽い衝撃でも落ちてしもたんやな。
道端で落とさんでほんまよかったわ。
「あー…寿命やな。これ安もんやし…」
光にチェーン手渡したらまじまじ眺めながらそう呟く。
「ほな帰り一緒に買いに行こか」
「えっ……うん」
軽い誘いやったのに光は一瞬ものっそい嬉しそうな顔した。
すぐそっけないいつもの調子で別にええけどって頷きよったけど。
天の邪鬼な態度が可愛い。
そう思てまた頭撫でたら今度は大人しくされるがままになってる。
可愛い。ほんま可愛い。
俺は外れた指輪ポケットに入れようとする光の手首握って動き止めた。
ほんで右手取って人差し指にそれをはめる。
「えっ…ちょっ…」
「ポケット入れてて落としたらどないすん?」
「そっ…そうやけど……バレたらどないすんねん」
俺はずっと左手人差し指に付けっぱなしやからな。
光の目が俺と自分の指の間をさまよう。
「いけるやろ。ぱっと見同じデザインちゃうんやし……せやし女子とかお揃いでピアス付けとったりするやん。誰も何も言えへんで?」
「それ女同士やからやろ?!男は……あかんやろ」
「えー…俺は別にかまへんけどなあ。光は嫌なん?」
「いっ?!………い…嫌なわけ…ないやないですか…」
うつむいてぽそっと言う光思いっきり抱き締めたなった。
けどここ校庭から丸見えやし、どうにも出来へん。
ああ、くそっ横着せんと部室の中入っといたらよかったわ。
「嫌やないんやったら付けててや。あと一年しか一緒におれんねやし」
俺の言葉に光の表情が曇った。
一年なんか、一緒におったらあっという間やしなあ。
「光はどないすんねや?将来」
「まだ解らんけど…謙也くん医者んなるんやったら俺看護師なろかな…」
「えっ……!!」
思わぬ返答に思わず石段からケツずり落ちたわ。
そんな俺の反応あざけるみたいに光は鼻で笑いよった。
「嘘じゃボケ」
「はあ?!」
慌てて座り直して光の方見た。
「俺に人の世話出来るわけないやないっスか」
「そうか?けど人の気持ちとかに敏感やん、自分。向いてるかもしれんで?」
「柄やないわ…」
「えぇーせやけどうちの医院におるナースとか見てても皆めっちゃ現実主義でお前に負けんぐらいクールやで?
世間で思われてるような優しい白衣の天使なんか実際おらんて」
思わず熱弁してしもたら心底困った顔された。
光にしてみたら軽い冗談のつもりやったんかもしれんけど、意外と俺はそれがしっくりきてしもた。
「…っちゅーか何でそないゴリ推しすんねん…」
「えっ…だって進路一緒やったら学校卒業しても就職先一緒になれるかもしれんやん」
「そんな理由で俺の将来勝手に決めんといてくださいよ」
「えーええやんええやん。看護師嫌なんやったら医療関係の技師とかでもええよな。白衣姿めっちゃ似合いそうやし。
カッコええやん。あとはそうやなー…リハビリの先生とか?」
頭ん中に次々白衣姿の光が浮かんでは消え浮かんでは消えする。
そん中にナース服ありましたとか言うたらブッ飛ばされるやろな、俺。
「あーもうウザい!!ほなもし俺がそうなったら謙也くん責任持って俺雇てくださいよ?!」
「もちろんやで!」
「ほな俺は薬剤師として雇てもらおかな」
いきなり横から声してびっくりして振り向いたら白石がしゃがみ込んでにやにや笑いながらこっち見とった。
「なっ、っんで…しらい…っえええ?!」
「ほなアタシは白衣の天使にでもなろうかしらーっ」
「げっ小春っっ」
「何やお前らずっこいなー!ほな俺は小春専属の患者になるでー!」
専属の患者て何やねんユウジ!!
「うわぁー…その病院行きたないわー……」
こいちゃんまで何やねん!!
「まあまあそない言うたらんと」
「ほな師範腕怪我したら、行くか?」
「む……むぅ…」
何でそこで黙るんや銀!
「何やおもろいなー!皆おって中学ん時みたいやでー!千歳おらんでちょっと淋しいけどなーけど皆一緒がええなー!!」
いつの間にか皆来てたんか。
二年前はいっちゃんちっこかった金ちゃんも、今では光より、下手したら俺も抜かされてるんちゃうかってぐらい背ぇ伸びた。
けど中身は金ちゃんのまんまで何や妙に安心してしもた。
「また一年賑やかになんなあ」
白石は嬉しそうに跳ね回る金ちゃん見て苦笑いする。
その言葉にまた光の表情が曇った。
ああ口ではあんな風に言うとってもやっぱり淋しいんやな。
ここんとこあんま元気なかったんも、それが原因か。
来年にはもう俺らはここにおれへん。
けどまだ今年始まったばっかしなんやし、先の事考えてうじうじすんなっちゅー話や。
「何や、財前そんな顔して…謙也と離れるん淋しいんか?」
白石の声に光は一瞬びっくりして、けどすぐ肩すくめて言い放った。
「えっ…いや、大丈夫っスわ。この人三年生二回するらしいんで」
一瞬何言うてんか解らんかったけど、俺の方見てるのに気付いた。
「はあ?!留年なんかせぇへんど!!ストレートで大学も合格するっちゅーねん!!」
光には悪いけどそのワガママは聞いたれへんで。
必死こいて反論したけど冗談に決まってるやろアホって言われて爆笑が起きてしもた。
くそっ心臓に悪いわー
そろそろテニス部の出し物の練習時間やからって体育館に移動する事になった。
せやけど何でテニス部やのにモノマネライブやねん。
ほんま意味解らんわ。
ボーカルはもちろんユウジ。
お陰で俺はドラムさせられるし光はシンセさせられるし…まあ盛り上がったら何でもええんやけどな。
「あ、そうや。今度の日曜な、予備校晩だけになってん。せやから遊びに行けへん?」
「えっ…日曜?」
「そうそう。ちょぉ過ぎてもぉたけどな、付き合って二年記念にまた海遊館行こうや」
「へえ、もうそんな経つんや、お前ら付き合い出してから」
俺は光に向けて言うとったのに、何でお前が話に割り込むんや白石!!
自分さっきまで金ちゃんと並んで歩いとったやんけ!いつの間にこっち来ててん!
「あ、そうか、俺らが高校入学した時やしなあ…早いもんやな」
「そうっスね…よぉ続いた思いますわ」
「偏に財前の忍耐の賜物やなあ……」
「ほんまその通りっスわー」
「ちょぉ待ておかしいやろ!白石!!その無理から付き合わせてるみたいな言い方止めてんか?!」
聞き流せんと、ついツッコミ入れてしもたら二人同時に真面目な顔して冗談やって言いよる。
ほんまこいつらは…
「折角やし行ってきたらどないや?」
白石の言葉にびっくりした。
たまにはええ事言うやんけ部長!
けど肝心の光が遠慮しとる。
「えっ…けど部活…」
「かまへんよ。日曜は元々自由参加なんやし」
「部長が率先してサボらしてどないすんですか…」
「まあええやん。堅い事言いなさんな。最近あんま元気ないみたいやし、しっかり遊んでちょっとリフレッシュしてきなさい」
白石の滅多にない優しい気遣いに光はやっと頷いてくれた。
ほなムカつくぐらいのどや顔こっちに向けてきやがる。
「よかったなぁー謙也ー俺がデートの約束取り付けたったからなー」
俺が、を強調してくんなアホっ
ムカつく。ムカつくけどありがたい。それがまたムカつくんや。
俺は不自然なぐらいにっこりわざとらしく笑ってありがとうと言うてやった。

忍足夫妻は光を猫可愛がり。嫁というより最早孫のように。
父ちゃんは若干アブナイ方向走ってますけどね。
何せ忍足家男子ですから。ま、しゃーないっスわー^^

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