Guilty or Not guilty23

春がきて、夏がきて、秋、冬と越えて、また春が巡ってきた。
光と過ごした全部の時間が俺の宝物で、この1年はほんまに幸せやった。
おっと、過去形ちゃうな。
今も十分幸せや。
一年越しにまた同じ制服着れたんが嬉しい。
同じ学校で同じ時間過ごせるんが嬉しい。
入学式は一部の在校生しか出席せぇへんけど、俺は勝手に登校して光の門出をしっかり祝ったった。
放送委員の職権乱用して講堂のギャラリー入ってちょっと緊張気味の光を見守った。
光はほんまに首席で合格して、いつものあの無表情で淡々とした調子で挨拶の原稿読み上げよった。
壇上から下りる時、こっちに気付いたみたいや。
手ぇ振ったったら思いっきりニヒルな笑い浮かべやがった。
何やねんあのどや顔。
言うた通りになったからホレ見たかってか。
ちょっとは嬉しそうにせぇっちゅーねん。
式終わってから、教室の前で待ち伏せして呼び止める。
「また2年一緒やな」
「ほんまウザいわーまたアンタの世話せなあかんか思たら……」
「おいおいおいおい誰が世話やねん。誰の世話やねん」
っちゅーかそんな嬉しそうな顔して憎まれ口叩いても意味ないわ。
光のクラス担任が来たん見えたから、終わったらメール入れてって言うて教室の前から離れようとした。
ほんなら光が背後からでっかい声かけてくる。
「謙也くん。後でテニス部の部室教えて下さいね」
「えっ……ひか…っ」
「ほな、また後でー」
光は手ぇひらひら振りながら教室に入ってしもた。
テニス部の部室って、それってもしかして。
「〜〜〜〜〜〜っっっっしゃーっっ!!」
「うるさいどー忍足ーっっ!!」
光の担任が教室入る前に怒鳴りつけてくるから一応すんませんって頭下げといた。
けどそれどころちゃうわ。
光が、光がテニス部に戻ってくるんやからな。

そしてほんまに光は1年のブランクを経てコートに戻ってきてくれた。



隣で退屈そうにラケットいじってる光を見下ろす。
最近栄養状態ええせいか、遅れて成長期がきてるようや。
俺もこの一年で背ぇ伸びとるし、抜かされる事はないやろけどあんまりでかならんといてほしいわ。
細すぎるんも考えもんやけど、腕ん中ジャストフィットな光がええんやけどなあ。
って邪な目で見てたら思っきし睨まれて、慌ててコートに目ぇやった。
今はレギュラーで試合中。
俺は次の試合までの待ち時間で光は自由練習中やから試合見学。
まあ光の事やし、すぐまた感覚取り戻してレギュラーになれるわ。
せやから俺も気合入れとかなな。
テニス部入ってまだ一ヶ月しか経ってへんけど、光はマイペースに実力つけていっとるし。
「何や変な感じするわー……ほんま」
「何がや?」
ラケットから顔上げてコート眺めながら光が呟く。
「自分がコートにおるんが」
「そのうちにまたそれが当たり前になるやろ」
「そうっスか」
「そうっスわ」
光の口真似して言うたら思っくそ脛蹴られた。
最近凶暴さ増しとるよ光。
また白石に変な事教えられたんやないやろな。
チラチラ光の様子見てたら光もこっち見てきた。
「なっ…何?」
「……今日晩飯何かなと思って…」
「あー…えっと、昨日肉やったから…今日は魚ちゃうか?知らんけど」
「ふーん……ほな今日は帰らんとこ」
「ええっっっ!?晩飯のメニューでうち来るかどうか決めるん止めぇや!!」
今日は謙也くんと離れたない、とか可愛い事言うてくれよ。
…まあ実際言われたら頭でも打ったかて心配するけども。
「……誕生日…」
「え?」
「太陽、誕生日なんっスわ、今日」
「あっ…そうなん?!」
ぽそっと言う光の表情は暗い。
何でや。
可愛がっとる甥っ子ちゃんの誕生日やのに。
「光?お前もしかして…帰りたないんか?」
可能性の一つ思いついて聞いたら、光は黙って頷いた。
「今日…珍しく全員揃うから…ほんまは家おりたないんやけど…プレゼントだけは今日中に渡してやりたくて…
…けど帰ったら太陽絶対一緒に飯食お言うてくれる思うから……せやけど俺おったら空気悪なりそうやし、どないしよかなって思て」
あかん。また泣きそうや。
こんな目遭うとんのにこんな風に思いやれる光がいじらしぃて。
どないかしてやりたい。
うーんうーんと唸って考えて考えて、そうやと思いついた。
「今日パーティするって事はお義姉さん買いもんとか行くよな?そん時狙たらどうや?
メール入れて太陽君連れて来てもろて、ほんでそん時渡すねん」
「けど…その時駄々こねられたら…」
「俺の所為にしたらええやん。一緒に行って俺がどうしてもうち連れて帰るんやー言うたる」
「……わかった…そうするわ」
光は相変わらず両親との折り合いは最悪で、高校進学機に一人暮らししたいって言うてたんやけど結局反対されてしもたみたいで、
うち来たり家帰ったりの生活を繰り返してる。
大学入ったら絶対一人暮らしするて約束させたから、それまでの辛抱っスわーと苦笑いしとった。
せめてうち来た時ぐらいは楽しい時間過ごさせたろって思て、いつも以上に賑やかな食卓になってた。
それだけの所為ちゃうやろけど、一年前には考えられへんぐらい光は明るなったし笑顔も口数も増えた。
比例して毒舌に磨きかかって凶暴化もしとるけどな。
まあけどそれも俺に甘えてくれてるって表れやし。
光がちょっとでも楽になれて毎日楽しぃに過ごせるんならそれでええわ。
それに、不意打ちみたいに言うてくるからやめられへん。
今も部長の指示でコート入る寸前、目ぇ逸らしたまんまでぽつっと
「ありがとう謙也くん」
とか言いやがって。
あーくそっ可愛すぎやろ。
ほんまかなわんわ。
光の為やったら何ぼでも悪もんになったれる。
ああ、けど俺、きっと太陽君に嫌われるんやろなあ。







光と一緒におると時間が過ぎるんがアホみたいに早い。
まさに光陰矢の如しやな。
けど早い時間の流れやけど、その中身がめっちゃ濃い。
同年代の普通の恋人とかより一緒におる時間長いわけやし、その分そりゃもうめっちゃ喧嘩も多い。
いや、仲ええ時のが長いんやで。長いんやけど、やっぱりしょーもない喧嘩もしてしまう。
俺が光怒らせてしもたり、光の言い分に納得いかんで俺が怒る事もある。
けど何やかんやでそれも2日持たんで仲直り。
せやかてあいつ、喧嘩しとんのにうち来よるんやもん。
俺とは口きかんし目も合わせへんくせに、家族とは談笑ておかしいやろ。
ほんで喧嘩したってオカンやオトンにバレたら一方的に俺が責められるし。
散々やわ。
そんなんでたいがいは俺が我慢できんで折れるんやけど、最近は光が折れる事もある。
10回に1回ぐらいの割合やけどな。
けどしょげ返った様子で沈んだ声出してごめんなて言われたらそれ以上何も言えんようなってまう。
もうめっちゃムカついて、腹立って、何でこんな思いせなあかんねんってキレそうになる事は多々やけど、それでも1回も思った事はない。
別れたいって事は、絶対思わん。思われへん。
ほんまに。喧嘩する度にやっぱり光が大事や、宝もんなんやって再確認してる。
光はどう思てんかほんまのところは解らんけど、それでもずっと側におってくれてる。
ちょっとずつ明るなってるし、口数も笑顔も増えたけど光の本質は何も変わらん。
キッツい言葉で武装してても繊細で優しいとこもあって、他にもええとこいっぱいある。
挙げていったらキリないから割愛するけどな。
その中で少しずつやけど光が自分を認めるような素振りを見せるようになった。
口に出して俺なんか、って言う事が減っていった。
笑って怒って、拗ねて悲しんで、そんで素直に甘えてくれる、色んな光の顔を見た。
そうして春が過ぎて夏が来て、久々に一緒に大会に出て、去年は叶わんかったインハイ出場が出来て、秋がきて冬がきて、
去年は一緒に年越せんかったけど、今年は光も一緒に我が家で過ごせて、
俺の誕生日はめっちゃ照れながら祝ってくれて、けど祝われっぱなしは性に合わんから逆にサプライズ仕掛けたったら、
もうこれ以上ないってぐらい嬉しそうな顔してこれ以上好きんなったらどない責任取ってくれるんやて悪態つかれて、それはこっちの台詞やって言い返した。
そんな最高に幸せな誕生日が過ぎて、そしてまた春が巡ってきた。

光は謙也と喧嘩しようが何しようが忍足家通いは止めませんよ。
露骨に無視されてショック受ければいいよ謙也は。

go page top