Guilty or Not guilty21

2月、光は無事四天高に合格した。
他の進学校の入試は白紙提出してだいぶ怒られたらしい。
けど最初から四天高にしか行く気なかったわけやし、合格してたら絶対進学校の方行かされてたやろうからええんやって。
それに、俺レベル上の下でおるぐらいやったら中の上でおる方がええっスわーと光は笑った。
何にせよ、また同じ学校に通える。
それに俺も、他の皆もめっちゃ喜んだ。
それはええんやけど、何で、何でこいつらまで一緒に東京行きに参戦しとんねん!!!
「ええやんええやん。俺らも一緒に卒業旅行ー」
「自分別に関係ないやんけ!!」
「久々やわねー皆で東京。一昨年の全国大会以来やない?」
「話聞けや!!」
今年度最後の授業前の休み時間。
俺は頭抱えて二人を睨んだ。
白石や小春は嬉しそうに田舎モン丸出しの東京ガイドブック読みながらはしゃいどる。
卒業すんの光やっちゅーねん。
ああもう。
事後報告にすりゃよかった。何で俺白石に言うてしもたんやろ。
光と一緒に東京行くなんて。
白石は他の奴らにも声かけて、世話しきれん金太郎と法事や言うとるこいちゃん以外全員で行く事になってしもた。
絶対光に面倒臭そうに文句言われんや思ったのに、別にええんやないっスかと軽く言われた。
まあ光がええんやったら別にええんやけど。
ええんやけど、折角やったら二人で行きたかったわ。
「そんな顔すんなや。俺らかて年明けたらもう受験生なんやし、そんな皆で旅行なんかもう行けんねやで?」
「まあ…そうやけど……」
白石の言い分は尤もや。
進路はまだ決まってへんけど、こうやって皆で過ごせんのもあと二年ちょっと。
大学は皆バラバラになるやろうし、それ考えたら貴重な時間なんかもしれん。
けど絶対同じ調子で長期休み入ったらどっか遊びに行きそうな気ぃしてならんわ。
「せやし謙也のおばちゃんに頼まれてるしなー…」
白石はガイドブックに視線落としたまんまボソッと呟く。
あのオバハン何言いよったんや!!
「なっ何をやねん!!」
ニッコリ、ってお得意の満面の笑み浮かべて白石が言い放った言葉は俺のやらかい心を抉った。
「旅行中あのアホが光ちゃんに変な事せんようしっかり見張っといてな、やって」
嘘やろ?!ってすんごい顔して見たら証拠やってメール見せられた。
せやから何でうちのオカンはあっちこっちにメアド流しとんねん!!
ほんまありえへん。あっちこっちに包囲網敷かれてる気分やわ。
そもそも何でオカンに光との事バレてしもたんや!!って……まあ全部俺の不注意やったんやけどな。
全部俺の所為やねんけどな。
年末、光が全部話してくれる言うてうち泊まったあの日や。
寝る前にトイレ行って、そのままカギかけるん忘れててやな…朝やでーって起こしにきたオカンにばっちり見られてしもた。
抱き合って眠ってるところを。
言い訳できる状況ちゃうし、光も俺も真っ青になって固まってたら、殴られた。俺が。
ぽかーんってなってたらオカンは光の肩掴んで揺さぶりながらめっちゃ真面目な顔して、ほんまにこんなんでええんかて問い質し始めた。
おいおいおいおい!!
ちょっと待てや、おかしないか?!
「謙也やで?解ってる光ちゃん?!謙也なんかでええんか?!確か同じテニス部の先輩にもっと男前の子おったやろ、
えーっと名前何やったかいな…確か白石君ゆうたかな?あんな男前側におんのに、ほんまに謙也でええんか?!
今からでもあの子に乗り換えたらどうや?!こんな男でほんまええんか?!どうせ男と付き合うんやったらもっとええ男にしぃ!!」
やて。
おいおい、お前の息子やろ。何でそこまで言うかな。
光も光や。
……考えなおそかな、ちゃうやろ!!
酷っって半泣きになったら二人で大笑い始めるし、散々や。
頭ごなしに反対されるより破壊力強い。
何でて、オカンは光の方を可愛がってるからや。
何ちゅーか、不肖の倅に来てくれた出来のええ嫁扱い状態やで、今の光。
光も光で最近は、もし謙也くんと別れてもおばちゃんとは離れたないわーって言い出すし、ほんま泣きそうやわ。
まあ仲良き事は美しきかなって納得するしかない。
光の両親はあんなやし、うちのあんなオカンで役に立つんやったらそれでええわ。
せやけど口から生まれたようなオカンは黙ってられへんもんやから、オトンにも順也にも言いよるしほんま…あの喋りは。
オトンは大して何も考えてへんし、オカンといっしょで光めっちゃ可愛がってるし、
隙あったら謙也なんかやめておっちゃんと一緒に遊ぼか?言いよるし…ほんまあのクソオヤジは。
順也もどないなんねや思ったけど、本人同士がええんやったら別にええんちゃう、やて。
最近の子ぉやなあ……って、俺もか。
ちょぉ待てよ。もしかしてこの流れって、もし、もしやで。もしも光と俺が喧嘩なんかしたら…俺の方が家追い出されるんちゃうんけ!!
「何一人で青なってんや?」
白石の声に現実世界に戻ってきた。
そうや、話ズレとるがな。
ああそれにしても。
来月の上京の事考えたらちょっと頭痛いけど、こいつらと一緒でアホみたいに騒いどった方が気ぃ紛れてええかもしれんな。



それから、あっという間に約束の日になった。
卒業式終わって間もない三月下旬に決行された一泊二日の光の卒業旅行……と、いう名の禊旅行。
新大阪の新幹線ホームで、ユウジと小春がアホみたいにはしゃいで写真撮ってる。
白石は銀と電光掲示見ながら電車の時間調べてる。
光はベンチに一人で座ってて、朝から一言も喋ってへん。
隣に座って何回か話しかけたけど生返事しかもらえんかった。
遠い目して何考えてんやろ。
じっと見てたら光が顔上げた。
「あっ…えっ…と、そうや!!喉渇いてへん?さっきコンビニでお茶買うてきてん」
「いや…大丈夫っス」
「そか…ほな飲みたなったら言うてな」
光はまた俯いて何か考えてるようや。
まあ単に遊びに行くわけやないんやし、しゃーないわな。
千歳と会うん一年振りで緊張するやろうしな。
俺はもいっかいペットボトルを袋に入れて、鞄になおそうとした。
そしたら光が手首掴んできてびっくりした。
その手には昨日渡した指輪が光ってる。
なるべく光の好きそうなデザインのやつ選んで俺とお揃いで買うた。
ほんまは薬指にしてやりたかったけど、あんまりに露骨なんはアレやしと思って右手の人差し指にしかできへんかった。
くそっほんまヘタレや俺。
今も別に悪い事してるわけやないのにビクビクして。
「どないしたん?」
「……いつもみたいにアホみたいな話してくださいよ」
「は…はあ?」
アホみたいなって何やねん。
って反撃しようとしたけど、俺の手首握ってる光の手は震えてる。
ああ、そうか。
こっちが気ぃ使うから余計緊張するんや。
「そうやなー…あ、そうや、こないだ数学の授業ん時やねんけどな、白石がや――…」
俺も気にせんと普段通りに何でもない普通の話題を振った。
新幹線の中でもずっと話かけて、白石やユウジ、小春も交えて五月蝿い事この上ない。
近くの席座っとったオッサンに五月蝿いて怒られたんが、名古屋過ぎた頃。
やっとそれぞれの席に戻って大人しなって、けど東京着くまでの間ちっこい声で光に話しかけ続けた。
光もだんだん気ぃ抜けてきたみたいで、いつもと変わらん態度になってくれた。
けど東京駅に降り立った途端、また無口になってしもた。
この後千歳と会う予定になってるみたいやけど大丈夫なんかなあ。
俺と光は皆と別れて駅のロッカーに荷物預けてから千歳に指定された公園に向かった。
今住んでる部屋の近所にある大きい公園で、目下千歳の散策地になってるらしい。
あーめっちゃ緊張してきた。
あの半分喧嘩売ったような電話以来やし、俺シメられんちゃうか。
けど俺以上に光のが緊張してそうなん見てちょっと落ち着いてきた。
俺がしっかりせな。
約束の時間まであと30分。
千歳はルーズな奴やったし、まだ来てないやろなって思ってたけど、見慣れたでっかい姿が遠くにあるんが解った。
怖かったけど、めっちゃ怖かったけど俺は光の顔見下ろした。
どんな顔してんかて思ったんやけど、こっちが拍子抜けするぐらい光は普通ーの、いつも通りの澄ました顔しとる。
俺の視線に気付いたんか光がこっち見てきた。
「行ってこい。ここで待ってるから」
頭ぽんぽんって撫でたったら神妙な顔したまんま頷いて千歳の待ってる場所に向けて歩き始めた。
それ見届けて俺はすぐ近くにあったベンチに座った。
あかん、めっちゃ気になる。
カッコつけて送り出したけどもやな。
どんな話してんやろ。ほんま気になる。
けど聞き耳立てるのなんか俺には出来んし、ここで大人しいにしてるしかない。
「なーにしとるんや?謙也」
「…白石っ」
めっちゃびっくりした。何でここおんねん。
「えっ…何で……」
白石はチラッと光と千歳の方見た後俺の隣に腰下ろした。
「銀が実家帰ってしもたからなー…俺一人で小春とユウジの世話せぇってか?」
「ああ…そういう事かいな…」
そらユウジが許さんわな。二人きりにさせぇ言うわな。
あの二人と一緒に東京観光なんかごめんやわな。
「せやし、ここまで付き合うたんやし……最後まで見届けよかなー思て」
そうか。白石は俺よりも長い事千歳と光の事見守ってきとったんや。
ほんまは最初っからそのつもりやったんかもしれん。
その為についてきたんかもしれん。
「大丈夫やでー謙也…もし財前にフラれても俺が自棄酒付き合うたるからなー」
ムカつく!!ワザとらしぃに泣き真似しながら不吉な事言いよってから…
けどほんまどうなるか解らんけど、俺も一人うだうだしてるより白石と話しとった方が気ぃ紛れてええかもしれん。
若干上の空気味やけど、暫くはしょーもない話しながら過ごした。
何回か女の子に声かけられて、こいつ相変わらずよぉモテんなあと感心した。
せやけど一年なってすぐ以降、こいつに彼女がおったって話は聞けへん。
こいつを好きやって女の話は山のように聞いたけど。
あ、もしかしてまだ俺とこいつデキたまんまなんやろか。
ほんま噂て怖いわー…
そんな余計な心配しとったら急に白石に真面目な声で質問投げられた。
「謙也…お前、何で財前と千歳会わせよ思たん?別にそのまんまおっても千歳も財前もそのうち自然に忘れられた思うで。時間はかかったやろけどな」
「それはまあ……俺もそう思うけど…」
ほんま今になって思うわ。
今回の事は完全に俺の自己マンなんやって。
俺がすっきりせぇへんから光を突き放して、しんどい思いまでさせてここまで連れて来た。
早よ光ん中から千歳の影を消したかった。
口ん中でぼそぼそとしか言われへんかったけど白石はちゃんと全部聞き取ってくれたみたいや。
「そうやなあ…けどまあ、財前も千歳もすっきりしてへんかったんは確かやし…ええんちゃう?間違えてへんわ、お前」
「そう…かな…」
「そうやよ」
白石がそう言うんやったらそうかもしれん。
ムカつく事も多いけど、光と一緒で俺もこいつの事は信用しとるし、白石の言葉は自然と俺の心に落ち着いた。
ほんま俺も単純やなあ。
「そない心配せんかて……これ、十分牽制になってんちゃうか?」
「えっ…ええっ」
「やーらしいなあ…お揃いの指輪やて」
白石は俺の左手取って人差し指にした指輪ジロジロ眺めてきよった。
何や恥ずかしなって右手で覆い隠した。
「うううううるさいわ!ええやんけ別にっ」
目敏いなこいつ!ぱっと見解らんような形の違うペアリングやのに。
「これあれやろ?二つ合わせたら一つになるデザインのやつやろ?」
「そ…そうやけど……」
ほんま何でもよぉ知ってる奴やな…俺ユウジに聞くまでこんな指輪ある事すら知らんかったわ。
「それで、何で薬指やなくて人差し指?」
「なっ……何でて…」
理由なんか言えるわけない。
爆笑オチ見えとるがな。
黙ってたら白石は全部解ってますって顔してまあええけどって言いよった。
ムカっ……
「薬指は恋人がいますって意味やけどな、人差し指の指輪は心密かに誓いますって意味やねんで?」
「えっ……そうなん?」
「うん。せやから…丁度ええんちゃう?お前らにぴったりやわ」
「へえー…そうなんや…」
何でもよぉ知っとんなあこいつ。
口に出したら調子乗るから心の中で思いながら自分の左手を眺める。
今はまだよぉやらんけど、いつか光の指輪の場所変えられたらええのに。
そう思て指で頭掻いてたら、視界の端に光と千歳が見えた。
ああ何話してんやろ。
めっちゃ気になる。
ほんで気になり始めたら止まらんようなって、ベンチから立ち上がって落ち着きなくウロウロする。
「謙也ーちょっと落ち着きぃや…」
白石に呆れ気味に言われてまたベンチに座って二人の方見た。
話し合い終わったんかな。
光が足早にこっち向けて駆け寄ってくる。
光は一瞬こっち見たけどすぐ白石に視線やってびっくりしたみたいに言う。
「あれ?先輩何やってんっスか?浅草行ったんちゃいますの?」
「そう思てんけどな、謙也がフラれた後一人になったら可哀想や思てこっち来てん」
何て事言いやがる!!シャレにならへんわ!
けど光は笑いながら「ほな無駄足になってしまいましたね」って言いよった。
「謙也くん、千歳先輩呼んでる」
「おっ……俺?!」
「何やー元カレと今カレのタイマンか?」
嬉しそうにいらん事言うなや白石!
めっちゃ緊張してきたやんけ。
「光は…?もうええんか?話…」
「はい。全部話してすっきりしました」
そう言う光の顔には一点の曇りもない。
あとは俺か。
俺は一つ肩で息して気合入れてから立ち上がった。
何べんも深呼吸しながらゆっくりと千歳に近付いていく。
だだだだだ大丈夫、大丈夫や。
なっ、何言われても返り討ちにしたる。
そうやって気合満々で千歳の前に立ったけど、相手のへらへらした笑顔見たら気ぃ抜けてきた。
「久し振りたい」
「おうっ……久し振り」
千歳が腰かけてる花壇の縁に俺も座った。
一人分ぐらい間開けて。
相変わらずでっかいなあ。
ほんでこのマイナスイオンたっぷりのオーラよ。
すっかり気ぃ削げたわ。
けど何喋ってええんや解らんよってしばらく黙ってたら、千歳のでっかい溜息が聞こえてきた。
隣見たら千歳は手で顔覆ってる。
「はぁ――――……鳶に油揚をさらわれるて、まさにこのこつばい」
「は…はあ?!」
何やねんそれ。
今更そんな怨み節聞かされても困るっちゅー話や。
「もし取られるんなら白石やと思とったと」
「……何で白石…」
いや、解る気ぃするけど。
オカンにも散々言われてるしな。
今からでも乗り換えたらどうやって。
確かに白石のが男前やし背ぇ高いし頭ええしテニスも上手いし、けど性格は俺のがええはずや!
「……悪かったなー…俺なんかに取られてやー」
嫌味ったらしく言うたけど、千歳は笑いながら俺の肩叩いた。
馬鹿力すぎや!!痛いっちゅーねん!!
「光ん話聞いて、解ったと。そいで、納得もできた」
「何が?」
「光が、何でお前選んだか」
光の奴、何言うたんや。
何言われたんや俺。
怖っっほんま怖いわー。
けど千歳はいつもの大らかな顔してる。
「そーんな不安そうな顔せんで。……光はもう俺んとこ戻ってこんよ」
「え…?」
「フラれたとー…きっぱりな」
千歳は何でもないって調子で話してくれたけど、表情はちょっと傷付いた感じする。
もし、千歳が東京に行ってへんかったら。
もし、光と別れんと遠恋になってたら。
もし、まだ付き合ったままやったら。
もし、今俺と光が付き合うてなかったら。
色んなパターン考えてんけど、やっぱり最後に一緒におるんは謙也くんで、先輩やない。
そうはっきり言われてしもたようや。
「光、随分変わったばい」
「あー…そう、かな」
「最後の最後まで、俺には出来んかった。光んこつ、楽にはしてやれんかった。今光が笑ってられんのは、謙也のお陰たい。……ありがとな」
「なっ何やねん改まって!べべべべ別にお前の為ちゃうしっ」
面と向かうて言われると照れてまう。
けど千歳の言いたい事は何となく解る気ぃする。
もし、こんなもしも話考えたないけど、もし俺と千歳が逆の立場でも、たぶん千歳に礼言うとったはずや。
俺は幸せにしてやれんかったけど、誰か本気で想てくれる奴が幸せにしてやってくれたらええのにて。
かなり淋しいし腹立つし悔しいけど、ずっと辛そうな顔してられるよりよっぽどええ。
せやけど、これは結果論や。
俺も光もこいつも、ほんまにどうなるか解らんかった。
上手くいったんは、単に運とタイミングがよかっただけかもしれんし。
何で千歳は光を手放したんやって、ちょっと恨んだ事もあったけど今は違うって解ってる。
誰も悪ないし、誰も責められへん。
たまたま千歳と光の進む道が分かれてしもた、それだけの事や。
ほんで光の進んでった道の先におったんが、俺。
これから先どこまで一緒に行けるか解らんけど、それでも俺から手ぇ離す事はないわ。
「安心せぇや」
「ん?何ね?」
「…お前の大事な光は、俺が責任持って幸せにするよってな。せやから、安心して……幸せな俺らの事指くわえて見とれや」
立ち上がって胸元に力入れんと拳突きつけたら、光ん選んだ男はかっこよかね、と言うて千歳は笑った。

何や妙に長くなってしまった。
ケン坊が旅行メンツに入らなかったのは単純に銀さん脱落後白石を一人にさせる為です。
そんで何となく謙也には「こいちゃん」って呼ばせたい病。

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