Guilty or Not guilty18

光は慰めるみたいに髪梳きながら何べんもごめんなって謝ってくれる。
俺は声にならんで首振ってそれ否定した。
「何ちゅー顔してんっスか。泣きすぎやで」
「……もう十分光の分まで泣いたったわ」
「ほんまやわ」
顔上げたら光は笑いながら着とったスウェットの袖で涙か鼻水かヨダレか解らん水分で濡れた俺の顔ごしごし拭いてくれた。
「汚れんで…」
「今更何言うとんねん」
光はスウェットの胸元見せびらかしてきた。
すでに光の着てるグレーのスウェットの胸の部分は俺の涙と鼻水で染みになってる。
「ごっ…ごめんやで!!」
「ええっスわ別に。そのうち乾くやろし」
「あかんて!」
光は怒ってへんみたいやけど、こんなん汚いやろ。
俺は慌ててクローゼットの中から洗い替えの寝間着出して光に渡した。
「すまん!これに着替えや」
「うっわ何この派っ手なパジャマ…」
オカンが買うてきよった真っ黄色のギンガムチェックにひよこ柄の寝間着見て光は心底嫌そうな顔する。
いや、うん。俺も初めてこれ買うてこられた時同じ顔したわ。
「文句言うなや!これしかないねん!!」
「はあ、まあ…ええけど別に…」
光は渋々それ受け取って濡れたスウェット脱ぎ始めた。
こっこここここここここここここで着替えるんかぃ!!
落ち着け、落ち着け俺。
目ぇ逸らしたいんやけど、見たい気ぃもするし、ああどないしょ。
「……あれ?」
「はい?」
「光お前……太った?」
「はあ?」
俺はさっきまでのやらしい気持ちなんかどっかいって、光が肉付き良ぅなってるのに目がいった。
前はもっとガリガリやった。ほんま心配なぐらいに。
もう何べんも光抱いてるけど、こんな明るい中で裸見る事なかったから気付かんかったわ。
うっすら筋肉付いてきて、部活やっとった頃よりはまだ痩せとるけど、確かに太ってる。
確認するみたいに腕ふにふに握ったら勢いよく振り払われた。
「なっ…何すんねん!!」
「え、ほんまに肉付いてきてるって」
鶏がら状態やった腕とか、ちゃんと手羽になっとる。
せやし、胸も腹も、お前スペアリブかてぐらいあばら浮いて痛々しかったけど筋肉戻ってきたって感じや。
「あっ…ちょっ…嫌やっっ」
「…へ?」
両手で背中とか腹とか撫でまくってたら光は腰砕けるみたいにへたり込んでしもた。
顔真っ赤にして俺の手から逃げるように後ろに下がる。
「何考えてんねん、どアホ!!」
「…感じてしもた?」
思わずヘラッとしながら聞いてしもたら、思いっきり蹴られた。
けどこんなんいっこも痛ないわ。
「ひーかるっ」
「やめっ…やめんかぃっっアホっボケっ!」
暴れようとする光床に押さえつけて、ほっぺたとか唇にキスしまくる。
嫌や嫌や言うとるけど顔真っ赤にして全然力入ってへん。
可愛い。あかん、止まらんようなってきた。
ヤバイ。ほんまにヤバい。
壁一枚向こうに弟はおるし、オトンもオカンもおるのに。
「け…謙也くんっ…!!ほんま、やめてやっ」
「せやけどもう止まらんわ」
「あっ…アホか!!っ……は、話の途中じゃ!!」
光の叫びに、俺は我にかえった。
そうや。
こんな事しとる場合ちゃうかった。
「ごっ…ごめんやで」
慌てて光抱き起こして着る途中やった寝間着着せたった。
ボタン一つ一つ留めていくうちにだんだん冷静になってきたわ。
真面目な話しとったのに勝手に泣き出して光の寝間着汚してしもて、挙句襲いかかるて。
最悪やん、俺。
最後のボタンかけるんと同時に顔上げたら光もだいぶ落ち着いたんか、笑いかけてくれた。
「謙也くん、オカンみたい」
「えっ」
「着替えぐらい自分で出来ますて」
「そ…そうやけど…」
オカンはないやろ、オカンは。
「けど俺、こんなんしてもろた事ないし…ちょっと嬉しかったっスわ」
あ、そうか。あんなオカンに育てられたんやもんなあ。
向こう向いてズボン履き替えながら光の呟いた言葉にまた泣きそうやわ。
「……5キロ」
「へ?」
さっきみたいに目の前座る光の黄色いひよこの寝間着姿めっちゃ可愛い似合うわーって思いながらぼけっと見とれてて、一瞬何の話や解らんかった。
「5キロ戻りました……体重」
「えっ…そうなん?っていうか5キロも戻る余地あるて…何キロ落ちててん」
「……怒るから言わへん」
「言いなさい。怒れへんから」
めっちゃ真面目に言うとんのにまた笑われた。
確かに今のはオカンっぽかったけども。
あと金ちゃんの悪さ叱る白石みたいやったけども。
「……笑いすぎや」
「せやかて…白石先輩みたいに言うんやもん」
やっぱり。
同じ事考えてたんか光はひとしきり笑て、そのまんまのノリで教えてくれた。
「一番酷い時は…10キロ近く落ちたんです…」
「お前それ病気やぞ!」
え?10キロって、何したらそんな痩せんや。
うちのオカンに教えたってくれ。
いやいや、ないて。ほんまないて。
「うん…先輩と別れて…また悪い病気出たから」
「それってさっき言うとった消えてなくなりたいってやつか?」
光は黙って頷く。
そうか。そうやんな。
存在理由みたいやった千歳おらんようなるって解って、また真っ暗闇ん中おったんやもんなあ。
「もうめっちゃ苦しくてしんどくて何で息せなあかんねやろ、何で食べなあかんねやろ、
寝るのも動くんもテニスも全部全部…みんな先輩に繋がっていって……何でまだ俺ここおるんやろ、
何で生きてんやろ…先輩おらんようなんのにて…そんなんばっか思とったら…また眠れんようなって…」
眠れん光の体は食事もロクに受け付けんようになって、結果として10キロ近く痩せてしもた。
ほんま春頃のこいつありえへんぐらい細かったもんなあ。
けどちょっとは回復してよかったわ、ほんまに。
「ああ、けど…先輩の側におってもあんまゆっくり眠れた事なかったかもしれん…」
「え?そうなん?」
好きな人側におったら楽んなれんちゃうの?
あ、好きすぎて落ち着かんって事か。
ほな俺はどないやねん。
肩やら膝やらにもたれ掛かってかーかー寝てたやんけ。
安心してくれてんは嬉しいけど、彼氏としてどうなんそれ。
オカンか。やっぱり俺はオカンなんか。
一人でせん無い事考えて固まってたら光は言い難そうにまた口開いた。
「……あの人…すぐおらんようなるから…」
「え?千歳か?」
光は黙って頷く。
おらんようなるってどういう事なんや。
「あの…い…一緒に寝とっても…気ぃついたら横おらんようなってて……」
ああ、それで言い辛そうやったんや。
そら前付き合うとった奴とのそんな話したないわな。
俺も聞きたないし、なるべくやったら。
この話は聞くけどな。
「それで?」
あ、やばい。無意識に声低なってもぅた。
そんなつもりないのに、光も気にしたみたいでビクッって肩揺らして不安そうに見てくる。
「あ、すまん…ちゃうんや。別に気にしてるってわけやなくって…あ、いや気になるけど…めっちゃ気になるんやけど、それ責めてるとかやなくって…」
そんな泣きそうな目で見んといてほしい。
ほんまどないしよ。光不安にさせたり傷付けたりしたないのに。
「え…っと、せやから……あの、光が前何しとったのとか、気になるけど、気になるけど…嫌とかやなくって、それも含めて光や思てるし…」
何て伝えたらええんやろ。どうやったら光に伝わるんやろ。
一生懸命考えてたら、光が俯いて笑い始めた。
「え?え?何?」
「謙也くん…アンタほんますごいな」
「え?何が?」
こんなめっちゃカッコ悪いのに。何がすごいねん。
全然解らんで光じーっと見てたら、また両手握ってきた。
「言葉選んで、必死んなって真正面から自分の思てる事伝えようとして…俺には出来ん事やってずっと思とった。ほんますごいです」
「そんなん……」
思ったことなかったわ。
俺はただ必死んなって、どないやったらええんやろってもがいて足掻いて、それだけやのに。
「せ…せやから……あの…」
「ん?」
何や?きゅうにそわそわし出して、何やねん。
「ちょっ…あんまじっとこっち見んといてください」
「え?何で?」
顔真っ赤にして逸らされてしもたんやけど。
え、もしかしてこの空気って、前にもあったんやけど。
「ひ…光?」
「あの……謙也くんの…そういうとこ、す…好き……です」
最後蚊の鳴くような音やったけど、ばっちし聞こえた。
初めて面と向かって言うてくれた。
好きって。好きって。
ヤバイ。めっちゃ感動してる。
思わず勢いよぅ目の前の光抱き寄せた。
「あかんわ、俺…謙也くんみたいに思てる事…よぉ言わん……」
俺が思いっきり抱き締めてるもんやからもごもご喋りにくそうやな。
けどこれは離されへんやろ。
「大丈夫やで。めっちゃ伝わったから」
「当たり前や…こんなん…いっぺんで伝わらな…そんな何回も言えるかボケ」
照れた光に横っ腹殴られながら言われて、我慢ならんようなって腕の中の光にキスした。

さあ大変だ。スイッチ入ったよ?

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