ゆうくんのお兄ちゃんはきっとお笑い芸人に違いない。
ピン芸人なのはいつかゆうくんと兄弟漫才がしたいから。
けどゆうくんには小春という相方が出来てしまって兄貴涙目。
関係ないけど光兄とゆうくん兄は3つ違いで小さい頃同じリトルリーグに入ってた設定。
未だ仲いいです。
Guilty or Not guilty16
皆で白石の家に泊まらしてもろた次の日、朝から光に会いに行ったろ思てたのに敵は意外なぐらいに手強かった。
「謙也ー光もうおらんてー」
「は?」
いそいそ身支度整えてたらユウジに電話が入った。
何でもユウジの兄貴が光連れて出かけてしもたらしい。
「"久々やから光とデェトしてくるわー!"やと」
ユウジの兄貴どんなか知らんけどモノマネやったんやろ。
違う声色で宣言された。
「なっ…はあ?!」
「まあ夕方には帰るやろ」
待ってられへん!こっちは今すぐにでも会いたいっちゅーのに。
「財前もちょぉ落ち着いてからのが話しやすいんちゃうか?」
焦る俺見た白石にそう言われて、俺もちょっと落ち着いた方がええんかなって気ぃした。
せやから必死になって堪えて堪えて、夕方まで我慢して、けど何の音沙汰もなくて、
やっとユウジの携帯に連絡入ったんは日ぃ暮れた後やった。
「うち戻ってきたて。どないするんやー?」
兄貴から入ったメール見せながらユウジが言うてくる。
天王寺動物園行ってきたー!やてムカつく!
白クマ背景に2ショット写メまで!!
ちゅーか俺かてまだ一緒に行った事ないのに!!
けど羨しい事なんかないわ!
俺なんか海遊館行ったし!2回も行ったし!!
…USJは人多いよって嫌やて断られたけど。
ほなHEPの観覧車は?って聞いたら男二人で寒いわって断固拒否された。
けど後で知ったんやけど、あれ乗ったカップルは別れるってジンクス真に受けてたんやて。
白石が教えてくれた。
可愛いとこあるやんけ!
「おい謙也ー!返事せぇー!」
「あっスマン!今から迎えに行くわ!」
時計見たらもう7時前や。
今から迎えに行ってうち帰ったら9時回るなあ。
電車の時間計算して白石と白石の家族に礼言うて、ユウジと二人駅に向かう。
その間も何べんかユウジの兄貴から連絡あるみたいで携帯ぽちぽち操作しとる。
ああ何やムカつくわ。
って思てたら顔に出てたみたいでユウジに鼻で笑われた。
「別にええやんけ、動物園ぐらい」
「小春の側寄っただけでやいやい抜かす奴にだけは言われたないわ」
「はあ?あんな可愛ないクソガキと人の大事な相方一緒にすんなっちゅーねん」
「そらこっちの台詞じゃボケ!」
ほんまムカつく事ばっかしや。
けどユウジはそれ以上絡まんで話続けた。
「どうせ動物園かて兄ちゃんが勝手に連れ出したんやろ。こんなクソ寒い中あいつが自分から行くわけないやんけ」
「それは…まあ……」
それもそやな。
あいつの冷え性OL並みやし。
…OLの冷え性がどんなんかは知らんけど。
「せやし、どうせジャン横行ったついでやろし…」
「…どうゆう意味や?」
携帯覗きながらぼそっと独り言みたいに呟いた一言が妙に気になる。
けど聞いてもユウジはうち来たら解るわて言うだけやった。
そんでその訳ってやつに、俺は腰抜かしてびっくりした。
1時間ぐらいでユウジの家着いて、光呼んできたるよって玄関の前で待っとれ言われたから大人しく待っとった。
ほな出てきたんは光やのぉて大阪では知らん人間おらん人やった。
「お前が忍足謙也かーっ!マイエンジェル光たぶらかした狼かーっ!!」
「えっ」
玄関から出てくるなりいきなり胸倉掴んでくる人の顔見てビビった。
何でて、
「何で?何で?何でキョージがここおるん?!」
めっちゃテレビとか出てる芸人やん!
めっちゃ有名人やん!
「えっ…もしかしてユウジの兄貴て…」
「俺やけど」
「えっっマジでかっ!!すげえ!俺めっちゃファンなんですわ!!」
ユウジの兄貴が芸人とか聞いてへんし!
っていうか知らんの俺だけなんか!?
いやいや、そんな噂あったらあっちゅー間に校内回るわ。
うわーうわー街で芸人とはよぉすれ違うけど、身近にこんな大物がおるなんて!
さっきの光との2ショットはグラサンしとったから気ぃつかんかったわ。
感激して思わずガン見してもぉた。
あ、けど俺嫌われてんかな。
光溺愛歴15年やもんな。
嫌われてんやろな。
そう思てヘコみそうになったけど、ユウジの兄貴はめっちゃ笑顔で肩叩いてきた。
「そーかそーか。俺のファンかー」
「はっはいっっ!横丁探検めっちゃ見てますよー!」
「お前ええやっちゃなー!」
お昼の情報番組でやってるレギュラーコーナーの名前出したらますます笑顔んなって握手までしてもろた。
あ、そうか。
それでユウジあんな事言うとったんや。
ジャン横行ったついでて、コーナーロケ行くのに光連れてって撮影始まる前に動物園行ったんか。
ええなー光。
俺も行きたい…って、いやいや。
話ズレとんがな。
さっきまで兄貴の方うらやましがっとったのに、光うらやましがってどないすんねん。
「何和んどんねん自分ら」
「あ、ユウジ。お前何でこんな凄い事隠しててん!!」
玄関から出てくるユウジに言うたら心底嫌そうな顔された。
「せやかて、こいつの七光なんかごめんやわ」
ああ、そうゆう事か。
「お前も光奪った憎い相手絞めるゆうとったんちゃうんけ」
出てくるなりユウジはえらい睨みながらキョージさんのケツ蹴った。
キョージさんは笑いながら俺の肩持って、
「謙也君、俺のめっちゃファンやねんて」
俺のファンに悪い奴はおらん言うた。
思わずミーハーなオバハンみたいになってもおたけど、結果的にはよかったみたいや。
「ユウジは俺となんかコンビ組みたないー言うし光はだんだん懐かんようなってくるしなあ…」
「は…はあ…」
そんな愚痴つらつら聞かされても困る。
けど俺は邪険にできんではあ、はあ、と生返事繰り返してると聞いてんかって怒られた。
そんなん言うたかて、本来の目的思い出したんやもん。
「光っ」
家ん中から光が荷物持って出てきた。
「何やってんっスか…」
肩組んできてるキョージさん睨んでから俺の方も見てくる。
あ、よかった。
もっとヘコんでんかて思とったけど、普段とあんまり変わらん感じする。
白石の言うとったように、ちょっと間おいてよかったんかもしれん。
光はユウジらに挨拶してさっさと歩き始めてしもた。
慌てて追いかけようとしたけど、キョージさんは離してくれへん。
「あっあのっ離し…」
「光泣かしたらー……どうなるか解っとるやろな?自分」
「へ?!ど…どうなるんですか……」
何?!また鬼みたいな目ぇで睨まれてんねんけど。
「おもんない後輩芸人集めてお前の為だけにライブさせんぞ。五時間耐久で」
それはキツい。
何というか、精神的にキツい。
絶対そんなん嫌や。
言うとくけど俺、お笑いにはうるさいんや。
そんな何時間も聞かされたら途中で発狂してまう。
顔強張らせて何べんも頷いたら、いきなり手ぇ掴まれてびっくりした。
そっち見たら光が戻ってきとって俺の手握ってる。
「兄ちゃん心配せんでも、この人ヘタレやから俺の機嫌損ねるような事よぉできんわ」
光は俺の手引っ張ってキョージさんから救い出してくれた。
そんで行きましょって言うてそのまま手ぇ引いて歩き始める。
俺は振り返ってユウジらに礼言うて足早に歩く光について行く。
光は何も言わんと黙って俺の手握ったままや。
通りは暗いし誰もおらんからええけど、どないしたんやろ。
「謙也くん」
「ん?何や?」
「…昨日は……いきなり変な事言うて……すいませんでした…」
突然立ち止まって、光は俯いたまま謝ってくる。
俺の方こそ謝らなあかんのに。
「俺こそごめんやで。ほんまに、ごめん」
めっちゃ真剣に謝ってんのに光は何でか吹き出しよった。
「あ、ごめん。何や俺ら初めからこんなんばっかりやなと思て」
そういや前にも同じような感じで謝ったような。
何や成長ないなあ、と思て俺も思わず笑てしもた。
「もう謝るんはやめにしましょ」
「せやな」
「ほな…今度は…俺の話、聞いてください」
え?
何、話って何。
まっ、まさか。
「嫌やで!!俺はぜっっっっっっったい嫌や!!」
「は?」
「死んでも別れへんからな!」
突然駄々こねるみたいに言い張ったら、光はいきなり大爆笑始めた。
何?何でや?
俺今、変な事言うたっけ?
「ちゃいますって…ははっ…別れ話する思たん?」
「えっ……」
何、勘違い?!
そうなん?
先走って変な事言うてしもたんか?!
「せ…せやかておまっ…めっちゃ深刻な顔して言うてくるからっっ…!!」
うわーうわーめっちゃ恥ずかしい。
何やちっこいガキみたいな言い方してもうたやんけ。
「ごめんて。そうやのぉて、もう逃げんと全部話します。俺の中途半端な言い方があんた追い詰めたんやって思たし…」
「え…ほんまに?」
「このまんま誤魔化してたら…あんたまで失うかもしれんて思てめっちゃ怖なった。せやから、全部…話す……から最後まで…聞いて下さい」
光は握ったまんまやった手にぎゅっと力込めてきた。
それをしっかり握り返して俺は頷いた。
「ほな、一緒に帰ろか。今日はカレーやて」
俺はオカンからのメールを見せた。
今日は晩ご飯カレーやから光ちゃん連れて帰っといでやーやて。
光はうちのオカンの作った野菜カレーが好きらしくて、これやとおかわりしてまで食べてる。
別に食いもんで釣ろうとは思わんけど、でも光は晩飯がカレーと知って、ちょっと嬉しそうに頷いた。