Guilty or Not guilty15

光がバタバタと出て行ってしばらくは動けんかった。
色んな事が頭ぐるぐる回って動かれへんかった。
後悔してもいっぺん口から出たもんは取り消されへん。
光を傷つけてしもた。
けどこのまましててもしゃーない。
俺は光の行方探そうと家を出た。
携帯は当然のように繋がらん。
時間的にもう家に帰ってるかもしれん。
そう思て緊張してハゲそうになりながら家に電話かけた。
どうか、どーうかお義姉さんが出てくれますようにて願いながらかけたけど、
神様は当然とばかりに光傷つけたバツでっせーと光のオカンを召喚しやがった。
名乗って挨拶してる間、無反応の光のオカンに俺のなけなしの肝っ玉は縮み上がったまんまやった。
「あっあのっ…光君ご在宅デショウカ…?」
緊張で何や片言になってもうたがな。
『さあ、まだ戻ってない思いますけど?』
「そ…そうですか…」
さあって何やねん、さあて。
光の事なんかどうでもええって感じやった。
あんなオカンでよぉ光グレへんかったなあ…びっくりして緊張なんかもうふっ飛んだわ。
通話ボタン押して次誰にかけようか思てアドレス開いてたら、いきなり着信あってビビった。
画面には白石蔵ノ介の文字。ああ嫌な予感。
「…白石?何?」
『自分、今どこ?』
出るなりなんやねん。
俺は面食らいながら正直に答えた。
「は?どこて…地元駅やけど……」
『丁度ええわ。そのままうち来ぃ』
「はあ?!」
ほんまに何やねん。
それどころちゃうっちゅーねん。
けど白石は全部知ってますよーて声で平然と言うた。
「財前やったらユウジが回収した言うてたから大丈夫やで」
「え……何で…」
「ほなそーいう事やから、5分で来い」
「また和田アキ子かい!!無理じゃボケ!!」
お前の家まで電車で何十分かかる思とんねん。
光より酷い無茶振りや。
けど俺の抗議も虚しく電話は切られてしもた。
それよりユウジんとこおる言うとったな。
俺はそのままユウジの携帯にかけた。
しばらくコール音が続いて、留守電寸前でやっと出てくれた。
『うーるさいどー!切んでー!』
出るなりそれかい!!
思わず誰もおらん宙目がけて止めるように腕伸ばしてしもたわ。
「あっ!ちょっ…待てや!!光一緒におるんやろ!?」
『あー?おったらどないやねん』
「ちょっ…今から迎えに行くから!引き止めといて!」
『来んでええー!つがいで迷惑なやっちゃなーほんま…折角小春んとこ遊びに行こ思てたのに、うっかり途中でふらふら歩いとる光拾てしもて…」
それでもほっとかれんで連れて帰ったんや。
何やかんや言うて優しいなあユウジは。
しみじみ呑気にそんな事考えとる場合やなかった。
『……お前、義姉ちゃんに何言われた?』
鋭い声に、体が固まる。
泣かしたら承知せんて。
そう言われて、ケツ蹴られたんや。
「…光泣いてんか?」
『はあ?!あのへんこが?!ありえへんあの意地っ張りが人前で泣くかぃ。ほんで俺の前でなんか死んでも泣くかぃ。馬鹿にされて終わりやがな』
「え…ほな……」
『とにかく!今はちょぉ根暗モード入っとるし、しばらくうちでほっとくわ。小春もおるしそのうち気ぃ晴れるかもしれんし』
「……わーった…何かあったらすぐ連絡頂戴…」
『おーほななー』
電話切ったらもうすでに白石の言うてた5分が過ぎようとしとった。
約束の、っていうか嫌がらせとしか思えん時間を大幅に過ぎて40分後に白石の家に着いた。
「もっと情けない顔してんか思たわ」
出迎えてくれて第一声、白石はそう言うて笑った。
俺どんな顔してんやろ。
自分では見えんよって解らんわ。
部屋入れてもろてどっから話したらええやろいって考えた。
っていうか何でこの急展開にこいつはついてきとんねん。
まだ2時間ぐらいしか経ってへんのに。
「…光から連絡きたん?」
「いや、ユウジから。えらい根暗スイッチ入った光ひろてしもたーって連絡きてん」
俺は勧められたやたら座り心地のええ座布団に腰下ろす。
白石の部屋は相変わらず健康グッズだらけで落ち着かんわ。
この座布団もケツの形になるよって逆に落ち着かん。
そわそわしながら白石の言葉待つけど何も言うてけーへん。
それどころかヨガ始めよった。
「おい!何やねん自分…人の事呼びつけといて…何か話あるんちゃうんけ?」
「話聞いてほしいんはお前の方やろ?」
うっ…その通りなんやけど。
黙ってたら白石は変なポーズとりながら背中向けた。
「自分の中で話まとまったら言いや」
「……解った…」
ここまで言われるままに来たけど、結局俺こいつに何話したらええんやろ。
何や上手い言葉見つからんわ。

結局何も言えんまま1時間が過ぎてしもた。
「ほんで、いつまで地蔵になっとるつもりや」
一通り体操やらヨガやらし終えて白石が水飲みながら来てテーブル挟んで目の前座った。
「いや…うん……あん、な…俺、めっちゃ勘違いしとってん」
「うん」
「光は、な……光、俺の事疑ってんや思ててん…二番目にして言うたんも……俺がそうのうち別れる言うた時傷付かん為や思っとってん」
光の勝手で俺の思いないがしろにされたような気分になってたけど、ほんまは逆やった。
アホやわ俺。
ほんま光の何見てたんやろ。
「光は…自分が誰かの一番になる……そんだけの価値のある人間やないて思てるみたいや……」
「……ずっと蔑ろにされてきたからやろな」
光は自分自身を認めてへん。
いや、認められへんねやと思う。
あのオカンやオトンやったらしゃーない気ぃするけど。
散々存在否定されてきたんや。
自分なんか、って思って当然やわ。
「何でやねん―――…ほんまないわ…」
「なあ?謙也なんかに財前が勿体無いっちゅーんなら解るけど」
「……お前なあ」
はっきり言いやがって。
けど光は自分で思てるほどあかん事ないのに。
むしろ成績は常に上位五位以内で頭はええし運動もできて顔も良くて、他の奴が聞いたら怒りそうなもんやで。
自信過剰や自意識過剰はウザいけど、あんだけ恵まれてんのに卑屈なんも考えもんやなあ。
どうやったら光は自分を好きになれるんやろ。
あいつもしかして、俺好きんなる前に自分好きにならなあかんのとちゃうか。
「けど、俺も財前の家の事は詳しぃによぉ知らんからなあ……」
「"せやったらユウジ君に聞いてくださいよー"」
「うわあああ!!!」
びびびびびびびっくりした!!
光の声したから何かと思たらいきなり背後にユウジ湧いて出てきてるし!!
しかも小春までおるし!
「なっ…なんっ…おまっ…ええ?!」
何でここおんねん自分ら、て言葉が出てけぇへん。
白石も流石にびっくりしたんか目ぇ丸ぅにしとる。
「上がらしてもろたわよ蔵りーん」
「光やったらいけるて。兄ちゃん帰ってきたよって預けてきたわ。俺より甘えやすいやろし」
ユウジと小春は勝手に部屋に上がりこんで隣同士に座る。
小春なんか白石のオカンからもろたってお茶の用意まで持ってきとる。
何やねんこいつら。
俺は一瞬光どうこうよりこいつらが何でここにおるかの方が気になったわ。
「どや、謙也ー?あいつほんま扱うんえらいやろ?扱い辛ぁてしゃーないやろ?」
「あー…まあ…けど面倒やとかウザいとかは全然ないで」
「ほーん……まあええわ。あいつナルシーぶっとるけど腹ん中では全く自分の事認めてへんからなー」
せやから何でも出来るだけ頑張って、頑張って、完璧目指して頑張っとるんやろか。
ああ、そうか。それで白石の事も慕ってんやろなあ。
こいつ性格はともかく理想的な能力配分で生まれてきましたーって感じやし。
性格はともかく。……2回も言うてしもたわ。
「あんなにええ子でみーんな光の事大好きやのに…ねえ?」
小春の言葉にユウジが俺は別にあんな生意気なガキ好きやないわーって怒っとるけど、それもたぶん嘘や。
せやなかったらこんな風にわざわざここまでけーへんやろし。
「ねえ、蔵りん?」
一人ぷりぷり怒るユウジはほっといて、今度は白石に振った。
白石は苦笑いしながら俺をちらっと見て、せやなあって頷いた。
やっぱ光は自分で嫌がるほど光自身は悪い奴ちゃうんや。
何や日本語変やけど。
「そういや、光のオトンとオカン会うた事あるんか?自分」
早よこの話題から逃げたいんか、ユウジがそんな事を聞いてくる。
「え、あー……オトンは一回…ちょぉ挨拶しただけやけど。オカンはさっき電話したら出て喋った…それもちょっとだけやけどな」
「あーそれでええて。オトンはまあちょっと冷たいだけでそない悪ないけど、あっこのオバハンほんま最悪やど。
今まで生きてた中でいっちゃん最低な人間や」
一応光のオカンやし、あんま悪いようには言いたない。
せやけど話に聞く感じやさっきの電話や、何より光の苦しむ姿にユウジの言葉に賛同せざるをえん。
「旦那の浮気全部光のせいにして、まあ浮気する方も悪いけどあのオバハン見とったらしゃーない気ぃするわ。
あんなキッツイ嫁はん家おったら誰も家帰りたないで」
「光のせいて……」
「お前がええ子にせんからお父さん帰ってきやはらへんねや、て言うててんて。
光は当然のように必死にええ子になろうって勉強も運動も生活態度も努力して褒めてもらお思たのに…オトンはあんま家寄り付かんかってん。
当然やわな。別に光のせいちゃうし」
元々子供の成績以外に無関心で金銭的な援助以外に手ぇ貸さんかったオトンと、特別出来のええ兄貴だけを可愛がったオカンに挟まれて、
光はずっとどんな思いでここまで生きてきたんや。
何やもう泣きそうや。
って思て横見たら先に小春が号泣しとって涙引っ込んでしもたわ。
「光ちゃん可哀想やわ〜〜!」
「あんなクソガキの為に泣かんでええんやで小春ぅ〜〜!!」
「誰があんなガキやねん!可哀想や言うとるやろがコルァ!」
何なんやこいつら。
漫才やったらいんでやれや!
「どんだけ努力しても満足いかん…か」
「白石?」
小春とユウジのやり取りなんか我関せずに呟く。
「ん?いやな、そうゆう考え方てアスリートには必要なもんやん?飽くなき探究心!みたいな」
「せやけど…限度あるわ。光のはちょぉ異常やで」
「せやなあ…財前の場合お前好きになる前に自分好きにならなあかんな」
ちょっと前に自分で思てた事言われた。
自分で思う分にはええけど人に言われると腹立つなー…
ぎゃーぎゃーやかましぃにしとったユウジやけど、携帯の着信に態度翻した。
内容的にそれがユウジのお兄さんからで光に関する事やて解ってちょっと焦った。
けどただ単に光が寝てしもて近づけんから今日はこのまま泊めるって事だけやった。
「やて。て事で泊めてもらうでー白石」
「うちはかまへんよ。お前らどうすんや?」
「ほなアタシもっ」
「俺は…」
光迎えに行きたいんやけどなあ。
けど寝てる言うてたしどないしょ。
「今行っても兄ちゃんのバリケードで光は返してもらえんで」
「は?!」
「うちの兄ちゃん、光の兄やんより光溺愛しとるからお前みたいな狼近寄らしてもらえんど」
「光の…お兄さんより…」
思わず生唾飲んだわ。
光のお兄さんはほんまに光可愛がってる。
それ以上て、どないやねん。
しかもよその子やし。
「光盲目溺愛歴15年やからな」
15…て、生まれた時からかい!
年季入っとるなー…逆に感心するわ。
「まあそんだけ溺愛しとんねやし、心配いらんわ。任しといたらええねん」
何やちょっと別の意味で心配なるわほんま。

なんというか、コハユウは神出鬼没のイメージがある。何故だろう。
気ぃついたら背後にいてそうな感じ。
そして小春は全てお見通しなのです。
光の闇は謙也さんにしか救えないはずだ、と信じてますよ。

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