ここからが謙也さん本領発揮だよ。がんばれ謙也。
っていうか…中学って普通試験休みないんですかね。
うちの学校は試験休みと重なって冬・春休みも平気で1ヶ月ぐらい休みやったんやが…
まあ都合よくそういう設定にしといてください。
Guilty or Not guilty14
ほんまに些細な変化やってんけど、それに気付いて俺は天にも昇る思いやった。
まあそれは大きな話やねんけどな。
光が俺を謙也さん、やなくて謙也くんて呼ぶようになった。
ちっこい頃からよぉ知ってるユウジぐらいや、君付けで呼んでるんは。
せやから同じぐらい心許してくれるようになったんやって嬉しなった。
確実に光の中に入れてもらえてる。
あの日以来、両親のおらん隙狙て家にも呼んでくれるようにもなった。
まあ家にはお義姉さんがいてはるよって二人きりって訳にもいかんけどな。
けど光の部屋はあんなやし、部屋にカギかけたらロフトで思う存分いちゃつける。
光は涼しい顔しとるけど、めっちゃやらしい。
ひんやり冷たくてしっとり吸いつくみたいな肌の感触がうちで飼うてるイグアナっぽいなあ思った。
そんなん言うたら怒ってもうエッチさしてもらえへんかもしれんからよぅ言わんけど。
俺は褒めてるつもりやねんけどな。
爬虫類の肌触りたまらんし。
けどそれは光には今一つ伝わらんようや。
それでも二人でおる時は光も謙也くん謙也くんて甘えてくれるから、つい調子に乗ってしもた。
焦るつもりはなかったんや。
ゆっくり光の傷が癒えるまで待つつもりしとったのに。
何てことしてもうたんや。
焦って、つい焦ってしもて光に言うたらあかん一言を言うてしもた。
納得したつもりしとったけど、やっぱり自分の中では納得いってへんかったんや。
前よりずっと近くにおって、二番目に好きやなんて、心にもない事言われへんようになってた。
せやからつい言うてしもたんや。
期末試験も終わって試験休みという名の補習期間に入った。
赤点でも取らん限りは関係ない事やから、実質冬休みになったようなもんや。
部活以外に理数科だけの特別授業はあったけど、それでも普段よりは比較的時間に余裕はある。
それは光も同じで受験勉強もそこそこにうちに入りびたってた。
今日は俺も光も休みになったから俺の部屋で二人でもたれ合いながら何するわけでもなくぼーっと雑誌読んだり漫画読んだりしてた。
丁度1巻読み終えて、隣見たら光はまだ参考書読んでる。
けど横顔見てたら我慢でけへんようなって、ぎゅって抱き締める。
唐突な俺の行動に光はしゃーないっスねって言いながら参考書閉じた。
「光が好きや」
「うん。俺も好きですよ」
何でもないみたいに返してくるけど光の表情はいつもよりちょぉ綺麗できらきらしてて嬉しそうにはにかんでる。
ああほんま好きや。
言葉じゃ足りへん。
もっともっと光に伝わってほしい。
光に解ってほしい。
俺はこんなにお前が好きなんやって。
そんなエゴが光を苦しめてしもた。
押し付けるようなもんやなかったのに。
「光…好きや…ほんまに…」
「謙也くん?どないしたん?」
切羽詰まった様子に光がおかしいて気ぃついたみたいや。
どうしたんって顔覗き込んで頭ぽんぽん撫でてくれる。
ああ可愛い。こんなんしてちょっとお兄さんぶって慰めやがって。
けど全然心が落ち着けへん。
「謙也くん重い」
圧し掛かるみたいに抱き締めてたから腕ん中で光がもぞもぞ動いて文句たれ始めた。
「謙也くーん?そのまんま寝んといてくださいよー?」
「光……光…」
「せやから何なんですか」
さっきまでのやらかい声やなくなって、ちょっとイラっとした感じに溜息つかれてしもた。
俺は体離して項垂れる。
「なあ、ほんまに解ってる?」
「何が?」
「俺は光が好きやねんで」
「だから俺も好きですってば」
「ほな何で二番目とか言うねん…」
顔上げて光の顔見たら、強張ってるんが解った。
ずっと避けてた話題やからな。
けどやっぱりずっと心の中のもやもやになってた。
俺はそんなに信用ないんやろか。
白石が光はてっぺん恐怖症や言うてた。
もし捨てられたらってその後ん事考えたらって、それに怯えてるんやて。
けどもうそれはない。
絶対かて言われたら断言でけへんけど、それでも、少なくとも俺は光を離すつもりはない。
気持ちが離れるとか、何があってもない。
そんな見えへん先に怯える必要ないんやって言うてやりたい。
っていうか言うてやった。
固まって動かんようなってしもた光の肩抱き締めて。
「なあ、ずっと言うてへんかったけど、めっちゃ気にしとってんで。何や俺の気持ち疑われてんちゃうかって…」
「そんなん…ちゃんと信じてますて。謙也くんの言葉、全部…」
「ほな別にええやんけ!俺は光が一番好きやし、一番大事やねんで?今まで光の言うた通りに返してたけどほんまは全然納得いかんかったんや。
ずっと俺の一番好きなんは光なんや!」
どうか通じてくれ。解ってくれ光。
俺の言葉信じてって思いながらゆっくり顔上げたら、光は見た事もないような顔しとった。
「……光?」
目ぇおっきく見開いて、唇震わせて真っ青になってる。
光は何か言いたいんか口ぱくぱくさしてるけど、音にはなってへん。
数十秒空けてやっとかすれた声がする。
「……んで…」
「え?」
「何…でそんな事言うんですか!!!最初…最初に言うたやないっスか!二番目がええて!」
何で?
何で光はこないにかたくなに拒否ってんねや?
「一番とか…そんな言葉あんたから聞きたいんちゃうわ!!」
感情的な光を初めて見た。
こんな風に声荒げて怒鳴る光を初めて見た。
いっつも瓢々と、淡々としててこんな興奮する事なんかなかったのに。
「けど最初っから俺はずっと光ん事一番に好きやったんや!」
俺の言葉はいっこも通じてへんて事やろか。
光は頭抱えて耳塞いで俺から逃げるように体ごと逸らした。
「そんなん……知らん、聞きたない…知らん!知らん!!」
「光!聞けや!ほなお前はどうやねん!そんな風に逃げてばっかしで、俺がほんまに他の奴一番やて言うてもええんやな!?」
心にもない言葉やった。
けど俺も伝わらん事につい頭にきてしもて、そんな事言うてしもた。
途端に光は動き止めて、怯えたように俺に視線向けてきた。
「ええもなにも……しゃーないやん…せやかて俺………俺…」
次の言葉に俺は、光が全然違う方向見てるんやて気付いた。
俺も、白石もとんでもない勘違いしとったんや。
「そうやわ……俺みたいなん…謙也くんの二番目かてもったいなかったんや…」
「……え?」
「また勘違いしてしもた…もう懲りとったのに…アホや俺………ちゃんと解ってたのに…あんた優しいから…」
頭抱えて泣いてんかと思った。
けど光は何の感情もないお面みたいな無表情のまま俺を見て、すいませんでしたって謝ってくる。
「光?どないしてん!勘違いって何やねん。お前何も間違えてへんねやで?!」
「ええんです!もうほっといて下さい!!俺はあんたの一番にしてもろてええような上等な人間ちゃうんやから!!」
光は俺の制止も振りほどいて荷物まとめて出て行ってしもた。
光の闇の底に溜まってたもんがやっと姿を見せた。
あいつはてっぺんを怖がってたわけやなかった。
最初からとんでもない勘違いやったんは俺の方や。
ああ俺は何て事してしもたんや。
頭抱えて思わずその場にへたり込んだ。