WISH!5

§:赤也


昨日は散々だった。
折角柳さんに勉強教えてもらおうと思ってたのに、次から次へと色んな奴がやってきて。
俺が聞いてんだっつーの。
でもほんとはちょっと嬉しかった。
すげー誇らしかった。
そんな色んな奴から頼りにされてる人の一番になれたんだって思ったら顔のニヤケが止まらない。
でも!!ソレとコレとは話が別。
今日からは絶対ぇ誰にも邪魔させない。
って思ってたのに……
部室には何故か小姑の如くダブルス陣4人がいて、柳さんに張り付いてた。
また!?
何っでこの人たち俺らの行く場所行く場所で待ち構えてんだよ。
タイミング良すぎるってマジで…!!
でも昨日の約束守ってくれて柳さんは俺だけに教えてくれた。
あれは流石にガキっぽかったかって反省したけど、やっぱり言っといてよかった。
でなきゃまた邪魔されるとこだったし…
でも今日は邪魔されなかったけど、先手打って邪魔されてた。
下校時間迎えて、皆揃って部室出たところで丸井先輩に言われた。
「赤也。明日柳ちょっと借りるぜぃ」
「はあ?!」
「かまわんやろー…いーっつも参謀の事独り占めしよって…たまには俺らにも貸しんしゃい」
仁王先輩と丸井先輩に両脇からがっちり肩組まれて言われて何も言えない。
ドアの前でカバンの中に手ぇ突っ込んで部室の鍵探してる柳さんに目で訴えるけど申し訳なさそうな顔を返されるだけ。
何で?!
昨日約束したのに。
土曜の昼からは一緒にって。
「赤也…申し訳ない…」
「ちょっ…ちょっと!約束は?!」
仁王先輩たち振り払って柳さんに食い下がる。
だって明日は昼からずっと一緒にいれると思ったのに酷すぎる。
「落ち着け赤也」
アンタは落ち着きすぎだ!!
「だって俺の方が先に約束してたのにっ…」
「最後まで聞け」
こっちおいで、って言って先輩達から少し離れた場所に連れて行かれる。
何だ何だ…
俺は小姑たちが後ろついて来ないよう睨みつけておく。
「5時には解放してくれるそうだから、それからで構わないか?」
「ごっ…5時って…明日最終下校5時半っスよ?!30分しかないじゃないっスか!!」
「だから、最後まで聞け。……うちに来ないか?」
「…えっ……柳さん家?」
「ああ。明後日は日曜だし、その方がゆっくり勉強できるだろう?」
これは……泊まりって事?!
展開早くねえか?!
「言っておくが、目的は勉強だからな」
チッ……先に言われてしまった。
でも…でも柳さん家行けるんだ……
門の前までしか行った事なかったけど、あの中に入れるんだ。
「都合つかないか?」
「いっ…行きます!絶対!何があっても!!」
「では明日5時半に駅で待ち合わせよう」
「ハイッ!!!」
やった…やったーっっ!
今度こそ二人きりだ!!
完全に舞い上がってて、すぐ後ろに小姑ズがいる事に気付かなかった。
いきなり後ろからガッシリ首に巻きつかれて一瞬息が出来なくなった。
「ぐえっっ」
「感謝しろよ赤也ァー!」
「まる…いせんぱっ……」
息!息できねえ!!
必死になって丸井先輩の手から逃れたら、今度は仁王先輩が無言で何か握らせてきた。
ん?何だ?
「――――……っっ!!!???」
「赤也…頑張りんしゃい」
「っっちょっ…!!何っスかこれっっ!」
こっそり握らせてきたのは小さくて丸くて平べったいゴム製品。
「何じゃお前、中二にもなってコンドームも知らんのか」
「モノの名前聞いてんじゃないっスよ!!」
何考えてんだこの人!
「やって泊まりなんじゃろ?」
「勉強合宿っスよ!!」
「……全く期待してないって…訳やないよなァー赤也」
そっ……それは…そうだけど…
けどダメだダメだダメだダメだ!!
耳元で囁く銀髪の悪魔を振り払う。
けど、今度は赤髪の鬼に捕まった。
「赤也ーお前言ってたじゃーん。柳見てるとイライラムラムラするって。突っ走りすぎて無理させんなよー」
「ちょっ…だからっっ…っ!!」
うぇ?!
いきなり手ぇ掴まれてゴムを取り上げられた。
何だ!?って思って振り返ったら、柳さんだった。
鍵掛け終わって近付いて来てた気付かなかった…
げっ!……怒ってる?呆れてる?
俺の所為じゃねえのに!!
ううっ…怖いよーすんげー顔してこっち見てる。
「これは俺が預かっておこう。妙な気でも起こされては大変だ」
ん?あれ?怒ってない?
っていうか…預かってって……それってGOサイン出れば使っていいって事?
ぽかーんって柳さんの顔見上げるけど、この人が何考えてるかは解らなかった。
「仁王君!丸井君!悪ふざけもいいかげんになさい!」
「協力してやってんじゃん」
柳生先輩の説教に仁王先輩はジャッカル先輩盾にして面倒臭そうな顔して、丸井先輩は思いっきり不満気に口を尖らす。
協力って…面白がってるだけじゃねえか!!
「お前達も、あまり赤也に変な入れ知恵をするな」
柳さんにそうやんわり言われてやっと仁王先輩たちは俺を解放してくれた。
くっそー…変な事言ってくれた所為で柳さんに誤解されたじゃねえか。
そりゃ……全然期待してないわけじゃないけど…けど……
手も繋いでないのにいきなりそんなステップアップの仕方なんて出来るわけねえし。
……まあ手は繋いでないけど別の触られ方は色々してるような…膝乗っけられたり首筋触られたり。
平気な顔してっけど…もしかして俺、全然意識されてねえのかな。
俺は柳さんに近付くだけで死にそうなぐらい心臓バクバクいってんのに。
あ、けど心拍数早まって早死にするのどうのって言ってたし……
「……也」
うーん…
「赤也」
「ほへ?!」
やべっ
妄想の中の柳さんに気を取られてて声かけられてんのに気付かなかった。
「どうした?ボーっとして」
「いや!何っスか?」
「明日、楽しみだな」
「へ?」
「うちに誰かが泊まりに来るなんて初めてだから俺も楽しみだ」
今なら俺、幸せ死できる。


次の日の午前中はうわの空になりそうなのを堪えるのに必死だった。
しっかり授業聞いとかないと70点取れないし、でも今日の事考えると意識は全部そっちに飛んで行きそうだし。
悶々としたまま4時間過ごして、教室を出た正面の壁際に柳さんたちが立ってた。
さっきから廊下騒がしいと思ってたら…これか。
二年の教室の方にまで先輩達が来る事なんて滅多にないから女共のウルサイ事。
ええぃムカつく!
お前らは仁王先輩と丸井先輩だけ見てろ!
柳さんは見んな!
減る!
「柳さん!」
ハイハイ、どけどけ。
ったく…柳さんが減ったらどーすんだ!
わらわらと集まり始めた女子を散らすように掻き分けて柳さんの前に立った。
そんな女共には目もくれず、俺だけを真っ直ぐ見てくれるのが嬉しい。
「赤也。駅までは一緒に帰らないか?」
「ういっス!!」
やった!!
女子に囲まれてお菓子貰ってる丸井先輩とそれに付き合ってる仁王先輩は放っておいて、
俺と柳さんは先に昇降口向けて歩き始める。
「あの、今日どっか行くんっスか?先輩達と」
「ああ…何か俺に見せたい物があるらしい」
「ふーん…」
それって俺もついてっちゃダメなのかなー…
「お前は試験勉強」
何で顔見ただけで俺の考えてる事解るんだこの人は……
「英語の試験範囲を踏まえた問題を作ってみたからこれをやっておく事。うちに来てから採点をするから」
そう言って渡されたルーズリーフ3枚には柳さん直筆の問題が書かれてる。
「えっ……わざわざ作ってくれたんっスか?!」
「ああ。頑張れよ」
俺の為に…そう考えるだけで嫌な英語の勉強もはかどるってもんだ。
俺は折れたりシワになったりしないように大事にそれをノートに挟んでカバンに入れた。
そして昇降口出たところで仁王先輩たちが追いついて来る。
丸井先輩…お菓子いっぱい詰まった紙袋持ってむちゃくちゃ幸せそうだ。
何で女子っていっつも甘いモン持ち歩いてんだろ…すげえな。
じーっと見てたら「やらねえからな」って怒られた。
いらねえし。柳さんだけで充分だし。
駅までの道のりはあっという間だから大して話す間もなく着いてしまった。
でもこの少しの時間も一緒にって思ってわざわざ迎えに来てくれた。
ダメだ幸せすぎる。
でも柳さんはいつもと逆方向の電車に乗って先輩たちとどっか行ってしまった。
むー…つまんねえ…
けど帰って柳さん家行く用意して、柳さんの作ってくれた問題集やらねえと。
そう考えると5時まであんまり時間ねえな…
俺は急いで家に帰った。
大きめのカバンに着替えとか教科書とかノートを詰めて、持って行く荷物を用意する。
それから勉強机に向かって問題集をやった。
解説付きで俺でも解るように作ってくれてある。
柳さんが俺の為にわざわざ時間割いて作ってくれた。
それを考えるだけで嬉しくて机に突っ伏して足ジタバタさせてると後ろからいきなり頭を殴られた。
「ってぇ!!!」
体起こして振り返ったらお袋が立ってた。
「ちょっ…勝手に入ってくんじゃねぇ!!」
「ノックしたのに返事しないからでしょ」
「何の用だよ」
変なとこ見られて恥ずかしくてぶっきらぼうな言い方になってしまう。
「あんた今日先輩の家にお邪魔するんでしょ?お土産買ってきたから持って行ってね」
「あーハイハイ。そこのカバンとこ置いといて」
差し出されたのはこの辺じゃ知らない人がいないってぐらい有名な和菓子屋の紙袋。
昨日泊まりに行くつったからわざわざ買いに出かけたんだな。
「先輩ってイイとこのお坊っちゃんって感じするけど、こんな安菓子で大丈夫かしらね?」
「お坊っちゃんっぽいんじゃなくてお坊っちゃんだよあの人は。っていうかそんな変な見栄張んなくていいから」
「やっぱり!あんたなんかお邪魔して大丈夫なの?迷惑かけんじゃないわよ?」
「ハイハイ」
「ケーキかクッキーにしようかと思ったんだけど、イメージ的に和菓子よねえ、あの子」
「解ったから!!」
折角のやる気に水差すなよ!マジで出てけ!!
そう思って睨むんだけど、この人にそんなの通用するわけがない。
「あら、何やってんの?手書きの問題集じゃない」
勝手に見るんじゃねえ!!
慌てて隠そうとしたけど一歩先に取られてしまった。
「まー綺麗な字ねー!これも先輩が?」
「そーだよ!…柳さんが作ってくれたの!」
「それでさっきバタバタ一人で喜んでたの?やーらしい子ねー」
「るっせー!用が終わったら出てけよ!」
「勉強だけでなく字も習ったらどう?」
「聞けよ人の話!!」
っていうか学校では小姑ズに邪魔されて、家ではこいつに邪魔されて……
何で俺ってこうなんだ?

 

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