万が一千歳と白石が男子設定だと間違いなく謙也は負けそうだな・・・・・・
だが千歳はホルスタインがいい。おっぱいおっぱいぼよよ〜ん。
あ、ワンフー=ファンね。白石は追いかけられる側なので基本ワンフー呼び。
自分で自分のファンって言うの恥ずかしいわ、みたいな。
アンジェラス シルキー9
メールの着信を知らせる為にポケットの中で震える携帯電話を鬱陶しそうに取り出し、差出人を確認する。
それが迷惑メールでなく無二の親友からである事に千歳は中身を開いた。
読み進めていると、屋上の扉が軋む音を立て、開くのが見える。
五時間目の授業はすでに始まっているのにと思いながら視線をそちらに向けると、見慣れた姿があった。
「光…」
「あ、ちーちゃん」
屋上の中央で寝転んでいた千歳が体を起こすと、扉から出てくる小さな姿が見える。
すぐに財前も千歳の存在に気付き、小走りで近付く。
そして肩にかけていたハードケースを地面に置くと千歳のすぐ隣に座り込んだ。
「いけんよー授業ばちゃんと受けんと」
「自分かって受けてへんやん」
「うちは高校生やけんええの。光はまだ中学生っちゃろ?」
「高校生かってあかんよ」
千歳は不満げに唇を尖らせる財前の頭を撫で、サボるなんでどうしたんだと尋ねる。
しかし光がすぐに口を開くはずもない事は熟知している。
それ以上は突っ込んで聞く事はしない。
代わりにその場に寝転び、光もそうするように促した。
「サボるんなら一緒にお昼寝せんね?」
「淋しいんやったら一緒にしたってもええですよ?」
「もー…ええけん、おいで光」
可愛くない口をきく財前の腕を引っ張り込むと、向かい合わせになるように隣に寝かせ腕に頭を乗せてぎゅっと抱き締める。
「光の体は冷たかねえ」
「ちーちゃんは熱いわー」
「嫌?」
「ううん。ちーちゃんの腕枕めっちゃ好き。ふわふわであったかくって安心する」
財前は千歳の豊満な胸に顔を埋めるように体を摺り寄せ、にっこりと笑った。
普段無表情な彼女が柔らかい表情を向けてくれる瞬間が千歳は大好きだった。
今は機嫌が良いように思える。
ならば一体何があったのだろう。千歳は白石からのメールを思い出しながら財前の様子を伺う。
「光の甘えん坊ー」
「ちーちゃんが甘やかしてくるんやん」
「こんなんじゃ光の彼氏んなる人はえらかねー」
「うちちーちゃんと蔵ちゃんおったら彼氏なんかいらんもん」
ぎゅっと体に抱きついてくる財前を愛しげに抱きしめ、そうかそうかと頭を撫でる。
「謙也はどげんね?最近仲良うしとっとやろ」
「忍足先輩?先輩は友達やし」
「友達?」
「うん。友達になりたい言うてくれはった」
そんなもの、親しくなる為の口実に決まっているだろう。
だが財前は額面通りに受け取り本気で友達だと認識しているようだ。
まだまだ道のりは遠いな、と千歳は思わずほくそ笑んだ。
こんなに可愛い後輩をあんな奴にそう易々と渡してなるものか。
しかし存外に彼は財前の心を捕えているようだ。
「今までちーちゃんらの足掛かりにすんのに軽く付き合おー言う奴は多かったけどな、
友達とかそんなん言われた事なかったからちょっと新鮮やった」
「そう…なら何で、昼休み会うてやらんようになったとや?」
「え……」
財前は大きく目を開いた後、居心地悪そうに目を逸らす。
何か理由があっての事だったのか。
千歳は財前の頭を撫でながら辛抱強く財前の言葉を待った。
しばらくするとぽつりと話し始める。
「……迷惑んなるよって…」
「迷惑?謙也と一緒におるとが、何で迷惑になるんね?」
また財前は口を閉ざしてしまう。
「理由は言えんと?」
「…怒れへん?」
「怒らんよ」
怒るような理由なのか、と思えばその怒りの矛先は別の場所へ向けられるべきものだった。
「……こないだ、な……何や知らんけど変な女に囲まれてな…お前みたいなブス忍足先輩の側おったら迷惑なるんやから近付くな言われた」
「なん…何やて?!」
「ご…ごめんな」
「あ、いや光に怒ったわけやなかとよ。その近付くなって言ったの同じ学年の子ね?」
「たぶん…中学の制服着とったし」
そういう事だったのか、と怒りを腹に治めながら、千歳は腕の中にいる財前の頭を優しく撫でた。
「光はブスなんかやなか。可愛かよ。世界一可愛か。うちが男やったら絶対彼女にしとったと。こぎゃんむぞらしか子、うちの学校どこ探してもおらんばい」
財前はあやすように何度も何度も頬や額にキスする千歳に満面の笑顔を向けそれに応える。
「ちーちゃんにそう言うてもらうだけで十分やわ。うちもなちーちゃんがもし男の子やったら絶対彼氏にする!ちーちゃんやったら背ぇ高くって絶対カッコええわ」
「そしたら、男んなった白石と取り合いになるっちゃ。あいつとうちで光の争奪戦になるとや」
「うわー二人に取り合いされるとか幸せすぎやー!ほんならなー絶対どっちか一人とか選ばれへんからうち二人と付き合うわ!」
「付き合う前から二股宣言って…光は小悪魔ちゃんばい」
「何でもええわー絶対二人に幸せにしてもらうもーん」
千歳の胸に埋めていた顔を上げ、お返しだと千歳の頬にキスをする。
過剰なスキンシップを好む白石や千歳と違い、財前からこうして積極的に触れてくる事は少ない。
こんな風に甘えるなど、本人の知らないうちの傷付いているのかもしれない。
そう思い、千歳は何度も背中や頭を優しく撫で続けた。
千歳は上手く聞き出してくれだしたのだろうか、などと呑気に考えながら放課後の部活に勤しんでいると、
コートの外から流れてくる殺気に謙也は思わず身震いする。
体は拒絶するが好奇心に負け、そちらに視線をやるとフェンスの外で鬼の形相の白石と千歳が睨んでいる。
しかも目が合った瞬間物凄いスピードで二人が近付いてくる。
本能で危険を察知した謙也は逆方向に走り出すが、スピードスターの速さをもっても二人の迫力には勝てなかった。
コートから離れ校舎に差し掛かった頃、千歳の腕に捕らえられ背後から腕で羽交い絞めにされ首を締め上げられる。
「謙也ァ!!!死ねこのっっ」
「ぐえっっっ」
「お前〜〜〜…自分のワンフー管理ぐらいしっかりしとけや!」
「ええっ?!」
一体何だというのだ。
意味が解らないと口を挟む間もなく、横っ腹に白石からの鋭い蹴りが入った。
「ぐっ…ってぇ……」
「光があんた避けるようなったんは自業自得や」
「えっ…何?!やっぱり俺なんかしてたん?!」
「直接やってない事は評価したるけど…周りの不始末もお前の責任じゃボケ!」
「はあ?!」
窒息寸前にようやく解放され、地面に座り込むと謙也は二人を見上げる。
そして語られる話に謙也は一つ覚えがあった。
迷惑をかけるなと言っていた女、それは間違いなくあの告白をしてきた奴だろう。
財前と一緒にいる所を何度か目撃されて、その度に視線だけで殺されそうな程睨まれていた覚えがある。
確かにそれを放置していたのは自分の所為だが、そもそもそれは逆ギレ以外何者でもない。
「とにかく。あんたの身から出た錆なんやし、決着つけるまで光に近付くんやないで。近付いたら裸で夜中の校庭走らせるよってな」
睨みつけたまま白石はそう言い捨てるとコートへと戻っていった。
二人の姿が見えなくなった後、謙也ものろのろと立ち上がりユニフォームについた土を払い落とした。
そして肩を落としたままコートに戻った。