謙也さんの妄想力はどこまでも果てしなく。
光はFカップ。ふわふわおっぱいのF。3サイズは88/54/80。
ほんとに胸ばっか出ててバランス悪いので光は自分のスタイルが嫌いなのです。
ちなみに千歳はえろえろえっちなH、白石はダイヤモンドカップのDです。
アンジェラス シルキー14
廊下の端にある従業員用トイレを借りて、謙也は先程の声をオカズに下半身の熱を抜いた。
そして再び倉庫に戻るが中に入る事はためらわれる。
もし、万が一、さっきより大変な状況になっていたら。
そう考えるとなかなか扉を開けられない。
扉の前でうんうん唸っていると、背後から肩を叩かれ飛び上がった。
「なっ…な…え?小春のお姉さん…」
「何してるの?あ、着替えるって追い出された?」
「い…いや……あの、まあ…あ、あれ?それ何ですか?」
「見たい?」
謙也が答えるより先にニヤニヤと小春によく似た嫌な笑いを浮かべながら手にしていた紙袋を開けた。
「えっ……」
「じゃーん!可愛いでしょ?」
派手な声で演出して取り出されたそれを見て謙也は目を丸くする。
「ちょっ…なっ!!」
急いで目を逸らしたが、しっかりと頭に映像として張り付いてしまった。
キャンディやチョコレートなどのお菓子の描かれた可愛らしい赤い布地で出来たブラジャーが。
「あら?お顔真っ赤よー?ウブねー!」
先程の小春と同じような言葉でからかわれ、謙也は思わず睨みつける。
しかし流石小春の姉というべきか、全く取り合わずに話を進める。
「小春に頼まれてね、サイズの合った可愛いブラ買ってきてって。あの子細いのに胸おっきいのねー65のFやって」
「いや…あの……」
「サイズ大きくなるとあんまり可愛いのないから困るわー…けどこれは可愛いでしょ?」
「みっ…みみみ見せんでええって!勘弁してくださいよ!」
顔を逸らす謙也に見せ付けるように目の前にブラジャーを持ってこようとする小春の姉から逃れようと必死に目の前で手を振る。
「何よぉー折角やねんからよぉ見ときなさいよ!」
「せっ折角って何っスか!!」
「あ!解った!外より中が見たい?」
「……え?…はぁ?!」
中って何だ、と一瞬考え、先程ユウの指の間から見えた真っ白なやわ肉が頭に浮かび謙也は真っ赤になった。
「んもー可愛いわねぇ忍足君!あと10分ぐらいで着替え終わるから楽しみに待ってなさいねー」
若いわねーと小春と同じような高笑いを残し、小春の姉も倉庫に戻っていった。
折角治まった熱が再び上がろうとするのを必死に抑えながら、謙也は廊下の壁に背中を預けずるずるとしゃがみ込んだ。
「……やばっ…ほんまヤバいわ」
確かに自分がやろうと言い始めた企画だったがまさかこんな事になるとは。
いい思いもしたがそれ以上に精神疲労が大きすぎる。
何度も頭に映し出されるユウや小春のセクハラを受ける財前を振り払う。
だがあまりに強烈だった為、いくら振り払っても後から後から映像が流れ出る。
生々しい音声付きで。
このままでは治まりがきかないと、謙也はよろよろと立ち上がりもう一度トイレへと向かった。
丁度トイレから出て倉庫に戻ったタイミングと、中から小春が出てくるタイミングが合わさった。
「あら謙也君。おトイレ行ってたん?呼んだのにいてへんから心配したわよ」
「お、おお…すまんすまん…それよりもう着替えたんか?」
「もっちろん!可愛いわよぉ!!……ほらぁ光ちゃんっ!何やってんの!早よおいでって!」
小春が倉庫から外に出そうと腕を引っ張るが、なかなか財前は姿を現そうとしない。
「けっ…けどやっぱし変ですって!」
「変ー?!うちらの選んだ服に文句つけんかー?」
「そっ…そんな、違いますけど…!」
「ほなええやんけ。早よ行けや」
ユウに強く言われ、財前は小春に手を引かれようやく廊下に姿を現した。
その姿を見た瞬間、謙也の脳天は衝撃で打ち抜かれた。
雷に打たれた、というのは今まさに自分が置かれている立場なのだと理解した。
間抜け面のまま呆然と立ち尽くす謙也を見て、財前は勘違いをしてユウの立っている倉庫へと逆戻りしようとする。
「なっ、何やねんっお前っ早よ出ろや!」
「やっぱ変なんですって!!先輩も呆れてるし!!」
「ちがっ!!ちゃうよ!!めっちゃ似合ってるってほんまに!!!!」
謙也は慌てて扉を全開にするとユウの影に隠れようとする財前の手を引き廊下に引きずり出す。
ブランドが同じではあるが、着ている人でここまで変わるものかと感心する。
白石が完璧に着こなしている服を自分が着てはおかしいのではないかと財前は心配しているが、それは取り越し苦労というもの。
「ほえー…化けたなぁ…ほんまめっちゃええって!」
「おっ…おかしないですか?」
「全然!心配いらんてほんまに」
共布フリルが身頃についた真っ赤なノースリーブのブラウスに同じ色合いのチェックの三段フリルのスカラップミニスカートから伸びる細い足が目に入る。
更に真っ黒のニーハイソックスに挟まれいつも以上に肌の白さが強烈に印象付けられる。
靴ははいてきた黒のレースアップブーツをそのままはいているが、違和感なくハマっていた。
「足ばっか見てんなよ、変態」
「ちゃっ…ちゃうわアホな事言うなやっっ」
ユウに肩を叩かれ謙也は慌てて足元から目を逸らす。
「ね!光ちゃんっ折角オシャレしたんやし、謙也君とお出かけしてきたら?」
小春の提案は物凄くありがたい。
よく言ってくれたと謙也は心の中で拍手喝采をするが、大変な事を思い出す。
「あ…けどうち…今から蔵ちゃんらと約束あって」
すっかり頭から抜け落ちていたが、1時までという時間制限があったのだ。
謙也がポケットに入れたままの携帯電話の画面を見ると、制限時間の30分前となっている。
夢の時間はここで終わりかと思っていると、財前から思わぬ提案が上がった。
「…あ、そうや。先輩今から時間ありますか?」
「俺?ある!めっちゃある!!」
首が取れそうな程勢いよく頷く謙也にユウと小春は若干引き気味で見るが、財前は特に何も思っていないように言葉を続ける。
「野音でライブイベントあるんですけど、一緒に行きます?」
「行く!」
「ほんまですか?インディーズばっかなんで知ってるバンドとかおらんと思うんですけど…タダなんで」
間髪入れずに大きな声で返事する謙也に面食らい、慌てるように補足を入れた。
だが謙也の決心は揺るがない。
タダじゃなくても、小遣い全てつぎ込んででも構わない。
絶対に行きたいと謙也はぶんぶんと首を縦に振った。
「ねぇ!よかったらこれも貰ってちょうだいー」
倉庫の中から小春の姉に声をかけられ、財前は再び中へと戻っていく。
「よかったわねー謙也君っ」
財前がいなくなり、その隙にこっそりと耳打ちする小春に満面の笑みを浮かべるが、その後のユウの言葉に謙也の心が音を立てて崩れる。
「あいつらと一緒やけどなー…」
「うっ……それ言うなや」
「まあせいぜい頑張りや。手強いどーあの二人は」
乾いた笑いを浮かべながら軽く肩を叩かれるが、ちっとも景気づけにはならない。
若干暗い気持ちを抱えて廊下で待っていると、財前が戻ってきた。
その手にはショップバッグが大量にある。
「あの、こんなにもろてええんですか?」
「うん!もらってちょうだい!どうせ捨てるんやったらそっちの方がお洋服も喜ぶわ。うちの店の服こんなに可愛らしく着てくれてるんやもん」
「ほな遠慮のぉ……ありがとうございます」
小春の姉に笑顔で送り出され、四人は駅へと向かった。
それから小春は予備校が、ユウはバイトがあるとそれぞれに帰っていく。
二人にも礼を言い、財前と謙也は野音へ向かう電車に乗る為に移動しようと歩き始めた。
「あ、それ、荷物持つわ!」
「え?ああそんな…大した重さやないんで」
「ええからええから」
謙也は財前の華奢な肩に食い込む紙袋を取り上げる。
遠慮気味にしているが、財前も素直に厚意を受け取り頭を下げ礼を言う。
しかし謙也の思惑は別にあった。
何だか彼女の荷物を持ってあげている彼氏のようだ、と。
だがそんな邪な思考など財前が気付くはずもなく、ホームに滑り込んでくる電車に乗り込んだ。