紳士とかいう奴は信頼してはいけない良い例。
Absolute Crusher
§2
何となく察しはついとったけど、俺はあっさり陥落してしもた。
何にって、柳生比呂士にや。
悔しいけど押しに負けてもぉた。
こんなはずやなかったのに、負けてもぉた!!
あんなにキモい思とった妙に丁寧な態度も結構カッコええやんとか思いたくなかったのに、思ってもぉとる自分がおる。
ほんま嫌やけど、気持ちは止められへんかった。
こうなったら開き直った方がええわと思って好きやと返した時の嬉しそうな顔すらカッコええとか思ってしもた。
ああもう、ムカつく。
何やねん、こんなん俺ちゃうわ。
けど好きになってしもたんやからしゃーないやんけ!
ほんで好きになった所為で、こいつの事が気になって気になってしゃーないねん。
そう、好きになってもぅたんやから、しゃーないねん。
好きになったら色々やらしい事かってしたいしされたいし、そんなん当然やん。
せやのに相手はそんなつもりないんか清い交際を求めてきやがる。
くそっ、そんなん我慢できへん。
そう思とったけど、柳生さんの好きな子のタイプが"清らかな子"って聞いて思い止まった。
清らかって何やねん、清らかって。意味解らん!
清純派って事なん?それやったら俺正反対やんけ。
俺は好きな相手に理性的ではおれん。
けどそんなエロいとこ見せたら嫌われてまうんちゃうかって必死に堪えてた。
だいたい俺と一つしか変わらんのに、この人エロい気分になったりせぇへんねやろか。
坊さんかっちゅーねん。
いや、それやと師範っぽいな。
どっちかいうと修道士って感じか。
あ、めっちゃ似合いそう。カッコええかも、って今はそんな話してんちゃうねん。
今かってそうや。
俺が遠路遥々遊びに来てやってんのに、さっきから一向に距離は縮まらんし、何やどうでもええ雑談ばっかしとる。
折角柳生さんの部屋で二人きりやのに。
ええ加減我慢きかんようなってきた俺は、ちょっと賭に出た。
これで嫌われてしもたら、嫌やけど、このまんま悶々としてるよりはマシや。
そう思っておもむろに立ち上がって、それまでテーブル挟んで座っとったんやけど、すぐ隣に腰下ろした。
「如何なさいましたか?あ、もしや冷房が効きすぎていましたか?申し訳ない、気がつかなくて」
何でそうなんねん。
確かにさっきまで座っとったとこエアコンの風直撃しとったけど、何や興奮して暑かった俺には丁度ええわアホ。
折角隣ゲットしたのに柳生さんはいそいそとリモコン取りに行って部屋の温度上げて風量調節した。
ほんでさっきまで俺が座っとったとこに座ろうとするからちょっと拗ねた態度に出たった。
不機嫌全面に出してちょっと膨れたったらあからさまに動揺しとる。
あ、何か可愛いかも。
いっつもこっちが振り回されてばっかなんやし、たまにはお前が振り回されろ。
可愛ないん解ってたけど、ちょっと頬膨らまして顔逸らしたった。
オエー自分でやっとってキモい。
けど柳生さんには効果テキメンやったみたいで、めっちゃオロオロしながら近付いてくる。
「ど、どうしたんです?何か気に障る事でもしてしまいましたか?」
ほんまに申し訳ないですって顔で言われてちょっと可哀想になってしもた。
けどここで引くわけにいかんやろ。
俺は柳生さんが顔覗き込んでくる、真逆の方にそっぽ向いた。
「ざ、財前君?」
うろたえる柳生比呂士可愛すぎるやろオイ。
普段澄ましとる分そのギャップが結構くるもんやな。
もうちょっとからかいたなってきた。
「別に。何もないっスわ」
「怒っている君もとても可愛らしいですが…折角二人きりなのですから、私としては笑っている君が見たいです」
思わず吹き出して前のめりになって笑ってまいそうなったわボケ!!
いきなり何言い出すねん!
不機嫌な演技なんか忘れてもぉて思わず凝視してもーたわ。
「財前君?」
「俺の事やったら何でも解るんでしょ?ほな俺が今何思てんか解るんちゃうん?」
うわっ何やこのガキ丸出しのきっしょい意見は。
言うてから恥ずかしなってきた。
とりあえず真っ赤になってくる顔見せんように顔逸らして何言うてくるか言葉を待った。
しばらく何や考える素振り見せとったけど、いきなりすみません、って謝られた。
え、何、と思って振り返ったらいきなり手ぇ握られて吃驚した。
今まで指一本、ほんまに文字通り指一本触れてけーへんかったのに。
「あ、あの…」
「あんな風に言っていましたが、今君が何を思っているのかが正直解りかねます」
そんな申し訳なさそうな顔せんといてほしい。
俺の今の不機嫌なんか、理由あってないようなもんやねんから。
「ですから、私がしたい事をしてよろしいですか?」
「……は?」
何を、って聞くより先にいきなり無理矢理肩押さえられて、ほんで今、
「んん?!」
キスされてる。
え、何、ほんま意味解らんねんけど。
唐突すぎて何も言えんで固まっとったらにっこり笑顔向けられた。
「なっ…なにすっっ」
「膨れっ面の可愛らしい君を見ていたら、気持ちが抑えられなくなってしまいました」
「は?!」
抑えられなく、って事はこいつもしたかったって事やんけ。
くそっ、騙された。
人畜無害なツラしやがって、紳士の仮面の下に何隠しとんねん。
俺はそれ剥がしたる、と思って押さえつけてくる手振り払って柳生さんの膝に乗り上げた。
ほんで今度はこっちからキスを仕掛ける。
「んっ…ざいぜ…」
「光」
顔離して柳生さんの頬手で押さえたまま真っ直ぐ見つめる。
「え?」
「名前で呼んでくれてええっスよ」
何でこんな偉そうな言い方しか出来へんねやろ、俺。
けど柳生さんは嬉しそうに反復してくれた。
「光君」
「光」
「…ひかるく…」
「光!」
そんな理性で固めた呼び方なんか嫌や。
そう思ってじーっと睨んでたら、それまでの困ったような顔やめてニヤっといやーな笑い方しやがった。
「私のやりたかった事が、君のやって欲しい事でよろしいのですか?光」
不意打ちすぎるやろ。
何こいつめっちゃカッコええんですけど。
何やムカつくから俺はもう一回こっちからキスしたった。
眼鏡のフレームが当たって邪魔やなぁって思って外そうとしたら両手で動き拘束するように掴まれる。
「それはまだ早いですよ」
「え…?」
何それどういう意味なん?
不思議に思いながら見つめ返すとさっきまでの鬼みたいな顔やなくっていつもの紳士的な優しい顔に戻ってた。
何やねん、もうスイッチ切れたんかい。
「君は…その、こういう事を好まないのだと思っていました」
「え、何それ」
「ですから、こうして触れ合ったりなど…私としたくないのだと」
そんなわけないやんけ。
こっちは我慢して我慢して我慢してんのに。
不満げに睨んどったらクスッと笑われた。
何やねんこっちは真剣やのに。
「でもそれは誤解だったようですね」
「アンタが清い交際したがってる思って我慢してやったんじゃアホ!それぐらい気ぃ付けや!」
「申し訳ありません。でも、これで心置きなく君に触れられるという事ですね。嬉しいですよ」
何や、この人も俺と同じように遠慮しとっただけなんか。
いらん遠慮して損した。
「光」
「はい」
「愛してます」
せやから不意打ちは止めてくれ。
本気で恥ずかしなって顔逸らしたら、それを待ってましたとばかりに頬にキスされてしもた。
クソッ、ほんまありえへん。
こんな些細な事が幸せやなんて。
【続】