うちの柳生はだいたいこんな感じ。
Absolute Crusher
§1
キモいキモいキモいキモいキモい!
ほんまにキモい!!
心底うんざり、って顔向けてるのに何でこいつには効けへんねん!ほんま意味解らんわ!
だいたい何で俺やねん。
アンタちょぉ変わってるけど、顔もええし頭ええし性格ええし、寄って来る女よーけおるやろ。
せやのに何でわざわざ俺やねん!!
東京、っていうか神奈川から約500キロ離れた俺に目ぇつけよってん!意味解らん!!
「さあ財前君!お好きなだけ食べてくださいね!」
「……はぁ…」
何やよぉ解らんけど、クーラーボックス片手にいきなり大阪来たか思たら何の行商始めよんねん。
部室で、目の前に並べられた有名店のケーキやら和菓子やらを前にして、何や見てるだけで胸焼けしそうや。
まだ中学生やのにオッサンみたいやんけ。
かつて、っていうか全国優勝逃した今も実質王者を冠したまんまの立海で、レギュラーはっとった人間のくせに何でこんな非常識やねん。
あ、そうか。そんな化けモンみたいな奴ばっか集まってんやし、非常識でも納得やわ。
こんな食いきれんぐらいよーけケーキ持ってわざわざ新幹線乗ってお江戸からやってくるて、どう考えてもおかしいやろ柳生比呂士。
そう思てケーキから柳生さんに視線移したら、眉下げて困った顔されてしもた。
「お気に召しませんでしたか?君の好きそうなものを選んで買ってきたのですが…」
「え、ああ、いや……っちゅーか、アンタこれ渡しに来たんっスか?」
「ええ!もちろんです」
「わざわざ神奈川から?」
「ええ、そうですよ」
「……宅配でええんちゃうん?クール宅急便で」
「それでは君が美味しそうに食べる姿が見られないじゃないですか」
あ、今全身サブイボ立った。
そーゆう事は女相手に言えや!俺に言うてどないすんねん!!気持ち悪いだけじゃ!
「君は甘い物を食べる時が一番幸せそうな顔をしていますからね」
ほらまたこういう事言う。
何かもう、微妙な顔しか出てけぇへんわ。
「……まぁ、それが私に会った時に一番幸せな顔をしてくれるようになってくれれば嬉しいのですが…」
何やねんもう!俺が悪い事してるみたいやんけ!
そんな悲しそうな顔して見てくんなアホ!
って、傷付いた相手に後ろ足で砂かけて傷口に塩塗りこむような真似出来るほど非道やないから、
俺は仕方なくフォークと一番近くに置かれたチーズケーキを手に取った。
うわぁめっちゃ見られてるめっちゃ見られてる。
めっちゃ笑顔で見られてる。
見られると食い辛いなぁと思いながら、ケーキのはしっこ切って口に入れる。
「んまっっ!何これめっちゃ美味い!」
こんな美味いケーキ食った事ないし。
クソッ!餌付けされてもぉた!
思わず興奮して一気に半分ぐらい食ってもぉたやんけ!
恥ずかしなって顔逸らしてんけど、めっちゃ嬉しそうな柳生さんの顔が視界の端に見えた。
うわぁ何これ相手のが嬉しそうやし。
ああああーもう!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
「そうですか!ではこちらのはどうでしょう?きっと気に入ると思いますよ」
フルーツ盛り盛りのいかにも女子の喜びそうなカラフルなケーキ差し出されて、またにっこりと笑顔向けられる。
俺はもう目の前におるんは柳生さんやのぉてお節介な親戚のオバハンか何かやと思うようにしてケーキを食べる事にした。
けど俺が何ぼ甘いもん好きや言うたかてこんな量は食いきれん。
俺は3つ食ったとこで箸、っていうかフォーク置いた。
「もうよろしいのですか?」
「こんないっぱい食えるわけないし…」
「そうですか。では残りは他の方に召し上がっていただきましょうか」
「あーはいはい。そうしてください」
ちょっと勿体無い気ぃするけど、渋ったら家にまで持ってきて君のご家族に食べていただきましょう!とか言われそうやし。
「お、何や財前、ぶすっとした顔して。ちゃんとお客さん接待したってんか?」
クソッ、部長め。
おもろがって柳生さん来たから言うて練習はもうええからおもてなししたりとか面倒な事言いやがって!!
丁度練習終えて部室に戻ってきた部長や他のレギュラーに柳生さんが笑顔でケーキ振舞ってる。
あーあ。
単純なアホばっかしやからまたこれで懐柔されんねや。
俺が何ぼ嫌がっても、ええ人なんやし付き合うたりぃやとか呑気に言われるんや。
そんな風に言われて最初はムカついとったのに、最近何やちょっと気分ええかもとかいらん事考え始めとって、俺ちょっと頭沸いてんちゃうか思ってる。
小春さんに関東大会で撮ったって映像見せられてから俺ちょっとおかしいんや。
だってしゃーないやん。
テニスしとるとこはめっちゃカッコエエって思えたんやから。
テニスしてるとこ限定やけど。
「財前君?どうしたんです?ぼんやりして…お疲れですか?」
ケーキ前に貪り食うとる野獣みたいな部員尻目に柳生さんは隅で大人しいになっとった俺を気遣ってくれる。
何やろこれ、ヘンな気分や。
嬉しいんやけど、複雑で素直にそんなん言えるかボケ。
「財前君?」
「何もないわ。ほんまこっちの都合無視してノコノコ来やがって…ええ迷惑じゃ」
ちょっとキツい事言いすぎたかなって思ったけど、これぐらい言わな解らんやろ。
けどめっちゃ悲しそうな顔されて、流石に言い過ぎたかなって一瞬怯んだ。
そしたら満面の笑み向けられてドン引きした。
何こいつドMかこんな事言われてまでニコニコしやがって。
「本当に君は可愛らしいですね。そんな風に素直になれないところも君の魅力です」
やっぱりキモい!!!
前言撤回じゃ!
「大丈夫ですよ、私はちゃんと君の気持ちを理解していますから」
ぞわわわわって背中走る寒気に体震わせとったらケーキ食っとった先輩らが囃し立て始めてほんまウザい。
「いやああああああん光愛されてるやなぁーい!!」
「暑苦しいのォー!!」
「うわっ、ウザっ…」
小春さんとユウジ先輩に絡まれそうなって面倒やから慌てて体翻す。
ほんでよぉ見たら部長がわざとらしくタオルで目元拭いながら、不束者やけどうちの子をよろしくお願いしますとか言うて、柳生さんと握手して頭下げて頼んどるしほんま意味わからんわ!!
「ちょ、勝手にお願いすんなやアホ!!」
「何言うとんねん!ここまで思われといて断るんか!罰当たりやな!!」
俺の尊厳は無視か!!
ありえへんやろ。
しかも、
「財前、折角のご好意を無下にするような事はしたらあかん。あんたはんに会う為にわざわざ来てくれはったそうやないか」
俺が師範に弱いん解ってて使うとか卑怯にも程がある。
部長に何吹き込まれたんや知らんけど、何や俺めっちゃ師範に言い含められてんやけど。
あーほんまウザい。ほんまありえへん。
全部全部この犯罪者みたいに俺付け回す変態似非紳士の所為じゃボケ!!
【続】