サクラミズ 言訳

何回再利用されたか解らんネタですが、謙光で改めて掲載です。
身分違いの恋で死オチってどんだけベタやねんって思うけど、それでも書きたかった。
それ以上に伝えたい思いがあったから。
どんな理由があろうと自ら命を絶つなんて絶対許せる事じゃないんやけど、 だからこそ重みがあるんじゃなかろうか、光の死は。
最後の最後まで、行方不明にするか死別にするか悩んで悩んでこの結果にしました。
ほんとはね、前者にして本当はどこかでまだ生きてて謙也と再び会う日を楽しみにしてるんだよって話にできたらよかったんだけど。
それじゃイマイチ伝わりきらないのですよ、この小説の主題が。
この話の主軸は『三つの狂気』で成り立ってるんです。
言わずもがな、謙也と光と満、三者の狂気ですね。
一番トチ狂ってるのは誰か。
思うに、それは光でも満でもなく謙也だったりする。
何故か。
彼自身気付いちゃいないんですよ、自分の狂気に。
光も満も自分の中にあるコントロールし難い感情に気付いてるんですね。
でも謙也は気付いてないんです。飼い慣らせてないんだよ、自分自身を。
何だかんだ言い訳しながら光を閉じ込めてたのは謙也自身。
盲目になったって理由を盾に病院って場所に隔離して誰の手にも触れさせないように独り占めしてるだけです。
それ考えると何だかなぁ……と。
でもまぁ僅差な狂気だとは思う。そう仕向けたのは光やし。
光は自らの羽をむしり取って謙也に潜む擁護欲引き摺り出して用意させた鳥かごに飛び込んだと。
愛だ恋だも程度を過ぎるとこうなるんだという話なんですね。
今回はあんな残念な終わり方をしちゃいますが。
まぁ…彼にとって最終手段だったんやがー… どうなんでしょうね、これ。
単に光が死んで悲しいだとか二人の愛は永遠だとかそういう話じゃないような気がしなくもない。
謙也は告れなかった事を気に病んでますが告ったところで、たぶん結末は変わらないんじゃないかと思う。
追い詰められた光に残された唯一の方法だったんだよ。
幸せ云々件はともかく結果としてはあの世でほくそ笑んでるはずです、彼は。
生温い愛だ恋だの恋愛感情、ではなく謙也自身の本当の心を手に入れたんですから。
正攻法ではないのが若干問題やけど。


その他の解説。
●サクラミズについて
沈丁花がどっかの地方でサクラミズっていうかどうかなんて知らない。勝手に考えた創作物です。
もともとサクラミズという言葉は沈丁花そのもののみを示す言葉として考えついたのだがいつの間にやらあんな設定に。
言葉遊び的なもんだね。桜を見ずして散っていく花って事でサクラミズ、みたいな。
アホの子は桜水だと思ってるようですが、違いますね。
最初は沈丁花の香水ってだけだったんやがー…ちゃんと形になった物の方が宜しいかと思い、匂袋になりましたとさ。
しかしサクラミズという古来の求婚方法、ハッキリ口に出して好きって言った方がよっぽど恥ずかしくねぇだろと言いたい。
発狂と狂乱と寒気の渦に叩き落す感じです。ああ恥ずかしい。
謙也さんてばヘタレてるくせにこういう事はできるんだから。

●出典作品について
謙也と光が文学少年って設定だったんで色んな話や歌やが出てきてます。
それについて。
こんな事をしてる身ですんで別段本を読むという事に抵抗はないのだが…下調べには色々苦労させられました。
まずタイトルにちょくちょく出てくる西行の歌。
願はくは 花の下にて春死なむ その如月の 望月の頃
これ。有名なんでご存知の方も多いかと。
『願うことには、桜の花の下で春に死にたいものだ(釈迦入滅の日の二月十五日の)満月の頃に』って意味らしいです。
光の願いって感じですかね。
ほんで、途中から出てくる百人一首。
高校時代に古典で使ってた参考資料引っ張り出してきて恋の歌を拾い集めました。
思ひわび さても命はあるものの 憂きにたへぬは 涙なりけり(道因法師)
光が満に言い放った高度な嫌味ですね。頭の悪い彼女には伝わってなくて光は鼻で笑い飛ばしてましたが。
『つれない人を思って嘆き悲しみ命を絶ってしまおうかと思ったけどやっぱり命は無事にあって辛くて涙が止め処なく溢れてくるよ』
って感じの意味なのですが。
要するに謙也を本気で好きだったらそういう気持ちになるんじゃねぇの?って言いたかったんでしょう、光は。
あらざらむ この世のほかの思ひ出に いまひとたびの あふこともがな(和泉式部)
一人で病室で淋しい思いをしていた時に光が独り言で言った歌です。
『もうすぐこの世からいなくなってしまうかもしれないので冥土の土産としてもう一度貴方に会いたい』って意味なんですが、
この頃からすでに光はあの結末をほのめかしてるわけですよ。
君がため 惜しからざりし命さへ 長くもがなと 思ひけるかな(藤原義孝)
久し振りに病室に訪れた謙也の心境で上の歌と対に考えていただければ。
『君に逢う為なら命も惜しくは無かったけど君に逢えた今になっては少しでも命が長くあって欲しい』って意味です。
対照的です。
天つ風 雲の通ひ路吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ(僧正遍昭)
光に先立たれた謙也の切な願いですね。
『空を舞う風よ天上界に美しい舞姫が帰ってしまわないように雲にあるその通路をふさいでおくれ』って意味です。
要するあの世に連れて行かないでくれって話。
ひさかたの 光のどけき春の日に しづ心なく 花の散るらむ(紀友則)
何年か振りに実家に帰ってきた謙也が思い出の桜の木を見て思った歌。
『のどかな光の日なのに桜は慌しく散ってしまうのか』って意味なんですがまさに謙也の心境ですね。
散りゆく桜の花弁と光の姿重ねてしんみりしてるんだよ。
忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の をしくもあるかな(右近)
光の辞世の句です。
この歌が使いたくて伏線として上記のようにつらつらと百人一首を使ったわけなんですが…別れの歌です、これは。
男に捨てられた女が、自分の事を忘れられるよりも自分との仲を神に誓ってしまった貴方が罰を受けちゃうんじゃないかしらって心配する歌。
まさに、です。
光はあの世で自分がどーなろうと知ったこっちゃないけど謙也の事だけが心配なんだよって言いたかったんです。
文学作品はね、結構この小説の内容にリンクしたものを選んでおります。そうじゃないのもあるけど。
絶対使いたかったのが春琴抄と野菊の墓と源氏物語の夕顔。
読んだ事あるならあぁなるほどでしょう。
春琴抄は盲目の女性とそれを献身的に世話する奉公人との倒錯的な愛物語。
野菊の墓は互いに好きあってたにも関わらず引き離されて女の子の方が亡くなってしまう話。
夕顔は光の君の寵愛受けた夕顔が光の君を思う女に呪い殺される話。
野菊の墓は好きな文学作品やから是非出したかったんやがー……ねぇ。
……何を考えて読み聞かせたんだ、この男は。

●主題
テーマソングは『One more time,One more chance』(山崎まさよし)です。
どうしてもこの曲をテーマに別れ話を書きたかった。重くなったけど。
ほんとに重かった、この話は。
言いたい事の半分も表現できてないあたりが……うむむむ。
でもこれが今の精一杯です。
でもほんの一握でも心に引っかかるものがあれば是幸いです。
お互いに片想いをしてるんですよ。同じ気持ちだってのに。
まぁ謙也の苦しみも光の苦しみも解らなくも無い。
形と結末にに問題があれど究極の愛なんじゃなかろうかとも思うし。
要するにここまでくると愛も兇器だネってお話でした。
作中謙也も言っておりますが、光の命の重みというのを感じていただければ嬉しいです。
人一人の死が与える影響力って水爆級ですよ。
この話でもね、光の死によって沢山の人の運命が変わてしまっている。
光が謙也の運命を変えちゃってそれが周りの人をも巻き込んでいって…
だからこそ重く受け止めなきゃなんないわけですよ。
人の命は同じ重みじゃない。でも一人に一つずつ、皆同じ数だけ与えられている。
光の命は謙也にとってはとても重いものだったけど、満や謙也の両親にとっては軽薄で邪魔以外何者でもなかった。
それでも最後には謙也と同じだけではないにせよ、それぞれの心に圧し掛かり重さを実感させたという意味で、
光の死が無駄にはならなかったのが唯一の救いです。

長々としたお話でしたが最後まで読んで頂きましてありがとうございました!!
このお話にも感想をいただけると嬉しいです。


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