46.SOSの続きです。
あんまり意味のないだらだらしたお話。
赤柳が家でイチャコラしてる間の仁王とブン太でした。
仁王とブン太のキュン恋の行方もちょこっと書いてみた。
放置するのもなんだと思うので、こっちもちょっとずつ動かせていけばいいな。
La Familia 7.星
何だかんだと言って、俺より冷えていた仁王に付き合って結局時間一杯まで銭湯に滞在した。
風呂に入ってた時間は20分もなかったけど、居心地のいい温かい脱衣所でだらだらと話し込んでしまった。
「あ、柳生からメール入ってた」
「んだよ気付かなかったのか?」
「バイト中じゃ」
特に俺に見せても問題の無い内容なのか、携帯を寄越される。
"ジャッカル君がうちに来てます。よろしければお二人もご一緒にいらっしゃいませんか?"
「…って何でジャッカルがヒロシん家行ってんだよ」
「さあ?」
今日はヒロシもジャッカルも実家に戻ってるはずだ。
って事はあいつヒロシの実家に行ってるって事か?
メールはその一件だけで今の状況が解らない。
「電話してみようぜ」
「ああ」
相手もその電話を待っていたかのように、仁王はすぐに相手と話始めた。
隣りでそれを聞こうとしたが、番台に座ってたおっちゃんが近付いてくるのに気付く。
もう店閉めますんで、って言われてようやく重い腰を上げる。
仁王も通話を終えて立ち上がった。
「何だって?」
「経緯はよう解らんがジャッカルもまだいるみたいじゃ。柳生の家やったら駅前やしまだ電車あるけ、行くか?」
「けど迷惑だろぃ」
すでに日付も変わった後。
よく遊びに行くような家ならともかく、初めてお邪魔する家だってのにあまりに非常識すぎる。
「へえ、ブン太にも常識あるんやね」
「どーいう意味だよ!!」
「褒めてやってんじゃ。そんな怒りなさんな」
「ムカつく!!」
「ほらほら、見てみんしゃい。クリスマスになった」
「誤魔化すんじゃねぇよ!」
怒りながらも、仁王が見せる腕時計が午前0時を示しているのが視界に入った。
「何っでクリスマスにお前と二人なんだよーチキショー」
「……可愛い女の子やのおて悪かったねー」
俺の文句なんて半分も聞いてないだろう。
仁王はヒロシにメールを打ちながら歩を進めている。
「けどどーすんだよこれから」
「……家に帰る」
「俺も連れてけ」
「…ハイハイ」
生返事の後パチンと固い音を立てて携帯を畳み、仁王は駅と反対方向へ歩き始めた。
どういう事だ?
確か仁王は実家暮らしのはずだ。
家に帰るんなら駅に向かうはずなのに。
「おい、どこ連れて行くんだよ」
「やから家じゃて」
タクシーにでも乗るのか?
駅前はクリスマスでタクシー乗り場も人でいっぱいだろうし…違うところで拾うつもりなんだろう。
そう思ってついていった先は、こいつの通う大学の側にあるワンルームマンションが立ち並ぶ一角。
「着いた。ここや」
「へ?」
学生用のマンションの中でも一際綺麗な外観のマンションに入っていく。
エントランスで入居者とそれ以外を振り分ける自動ドアがあるような高級感溢れる場所。
「引っかけた女の部屋とか言うんじゃねぇだろーな」
「阿呆。柳生の部屋じゃよ」
「は?!」
仁王は自動ドアの横にある機械を知ったる様子で操作する。
「今あいつの部屋に半分住んどる」
「そうなのか?!」
「ああ」
腰にジャラジャラとぶら下がった鍵のうち、一つを機械に差して回すと、目の前の自動ドアが開いた。
ほんとに住んでるんだ…
半分って事は、幸ちゃん家とこことって事だよな。
こいつ実家帰ってねぇのか?
何か事情があるのだろうかと思ったが、それ以上は踏み込めなかった。
何となく聞くなって言ってる。
そんな仁王の背中を追ってエレベーターに乗り、連れて来られた最上階の角部屋。
ドアの横にある表札は柳生の文字。
ほんとにヒロシの部屋なんだ。
ガチャガチャと音を立てて鍵を開け、中に通される。
広っ!!
ワンルームだと思っていたが、一人住むには勿体無いだろうって部屋だ。
玄関入ってすぐ横に寝室があって、廊下過ぎて真正面にリビングダイニング。その続きに和室が一つ。
どう考えても家族用の物件じゃん。
「…あいつ金持ちのボンボンかよ」
「実家は開業医じゃよ」
「うっわー…ステレオ。まんまイメージじゃん」
「やな」
さっきまでの無表情を崩してフッと自然な笑みを向けられた。
玄関につけられた電気の明るさだけだったけど、ぼんやりと見えた。
初めて見たな。
こいつが皮肉ったりバカにしてねぇ笑い見せたところ。
仁王は入ってすぐの壁を手探り、リビングダイニングの電気をつけた。
明るい部屋ではいつもの飄々とした顔で、上着を脱いで暖房をつける。
流石ヒロシの部屋!って感じだ。
一寸の隙もない家具の配置で綺麗に掃除されてる。
「何か飲むかー?」
いつの間にかキッチンに移動していた仁王がカウンター越しに聞いてくる。
「ん?あーああ…何でもいい。つーか落ち着かねー部屋だなー……」
「お前もそう思うか?」
「幸ちゃん家の居心地がいいだけにな…」
何ていうか、人の住む場所って感じがしない。
綺麗に整いすぎてて自分の置き場所に困る。
「あいつ自身そうなんやろ。こんないい部屋に住んでるくせにあんだけしょっちゅう幸村の家に行ってるって事は」
「…持ち主がそんなんでどーすんだよ…」
俺は部屋を見渡しながら上着を脱いで遠慮がちにソファの上に置いた。
キッチンから戻る仁王に缶を手渡される。
「ん、サンキュー…ってビールかよ!」
「堅い事言いなさんな。今日はクリスマスや」
「どーせクリスマスじゃなくても飲んでんだろ」
「ピヨッ」
仁王お得意の意味不明な一言で会話を強制終了させられる。
そして何考えてんのか、リビング正面にあるでっかい窓を開けやがった。
「寒っっ!!バカ!閉めろよ!!」
折角銭湯で温まった体が急速に冷えていく。
「ブン太」
仁王は窓の先にあるベランダに出ると、指でちょいちょいと来るように手招く。
俺は舌打ち一つ聞かせてから、置いてあったスリッパ履いて外に出た。
「うっわー…すげー」
高層マンション、というほどではないが、付近では一番の高さにある部屋から一望できる夜景に思わず感嘆の声が出た。
まだ止まない雪の所為で星は見えないけど、
クリスマスでどこも鮮やかなイルミネーションで飾られていて、いつもの倍の明るさの街を見下ろす。
混雑の極みを見せる駅前の道は車が溢れ返っていて、テールランプが赤い星となって連なっていた。
それにしても寒い。寒すぎる。
この景色はもうちょっと堪能したいところだが…
「うー寒っ…お前寒くねぇの?」
よく見れば仁王の手にあるのは、ビールではなくカップの熱燗だった。
ムカつく!!こいつ自分だけ温まるモン飲みやがって!
この極寒の中でビールを飲む気にはなれない。
キッチンのものは勝手に使っていいらしいので、俺は自分用に温かいココアを用意した。
シンクに置いてあった大きなマグカップに熱々のココアを淹れて、二人分の上着を手にもう一度ベランダに戻る。
「上、着ろよな。風邪引くぞ」
「ありがとさん」
受け取った上着を羽織り、仁王はベランダの壁に背をつけてしゃがんだ。
俺はその隣に立ち、眼下に広がる夜景を眺める。
特に何の会話もなく、二人で熱い飲み物を啜る音だけがした。
「…なあ」
「何?」
いい機会だし、と思って柳への気持ちを聞きだそうかと口を開いたが先が続かなかった。
本当に話題にしていいのかって思い止まる。
「何じゃ」
無言になってしまった俺を急かすように言う。
何かいい誤魔化し方法を、と思うけど、そんな都合よく思いついてくれない。
「あー……何でもねー…」
「何じゃそりゃ」
本日二度目の仁王の笑みが見える。
妙に機嫌いいし、もしかしてこいつ酔ってんのか?
「なあブン太」
「何?」
「何やずーっと一緒におったような気がしてたけど、俺らてまだ出会って半年も経ってないんやよ」
そういえば……
半年前、俺が知っていたのはジャッカルと真田だけだった。
そこから輪が広がるように急速に色々な出会いと一番望んでいた再会があった。
「それが今では一緒に暮らしたりして…何やええな、と思った」
やっぱ酔ってんだ。
こいつからこんな素直な言葉が聞けるとは。
珍しいから俺は言葉を挟まず続きを待った。
「人付き合いも面倒で希薄やったけど、今の八人の関係は結構好きじゃ」
仁王も俺と同じ思いだったんだ。
「まだ整理つかんとこもあるけど…けど前よりは辛ぅないから大丈夫じゃ」
驚いて外に向けていた視線を仁王に戻す。
こいつ…自分の事は悟らせねぇくせに人の事はお見通しって事かよ。
「ありがとな、ブン太」
「…んっだよ気持ち悪ぃ!!」
一瞬本気で引いてしまった。
酒の力ってすげぇ。
この捻くれモンから素直な感謝の言葉引き摺り出したし。
けどごめん。
俺の方が照れてしまって上手く返せなかった、と心の中で謝った。
「えっらい言われようじゃなー酷いよブンちゃん」
「お前が珍しい事言うから、見ろ!吹雪いてきたじゃねぇか!!部屋入っぞ!」
視界を遮るように真っ白な雪が断続的に降り始める。
夜景も見えなくなったし、どんどん気温も下がってきている。
これは本格的にホワイトクリスマスになりそうだ。
俺は仁王を置いて部屋に戻った。
仁王もそろそろと腰を上げて後に続く。
そして拗ねるようにソファで膝を抱えてテレビを見始めた。
「あー…お前腹減ってねぇ?何か作ってやるよ」
折角心の中を見せてくれたってのに、引いてしまったお詫びだ。
「……オムライス」
「りょーかい。ちょっと待ってろ」
いつの間にかバイトの疲れも忘れていた。
気紛れに立ち寄った銭湯と、温かいココア、綺麗な夜景、そして珍しい仁王の笑顔にそんなもん吹っ飛んでいる。
帰ったら飯食って寝るつもりしてたのに。
まあいいか。
今日はクリスマスだ。
なーんか昼間っからこれで納得させられてばっかな気がするけど…仕方ない。
俺は仁王の為にいつもと違うキッチンに立った。
暖かい部屋で飯食って腹一杯になって、気付いたらリビングのソファで寝ちまってた。
「…あれ?」
いつもと違う風景に寝起きの頭がついていけてない。
あ、そうだ。
これヒロシん家だ。
片足をソファから下ろしたら何か踏んでしまった。
何だこの柔らかいの。
「げっ!におっ…悪ぃ!!」
「んー…痛っいのー…酷いー…ブン太ー…」
ソファの足下で毛布被って寝ていた仁王を思いっきり踏みつけてしまった。
その衝撃で目を覚ましたのか、思いっきり睨みつけてくる。
「だーから悪かったっつってんじゃん。オラ、どけっ」
左足で仁王を向こうに一回転させ、足場を作ってソファから下りた。
窓の外は昨日思った通りの雪景色。
晴れててもう降っちゃいないが、夜の間に降った分が積もっている。
一面銀世界ってやつになっていた。
「うわっ…クソ寒いってのに雪まで積もってやがる…」
こりゃ今日はスクール行っても練習できねぇな。
つーか絶対バス走ってねぇよな。
滅多にない大雪の所為で今日一日の予定が狂ってしまった。
「おい仁王ーお前……ってまた寝てんのかよ!」
蹴り退けたままの状態で仁王は再び眠っている。
今度は右足で蹴って完全に目を覚まさせた。
「着替えろ。帰んぞ」
「……ふあーぁ……どこにー…」
「幸ちゃん家に決まってんだろ」
「こんな朝早うにか…」
「バカ。時計よく見ろ!もう10時だ」
がりがりと頭を掻きながら大口を開けて欠伸をする仁王の頭をもう一度叩き壁にかけられた時計を指差す。
ぼーっとした顔をしているが、それはちゃんと目に入ったのか、鈍い動作で起き上がった。
「流石にもう起きてるだろ。昨日の晩に冷蔵庫ん中全部食っちまって朝飯ねえし。帰って飯食うぞ」
「…ハイハイ」
半分脳ミソ寝たままの仁王を急かして用意して、やっと家を出たのは11時。
朝飯っつーかもう昼飯じゃん。
「腹減ったー」
「また太るぜよ」
「るっせー!」
足下に積もった雪を掻き集めて仁王の頭目掛けて投げつける。
が、寸前でかわされた。
「よけんなよ!!」
「ぶつけられんの解ってて避けて何が悪いんじゃ」
「ムカつくーっ!」
ぎゃーぎゃー騒ぎながら、足で雪を蹴り上げてお互いにかけあってた所為でコートがじっとり濡れてしまった。
ガキみたいにはしゃぐんじゃなかった。
反省。
それは仁王も同じなのか、お互い自然に雪の掛け合いを止めた。
「あー冷た…帰ったらあったかーいみそ汁が食いたい…」
「さんせー…あー皆もう帰ってるかなー」
「さあ…柳生はさっきメール入って今から帰る言うとったが」
「やっぱさ、クリスマスは家族揃わなきゃ、じゃん?」
「そんなもんかの」
イヴは何かロクな思いしなかったけど、クリスマスは今日が本番だし。
皆揃って騒ぎたい。
「まだケーキ残ってっかなぁ…」
「赤也に全部食われとったらどうする?」
「殺す!!」
「やったら早よ帰らんとね」
「だな!」
滑らないようにゆっくりと進めていた歩を少し早める。
皆のいる家までは、あともう少しだ。