Glass Castle in a Sanctuary〜サクラメント


冥府の使いなんてつまんねーよ
悪人の相手ばっかでさ
こっちまで気持ちが黒くなってくる
同僚も悪い事がカッコいいとか思ってるバカばっか
人間でいた頃もつまんなかったけど
これならまだ生きてた頃のがマシだった

ま、そんなの何百年も前の話なんだけどね



§1


「赤也ー!!ヒマならお前もやるかー?タマ取りゲーム!」
「ここの仕事終わったらな!」
つまんねー遊びだ。
誰が一番沢山魂狩れるかの勝負なんて。
俺は同僚の誘いに乗ったフリをして空に飛び立った。
当然あんな下らないゲームに参加するつもりなんてない。
サボり場所を探して空をうろつく。
この辺の管轄は集魂係が他にもたくさんいるから俺が一人サボったぐらいじゃ誰も解らない。
「おっイイ匂い!」
ひくひくっと鼻を動かし、俺はその匂いに誘われるように風上へと飛んだ。
俺達におけるイイ匂い、は食べ物や花じゃない。
純粋で穢れない魂の匂いだ。
それを狩れば俺達の力は増える。
格好のエサというわけだ。
どこかの大きな建物の屋上に立ち、キョロキョロと辺りを見渡すがそれらしい姿は見えない。
でもふっと漂う死臭に混ざって甘い香りがするからこの建物からしている事には間違いないはずだ。
よく見ればそこは病院。
なるほど、俺を惹きつける匂いが多くするはずだ。
どうせ人間から俺は見えないんだから、と屋上から飛び立ち一つ一つ窓を覗くように横移動する。
ふと目が合ってしまった魂に手をかざし、冥府に送り込む。
俺がたまたま居合わせた不幸を呪うんだな。
もしここに慈悲深い天界の使いが居たんなら生き返れたかもしれないのに。
ま、それも自業自得だな。
ヤクザの抗争で腹に銃弾食らって意識不明の重体だって。
どうせ碌な人生歩んでなかったんだろう。
俺の目に入るなんて。
手に残る嫌な黒い感触を払うようにぷるぷると手首を振っていると、ふと甘い香りが強くなった。
その方向を見れば可愛い女の子が一人。
窓から俺の方をじっと見ている。
振り返り、後ろを確認するが目ぼしいものは何も無い。
俺を見ているのだ。
人間には見えないはずの、俺を。
「あいつか…匂いの元は」
格子のはまった窓は開けることが叶わないのか、少女はガラス越しに俺をじっと見ている。
試しに窓の外をうろうろと飛んでやったが、視線は確実に俺の方を向いて動いている。
やはり俺を見ているのだと確信して、俺は窓をすり抜けた。
室内に入ればますます強くなる甘い香り。
強すぎるそれに頭がくらくらする。
甘い誘惑だ。
この少女は俺が見てきた中で一番清い魂を持っている。
こいつを狩れば俺のポイントも上がるだろうと、笑みを堪える事ができない。
「俺が見ててんの?アンタ」
「凄い。凄い凄い。本当に叶った」
「へ?」
「悪魔って本当にいるんだな」
臆する事無く少女は祈るように両手を組み、物珍しそうにキラキラとした瞳を向けてくる。
その足下を見れば、稚拙ながら陣が描かれていた。
これで俺を召喚したつもりなのだ。
残念ながらこんなものに引っかかる奴なんて今時下賤だけだよ。
この俺がこんなもので人間に呼ばれて使われるなんて屈辱以外何者でもない。
けど嬉しそうな少女の顔を見ていると、その真実を伝える事はできなかった。
「で、俺を呼んだって事は…こうなっても構わないって事なんだな?」
首に手をかけると、心外だと目を見開いた。
自分でやった事を自覚した方がいい。
こんなに甘い匂いプンプンさせて、もしこの陣で下級の奴らがやってきたら問答無用で魂引っこ抜かれる。
俺もそのつもりだけど。
「…殺すのか?」
「ああ。けど心配すんなよ。あーっという間で痛みも苦しみもねぇから」
「そうか。なら早く連れて行ってくれ」
「―――え…?」
静かに言い放たれ、思わず力を抜いてしまった。
込めていた力の所為で白い首には赤い傷が残っている。
「どうした?苦しくないように殺ってくれるんじゃないのか?」
さっきまでは興味深そうにキラキラと光っていた瞳は暗く影を落としている。
「アンタ死にたいのか?」
「いや、死にたくはないが…もうとっくに期限の過ぎた命だ。
いつ死ぬかも解らないならなるべく苦しい思いはしたくないと思っただけだが?」
子供だから死の意味を解っていない、というわけではなさそうだ。
あれほどまでに光を放っていた瞳が、今は暗く澱んだ沼の底の様な光を拒む場所になってしまった。
この子は死が何たるかを解っているのだ。
この幼さで。
そんな様子に今度は俺が興味を持つ事となってしまう。
どんな闇に襲われれば、こんな小さな子供が自ら死を選ぼうとするのか。
今殺すのは惜しい。
しばらく観察してみよう。
そう思い手を離した。
「やーめた!俺嫌がる奴が断末魔の叫び上げるのが楽しみなのによ。そんなんじゃ面白くねぇ」
「…そうか…残念だ」
変わった奴だ。
本気で残念がっている。
そして落ち込んだまま、陣を描いて汚してしまった床を消している。
俺はベッドに寝転がりそれを見下ろした。
「悪魔というのはもっと禍々しい獣のようなものかと思っていたが…姿形は人と同じなんだな」
「そりゃ悪霊だろ。まあ悪魔ってのは人間が勝手に名付けて空想してるもんだからな…
実際俺らは自分の事悪魔って名乗る事はねぇし、人間とそう変わんねぇよ」
「人間とは違う能力を持った人の亜種と考えるべきか?」
「だな」
少女は床を綺麗に拭き終わり、手にしていたタオルをゴミ箱に捨てた。
ベッド脇に立ち、俺を見下ろすようにまじまじと視線を向けてくる。
「何?」
「翼がない」
「あー昼寝すんのに面倒じゃん。普段は見せないの」
「出し入れできるのか?」
「おお、まあな。俺らは浮遊の能力があるから別に羽なくても飛べるんだよ。
まあ飛んでる時に方向転換しやすいし、あったら便利程度のモンだな、羽なんて」
「へえー…いいな!」
さっきまでの暗い表情からは一転、再び年相応な明るい表情で笑う。
「つーか何このテントみたいなビニール。暑くねぇの?」
一人部屋の真ん中にある白い電動のベッドを囲むように透明のビニールが天井から吊り下げられている。
まるで汚いモノを隔離しているように見える。
「これは――…」
その時、病室のドアをノックする音がした。
続いて入ってきた奴の格好は完全装備。
シャワーキャップみたいなもん頭に被ってマスクで顔は目しか見えない。
それに手袋に使い捨てガウン。
これじゃまるで汚いモノ扱うカッコじゃないかと自然と表情が歪む。
けど不機嫌な俺の顔なんてその相手に見えるはずもない。
そいつは真っ直ぐに少女の元へと歩いて行く。
持っている物を見てそれが看護師だと思いつく。
いつも病院で見かける白衣姿と違っているから気が付かなかった。
「蓮二君、ダメでしょう?ちゃんと寝てないと」
「アンタ男だったのか?!」
驚いて体を起こし、少女の顔を凝視する。
肩近くまで伸びた髪に整った顔、白く細い体の所為で勝手にそう思い込んでいた。
だがそれが本当なのか、こいつはにやりと唇を歪めた。
そして看護師の方を向き直ってにっこり笑った。
「ごめんなさい。顔拭くのに使ったタオル落としちゃったから…」
「そうだったの。じゃ、体温と血圧測ろうね」
反抗する事なく、素直に謝る。
言い訳も無理の無いもの。
こいつ大人のあしらい上手いな、と感心させられた。
少女、元い、少年は女に言われるままベッドに戻り寝転んだ。
俺は押し出されるように床に追いやられる。
「見えるだけじゃなく触れんのか…」
純粋な子供に俺たちが見える事が稀にある。
だが触れるとなれば話は別だ。
肉体を持たない俺たちに触れるという事、即ち近くなるという事。
「死期が迫ってるって事…か……」
看護師に声が聞こえるはずもなく、ベッドから落とされた俺の事など我関せずとさくさく作業を進めた。
「ん、OK。どっか痛いとか苦しいとかはない?」
「大丈夫。今日はどこも平気だよ」
「そっか。よかった。じゃあ何かあったらナースコール押してね」
「はーい」
看護師が出て行き、再び病室が少年一人のものとなる。
俺はベッド脇に立ち、寝転がるのを見下ろした。
「何だあいつ…汚ぇモン触るみたいに…」
「汚いのは俺じゃない。あっちの方だ」
先程までの良い子の態度をやめて、平然とそう言い放つ。
なかなかいい性格をしてやがる。
「外の空気は雑菌に塗れていて俺の体には耐えられないらしい。これも外の空気をなるべく遮断する為のものだ」
そう言ってベッドを覆うように張られたビニールを指差す。
「そういう病気って事か?」
「ああ。詳しい事は教えてもらえないが…自分の体の事は自分が一番よく解っている」
病院の者でさえあんな状態で入ってくるのだ。
きっと友達になんて会えないんだろう。
「あ、だから悪魔の召喚なんて考えたのか?」
「……誰でもいいから…人がダメならこの際悪魔でも幽霊でもいいから俺の話し相手になってくれればと思った…」
「ふーん…」
子供の身の上話など今まで興味を持った事などなかったが、こいつの持つ危うい甘い香りと死を思う瞳の暗さに引き込まれてしまった。
俺は質問を重ねる。
「さっき命の期限が切れてるって言ったよな?」
「ああ…生まれた時から成人するまでは生きられないと言われていたんだが……それが1年、2年と短くなって……
ついに中学に上がるまで持ちこたえられない病状だと言われて……今11歳。再来月誕生日が来れば12歳。期限切れだ」
「あとは死ぬのを待つだけ…って事か」
黙って頷く横顔に表情はない。
死を恐れているわけでも悲しんでいるわけでもないようだ。
ただ時がその瞬間を連れて来るのを静かに待っている。
それだけなのだろう。
今までも、そしてこれからも色々な事を諦めた結果なのだ。
それでいてなお、この清く美しい魂を保ち続けているのか。
普通ならば自暴自棄になり、絶望に支配された荒んだ魂になり果ててしまう。
俺はそんな奴を何百人と見てきた。
だったらこいつの望む事を叶えてやって、もっともっと美味そうな魂に肥え太らせてから狩る。
それがいい。
死期が解っているのならばそう長い時間でもないだろう。
俺はいい人を装う事を決めた。
「なあ!それなら俺がトモダチになってやるよ!」
「…え?」
「な?いいだろ?俺だったら外の空気持って入る心配もねぇし、他の奴らにも見えねぇから24時間いつでも遊びに来れるし!」
「見返りは?俺は何も持っていない」
「ふっ普通友情にそういうのってないだろ?」
「そうか…まあ釈然としないがお前がそう言ってくれるならよろしく頼む」
危ない危ない。
こいつ本当に頭がいいみたいだ。
俺の腹の内なんてお見通しだと言わんばかりの視線を寄越した後、ぺこりと頭を下げた。
「んじゃ自己紹介な。俺は赤也。よろしく」
「俺は柳蓮二」
「レンジね。OK、OK」
こうして俺は、生と死の狭間に存在する甘い魂と"友達"になった。
そんなレンジは子供らしからぬ落ち着きを持った奴だ。
俺の前と看護師や医者を前にした態度のギャップに思わず言ってしまった。
「アンタほんっと性格悪ぃな。何だよその豹変っぷり」
「処世術と言って欲しいものだな。俺はこの白く四角い世界が全てなんだ。
そこに出入りする数人と円滑な人間関係を築く為に必要な事だ。反抗して嫌われるよりこの方がずっといい。
相手も気持ちよく仕事ができて丁度いいじゃないか」
「…普通アンタぐらいの年だったら外に出せーとか友達と遊びたいーとか大騒ぎしてワガママ言うだろ」
「生憎俺は普通に出来ていないもんでな」
「かわいくねぇー…」
「だから可愛く振舞っているだろう?」
「そこが可愛くねぇっつってんの!」
心外だ、とレンジはぷいっと顔を背けて本を読み始めてしまった。
俺が病室に通い始めて数日。
最初は恰好のサボり場所を手に入れたと思っていた。
昼寝するベッドはあるし、管轄には同僚がたくさんいるから俺一人いなくなっても仕事に支障はないし。
なのにここには小うるさい監督がいた。
レンジはやれ与えられた仕事はキッチリしろだの、ダラダラと昼寝ばかりするなだのと五月蝿い事この上ない。
俺の上役にあたる人は物静かで今まで特に何も文句は言わなかったのだ。
もううんざりだ。もう来ねぇ。
そう思った事は1度や2度じゃない。
でも単に話し相手が出来て嬉しいのだと解って以来、俺はただ只管叱られ役に徹した。
「何読んでんだ?」
「これか?ヨーロッパの古い文献だ」
「うげっ!英語?!アンタ英語読めんの?」
「こんなところにいたら勉強以外やる事がないからな」
「へー…」
「お前を召喚した陣もこれに載っていたんだ」
ミミズの這ったような文字の羅列は何を意味するか解らない。
けど陣を描いてある挿絵は解る。
すんげー昔の陣がいくつか載ってた。
言うなれば時代遅れ?
いくら下賤でも今時これに召喚されるようなマヌケな奴はいないだろう。
オレオレ、ばーちゃん俺だよ、事故っちゃって大変なんだ!お金振り込んでくれよ!って電話に引っかかるようなものだ。
けどそんな内部事情なんてこいつには関係のない事だし俺は黙っていた。
「本はいい。自分の知らない世界が知れて…こんな場所にいても知識と見聞が広がる」
「けどやっぱほんとに体験するに越した事ねえだろ?」
「それができれば苦労はしない」
そうだったそうだった。
この狭い空間がこいつの全てなのだ。
「あ!だったら俺がさせてやるよ!」
「は?何だ急に…」
「この部屋から出なきゃいいんだろ?俺に任せてよ」
いい事思いついた!と、俺は立ち上がりレンジの手を握った。
「どっか行きたいとこねぇの?」
「え…?いや…」
「ならー…やりたい事は?!見たいもんとかねえの?」
「え…っと…そうだな……今は桜が綺麗だと聞いたから……」
戸惑う様子を見せ、半信半疑なのか遠慮がちに口を開く。
それが嘘でない事を証明してやる。
俺の力を見せつけてやる。
「花見だな。解った!」
ベッドに座っていたレンジを腕に抱え、俺は空に印を描き強く念じた。
強い風に堅く目を閉じ、ぎゅっと俺の胸にしがみつくレンジの肩を叩く。
「見てみろよ」
「わ…っ!!」
体を離し、レンジは目を見開いた。
「…どうして?何で?」
戸惑うのも無理は無い。
俺の力で無機質だった病室が桜並木になったんだから。
見渡す限り桜以外に何もない空間。
レンジははらはらと花びらの舞い散る様子をただ呆然と見上げている。
「俺の力だよ。幻影見せれるの」
「すごい…凄い凄い!すごいな!こんなの初めてだ!」
見渡す限りの桜色の波に、レンジは幼い表情を隠さず喜んだ。
「ありがとう赤也!」
絶対に叶うはずはないと諦めていた事が、今目の前に現れている。
この非日常を冷静に疑う前に、無邪気に喜んでいるのだ。
こんな顔見れるんならいくらでも見せてやりたくなる。
と、そこまでいってふと思いとどまる。
「何で喜ぶ顔見たくてだよ…望み叶えて魂肥えさせる為だろ…」
思わず呟いてしまい、口を塞いだが無心に桜に見入るこいつには聞こえなかったみたいだ。
幻影もしばらくの後、跡形も無く消え去った。
残念そうな目で見られても、これが俺の限界。
「悪かったな。俺の能力じゃこんなもんだよ」
「ううん!嬉しかった!ありがとう!!」
一瞬の春の幻想を、レンジは本当に喜んでいた。
掌をすり抜けていった最後のはなびらを握り締めるような仕草を見せる。
「こんなんでよけりゃいくらでも見せてやるって」
調子に乗ってそういうと、
「本当か?!」
と身を乗り出しいきなり腕を掴んできた。
「なっ…何が見てぇんだよ」
「たくさんありすぎて絞りきれない」
いつもの淡々とした可愛げのない態度はどこへやら、すっかり興奮しきった様子で嬉しそうに言う。
「どんなものでも見せられるのか?」
「俺が見たもんならな」
今までの冷静さはポーズだったのかってぐらい興奮しきりでゆさゆさと肩を揺すられ、
このままだと押し切られそうな雰囲気だ。
「写真などでも大丈夫か?」
「写真とかテレビより実際経験したもんの方がより鮮明に現せる事ができるかな」
「そうか…という事はさっきの桜も?」
「あれは醍醐寺の桜だよ」
「醍醐寺って……秀吉が花見を催したという?」
「そうそう、それ!時の権力者が花見するっつーから見に行ったんだ」
「……お前…一体何歳なんだ?」
改めて考えて、俺って何歳だっけ?
一番古い記憶なんて、遠すぎて解らない。
とりあえず醍醐の花見を覚えてるって事は500年ぐらいは生きてるって事か、ってレンジが言う。
生きてるって表現もちょっと違う気するけど。
それに人間でいた頃はもっと後だ。
っていうか何で俺って人間から冥府の使いになったんだっけ。
その辺も曖昧だから…
「解んね」
「だろうな…」
さっきまでの元気はどこへやら、レンジは急に黙り込んでベッドに寝転んでしまった。
「どした?はしゃぎすぎて疲れたか?」
「…長く生きるとはどんな気分だ?」
「―――え…?」
「人の死亡率は100%だ。だがそれでも普通の者は80年は生きられる。
……俺に望めない世界を見たお前は…どんな人生を歩んできたんだ?」
命の期限が間近に迫ったレンジ。
目の前に迫る死への恐怖を、冷静に受け止めようと頭で考えているが心は震え上がっているのかもしれない。
大人びた可愛げのない態度を取っていても中身はまだガキなんだ。
優しさや悲しさという感情は俺には理解できない。
でも俺の見てきた全てを見せてやりたいと思った。
どんなに望んでも手に入れられない世界を、俺が見てきた何百年という時の流れを。
普通の人にも出来ない事を、レンジに体験させてやりたい。
だが頭を過ぎる、昔上役に言われた言葉。
『人間にはあまり深く関わるな。道を外せば消滅させられる』
そうだった。
俺達は人間と違う時間軸で違う世界を生きる者。
本来こうして生きた人間に関わる事は大罪だ。
何故か放任されている俺は、今まで人間と関わった時も大して咎められる事もなかった。
でも人の人生に関わるとなれば話は別な気がする。
今俺がしている事はレンジの人生を狂わせている事だ。
俺と出会わなければ決して体験する事のなかった人生を歩み始めてしまった。
……出会わなければ?
知らない。
こいつの人生が狂おうが何だろうが、知ったこっちゃない。
俺は俺の思うようにしてやる。
俺は、こいつの魂を頂くんだ。
その為に出会った。
「俺の見てきたもん、全部見せてやるよ。そしたらアンタも500年分生きたのと同じだろ?たかが80年ぽっち生きただけじゃ出来ねぇ事、俺と一緒にいっぱいやろうぜ!な?」
「赤也…何故お前はこんな俺に気をかけてくれるんだ?」
「それは…」
俺の為。
俺の為だ。
俺が魂を狩る為。
そう思い続けていなければ揺らいでしまう。
誇り高き冥府の使いが何て様だろう。
たった一人の人間の為に力を尽くすなんて。


§2

 

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