WISH!11
§:赤也
可愛い。
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。
さっきから店のガラスとかに自分が映るたび気にしてチラチラ見てる柳さんが。
落ち着きない姿がたまらなく可愛い。
特にどこに行くとか決めてなかったから、先に飯食いに行きましょうって誘った。
その道々、ずーっと落ち着きなくアクセサリー触ったり帽子被りなおしたりしてる。
「……本当におかしくないか?」
「だーからさっきから言ってんじゃないっスか。めちゃくちゃ似合ってますって」
何度目だ、この質問。
でも全然嫌じゃない。
こんな落ち着きない柳さんなんて滅多に見らんねえし、すっげー可愛い。
「俺の言う事信じられないんっスか?」
「だって…」
だって!!??
こんな子供みたいな言い訳がましい言葉言うとこ初めて聞いた。
可愛い。ほんとたまんない。
ダメだ。
緩む顔が抑えられない。
っつーか反射的に襲い掛かりそうになった。
危ねぇー…
「何っスか?」
思わず笑いそうになるのを必死に堪えながら続きを聞き出す。
「…さ…さっきからすれ違う人に見られている気がする」
アンタそれ逆だよ、逆。
変だからじゃなくて、カッコよくて目立ってんの。
あームカつく…どいつもこいつも勝手に見てんじゃねえ!
お前も!お前も!!
すれ違う奴皆に大声で触れて回りたいぐらいだ。
この人は俺のなんだからジロジロ勝手に見るなって。
それに、
「そんな周りばっか気にしないで俺の事見てて下さい!!」
そうだよ。
なーんでどこの誰だか解んねえすれ違う奴らの事ばっか気にしてんだよ。
横にいるのは俺なのに。
そう言って手首掴んだら、突然柳さんは笑い出した。
「……いや、すまん…そうだったな」
けど上機嫌になって、それ以来同じ質問は繰り返さなくなった。
何だってんだ?
目的の店はメインストリートからは外れてるけど、隠れた名店。
昼飯時だからめちゃくちゃ混んでる。
また並ぶハメになりそうだなこれは…
「ここ、丸井先輩に教えてもらったんっスよ。とりそばが安くて超美味いって」
「とりそば?」
超オススメだからデートの昼飯は何があっても絶対ここで食えって言われた。
何でそこまで強制的なんだって思ったけど、別に断る理由もないし柳さんの事連れて来た。
俺自身まだ食った事ないから何とも言えないけど丸井先輩情報だし味は間違いないだろう。
「ラーメン、嫌っスか?やっぱ違うのにしましょうか?」
「いや、ここで構わない」
柳さんが頷いてくれたから、前にクッキー買う為に並んだ時みたく二人で行列の最後尾に並んだ。
「今日は俺が奢りますね」
「いや…しかし……」
「こないだは奢ってもらったんで、今日は俺が持ちますよ」
まあそれが一杯500円のラーメンってのが情けないけど。
つーか今日こそ俺が出さねえとお袋に何言われるか解んねえし…
「ご馳走させて下さい」
やっぱ俺のが年下だし、そういうの嫌だって思ってんだろうけど、
ちょっと強めに言ったら困った顔して笑いながら頷いてくれた。
「そういえば今日は朝食を摂るのも忘れていたな…腹が減ってきた」
「えっ…食ってないんっスか?」
珍しい。
遅刻してもいいから朝は絶対食えって普段俺に言いまくってんのに。
「ああ…朝から散々だったから…いや、散々だったのは丸井達か」
「へ?何で?」
「丸井と仁王と、仁王のお母様の手を煩わせてこの恰好になった」
それであの人達待ち合わせ場所にいたのか…
けどちょっとムカつくなー……俺より先に見たのかよ、この人のこのカッコ。
それにこの動揺っぷりだし、朝からこんな調子だったんだろう。
「…ん?遅れるってメール送ったのアンタじゃない?」
「そういえば仁王が何か携帯を触っていたような気がするが…」
やっぱり。
俺のカン当たってたんだ。
…って得意になってる場合じゃない。
いくら俺の為っつってもあんな…どう考えても面白がってる奴にホイホイ付いてくなよ…
何されるか解ったもんじゃねえし。
「ちょっ…もうあの人たちに付いてっちゃダメっスよ!!」
「…あいつらは人攫いか」
もっとタチ悪ぃって。
「二人とも親身になって相談に乗ってくれた。多少の強引さは否めんが俺は感謝している」
ぎゃーっっ騙されてる!!
このまま付入らせたら次は何されるかマジで解んねえ!
「じゃ…じゃあ今度からは俺に相談してください!!」
「何?」
「それって丸井先輩たちがコーディネートしたんっスよね?」
「あ…ああ、俺は似合わないから止めろと言ったんだが」
そこは問題ないんだって。
あの二人のファッションセンスがかなりいいのは認める。
けど、
「今のカッコもめちゃくちゃ似合ってるけど、今度は俺に柳さんプロデュースさせて下さい」
今日のサプライズはビックリしたし嬉しかった。
でも人に作られた柳さんは嫌だ。
「…お前が?」
「そうっス!それ…全部買ったわけじゃないっスよね?」
このブーツ見覚えがある。
丸井先輩のだ。
だいぶ前に一緒に遊びに行った時はいてたやつだと思うんだけど。
「ああ、借り物も多い。これも…これも仁王の私物だ」
あれもこれもって、ほとんど全部じゃん!!
何か訳わかんないイライラが襲ってきた。
俺は首に巻かれたストールを無理矢理奪い取って、代わりに俺が巻いてたストールを首に巻いてやった。
「どうした…折角丸井が……」
巻いてくれたのに、という声は俺の声でかき消してやった。
「俺が後で新しいの買ってあげますからそれ付けて下さい!!」
柳さんはビックリして目ぇ見開いてる。
俺も自分で自分が何やってんのか解んなくなってきた。
でも他の奴のモン付けてるって考えたらすげームカついてきた。
「あ、あのっ!違っっ!!似合ってないって意味じゃないっス!」
ヤバイ。
ヤバイヤバイ。
また最初みたいな不安そうな顔になっちまった。
言葉が足りなかったんだ。
けど…ほんとの理由なんてカッコ悪くて言えるかよ…
すれ違う奴どころか、物にまでヤキモチ妬くなんて。
「……あの…だから…」
「そうか…解った。だったら俺からも一つ提案をさせてくれ」
「な…何っスか?」
却下されんのか?と思ったけど、柳さんはちょっと照れて、はにかんだ。
「お前も、これからはもう柳生に相談せず俺に聞いてくれ」
「へ?」
あの…それって……
「それで、どうプロデュースしてくれるのだ?お前色に染めてくれるんだろう?」
丁度順番が回ってきて、柳さんはふっと笑みを浮かべながらさっさと店に入ってしまう。
俺はニヤける口元押さえて立ち尽くすので精一杯になってしまった。
ちくしょう、やられた。
さっきまでの余裕の無さはどこへやら。
やっぱこの人には敵わない。
§:蓮二
赤也に本当に似合っていると言われ、ようやく心地悪さから抜け出せた。
そして周りばかり気にしないで俺の事を見てくれと言われ、気付いた。
今日はまだ赤也ときちんと向き合っていなかった事を。
だが、まさかこんな事で嫉妬されるとは思わなかった。
膨れるように、恨めしそうに睨む姿が、
嬉しい。
可愛い。
どうしようもなく可愛い。
こんな下らない…元い、些細な事を気にするなんて。
「なーに笑ってんっスか」
「いや、何でもない」
「何でもない事ないっしょ?!」
「そうだな…赤也が好きだな、と思っていた」
そう広くない店内は様々な物音が広がっていて、俺の声など赤也以外には届いていまい。
そこまで言えば、赤也は真っ赤になって固まってしまった。
約束していた通り、丸井は赤也にラーメン屋を教えてくれていたらしい。
赤也は半強制的にここで食えって言われた、などとぼやいている。
だが初めてラーメンを美味しいと感じて食べる事ができた。
赤也は少し物足りなそうにしていたが味は申し分ない為、また来ましょうねと誘われた。
次もあるのか、と思わず頬が緩んだ。
店を出た後、仁王に借りたストールの代わりの物を買いに行こうと言われ、
メインストリートに面した商業ビルに入った。
前に行ったショッピングモールの半分にも満たない大きさだが、色々な店があるらしい。
赤也に引っ張られるまま店を回った。
「絶対こっちのが似合いますって」
何軒か回った後、赤也はある店に飾られていた柔らかい素材のストールに目をつけた。
「だが女物だぞ?」
「似合ってりゃ問題ないっしょ?アンタああいうハッキリした色よりこっちのが似合ってますよ。ホラ」
店に置いてある大きな鏡の前に連れて行かれ、ほら、どうですか?と聞かれる。
確かにビビッドな仁王からの借り物より、赤也の選んだ藤色の物の方が顔色が映える。
奇抜さでいえば前者なのだが、これでようやくしっくりと自らに馴染んだような気がした。
「お前がそういうなら…これにするか」
ストールを持ってレジへ向かおうとすると、赤也が腕を掴んできた。
「…どうした?」
「言ったっしょ?俺が新しいの買うって」
ニカッと音が出そうなほど笑みを浮かべ、止める間もなくさっさと赤也は店の奥へと消えていってしまった。
店内は女性客ばかりで些か居心地が悪く、出入口付近で赤也が戻ってくるのを待つ。
しばらく待っていると、綺麗に包装され、リボンの掛かった紙袋を持って戻ってくる。
「お待たせっス!!」
「…今つけるんじゃないのか?」
タグを切った商品をそのまま持ってくると予想していた為面食らう。
「あー…そうなんっスけど…これはプレゼントっス」
「何の?…ああ、誕生日か?」
逡巡して、思い出した。
もう来週頭には誕生日を迎える事を。
しかしこれは違うらしい。
赤也が力一杯否定する。
「違います!これは…そのー…勉強教えてもらったお礼っつーか……」
お礼なんて。
赤也の頑張りに俺がご褒美を与えたいぐらいなのに。
「ありがとう。開けてもいいか?」
「…は…はいっ!!」
俺達は店の入口から離れ、フロアの端の人通りの邪魔にならない場所で向き合った。
中身が解っていても、贈り物を解く瞬間は楽しい。嬉しい。
中から出てきたストールを見て思わず顔が綻ぶ。
首に引っ掛けるが、朝はされるがままだった為、
「…上手く巻けん」
端を持って何度かぐるぐると回すが丸井がやっていたようにはいかない。
「貸して」
見かねた赤也が手を貸してくれる。
一歩近付く赤也に鼓動が跳ね上がった。
丸井だって同じような距離で、同じ事をしていた。
なのに今は酷く落ち着かない。
「これでよしっ!…どうかしました?」
「なっ…んでもないっ…」
「えっ?気に入りません?違う巻き方にしましょうか?」
「違っ…違う、そうじゃない…これがいい…ありがとう」
すぐ近くにある赤也の顔に動揺して、思わず後ずさってしまう。
丁度あの縁側の、不意に口付けられそうになった瞬間と同じ距離だった。
それにしたって意識しすぎだ。恥ずかしい。
赤くなる顔を隠すように口を手で覆った。
だが赤也にはバレてしまったようだ。
「キスされるかと思っちゃいました?」
「そんな…ことは……ない」
否定の言葉など、この赤い顔では説得力がない。
言葉尻が窄んでいく。
「……いくら何でもこんなとこじゃ迫りませんって」
いや、その通りなのだが…
邪魔にならないように避けているだけで、人通りが全くないわけではない。
現に、不自然に立ち止まる俺達を清掃している係員が訝しげに見ている。
こんな場所で、と頭で解っていても心がついていかなかった。
「それに約束、破ったりしないっスよ」
「しかしそれは…」
「何っスか?」
「…いや、何でもない…」
俺が490点、赤也が70点以上を取ればやってもいい、なんて情緒のない約束。
しかしそれを反故してしまったのは俺だけなのだ。
だからといって褒美だとこちらからするのも憚られる。
だいたいそれを赤也が望んでいない事は承知している。
あんな約束をしなければよかったと、今更後悔したところでどうなるわけでもない。
今は兎に角楽しまなければ。
不安そうに見上げる赤也に笑みを返し、行くか、と歩き始めた。
いつかのようにブラブラと店を回っていたのだが、通りかかった玩具屋を前に赤也が足を止める。
「ちょっと見ていいっスか?」
「ああ、もちろん」
小学生に混じって目を輝かせながら、他には目もくれず、一目散にゲームコーナーに行く背中を追いかける。
「これ!すんげー欲しいんっスよねー…」
ショーケースに飾られた年末に発売されたばかりのゲーム機を眺めながらうっとりと呟く。
「中間良かったし親にねだったんっスけどねー…却下されちゃいました。
一回良かったぐらいで調子乗るなって。だから期末も頑張って通知表の点数上げてもう一回頼む事にしました」
「これが……欲しかったのか?」
「へ?」
「……いや、何でもない」
やはり喜んでいたのは俺に気を使っていたからなのか。
赤也の部屋で綺麗なまま飾られた携帯ゲーム機を思い出し、胸が痛んだ。
次からはちゃんと赤也が望む物を贈らなければ、また気を使わせる事になる。
「どうかしたんっスか?顔色良くないっスよ?人混み、疲れた?」
「いや…大丈夫だ」
「大丈夫じゃないっしょ?もー…無理しないで下さいよ」
何か反論する隙を与えず、赤也は俺の手を引いて店を出た。
「どっか入って休みます?」
「本当に大丈夫だから」
「じゃ…何でそんな辛そうな顔してんっスか?」
「…そんな顔をしているか?」
自分では解らないし、表情は変わっていないような気がする。
実際店のショーウィンドウに映る自分の顔はいつもと何ら変わりない。
赤也は俺すら気付かない水面下の感情の動きを察知したというのか。
「面白いな、お前は」
「何が?俺今全然…面白い事何も言ってませんよ?」
「いや、本当に面白い」
おかげで一瞬吹いた心の隙間風など、どこかへ行ってしまった。
§:赤也
冗談っつーか…からかうなって怒られんの期待してたんだけど。
可愛い反応返されてどうすればいいか解らなかった。
ほんとにキスされるって思ってたのか?
それともキスしたいって思ってたのか?
結局煙に巻かれてそれ以上は聞けなかった。
で、今は移動中。
二人で並んで電車乗ってる。
柳さんの行きたい場所に向かう為に。
オモチャ屋でちょっと様子おかしかったけど、すぐにいつもの柳さんに戻った。
「次、どこへ行く?」
「ほんとに大丈夫なんっスか?疲れたんなら無理しない方がいいって。明日から大会なんだし…」
「もう大丈夫。さっきは少し子供たちの熱気にあてられただけだ」
「よかった!」
ちょっと気になるけど、大丈夫だって言うし…
「それで?お前はどこへ行きたい?」
…何か楽しそうに言うし、それ以上言うのはやめた。
「またゲームセンターにでも行くか?」
「あ!今日は柳さんの行きたいとこ行きましょうよ!」
「…俺の?」
「あるんでしょ?行きたい場所。ホラ、言ってたじゃん。テスト前に。部活の休み中に行きたいとこあるって」
それ俺のせいでダメになっちゃったようなもんだし。
今日を逃したらまたしばらく休みなんてないだろうし、今日のうちに行かないと。
そう思ったんだけど、柳さんは嫌がった。
「だが…お前と一緒に行くような場所では……」
「何それ」
何か知んないけど線引きされてムッとしたら、すぐフォローを入れてきた。
「あっ…違う!そういう意味じゃない。その………デートで…行くような場所ではないという…意味だ」
語尾がだんだん小さくなってって、照れてるんだと解った。
チクショウ。可愛い。
この人、余裕かましてたかと思ったらいきなりこんな不意打ちするから侮れない。
「何?どこ?俺アンタと一緒ならどこでも構わないっスよ?」
「しかし……」
「言って下さい!」
「……県立図書館…」
それで一緒に電車に乗ってるわけなんだけどー…
まさか図書館とくるとは思わなかった。
っつーか県立図書館どころか地元の図書館すら行った事ねえんだけど、俺。
「無理に付き合う必要はないぞ?駅前で適当に時間を潰してくれていて構わない」
あまり乗り気でない態度のせいで、改札を出たところで柳さんはそんな事を言い出した。
「なーんでそんな淋しい事言うんっスか」
「だが…退屈だろう?」
退屈だろうが何だろうが絶対離れるつもりはない。
「さっき言ってたじゃん。これからは俺に相談してくれって。
俺が途中で挫折しないような面白い本教えて下さいよ」
「解った」
確かにデートで行くような場所じゃないけど、柳さんと一緒ならどこでもいいや。
それに、こんな姿滅多に見られない。
フロアに点在するソファに腰掛けて、小説読んでるらしいんだけど…
物凄いスピードでページをめくる姿はなかなか圧巻だと思う。
っていうか…マジで読んでんのか?
俺はその隣に座って、暇潰しに選んだ雑誌見るのも忘れてその横顔を眺めた。
目の動きはほとんど解んねえけど、時々睫毛が動いてるから読んでるんだろうな。
こんなに近くでじっくり柳さんの横顔見るのって初めてかも。
ちょっと…かなり新鮮だ。
いつもと違う角度で見るのもたまにはいいなぁ…
帽子脱いで膝の上にお行儀よく乗せて、姿勢正して。
会って間もない時みたいな落ち着きない柳さんは可愛かったけど、今の落ち着いた柳さんはすげーキレイだ。
この人を形容する言葉ってカッコいいよりキレイだよな、やっぱり。
横顔がキレイって、やっぱ本物の美人だ。
…と、うちのお袋が言ってたのを思い出した。
真正面からより、ちょっとズラした視線で見ても整ってる方が凄い事なのよ、って鼻息荒く主張された。
「これと…これが読みやすくて面白い。こっちは少し長いがテンポよく読めるから問題ないだろう」
「へ?え?え?!」
顔近っっ!
いきなり振り向かれて思わず仰け反った。
「っていうか俺の為?!」
「……お前が教えてくれと言うから…余計な事だったか?」
「違っ!だって自分の読んでると思ってたから…っっ」
あ、やべっ声デカすぎた!
柳さんがしーっと口に人差し指あてるから気付いた。
その仕草が可愛い!って…それどころじゃない。
本の整理してたオバサンに思いっきり睨まれてるし。
オバサンは無視って、迷惑かけた柳さんに目で謝る。
そして声を抑えて頭を下げた。
「あ…ありがとうございます。嬉しいっス!」
柳さんが俺の為に…!!
視線を本に落として喜びを噛み締める。
「あのっ貸し出し手続きしてくるっス!」
「ああ、では俺も何冊か借りてくるかな」
柳さんはもう借りる本を決めていたのか、ものすんごい数の本の中からさくさく選んできた。
分厚い、俺に選んでくれた本の3倍ぐらいある厚さ本を、5冊も。
すげぇ…これ全部読むんだ。読めるんだ。
つーか部活で同じだけ練習して、俺より勉強して、それで更にこれだけの本読むって。
マジですげえ。尊敬する。
二人で手続き終わったところで丁度閉館を知らせる放送が流れて、俺達は図書館の外に出た。
「重くないっスか?俺、荷物持ちましょうか?」
借りた本だけで何キロかありそうだし、カバンもかなり膨らんで見るからに重そうだ。
「いや、大丈夫だ」
あ、そうか…
つい気ぃ使っちまったけど、よく考えたらこの人だって普段から負荷つけて生活してんだし、
この程度の重さなんて大したことねえか…余計な事言っちまったかな……
別にか弱い女子扱いしてるわけじゃないけど、そう思わせたら悪い事をした。
「ありがとう赤也」
「え?」
「お前が気をかけてくれるのは嬉しい」
何だって?
一瞬聞き間違えたのかと思った。
ビックリして見上げたら、
「俺はどうにも他人に頼られがちだが、本来そう面倒見が良い訳ではない。どちらかといえば横着で鈍ら者だ。
だからお前がこうして俺に気遣いしてくれるのが凄く嬉しいんだ。
丸井には赤也にばかり甘えさせるなと言われたが…そんな事はない。俺も赤也を頼り甘えている部分もある」
今までで一番優しい顔してそんな事言われた。
…ら、ガマンなんて出来ないし。
建物と建物の間の、人通りのない狭い通路に引っ張り込んで思いっきり抱き締めた。
……抱き付いた、って表現のが正しい感じがするのが悔しいけど。
柳さんも怒らずじっとそのままでいてくれた。
「すっっ…げー嬉しいっス」
「うん」
「アンタの役に立てて、アンタが必要としてくれて」
「ああ」
「俺、アンタがいらないっつってもずっと側にいるから」
「覚悟しておこう」
そんな日が来るって思っているのかと一瞬ひやっとしたけど、
「だが…それも無用な心配だろうがな。俺がお前をいらなくなる日なんてこない」
そう言い切って、柳さんが顔を近づけてきた。
「うぇええ?!」
ほんとに一瞬で。
何が起こったのか理解できなかった。
けど確かに、今。
「ちょっ……デコチューしました?!今っ」
身長差のせいで、少し屈むだけで柳さんの唇は俺のおでこに当たる。
だから、マジで一瞬の出来事だった。
「安心しろ。唇はとっといてやる。だから今のはノーカウントだな」
「意味解んねぇ!!」
すっと体を離して、さっさと元来た道を歩き始める柳さんを慌てて追いかけた。
ノーカウントにされたけど!された場所はともかく!!
柳さんがくれた記念すべき1回目には変わりない。
なのに何でこんなドライなんだ、って思ったけど。
いつもより早足になってる。
よく見れば、帽子の下に見える耳が真っ赤になってる。
何だ、この人も恥かしいんじゃん。
そう思ったらこっちも余裕が出てきた。
俺はからかう意味もこめて、後ろから柳さんの腕に飛びつくように寄りかかり、ぎゅっと手を握り締めた。
何があっても絶対にこの手は離してやらない。
そう心に誓えば、それが伝わったかのように柳さんもぎゅっと手を握り返してくれた。
〜Special happiness days Endless L∞p〜