Love Situation(前篇)
日曜日。
コート整備で部活は久々の休み。
絶対昼まで寝てやる、と決心して昨日は就寝。
けどそんな俺のささやかな楽しみをブチ壊す、携帯電話の着信音。
枕元の目覚まし時計を見れば、示す時間はまだ九時。
平日なら余裕で遅刻だけど今日は休日。
友達の下らない呼び出しだろうと思い、しばらく放っておいた。
新しいクラスの親睦会だーって、クラスメイトたちに遊びに行こうと誘われた。
が、断った。
当然だ。折角の休みだってのに何でそんなに仲良くもない奴込みの団体で遊びに行かなきゃなんねぇんだ。
なのに俺抜きで勝手に話を進められていた。
行くつもりは、もちろんない。
けど切れる様子がない。
このままチャラチャラ耳元で大音響鳴らされても迷惑だ。
そう思って布団を被ったまま手探りで充電中の携帯を取る。
「あ゙ー…もしもしー?」
この声を聞けば怯んでもう誘ってこないだろう、という打算込みでいつもの寝起きの三倍不機嫌な第一声。
が、その0.5秒後聞こえてきた声に、激しく後悔した。
「赤也?すまない、まだ寝ていたか?」
耳元で流れる低く優しい囁くような声に、一気に目が覚めて意識が浮上した。
「やっ…やややや」
頭まで被っていた布団を跳ね除け、ベッドの上で思わず正座した。
別に誰も見てないのに。
でも何か寝転んだまま対応するのは失礼な気がして姿勢を正す。
寝起きの脳ミソには刺激的過ぎる。
朝一番の電話の相手が想い人だなんて。
どんな天罰だよ。
嬉しさより焦りが先に立って上手く言葉が出てこない。
ただアホみたいにどもった後、漸く捻り出した相手の名前、
「柳さんっっ」
今現在片想い真っ最中の、その人だった。
電話を切ってからも、まだ耳に残る声。
ベッドから飛び降りて慌てて階下へ下りる。
休日だからリビングにはお袋しかいない。
「…どうしたの?具合でも悪いんじゃない?起こさなくても自分から起きてくるなんて」
「ちょ…メシ!出かけるから早くして!!」
「あらあらなぁに?デートォ?」
否定する時間も惜しい。
っていうか俺はそう思いたい。
思い込んでやる。
朝、柳さんからの電話は一緒に出かけないか、という誘いだった。
「相手の子待たせて帰られちゃったらカッコつかないでしょ?」
と、勘違いしたお袋が高速で用意してくれた朝飯を食いながら今朝の出来事を思い出した。
「今日…時間あるか?」
「えっ……えっと」
何故。
何で。
個人的な用でかけてくる事なんてほとんどない人がどうして。
そんな余計な思考に邪魔されて上手く言葉が出てこない。
「先約があるか?」
間と含みのある返答に勘違いした柳さんが話を終わらせようとしているのを慌てて止める。
「ちょっ!まっ!全然っ!!大丈夫っス!超ヒマですから!」
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「いえ!全然問題ないんで!」
全っ然無理なんてしてないから。
お願いだから電話を切らないで。
そんな必死な俺の願いは無事に通じたようで、柳さんの声が少し和らいだ。
「…そうか?」
「何っスか?どっか行くんっスか?あ、練習相手とか?」
「いや…テニスとは関係ない。ちょっと頼みたい事があるんだが…今から会えないか?」
「もちろんっスよ!!行きます!すぐ用意するんで!」
すでに柳さんはどこかの駅にまで出てきているらしく、後ろに構内アナウンスが聞こえる。
どこに行くつもりなのかを尋ねれば、有名な巨大商業施設。
買物でもしたいのか、と思いながらも二人に都合の良い乗り換え駅で1時間半後に待ち合わせする約束をして一旦電話を切った。
そこからはひたすら時計と睨み合い。
必要以上にキッチリしてるあの人の事だ。
絶対待ち合わせの30分前には来ているはず。
瞬間移動かどこでもドアでも使わない限り、その時間に間に合わせるのは無理。
けどなるべく待たせたくない。
だからフルスピードで朝飯を掻き込み、身支度を整えた。
何着ていけばいい?
学校とか部活とか試合以外の柳さんに会うのは初めてだ。
変なカッコで行くわけにもいかない。
俺はこの時ほど制服の有難味を感じた事はなかった。
毎日何も考えずにただそれだけを着ていけばいいんだから。
でも今日は対外試合でもないし、制服を着ていくわけにもいかない。
クローゼットを開けて、タンスの中身をひっくり返す。
普段家で着てるヨレヨレのTシャツなんて着ていけるか。
次々出てくるそれらを床に投げ捨てる。
クローゼットの中で一番いい服といえば、こないだ親戚の結婚式に出る為に用意してもらったスーツだ。
けどこんなもん着て行けるわけがない。
だいたいその時も姉貴に七五三だと散々馬鹿にされて大笑いされた。
苦い思い出しか詰まっていない。
そういえば柳さんはどんな恰好で来るんだろう。
気合満々の俺と違って取るに足らない休日だろうし、そんなに気合も入ってないか。
でもあの雰囲気だし流行りの軽い恰好って感じはしない。
俺も合わせてちょっと大人っぽいカッコとかした方がいいのか?
っつーか今日って暖かいのか?肌寒いのか?
慌ててリビングに戻った。
新聞の天気欄を見れば、神奈川県は快晴。
たまたまやっていたニュースの天気予報では陽射しは温かい言っていってる。
でも北寄りの冷たい風が時折吹くらしい。
「ってどっちなんだよ!!」
お天気お姉さんに思わずツッコミを入れてしまう。
年寄りかよ、テレビに向かって話しかけるなんて。
とりあえず寒さ対策に薄手の上着持って、あとはこないだ買ってもらったばっかのロンTでいいか。
「赤也、まだ出かけなくていいの?」
「げっっ!!!」
お袋の声に青ざめる。
オイオイオイオイ!!勝手に動いてんじゃねぇよ時計!!
まだ用意できてないってのにすでに15分のロス。
着ていく服は決まったけど、今度は靴だ。
一番気に入ってよく履いてるスニーカーは一昨日雨の中コンビニ行くのにはいていってドロドロになってしまった。
乾いてはいるけど土埃が酷くて色が変わって見える。
こんな事なら昨日洗っておけばよかった!!
玄関であれでもないこれでもないと靴箱に頭突っ込んで思案してたら姉貴が起きてきた。
嫌な遭遇だ。絶対何か言われる。
案の定お袋に何やってんだって半分馬鹿にしたような笑い浮かべながら事の顛末を聞いてる。
くっそー…普段履いてるテニスシューズ履いて行く訳にもいかない。
このままだと泥だらけのスニーカーを履いて行くしかない。
「ぐえっっ!!」
そんな絶望的な気持ちになっていると、背後からくる突然の重圧。
しゃがみ込んで靴箱を覗き込んでいた俺の背中に姉貴が圧し掛かり、中から黒の6つ穴編み上げブーツを出した。
「ったくしょーがない子ねー…ホラ、お姉ちゃんの貸してあげるから」
「へ?っつーかサイズ合わねーじゃん」
「こないだフリマで見つけたんけどちょっと大きくてサイズ合わなくてさーけど履けなくもないから8割引きにしてもらって買っちゃった」
してもらった、ではなく、させた、の間違いだ。絶対。
「まだ一回も履いてないけどユーズドだし先貸してあげる」
「サンキュー!!!」
後で法外な金せびられそうだけど、この際関係ない。
珍しい姉貴の仏心を素直に受け取った。
が、案の定。
「その代わりあそこのメイプルクッキー買ってきて」
こいつの仏心にはお供え物が必要なんだ、毎回。
行き先を聞き出し、そこにある行列必至の店で買って来いと言いやがった。
けど背は腹に、と俺はそれを渋々承諾した。
「何よ、アンタの初デートが成功するように手伝ってあげてんじゃない」
「初めてじゃねぇよ」
「けどアンタがこんなに必死なのって初めてじゃん。やーっと本命とデートできるんでしょ?」
少し誤解とズレがあるけど、間違いではない気がする。
テニス部の先輩としてでなく、ただの柳蓮二と休日に会えるんだ。やっと。
浮き足立つななんて無理な相談。
「まぁヘマして途中で帰られない事を祈っててあげるわよ」
「るっせー!!」
兎に角履いていくものは確保できた。
再びスピード上げて出かける準備を整える。
それから5分後、家を飛び出した。
駅まで全力疾走して、思っていたより1本早い電車に乗れた。
日曜の早い時間の電車は親子連れや女の子のグループで溢れ返っている。
乗り込んですぐ確保したドアの横にもたれて窓の外を眺める。
自然とニヤけてくる顔を引き締めなければと思うのだが、上手くいかない。
今手の中にある切符が、ありえない幸せのチケットに思えてしまう。
周りにいる奴全部に幸せ分けてやっても、まだ余ってそうなぐらい幸せだ。
待ち合わせの駅には何とか10分前に到着できた。
それでも待たせているだろう。
早く、早くと気は急くばかりだ。
電車を降り、人の波を掻き分けて走る。
待ち合わせ場所は改札前にある大きな案内板。
いた…!
遠目でも解る、背の高いあの人。
白いシャツに黒のロングカーディガン羽織って、黒の細身のパンツ姿。
シンプルで飾り気のない装いだけど、逆にそれが魅力を際立たせてる。
って遠くからファッションチェックしてる場合じゃない。
「柳さんっ!!」
電飾彩られた案内板の前で小説読んでる柳さんの元へと慌てて駆け寄っていった。
「…これは予想外だ」
「へ?」
柳さんは挨拶もなしに、手にしていた小説を閉じて腕時計に目をやった。
「待ち合わせ9分5秒前…随分焦らせてしまったか。すまない…もう少し余裕をもって時間を指定すればよかったな」
「いえっ!平気っスよ!」
早く会いたいのと、既に家を出た後だったアンタ待たせたくなくてこの時間にしたんだから。
だいたい遅れてったのは俺の方なのに何で謝らせてんだよ。
情けない。
乗り換えの改札に入り、電車を待つ時間さえ楽しい。
隣りに立つ柳さんの顔を見上げると、予想に反してこっちを見ていた。
盗み見るつもりをしてたのに。
「折角の休みなのに急に呼び出してすまなかったな」
「どうせヒマにしてたんで気にしないで下さいよ。休みっつっても家でゴロゴロしてるかダチと遊んでるかだし」
「そうか?」
「それより電話で言ってた頼みたい事って何なんっスか?」
「ああ…今年中学に入ったばかりの従弟の入学祝いを買って来てくれと祖母に頼まれたのだが
…俺ではよく解らなくてな。お前に見立てて欲しいんだ」
なるほど。
物凄く納得な理由だ。
柳さんにしろ真田副部長にしろ、どっか一般的な中学生からかけ離れた趣向のプレゼントにたどり着きそうだし。
けど何で俺なんだ?
別に他の人でも良さそうな気もするけど。
ま、いいか。
深く考えないでおこう。
どうせヒマだったのは俺だけだった、とかそういうオチだろうし。
二人で乗った電車はさっき乗ってたやつより更に混んでて、皆同じ目的地を目指しているのだろう。
さっきよりカップル率が上がったような気がする。
にしても…目立つ。
この人目立ちすぎる。
丸井先輩や仁王先輩のような派手さはない。
人目を惹く流行りの格好をしてるわけでもない。
でもそれが逆に浮世離れしてるっつーか。
本人は至って普通って感じだけど。
周りの視線などまるで気にせず、涼しい顔でドアに手を置いてガラス越しの景色を眺めている。
制服姿でも充分大人っぽいっつーか年齢詐称なとこあるけど私服姿だとますますわかんねーな。
結構年上っぽい女共がさっきからこの人見て何かヒソヒソと話している。
視線で周囲の視線を牽制していると、頭の上から声が降ってきた。
「…私服姿の俺はそんなに珍しいか?」
「ふへ?!」
何で解った?!
って顔して見上げたら、いつの間にか窓に向けていた体をこっちに向き直していた。
近いっ!!
ドアに体を預けてじっとこっちを見下ろしている。
あまりにあまりな距離に思わず後退りした。
ら、後ろの人にぶつかってしまって平謝り。
「危ない赤也。もっとこっちに寄っていろ」
腕を掴まれては逆効果です柳さん。
身のやり場に困ります柳さん。
俺の身が危ないんじゃなくて、俺がアンタをどうにかしそうで危ないです。
駅が進む度増えていく乗客にますます距離が縮まる。
どうした、と目で問いかけてくるのに微妙な顔しかできてない。
電車がカーブに入ってうっかりドアに押し付けるように密着してしまった。
なるべく平静装おうと必死になってるけど、腹ン中はぐるぐる回ってパニック状態。
心臓が口から出そうなぐらいに緊張している。
逃げようにも後ろの奴にぎゅうぎゅう押されて体勢を立て直せない。
これでもかってぐらい近い柳さん目の前にして頭ン中真っ白で、目的地に着いたことにも気付かなかった。
「降りるぞ」
そのまま腕を引かれ、人の波に飲まれながら電車を降りた。
「大丈夫か?」
「…っス」
「お前はバス通学だったな…混んだ電車に無縁だから慣れないのだろう」
慣れないのはアンタとの距離だ!
とは言えず、とりあえず頷いておいた。
改札を出て連絡通路を抜ける頃には何とかバクバクいってた心臓も落ち着いてきた。
「どっから見て回ります?」
施設に入ったところでもらったフロア案内の紙を覗く。
俺自身ここに来るのは三度目だ。
一回目は家族で。二回目は姉貴に無理矢理引っ張ってこられた。荷物持ちに。
そんなこんなで自分の意思で動き回るのは初めてだから、ハッキリ言ってここに何があるのかは知らない。
広すぎる敷地に百を越す店があるのだ。
全部をブラブラと見て回るのは不可能だから、先に買う物を決めてから動き出した方がいい。
「その従弟さんってどんなのが好きなんっスか?」
「そうだな…俺に似ている」
「…は?」
「見た目じゃないぞ。趣向が似ている、という意味だ」
ますます俺の呼ばれた意味が解らない。
俺の方が年が近いし、ゲームとか音楽とか好きだっていうんなら解るんだけど。
柳さん寄りだったら俺に聞くより…
「だったら自分で選んだ方が良くないっスか?」
「プレゼントで貰わなければ、自分ではなかなか買わないものってあるだろう?」
「はぁ…」
「そういう物を贈りたいと思ったんだ。見聞を広げるチャンスになれば、と思ってな」
親に強請って買ってもらう自分好みの服やゲームソフト。
こういうのは自分で小遣い貯めて買ったりする。
けど頼んでもないのに送られてくる祖母ちゃんからのプレゼントは。
封を開ける度驚くようなもので、和菓子だったり出所不明な怪しげな薬だったり。
貰ったものにケチつけたくはないし、お菓子は美味いし薬はどんな傷もあっという間に治る優れものだし。
折角送ってくれたんだしありがたく使ってはいるけど、間違えても自分では買わないものだ。
なるほど、そういう事か。
「解りました!んじゃ俺が責任持って選びますよ!」
「ありがとう。頼りにしてるぞ」
部活でもそれ以外でも。
柳さんにこんな言葉を掛けてもらう機会なんてない。
初めてだ。
ちょっと感動。
王者立海のレギュラーだっつっても俺一人年下で、何においても下に思われてる気がする。
試合になりゃ絶対誰にも負けないって挑んでいくけど実際敵わない事が多すぎる。
まあ他の男へのプレゼント選びってのはちょっと引っかかるけど、役に立てるんならそれでよし。
予算は五千円前後で柳さんみたいなタイプの子に贈るプレゼント。
それを探す為にまずは何軒か洋服を見て回った。
けど中一って事はすぐ身長とか伸びて着れなくなる可能性があるので却下。
アクセサリーとかも男じゃあんまり喜ばれないだろうし。
普段あまり使わない脳ミソをフル回転した。
ふと目に入った見慣れた店名。
「ね、柳さん」
「何だ?」
「CDとかってどう?普段聴かねえジャンルの」
目の前にある看板を指差して横顔を伺った。
「音楽とかってあんま聴かないかな?」
「いや、クラシックなんかはよく聴いてるみたいだ」
「くらしっく……」
音楽の授業でかかると子守唄になる、アレか。
ほんとに俺と正反対だな。
「中学生になったんならさ、友達とカラオケとか行く機会とかも出来るだろうし、流行りの曲とか聴いてみるのもいいと思うっスよ」
「そうだな。ならお前のお勧めのアーティストのものにするか」
「ういっス!!」
とは言っても、音楽の趣味って人それぞれだしな。
何にしようかと邦楽コーナーをうろうろしてたらいい物を見つけた。
ここ何年かのヒット曲ばかり集めた三枚組アルバムが棚に陳列されてる。
これ丁度いいじゃん。
色んなタイプの楽曲入ってるし値段も手頃だし。
けどこれ一つだとちょっと味気ないか。
だからってCD二枚ってのもなぁ…
そう思って他に何かないかと店内を見渡したらセール棚にいい物発見。
携帯音楽プレイヤー。
1980円って、安っ!価格破壊もいいとこじゃん!
ちょっと予算オーバーするけどこれセットにしたらいんじゃね?
今持ってるCDとか入れてもいいだろうし。
うん、決定。
「ねー柳さん って……あれ?」
いねぇし!
どこ行った?!
ぐるっと店内見渡せば。
陳列棚から頭一つ飛び出たその姿が確認できた。
ほんと便利だな…背高いと。
それ目指して行ったら柳さんは試聴コーナーにいた。
「何見てんっスか?」
「ん?ああ…決まったか?」
「ういっス!この二つ」
「ほう…携帯MP3プレイヤーか…いいんじゃないか?これにしよう」
俺から商品受け取って、柳さんはレジに向けて歩いていった。
それよりあの人さっき何見てたんだ?
今試聴コーナーにあるのは…
何トカ娘ってアイドルユニットのCD。
「………これはないな…」
これ聞いて喜んでる姿は想像つかないし。
その隣。
最近ヒットしてるヒップホップユニットのCD。
「これもないな…」
これ聞いてノってる姿は想像つかないし。
その更に隣。
先週発売された北欧の女性シンガーのアルバム。
「これか…」
森をイメージした綺麗なジャケットを手に取りじっと眺める。
発売日にお袋が買ってきてリビングで聴いてたから俺も覚えがある。
ラストの曲はCMにも使われてたから柳さんも知ってるのかな。
……っていうかそれ以前にあの人テレビとか見んのか?
色々思案してるうちに会計を済ませた柳さんが戻ってきた。
「それ、いいな」
「さっきこれ聴いてたんっスね」
「ああ…この曲が気に入った」
柳さんの細い指先が示したのは三曲目。
この曲は……
俺は歌詞見るまで解らなかったけど、英語に堪能なこの人は聞いただけで解ったんだと思う。
綺麗なピアノの旋律にのせた叶わない恋を歌った曲。
たぶん自分の立場にトレースしたんだ。
柳さんはずっと遂げられない思いを抱えている。
俺はこの人の事ばかり見てたから気付いてしまった。
俺がこの人を好きだと思うのと、同じ意味で好きなんだ。
あの人の事を。
【中篇】