これを読んで、真田ああああああああああああああおまっ…空気読め!
むしろお前が空気になれ!!って思った人、正解。
Air kiss&first of a million kisses(前篇)
§:蓮二
それはほんの一瞬掠っただけの、ただの接触行為でしかなかった。
甘い雰囲気など程遠い、思い描いていたような状況ではなかった。
俺の誕生日から10日が過ぎた土曜日。
合同練習を終え、行事の準備があると先に帰った高校生の部員の代わりにコート整備や後片付けをしていると赤也がやってきた。
「柳さーん」
あの言い方は何かを強請るつもりだろう。
人の多い場所でとんでもない事を言われては面倒だ。
聞こえないふりをしてベンチに戻り、置いてあったノートを覗いていると後ろから衝撃を食らう。
何事か、と振り返ると赤也が腰に抱きついていた。
「何で無視するんっスか!!」
膨れているかと思いきや、存外に傷付いたような顔をしていた為少し良心に呵責を感じる。
だから引き剥がす事もせず、いつもより少し和らげた声で何の用だったのかを聞き出す。
「明日!明日どうなりました?!」
「ああ…すまん、やはり解らない」
「ええーっっ」
久し振りに練習もなく、県大会が始まった事で対外試合も組まれなかった日曜日。
俺達立海大附属はシードで試合が無い。
データを取りに試合会場へ赴き、その帰りに赤也とどこかに遊びに行こうかと話していた。
とはいえ、大して目星をつけている学校があるわけではなく、
単に練習練習と五月蝿い弦一郎を黙らせる為の言い訳のようなものだったが。
しかし、その予定は大幅に狂い、もしかすると親戚で集まる事になりそうなのだ。
予定が入る確率は五分五分で、今日の夜にならなければ確定しないという曖昧なもの。
面倒なのでさっさと決めてくれと祖母に頼んでいるのだが、やはりどうなるかは解らんと素気無く返されてしまった。
「文句なら祖母に言ってくれ」
「うっ……」
あの誕生日の宴席以来、すっかり赤也の敵となってしまった祖母の名を出せば、二の句を継げず俯いてしまう。
「こんな不確定な予定に合わせなくてもいい。お前もたまには友達と遊びたいだろう?」
「イヤだ!可能性ゼロじゃないんっしょ?!だったら明日まで待ってるっス!!」
「しかし…」
悪いと思うが、しかしこうして強く出られると嬉しくなってしまう。
「……悪いとか思ってる?俺が勝手に待ってるだけなのに気ぃつかわせてる?」
「そうだな、多少は」
「んじゃアンタの予定詰まったら、そっから誰か誘って遊ぶ事にするから!それならいい?」
ここまで言われては断れない。
すっかり萎れた態度の赤也に頷いてみせ、頭を撫でる。
「すまないな、赤也」
「いいんっスよ!俺が好きでやってんっスから!」
こうなればどうにかして明日の予定を空けたくなる。
しかし舌戦で祖母に勝つ自信などなく、やはり天に運を任せるしかない。
思わず漏れそうになる溜息を飲み込み後片付けを再開した。
やっと終わるかと思った頃、ハードな練習と片付けで疲れているところ追い討ちをかけるように丸井の呑気な声が耳に届いた。
「あーかやー!お前今日までの文学史の宿題忘れてんだろー?現国の西原ブチ切れてたぜ」
「え?!………あーっっっ!!!」
赤也はすっかり失念していたようで、大声を上げて驚いている。
遠くから弦一郎が五月蝿いぞ、静かにせんか、と怒鳴っているのに気付き、二人は声を落とした。
「さっき廊下で伝言頼まれた。"今日中に提出したら見逃してやらん事もない"だと」
「今日中?!鬼!!」
「俺に言うなよ。ま、とにかく伝えたからな。頑張れよー」
無責任な励ましを残し、ひらひらと手を振りながら丸井も後片付けに戻っていく。
「マジ最悪……」
「忘れていたお前が悪い」
「そーなんっスけど…あー…マジ最悪……」
手伝ってくれ、と頼んでくるかと思いきや、予想外にすごすごと部室に戻ってしまった。
そして着替えを済ませると挨拶もそこそこに慌しく部室を出て行く。
何だか置いてけぼりを食らったような気分になる。
頼まれれば手伝うつもりでいたのだ。
代わりにやってくれなどと甘えた事を言えば容赦なく放って帰っていたが、そうでないならば力添えしようと。
明日会える確証がないのなら、尚更少しでも時間が共有できる理由に乗るつもりでいた。
だが赤也は一人でどうにかするつもりなのか、俺に声をかける事無く行ってしまった。
「参謀ー顔に出とるぜよ」
着替え終えたところに背後から仁王に声をかけられる。
そんなに不機嫌が表に出ていたのだろうか、と眉を顰めるとニヤリと笑われる。
はめられてしまった。
「赤也だったらどうせ教室だろ?行ってやりゃいーじゃん」
丸井に背中を押されるが、俺にはまだやる事が残っているのだ。
「しかし部誌が…」
「んなもん赤也の横で書きゃいいじゃん。別にこんな暑苦しい部室で書かなきゃなんねえ理由もねーだろ?」
あっさりとそう言われ、テニスバッグと机に置いてあった部誌をほい、っと手渡される。
断る理由も無い。
俺は素直に受け取り、部室を後にした。
丸井の言った通り、赤也は2Dの教室で頭を抱えていた。
「赤也」
「へ?!え?!柳さんっ」
ドアのところから声をかけると、何やら焦った様子で振り返る。
がさがさと机の上にあるノートや便覧をかき集めているのを眺めながら近付いた。
何かやましい事でもあるのかと思ったが、特に変わった様子もなく、ただ宿題のプリントをやっているように見える。
「どうした?頼ってくるかと思ったが、一人で片付けるつもりだったのか?」
「…いや…あの……」
口篭り、決まり悪そうに目を泳がせる姿にだんだんと不安になる。
来てはいけなかったのだろうか。
「…邪魔なら帰るが?」
「そうじゃないんっス!!!」
離れようとすると、慌てた様子で手を掴んできた。
促されるままに前の席に座り、赤也の顔を伺うと、何故か叱られた子供のような顔をしている。
「赤也?」
「あの…怒ってないんっスか?」
「何にだ?お前が宿題を忘れている事など、別に珍しくない」
「そーっスけど…あーカッコ悪ぃ…文学の事とかアンタに折角色々教えてもらったのに全然生かせてねーし…」
「焦る必要は無い。またゆっくりと覚えていけばいい」
それで俺を頼ってこなかったのかと思いつき、思わず笑ってしまった。
先程の不安など全くの杞憂ではないか。
以前に比べ、赤也も小説を読むようになったとはいえ一朝一夕で知識をつけるには奥深い世界なのだ、文学は。
しかし本人は納得がいかないのか口の中でもごもごと何やら言いながら、再び便覧を広げペンを動かし始めた。
教科書や便覧を駆使しながら何とか問題を解いているのを見届け、俺は部誌を書き始める。
今日は試合もなく、基礎練習ばかりだったので特に書く事もない。
レギュラー陣の気になった箇所や、明日以降の練習予定などを書き込む。
十分もしないうちに終わり、再び赤也の宿題のプリントへと目を移すが、先程からあまり進んでいないようだった。
「解らないのか?」
「う…ハイ……」
赤也のやっている宿題は古典文学から近代文学までを網羅したプリントで、
作者名や作品名を答えるものや、文章を読んで答える問題などがあった。
確かに少し難易度は高いが、丸井の口調からして昨日今日出されたものではなく、しっかりと期間は与えられていたのだろう。
忘れていた赤也の自業自得だが、俺に頼らず一人で頑張ろうとした心意気は評価するべきだ。
「どれだ?」
「えっと…これ、問五」
「冒頭部分を見て作品名と作者名を答える問題か」
「他のは解ったんっスけど…この問題だけ便覧見ても載ってなくて…」
赤也はそう言っているが、恐らく教科書や便覧にも載っているはずだ。
でなければ先生もこんな風に自作のプリントで出題するはずもない。
「どれも古典文学の有名な一節だ。試験出題の如何に関わらず知識として覚えておくといい」
一瞬嫌そうな顔をしたが、何か思いついたように何度も頷く。
「何だ?」
「いや、何か頭ン中柳さんに染まってんなーと思って」
調子のいい事を言ってへへっと嬉しそうに笑う赤也の頭を軽く小突いた。
「"ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず"…これは方丈記だ」
「ほうじょうき…ってどんな字っスか?」
「自分で調べろ、でなければ頭に入らないぞ」
「ええーっ解ってんなら教えてくださいよ!!」
「頭の中も一瞬だけ俺色に染まったところでどうにもならんだろう」
抗議の声を遮るように言い放つと、赤也は絶句した後、もそもそと便覧を手にして索引を見始める。
「ほ…ほうじょう…方丈記。これか。えーっと…鴨長明…方丈記、っと。なーんだ。北条って奴が書いたやつかと思った」
「方丈記は長明が日野山に方丈の庵を結び、その閑居の中で得た安静を述べたものだ」
「ああ、だから方丈記!」
「こうして関連付けて頭に叩き込めば文学史などどうという事はない」
「いや…それできんのアンタぐらいだし…」
俺じゃ容量不足で脳ミソがパンクします、と膨れる赤也を宥め、次の問題に目を通す。
「赤也…」
「はい?」
「これは常識として覚えておけ…日本人の恥だ」
焦らなくていいと言ったが、これを知らないのは問題だ。
否、問題外だ。
俺はがっくりと肩を落とした。
「は?」
「"春は曙。やうやう白くなりゆく山際、少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる"…お前、この有名な冒頭を知らないのか?」
「えっと…ハイ」
「…枕草子だ」
「あ、ああ!これがそうなんっスか?」
それは知ってる、と得意げに解答欄を埋めているだけまだ酌量の余地はある。
しかし、やはりどう考えてもこの一節を知らないのが理解できない。
「赤也、古典の教科書は?」
「へ?」
「出すんだ。一から説明してやるから」
「いや、いいっス!このプリント終わったらそれでいいんで!!」
「そういう事を言っているからいつまで経っても理解できないんだ。ほら、遠慮するな」
「遠慮とかでなく!っつーかこれチャッチャと終わらせねえと時間ねえし!!」
上手くはぐらかされたような気がしないでもないが、赤也の言う通りかもしれない。
仕方なく次の問題を見る。
「"男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり"これは土佐日記」
「と…さ、にっき、っと…土佐日記、紀貫之…ふー…」
溜息を吐きたいのはこちらの方だ。
やれやれと半ば呆れながら次の問題を読もうと視線を落とした時、頭上から校内放送が流れ始める。
『2年D組切原赤也!!校内にいるなら今すぐ課題提出しろ!10分以内に持ってこなければ次の宿題倍増だからな!!』
「げっ!!名指し?!」
振り返り、黒板の上にある時計を見れば、すでに最終下校時間が近い。
先生も早く帰りたいのだろう。
半ば脅しのような文句に気合が篭っている。
「やっべーっっ…!!!まだあと一問残ってんのに!!」
最後の一問は作品名を見て作者を答える簡単なものだった。
数は多いが何とかなるだろう。
それにあの様子では恐らくまだ校内に残っている弦一郎の耳にも入っているに違いない。
五月蝿い奴がここを探し当てる前に終わらせるに限る。
「まったく、仕方ないな……手伝ってやるからさっさと答えを書け」
「え?あ、ありがとうございます!!えっと……たけくらべ」
「樋口一葉」
手元にあった部誌のまだ使っていないページに漢字を書いてやると、それを見ながら解答欄に書き写す。
ちっとも勉強になっていない気はするが仕方ない。
やらずに提出するよりはましだろう。
「あん、よる?航路…?」
「違う、あんや、だ。暗夜航路。志賀直哉」
「ふ…くも?」
「馬鹿者。うきぐも、だ。二葉亭四迷」
「ま…舞姫?」
段々と低めに声色が変わるのを敏感に察知したらしい赤也が恐る恐るといった様子で伺う。
「森鴎外」
「人間失格…って、何かすげータイトルっスね」
「太宰治。この作品は自殺した彼の自伝的な遺書とも言われているな」
「ふーん……えっと、次…きんいろ……」
「こんじき、金色夜叉。尾崎紅葉」
「ほそ…ゆき?」
「ささめ、細雪。谷崎潤一郎」
もうツッコミを入れる気力も失せてくる。
「アンタほんっっと何でも知ってんっスね」
「興味があればこんなものだ。お前だってそうだろう?」
「何がっスか?」
「例えばマンガのタイトルを言われれば作者が誰かぐらい、解るのだろう?」
「あー…そうっスね」
「それと同じようなものだ」
赤也は感心しきりで解答欄を全て埋めた。
色々と小言を言ってやりたいが全て飲み込む。
間に合ってよかったと言いながら、片付ける時間も惜しいと赤也はバタバタと職員室に提出に行ってしまった。
荷物と共に教室に残され、赤也が戻るまで出て行く事も出来ない。
仕方なく部誌の走り書きでも消しながら待つ事にする。
全てを消し終え、ふと机の上に置かれた便覧が目に入った。
自分が使っている出版社のものではない。
今年から変わったのかと思いながら中を眺める。
内容はそう変わらないが、細々とした部分はやはり違っていてなかなか興味深い。
少しだけ、と思っていたがつい読みふけってしまった。
熟読しているといつの間にか赤也が戻ってきていて、自分の席についている。
顔を上げると満面の笑みが向けられる。
「赤也。間に合ったのか?」
「はい!柳さんのお陰っス!」
「そうか、よかった」
「それ、面白いっスか?」
散乱した机の上を片付けているのを見て、手に持っていた便覧も荷物に加えようとすると赤也は制止してきた。
「そうだな…今俺が使っている物とは違うからなかなか興味深かった」
「だと思った。俺戻ったの気付かないぐらい熱中してたし。持って帰ってくれていいっスよ」
「何?いや、しかし…」
「どーせロッカーに突っ込んで持って帰る事もねえし、それなら柳さんに役立ててもらえた方が嬉しいんで」
「そう…か?」
遠慮するべきなんだろう。
と、いうより持って帰って勉強し直せと言ってやりたいが、赤也の申し出はなかなか魅力的だった。
「次の現国がー…あ、火曜か。それまでに返してもらえれば大丈夫っス」
壁に貼られた時間割表を見ながら遠慮せずどうぞと言われ、もう断れなかった。
「ありがとう赤也」
「いえいえ。っつーか何そんなに熱心に読んでたんっスか?」
「百人一首だ」
古典の時間に強制的に叩き込まれた歌など、もうとっくに赤也の頭からは抜けてしまっているのだろう。
うへえ、っと嫌そうな声を隠さない。
「えーっと、もしかして全部覚えてんっスか?」
「当然だ」
「……当然っスか…」
「お前は興味がないようだな」
「いや!あの!!違っ…」
慌てて赤也は焦った様子で手を振っている。
が、顔に返答は書いてある。
「ならば、俺の好きな歌だけでも覚えておいてくれ」
「アンタの?」
「そうだ。それぐらいなら覚えられるだろう?」
「は…ハイッ!!」
貸してもらった便覧を開くと、赤也が身を乗り出し覗き込む。
どういうつもりなのかは計れないが、俺に興味を持ち少しでも近付こうとしてくれる事が単純に嬉しかった。
「この歌…"大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立"小式部内侍の歌だ」
「…全っ然意味わかんないんっスけど…どの辺が好きなんですか?」
「歌そのものの持つ意味より、形式の美しさだな。二つの掛詞に縁語、体言止め、倒置法…
たった三十一文字にあらゆる技法がつまっている才溢れる歌で…」
眉間に皺を寄せ、頭をフル回転して必死になって理解しようとする姿が可愛い。
話にはあまり興味はなさそうだが、そんな赤也の姿をもっと見ていたくて俺は説明を続けた。
「と、藤原定頼の皮肉に対して当意即妙に言いくるめた事で有名な即興歌―――…っ」
不意に赤也が動くのを感じ、顔を上げる。
便覧を持っていた手に赤也の手が添えられ、何事かと思ったその瞬間。
目の前に広がった赤也の顔に何をしようとしているかを察し、思わず身を引いてしまった。
しかし避けきれず微かに赤也の唇が口角に触れた。
「っ―――赤也……」
ほんの一瞬だったが、確かに触れた。
掠れた唇は思っていたほど体温を持っていなかった。
もしかすると緊張していたのだろうか。
赤也の触れた部分に指を添えると、次第に顔が熱くなってくるのが解る。
「…何でよけるんっスか」
怒らせてしまったか、傷付けてしまったかと思った。
だが赤也は存外に拗ねた表情を見せている。
自分でも不意打ちは卑怯だったと解っているのだろう。
「俺だって心の準備ぐらいしたい。不意打ちは御免だ」
「ええーっ!けどそうでもしないとアンタなかなか決心しないっしょ?!」
大きな声で抗議して肩を掴んでこようとするが、廊下からする怒鳴り声に大袈裟に飛び上がった。
「赤也っっ!!」
「げっっ真田副ぶちょ…っっっ」
扉から姿を現した姿に赤也は椅子から立ち上がり青い顔をして後ずさる。
まったく、いいところで邪魔をしてくれる。
俺は深く溜息をついて睨み付けた。
「五月蝿いぞ、弦一郎」
「む…蓮二、いたのか」
「大方さっきの放送を聞いてきたんだろうが、もうすでに提出させた。問題ない」
「し…しかし」
宿題を忘れる事自体が問題なのだとつらつらと文句を垂れる弦一郎は無視して荷物を持って立ち上がる。
「帰るぞ赤也」
「あ、はいっ!!」
慌てて荷物をまとめ、赤也も後をついて廊下に出る。
その後ろには弦一郎もいて、一触即発という空気が流れている。
赤也は先程までの怯えた表情から、些か不機嫌さがにじんでいた。
大方思っているであろう事は想像がつく。
俺はカバンの中から部誌を取り出すと弦一郎に押し付けた。
「ああ、そうだ。会えたついでに…これを、部室に戻しておいてくれ」
「何?」
「頼んだぞ、弦一郎」
「俺を足にするつもりか蓮二っ」
もうこれ以上何も聞かない、という姿勢を見せると弦一郎は折れたようで廊下を反対方向に歩いていった。
その背中を見送り、赤也の肩を叩いて帰ろうと促す。
「…すごいっス…真田副部長に命令できんのってアンタか幸村部長ぐらいでしょ?」
「そうか?あれで丸井や仁王なども上手くあいつを動かしているぞ?
まあはっきりと面と向かいあんな風に言えるのは俺か精市だけだがな」
「俺には一生無理…」
「しかし俺を思うまま扱えるのはお前だけだろう?それでは不満か?」
「だ…大満足っス!!!」
そう元気よく答えるが、
「けど何か全然思うままって感じしないっス」
キスは避けられるしと、すぐにまた拗ねたように口を尖らせた。
「まあ…あのままやってたら間違いなく真田副部長に見られてただろうけど…」
「拘るな、ハーフカウントにしておいてやる。続きは…」
明日出来ればいい。
その為にも、家に帰ってまず祖母の説得から始めなければ。
【後篇】