おめでとう赤也。おめでとう蓮二さん。
今、頭上に天使がくるくる舞ってるよ
プゥーン⊂二(^ω^ )二二⊃⊂二二( ^ω^)二⊃プイーン
シャラポワァ〜゜
*。・。*:☆.゚\(´ω`)/'。;゜'☆・*.゚:+
おめでとう!!おめでとうやったね!!
焦らしてかわして、どういう事なんだ!!!!!ってファーストチッス。
えっと、アンケート結果で一位になった場所にします、って随分と前に投票してもらったのですが、
50票集まったら投票終了にしようって決めてて、いざ開票してみると…
何という事でしょう(びふぉ○ふたー風に)、教室と赤也の部屋が同票1位という結果に。
結果はこちら↓
特筆すべきは赤也さんと蓮二さんの部屋の票差か。
アウエーだしね…やっぱホームのがいいよね赤也。
同票という事は考えてなかったからどういう話にしようか悩んだ。
でもどうにかして両方をファーストキスにしたくてこういう展開になりました。
何年か後に揉めたらおもろいのになあ…
初めては教室だ!いや、俺の部屋っスよ!!アンタ誰とのキスと勘違いしてんっスか!!って。
侮辱するな!俺はお前以外となどした事はない!!で、仲直りですね。
ファーストキスはレモン味ではないにせよ、それなりに甘く甘く…そんで甘じょっぱく。
もういっぱいっぱいになってぐるぐる余計な事ばっか考えてればいいよ赤也は。
中学生なんてこんなもんだよね?性春真っ盛りだよ。
Air kiss&first of a million kisses(後篇)
§:赤也
祈るような気持ちで柳さんからの連絡を待っていた。
けど寝る時間になっても明日どうなるか、という電話もメールもなかった。
こちらから連絡しようかと思ったが、立て込んでいたら悪い気がする。
あのばーさん相手に柳さんが頑張ってんなら邪魔するわけにもいかない。
そんな余計な事を考えていて、結局携帯を握り締めたままいつの間にか眠ってしまっていた。
翌朝、ガタガタと玄関の扉が開く音で目が覚めた。
お袋の明るい歓迎の声が部屋にまで届いて、それが家の誰かが出て行く音じゃない事が解る。
それ以降物音が消えて静かになったから、またうとうとと眠くなってきた。
だが階段を上る音が聞こえてきて、何だか嫌な予感がする。
案の定、姉貴がうるさく部屋に乱入してきた。
「赤也ー!!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜……っるせー姉貴……」
起き抜けにいきなり蹴られんのなんか慣れてるけど、今日は何か気分がスッキリしない。
握ったままの携帯の時計を見るともう10時だ。
けどあと1時間は寝ていたい。
「お母さんが買い物頼みたいんだって」
「てめーが行けよ…」
ささやかに反抗するとベッドに乗り上げ背中を踏みつけられて完全に目が覚める。
「何すんだよ!!」
「…アンタがいつまでも起きてこないから親切で起こしてやってんじゃない」
「……は?」
「あ、顔洗ってからリビング行った方がいいわよ」
姉貴はニシシ、っと嫌味な笑い方をして部屋を出て行く。
さっぱり意味が解らない。
お袋の友達でも来てるんだろうか。
携帯を開いて画面を見るけど、メールも電話もない。
やっぱ予定が詰まったって事か。
とにかく今すぐ起きないと今度はお袋が起こしに来る。
何度も五月蝿く言われるのも嫌だし、とりあえず朝飯だけ食って二度寝するかと階段を下りた。
姉貴の言いなりになるのは癪だけど言われた通り先に洗面所に入って顔だけ洗う。
冷たい水で顔洗ってもまだちゃんと目が覚めなくて、大きなあくびをしながらリビングに入る。
「おはよう、赤也」
「はよーっス…」
反射的に朝の挨拶して、一拍置いてからその異様さに気付いた。
一気に眠気が吹っ飛んで、その後頭の中は混乱に混乱が混ざり合う。
「え?…ちょっ……っっってアンタなん…何でここいるんっスか!!!!!!」
何でもない顔してリビングの真ん中にあるソファセットに座ってのんびりお茶飲んでるのは、
昨日から連絡をずっと待ち望んでいた人だった。
柳さんとお袋が何か楽しそうに話してるのをリビングのドアのところで呆然と見ていたら、振り返ったお袋に笑われる。
「アンタ何面白い顔してんの」
「面白いって言うな!!」
背もたれを乗り越えて三人掛けソファに座る柳さんの横に転がるように座って、近くで見て確認する。
「ほ…本物?」
「お前は俺の偽者を見た事があるのか?」
「ないっス!!!そうじゃなくって、何でここにいるんですか?!用事は?!」
「ああ、あれなら中止になった。行くはずだった親戚の家で別の用が出来たらしい。それでお前に連絡を入れようかと思ったのだが…」
ちらり、とお袋の方を見る。
まさかまた何かやりやがったのかって焦った。
「丁度姉に赤也のお母さんから連絡が入ってな、話の流れで俺の話題になって、それで遊びに来ないかと誘われた」
「……は?何で?」
意味解んないんですけど。
何であのお姉さんとお袋が?
「あれ?言ってなかったっけ?芙蓉ちゃんと私、同じ華道教室通ってんのよ?」
「はあ?!」
「お稽古友達なのよ」
ねー?なんて気持ち悪く柳さんに同意求めてんじゃねえ!!!
っていうか俺聞いてねえし!!
いきなりの事で頭が回らない。
けど確かに不思議だったんだ。
何でかお袋は柳さんの誕生日知ってたし、俺が柳さんの家に呼ばれてる事も知ってたし、柳さんはお袋の年を知っていた。
だからってこういう繋がりがあったなんて夢にも思わない。
それはお袋も同じだったらしく、最近までお姉さんの弟が柳さんだって知らなかったらしい。
にしたって…
「教えてくれたって良かったじゃないっスか…」
「すまん、お母さんに内緒にと言われていたから」
申し訳無さそうに言わないで下さい。
悪いの全部お袋だし。
「てめーが口止めしてんじゃねえかよ!!何が言ってなかったっけ、だ!!」
「うるさいわねーいい男はこんな小さい事なんて拘らないわよ」
「小さかねえ!大事な事だし!!」
やられた。
こんな裏側にパイプがあったら全部何もかも筒抜けじゃねえかよ。
この様子じゃ絶対こないだの誕生日の事も知ってるんだろうな。
本当に滅多な事が出来ない。
柳さん家にはあのばーさんがいて、うちではお袋がいて。
これからの事を考えると何か気が重くなってきた。
はーっと深い溜息をつくと、柳さんが何を勘違いしたのか急に声のトーンを落とした。
「赤也?いきなり来てすまなかった…もう誰かと約束したのか?」
「ああああああありえないっス!来てくれて嬉しいし!!昨日言ったじゃないっスか!アンタの予定に合わせるって!!」
「アンタ出かけたいんなら出かけていいわよ。今日は私が招待したんだから」
慌てる俺に、またお袋の余計な一言が浴びせられる。
「るっせー!!俺が先に約束してたんだからてめぇこそすっこんでろ!!」
お袋はニヤニヤ笑ってて、完全にペースに飲み込まれてる。
ちくしょう、もういい。
朝から余計なカロリー消費した気分だ。
急激に腹が減ってきたような気がする。
「朝飯にする!!」
「あ、あんたの分何もないわよ」
「はあ?!」
「起きてくるの遅いから全部食べちゃったわよ」
ありえねえ。マジでありえねえ。
パン1つぐらいはあるだろって戸棚や冷蔵庫を探したけど、やっぱり何も無い。
あー…だから姉貴が買物っつってたのか。
くっそー…面倒だけど自分で買いに行くしかねえんだろうな。
これ以上柳さんに余計な諍い見せたくないし、俺は朝飯買いに行くからってお袋に金をせびった。
「ついでに昼ご飯の買出しもしてきてよ」
「ええーっ」
「…晩御飯まで待つんなら構わないけど?」
「ううー……わーったよ」
微笑みながら動向を見守ってる柳さんの手前、あんまりな事が言えない。
結局俺はお袋に財布と買物リストを押し付けられてしまった。
§:蓮二
明日はどうしても外せない用があるんだ、と先に泣きついたのは集まる先の家に住む従兄の方だった。
彼女とデートか、と尋ねれば曖昧な答えが返ってくる。
何にせよ渡りに船と俺とその従兄で結託して、何とか伯父や伯母を言いくるめて予定をキャンセルさせるように持っていった。
些かの事の荒さは否めないが、仕方ないだろう。
祖母に直接言ってもどうにもできないのなら、裏側から手を回すしかない。
だが、おかげで晴れて自由の身となり赤也に電話を、と思ってリビングに行くと姉が誰かと電話をしている。
珍しい。
話す事を不得手とする彼女は、どちらかというとメール頻度の方が高い。
とはいっても、同年代の女子とは比べ物にならない程度だが。
誰と話しているのか、とても楽しそうにしている。
こちらに気付き、俺を話題に出しているあたり、俺達に縁の人なのだろうか。
そう思っていると、蓮ちゃん代わってだって、と言って受話器を差し出された。
姉がこうして俺をちゃん付けで呼ぶ時は碌な事がない。
何か無茶な強請り事をする時などが多いので胡散臭い視線を向けるが、笑顔で押し切られてしまった。
もしもし、と出ると聞き慣れた声が受話器からする。
しかしいつも聞いているそれよりも音域は高く、もしやと思い尋ねた。
「…赤也のお母さん?」
正解ーと、あの明るい調子で返される。
そしてこちらの意思などまるで関係なく、遊びに来ないかと誘われた。
元より赤也と遊ぶつもりにしていたので構わないのだが、一瞬昨日の事が頭を掠めた。
もしかすると続きが待っているかもしれない。
そう思うと妙に緊張してしまい、期待するのも変な気がするのだが無意識に歯磨きを二度してしまっていた。
強い調子で言われるままに了承の返事をして、途中手土産を買って赤也の家を訪ねると笑顔で迎え入れてくれた。
あのバカはまだ寝てるんだけど先にお姉ちゃんと三人でお茶しましょうと誘われ、赤也が起きてくるのを待った。
しかし一時間経っても起きてこない事にお姉さんがしびれを切らせて起こしにいってくれた。
言い争う声がしてしばらくするといつも以上にボサボサの頭を掻きながら眠そうな顔の赤也が現れ、
想像通りの慌て振りで歓迎してくれる。
そしてひと悶着の後、買物に行ってしまった。
言い合う様子は母子というより、むしろ友達のような関係で、何となく今の赤也がどうして出来上がったのかが窺い知れる。
「あっはっは!ほんっとあの子からかうと面白いわー」
いつだったか精市もそんなような事を言っていたな、と目の前にいる赤也とよく似た面差しの人を遠い目で見つめる。
「学校でもあんな感じなんじゃない?」
「…あのままです」
「やっぱり」
家ではこの調子で、学校では小姑のように付きまとう先輩と、やはり赤也はこういう星の下に生まれてしまったんだろう。
しかしそれも周りの愛情と言えばそうなのだから、これも赤也の人徳と言うべきか。
「あの様子だとすっ飛んで帰ってきそうだし、単刀直入に聞くね」
「はい?」
「あれのどこがいいの?」
「ブッ…」
このタイミングでカップに口をつけたのは間違いだった。
予想外の質問に思い切り紅茶を吹き出してしまう。
「ごめんごめん、大丈夫?」
「ゴフッ…いえ…失礼しました……」
差し出されたティッシュで口元を拭い、非礼を詫びる。
その間も赤也のお母さんは答えを期待して興味津々といった目で見つめている。
逃げられない。
どうにも俺はこの手の視線に弱いようだ。
「どこが…と、言われましても…」
「運動神経以外能はないし、バカで短気でワガママでキレやすいって…蓮二君と正反対じゃない?」
実の親なのに、否、だからと言うべきか。
しかしここまでこけ下ろさなくてもと若干の同情心が湧いてくる。
「そう…ですね、正反対というのは皆によく言われます」
あくまで気質として正反対なのだ、という事を強調してみるが、根本的に否定できない意見なのでどうにも弱腰になってしまう。
「あの子のゴリ押しに負けたんじゃない?物凄い強引で強情でしょ?」
「はあ…まあ、確かに…かなり手法は強引だったような…」
「何となく想像つくわ、その様子も。昔の私そっくりだからねーあの子は」
そういえば赤也が言っていた。
詳しくは知らないが、何やら凄い押しかけっぷりで親父をゲットしたんだーと。
確かにその気性は間違いなく赤也に受け継がれている。
「経緯はどうであれこーんな素敵な人ゲットしたんだし、その辺はあいつを褒めてやりたいかな」
そのゲットした相手が男である問題はないのだろうか。
俺の一瞬の表情の変化を見逃さない鋭さもそっくりなようだ。
赤也のお母さんはにこっと笑い、そんなの小さな問題よ、と言った。
「たとえばあの子がアホ面丸出しのバカ女連れてきたらこの家の敷居跨がせない」
「うちの祖母や母も同じような事を言っていました」
特に最近は母より祖母の方が五月蝿い気がする。
あの坊主は遊びに来ないのか、と。
どうやら相当に赤也を気に入ったようだ。
完全に祖母の片思いで赤也は苦手としているようだが。
「ま、先の事なんて解んないけどさ、あの子の事よろしくね」
「え…」
「確かにキレやすくてワガママで強情で強引だけど、人様騙したり嘘ついて傷つけるような卑怯者には育てなかったつもりだから」
その辺の品質保証はするわ、と言って悪戯っぽく笑う。
バカだけどね、という余計な一言も忘れずに。
思わぬ言葉だったが、それは至福の言葉だった。
§:赤也
頼まれた買い物を済ませて急いで家に帰ると、柳さんとお袋はまだリビングで何か楽しそうに話をしていた。
「おかえり、赤也」
何かいいなあ、柳さんにおかえりって言ってもらうのって。
そう噛み締めるように思ってたのに、お袋の
「バカ面して突っ立ってないでさっさとご飯食べなさいよ」
って余計な一言で全部吹っ飛んでしまった。
ムカつくけど腹が減ってる方が先に立って、急いで買ってきたパンの袋を開ける。
いつもはダイニングテーブルで食うんだけど、今日はリビングのソファで柳さんの隣に座って食べる。
「あまり焦って食べると体に悪いぞ」
「だって…」
「そんなに急がなくても俺は逃げない」
「う…ハイ」
柳さんに言われて少し食べるスピードを落とす。
「アンタいつもそれぐらい素直に言う事聞きなさいよねー」
「るっせー!何でてめーなんかの!!」
後ろから姉貴にまで余計な事を言われて苛立ちが募る。
これはさっさと逃げるに限る。
俺はもう一度食べるスピードを上げて急いで食べ終えた。
「出掛けよ、柳さん」
「どこに?」
「んー…どこでも。どこ行きたいか考えててください。準備してくるんで」
とにかくこの家から出ていかないと、一日中こんな調子でお袋と姉貴に邪魔される。
俺は急いで洗面所に行って顔洗って歯を磨いた。
そして部屋に戻ってクローゼットを開いて服を探す。
何を着ていこうかと考えながらタンスを覗き込んでいると、背後でドアの開く音がする。
またお袋のやつ勝手に入ってきやがったな。
「勝手に入ってんじゃねーよ」
「すまん…ノックするのを忘れていたな」
「へ?!」
予想外の声に頭を上げた瞬間クローゼットの仕切り板で頭をぶつけた。
「いいいっっってええええ!!!」
「大丈夫か?」
聞き間違いかと思ったけど、やっぱり柳さんの声だ。
「ててて…大丈夫っス……っつーか何でここに…」
立ち上がってドアのところに立ったままの柳さんに近付くと、ふっと笑顔を向けられる。
「行きたい場所」
「へ?」
「俺の行きたい場所だ」
柳さんは人差し指をついっと床に指差す。
「えっ……俺の部屋?」
「そうだ。お邪魔して構わないか?」
「どっ…どうぞ!!あのっ…汚いっスけど…」
俺は慌てて床に散乱したプレステやら雑誌や漫画やらを部屋の隅に追いやってフロアテーブルの前にクッションを置いた。
柳さんは少し遠慮がちに腰を下ろして部屋をきょろきょろと見回す。
うう…こんな不意打ちあんまりだ。
少し前にお袋にケツ叩かれて掃除はしたけど、物が散乱してるしあんまり見ないでほしい。
俺もテーブル挟んで柳さんの前にクッションを置いてそこに座った。
自分の部屋なのに、何か落ち着かない。
柳さんがここに来るのは二度目なんだけど、こんなに落ち着いて向き合うのは初めてだし。
「赤也?トイレにでも行きたいのか?」
「へ?!何で?!」
「いや、ずっとそわそわと落ち着きがないから…違うのか?」
「ちっ…違う違うっ!あ!そうだ!俺何か飲むもん持ってくるっス」
さっきまでお袋と何か飲んでたし、たぶんいらないだろうけど居た堪れなくて、とりあえず一息入れたくて俺は部屋を出た。
廊下の壁にもたれて思わず深い溜息をついてしまう。
急激過ぎて事態が上手く飲み込めていない。
何で柳さんが俺の部屋にいるんだ?
つい一時間前までそこで呑気に眠りこけてたのに。
「アンタ何やってんの?」
「げっお袋…」
「はい、ジュース」
お盆にグラスとペットボトル、チョコレートの盛られた皿を乗せたものを手渡される。
お昼ごはん出来たら呼んであげるからと言ってすぐに一階に戻ってしまって逃げ場がなくなってしまった。
俺は再び部屋に戻って思わずノックする。
自分の部屋なのに。
でも中から声がしない。
何だどうしたと思ってそーっと中を覗くと、床に置いてあった漫画を読んでいた。
「柳…さん?」
「ああ、すまん、勝手に読んで」
「いや、全然!!」
テーブルにお盆を置いて手元を覗き込む。
暇だし1巻から読み直すか、と思ってベッドの横に置いてあったコミックスを読んでいたみたいだ。
っつーか…似合わねえなー……いつも小説読んでるイメージしかないから、こっちのが年相応アイテムのはずなのに似合わない。
すげー真剣に読んでるし、面白いのかな。
それともただ物珍しいって思ってるだけなんだろうか。
漫画とか読んだ事なさそうだし。
「赤也」
「はい?!」
突然呼ばれて、別に悪い事をしてるわけじゃないのに思わず過剰反応してしまった。
丁度グラスにジュース入れてるところだったけどこぼれなくて良かった。
「何っスか?」
「これの続きが読みたい」
「あ、じゃあ持ってきます、続き!」
やっぱ面白かったんだ。
俺の好きなもん気に入ってもらえるって何か嬉しい。
漫画とか小説はたいていお袋が買ってきてリビングの本棚に置いてある。
俺は急いで残りの巻を取りに下りた。
リビングのドアを開けると醤油の焦げる匂いと焼き魚の匂いがする。
柳さんに合わせて昼飯は和食にしたんだな。
いつもは適当に冷蔵庫の残り物とか出すくせに、柳さん来てるからって張り切りやがって。
本棚の前でごそごそしてたらお袋がこっちに気付いた。
あと三十分ぐらいかかるからもうちょっと待ってて、と言われたから俺は既刊分を抱えて部屋に戻った。
両手で五冊持った状態だったけど、いつもやってるように肘で部屋のドアを開けて中に入ると、
柳さんはまだ真剣な顔をして読んでいた。
ああ、そっか。歴史ものだから柳さんも興味持ってくれたのかもな。
表紙を見ながらそんな事を考える。
いつも小説読む時はありえない速さでページめくってたけど、漫画読むのは遅いみたいだ。
どのコマ読んでいいのか解らなくなるんだろうな。
「ありがとう赤也」
「いえ、あの…面白いっスか?」
「そうだな。漫画なんて子供の読むものだと思っていたが…面白いものだな。
絵があるから頭で想像する部分が限られてしまうが、その分作者の表現したい事が素直に理解できる」
そんな哲学的に漫画の事なんか考えた事ねえし。
でもまあ楽しんでもらえてるみたいでよかったや。
部屋に来てくれたはいいけど、正直何していいか解んねーし。
俺は柳さんの前に持ってきた漫画積み上げて、向かい側に座った。
置いてあるジュースを飲んで、やっと落ち着いてくる。
柳さんが俺の部屋にいるっていう異常事態にも慣れてきた。
それと同時に少し退屈になってくる。
柳さん来てるのに一人でゲームするのも嫌だし、テレビでもつけるか。
リモコンに手を伸ばして電源を入れるけど、日曜の昼間の番組なんてどれもつまらない。
電源は入れたままちらっと柳さんに視線をやると、もう半分以上読んだみたいだ。
コマの読み進め方が解ってスピードアップしたのかいつも小説を読む速さと変わらない。
これならあと十分ぐらいで読み終わるだろうし、雑誌でも読んで待ってるか。
すんげー真剣な顔してるし邪魔しちゃ悪い気がする。
ほんとはもっと近寄りたいけど、今動くと何か不自然だよな。
俺は仕方なくベッドに寝転がって、さっき部屋の隅に追いやった月刊プロテニスを読み始めた。
まだ読んでなかった記事があったから、それ読むのに集中して時間が経つのを忘れてしまった。
「……也、赤也」
「あ、すんません!!」
うわっやっべえ!
今一瞬柳さんの事放置しちまってた!!
服の裾を引っ張られて慌てて起き上がる。
「赤也、続きは?」
「ああ、それまだそこまでしか出てないんっスよ」
「そうなのか?」
柳さんは残念そうに本を閉じてテーブルの上に置いた。
すんげー気になるとこで終わってるからなー…
「次の出たら貸しますよ」
「ありがとう。すまないな、つい夢中になってしまってお前を放っておいて」
「気にしないでください。また新しい境地って感じっスか?」
「そうだな」
俺はベッドから下りて柳さんに並んで座った。
よし!さりげなく隣ゲット!!
さっきから距離詰めるタイミング計ってたからな。
上機嫌でテーブルの上にあるチョコに手を伸ばした。
「これすげー美味いんっスよ。食ってみません?」
「ありがとう」
差し出された掌に小さなチョコを乗せる。
これも気に入ってもらえるだろうかと、金色の包み紙を解いて口に入れるのをドキドキしながら見てると、突然顔を伏せられた。
「あれ?柳さん?」
「そんなに見られては食べ辛い…」
「うわっっすんませんっっ!!」
照れたように言われて勢いよく視線をそらす。
変な風に思われたかもしれない。
別に柳さんの食べる姿がエロいとか考えてたとか、邪な気持ちはないとも言えないけど。
いや、ない!断じてない!!
ただ純粋な好奇心で、って誰に言い訳してんだ俺は。
「うん、美味い」
「え…?」
俺が顔そらしてるうちに口に入れたのか、柳さんに視線を戻すと笑顔を向けられた。
「もう一つもらってもいいか?」
「どうぞ!!親父の出張土産なんですけど、まだいっぱいあるんでよかったら持って帰ってくださいよ」
「いや…しかし…」
「遠慮はなしっス」
俺は皿からさっきとは違う味のチョコをつまんで包みを開けて差し出す。
柳さんは掌を出してきたけど、直接口の前に持っていく。
一瞬躊躇ったけど、口を開けてくれた。
チョコを放り込んだ瞬間、指先が少し唇に触ってしまった。
人の唇触ったのって初めてだ。
昨日思わず勢いでキスしようとしたけど、柳さんは逃げてしまってホッペにチュウ止まりになったし。
唇の端に当たったような気もしない事もないけど、あんなのキスじゃない。
どうしよう。
したい。物凄く柳さんに触れたい。
いきなり押し倒すとか、流石にそういう欲求はないけど。
うん、ない。ないと、思う。
でもキスはしたい。
昨日は勢いだけだったし、こうやって落ち着くと上手いやり方とか解んないけど。
手とかどこにやればいいんだ?肩に置けばいいのか?
さっき指先で触っただけでも、何か柔らかくって、もっともっと触りたくなった。
今度は指じゃなくてと、ぐるぐる考えて意識が他所に行ってる間、柳さんは何かを見て一瞬顔を歪めた。
何か変なもん置いてあったっけ、と俺は焦って視線の先を追う。
その先の棚には別に変わったもんは置いてないはずだけど…
あ、たぶんアレだ。
俺は立ち上がってPSPの箱を手に取った。
「これ、覚えてます?」
「…ああ」
一瞬返事に間があってちょっと焦った。
俺だけが大事にしてた思い出だったんだろうか。
「アンタに初めてもらったもんだからすげー大事で使えないんっスよねー何か勿体無くて。傷とかついたらヤじゃないっスか」
「……え?」
「え?」
何か変な事言ったか、俺。
柳さんは眉を寄せた後、ふーっと長い溜息を吐いて肩をがっくりと落とした。
そしてさっきまで姿勢良く正座してた足を崩して膝を抱えて座り直す。
「ちょっ…どうしたんっスか?!何か俺変な事言った?!」
「いや…何でもない…少し…勘違いしていたようだった…」
「な、何を?」
ちょっと待て、何か変な展開になってないか?
何を勘違いしてたんだよ。
俺一人舞い上がってたって事か?
「前に…ここに来た時、お前がそれを使っている様子がなかったから……いらない物だったのかと思っていたんだ」
「はあ?!」
何だよそれ!!
「あの時、お前は喜んでいたが…その、あの後違う物を欲しがっていたから、
俺が押し付けてしまって、もしや気を使わせたのではと…」
「そんなわけ無いじゃないっスか!!ほんとに嬉しかったし、これ使えねえのはただの俺の心の持ち様っつーか…」
ああもう、何て言えばいいんだろう。
っていうかそんな事で不安に思っててくれたんだ。
この人でもこんな風に思ったりするんだ。
俺と同じように些細な事に喜んだり悲しんだり不安になったり。
やばい…何かちょっと、感動してきた。
俺は箱を元あった場所に乗せて柳さんの隣に戻った。
膝を向き合わせるようにして座り、手を握る。
「俺…アンタに対して気ぃ使ってアンタ傷付けるような嘘吐いたりとか絶対しねーし、
だからちょっとでも不安だったりしたら全部話してください。俺バカだしアンタみたいに先とか読めねーし、
言ってもらわなきゃ解んないとかどうかと思うけど…察しろよって感じだけど、あの」
「赤也」
何言ってるのか自分でも解らなくなってきた。
でもタイミングを見計らったみたいに柳さんが遮ってくる。
「ありがとう」
今のでよかったんだろうか。
この人の不安は拭えたんだろうか。
よく解らないけど、ぎゅっと手を握り返して微笑んでくれている。
それだけで安心できた。
「でも、できれば飾っておくのではなく、使って欲しいな。お前が楽しそうにあれを使ってくれた方が、俺は嬉しい」
「わっ解りました!!」
けど絶対この部屋から出せねえ……落としたりして傷とかついたら嫌だし、必ずベッドの上で使おう。
でもそんな俺の腹の中なんてお見通しだとばかりに笑われた。
何か、すげー今いい雰囲気かも。
って思った矢先に、廊下からお袋の声がする。
いきなりドアを開けるような暴挙に出なかっただけマシだと思うべきか、でもノックする音に俺は柳さんの手を離した。
「何?」
返事と同時にドアが開けられて、間一髪だった。
手なんか握ってるとこ見られたら何言われるか。
「お昼の用意できたから」
「わーった」
「あと、お姉ちゃんと私今から出かけるから留守番よろしくね」
「へ?」
「買物行くけど、何か欲しいものある?」
「いや…別に…」
ほんとは色々あったけど、突然の事で頭が回らない。
二人が出かける?
親父は今日も休日出勤で、それは、つまり、夕方まで二人きりって事か?!
そんな俺の顔色の変化を瞬時に察したお袋に余計な一言を言われてしまったが。
「アンタ変な事すんじゃないわよ」
「…っっんだよそれ!!」
「蓮二君、こいつに何かされそうになったら殴り飛ばして逃げていいからね?」
「いいからさっさと行けよ!!!」
部屋から追い出して、二人が玄関から出て行くところまでしっかりと見届けてから再び部屋に戻った。
まださっきと同じ位置で座る柳さんの隣に腰を下ろす。
「すいません何か騒々しくって……」
「いや、お前の家は賑やかでいいな。楽しい」
「五月蝿いだけっスよ…ったくお袋のやつ…何が変な事だよ…」
柳さんが警戒したらどうしてくれんだよ。折角いい雰囲気になれたと思ったのに。
「あ、そうだ。飯、冷める前に食いましょうか。何かお袋の奴張り切って作ってて、たぶん焼き魚とみそ汁と…」
五月蝿いお袋の所為で肝心の飯の存在をうっかり忘れそうになって、立ち上がろうとすると柳さんに手を握られた。
「…その変な事をしにきた場合は…どうすればいいんだろうな?」
「…へ??!!」
何言い出すんだ突然!!!!
浮かした腰が抜けるように床に落ちて、再び柳さんの前に座る形になる。
「今日は…昨日の残り半分を受け取りにきた」
そう言って顔を近付けられそうになったけど、思わず体を反らしてしまった。
でも僅かに唇がほっぺたに触った気がする。
これじゃ昨日の逆だし!
「不意打ちは卑怯か」
本気でするつもりじゃなかったのか、ふっと不敵に笑われる。
「…そーっスね…それに…」
さっきこの人は受け取りに、って言った。
だったら、
「俺からしていいっスか?」
「……不意打ちも困るが…先に宣言されてもどうしていいか解らんな」
「うんって言えばいいんじゃないっスか?」
思わず笑ってしまう。
さっきまでの自然な雰囲気ブチ壊しの会話に。
それは柳さんも同じ思いなのか、楽しそうに笑い始めた。
「柳さん」
「ん?」
「大好きです」
笑いを止めて、一瞬驚いたように目を見開いた後、柳さんは頷いてはにかんですごく幸せそうな顔をする。
ああ、ほんとに大好きだ。
改めて気持ちを噛み締め、俺はそっと唇を寄せた。
柳さんの方に乗り出すように右手を肩に乗せて、左手で床に手をついて体を支えて、
さっきまで頭の中でどうしようを連発していたのが嘘のように自然に唇が合わさる。
たぶん時間は数秒で、ほんとに唇が重なっただけの軽いキスだった。
でも、ついにやってしまった。
100万回のキスの、一回目を。
何か恥ずかしくて顔見られたくねえ。
たぶん、絶対顔真っ赤になってる。
俺はそのまま柳さんの肩に顔を伏せるように抱き締めた。
思いの外、柳さんの体は強張っている。
「緊張した?俺まだすっげー心臓バクバクいってるの解る?」
「…ああ。俺もだ」
自分の心音が五月蝿くて柳さんの鼓動までは解んないけど、この人も緊張してんだ。
俺だけじゃなかったんだ、テンパってたのは。
耳元でふうっと溜息が聞こえたけど、嫌な感じはしない。
心底安心した、って感じでその後ゆっくりと体の力が抜けていく。
「赤也」
「は…い?!」
肩を叩かれて顔を上げると、今度は柳さんからキスされた。
さっきは頭ん中真っ白でちゃんと味わうどころじゃなかったけど、今度は割と冷静になれた。
指で触るよりリアルにその柔らかさを感じる。
それに、
「甘いな…」
柳さんは唇を離して俺の思ってる事を見透かしたように小さく笑う。
「チョコレートの味だ」
ふっと笑った時に漏れた息も甘い香りがする。
それに酔ったみたいにぼけっと柳さんの顔見る事しかできないでいると、思わぬ攻撃を食らった。
「一生の記念に残るファーストキスが焼き魚やみそ汁の匂いでは味気ないだろう?」
な…何か今すっげー事言われなかったか?!
あ、そうか。だからさっき止めたのか。
昼飯食う前にって思って。
何か感動で胸も腹もいっぱいでもう昼飯入んねえかも。
作ってくれたお袋には悪いけど、まだあともう少しだけ、この人とこうしていたい。
それは柳さんも同じ思いなのか、そっと背中に腕が回るのを感じた。
【Congratulations! Kiss the first of a million kisses】