闇宵紫昏 恋唄

此の世の 花か 幻か

儚く散りゆく 花弁なれば

いずれは誰かの為に 咲く




コンチキ、コンチキと独特のお囃子が夕空を彩り始める頃。
この街は昼の息吹を思い出したように活気付く。

ここは四聖・鹿鳴【しせい・ろくめい】。
京の町から少し外れた場所に設けられ、独自の文化を築き上げた無二の地。
国内のみならず、洋の東西を問わずに美男美女が集められたという廓だ。
街は幅のある大きなお堀に囲まれ、余所者を拒むが如く高い塀に囲われている。
廓の中央南北に鹿鳴大通り、東西に鳳凰大通りが十字に走る。
さらに鹿鳴大通りと塀西端を割るように南北に白虎通り、塀東端とを割るように青龍通り。
鳳凰大通りと塀北端を割るように東西に玄武通り、塀南端とを割るように朱雀通りが走っている。
これら六つの主要道路が街を十六分割しており、それを四区画に整理し、
北に玄武、南に朱雀、東に青龍、西に白虎と四つの地区に分かれてそれぞれに生活が営まれていた。
鹿鳴大通りの両端は堀を渡る為の橋になっており、北に白橋【はくばし】、南に紅橋【べにばし】がかかっていて、
それぞれ大門が街と娑婆を仕切っていた。
紅橋からは京の中心地へと繋がっており、距離はあるもののそこから通うものは多い。

ここは数十年前に現れた伝説の色男が名付けたまたの名を、恋街と言った。
売られているのは色でも偽りの愛でもない。
一夜の夢、恋なのだと。
街に住む者、通い遊びにやってくる者、商いにやってくる者、様々な人でいつもここは賑わっている。

そんな恋街の西に位置する白虎には、花小屋【はなこや】と呼ばれる料理屋が多くある。
美しく着飾った少年が接待する店で、女郎屋とはまた違った趣の店だ。
大通りを外れた場所にあり、ひっそりと営まれているのが花小屋『四季』。
細い路地を幾度も幾度も回り潜り、人々の侵入を拒むように入り組んだ場所にあるそれは、
四方をその路地に囲まれ一区画全てが店舗という広さを誇る。
そして界隈では一番との評判の見世は選ばれた客でなければ敷居を跨ぐ事は許されない。
一見客お断りの見世であるからして、働いている者もそれなりでなければならない。
見た目だけでなく、一芸に秀で教養のある美しい少年たちが迎えてくれる。
ここには四つの季節を表す四色【ししき】の華と呼ばれる四人がいた。
接待役の少年たちの中でも特に優秀で美しい者に与えられる称号だ。
四色の華たちはそれぞれに自分の部屋を持つ事を許され、その部屋数が多ければ多いほど位が高い。
今現在、最も位の高い華である冬色【ふゆいろ】は四季始まって以来の知識人であり、その美しさも随一であった。
これは多くを愛し、多くに愛される冬の華である彼を綴った物語。


go page top