跡部景吾庶民化計画 第一弾〜ファーストフード店〜
だいたいあの男、色々チョットおかしいと思うねん。
飯食う言うたら何やよぉ解らん横文字のメニュー持ってくる店連れて行きよるし。
小腹空いたー言うとんねん、マクドでええやんけ、マクドで。
あぁもう五月蠅いで岳人。
マクドの何が悪いねん。フランス人かてマクド言うとんねん。関西弁はフランス語に近いんやぞ。
マックマック言うとる東京人には負けへんで。
話逸れてしもたやんけ。
何の話…あぁ、せやせや。買い食いの話や。寄り道の話や。
学校帰りにフランス料理屋やて。ハハ。アホちゃうか。
あんなもん食うた気せんわ。何入ってるか解らんやんけ。
料理見て材料解らんて何事や。
「じゃぁお前が跡部をマックに連れてったらいいんじゃねーの?」
おっ、岳人。たまにはエエ事言うやん。
言い出しっぺや。お前も行くで。
「何で俺も行かなきゃなんねーんだよ!!」
俺一人であの男の世話せぇっちゅーんかい。
俺とお前はスパイラルや。同じ螺旋状に組み込まれた仲なんや。大いに巻き込んだる。
「クソクソ侑士…覚えてろよ」
ハイハイ。覚えといたるからはよあいつ捕まえに行くでーお前は他に行く奴おらんか聞いといて。
「忍足。今日はどこか寄っていくか?」
「今日はマクド行こうや。岳人らも一緒に」
「…そりゃどこの店だ」
アカン。温室育ちすぎやこの男。
一体どんな生活してきたらマクド避けて通った人生送れるねん。
俺なんかマクドデビュー二つの時やぞ。
そうこうしとったら岳人が一人戻ってきた。
あれ?他の連中は?
「クソクソ皆逃げやがった…」
逃げたて…お前どんな誘い方してん。
普通にマクド寄ろ言うたらええのに…馬鹿正直に跡部連れて行く言うたんやなこの子は。
アホやなぁ…
「おい向日。マクドって何だ?てめぇらよく口にしてるじゃねぇか…どっかの食い物屋か?」
俺から明瞭な回答を得られへんかった跡部は岳人に矛先を向けた。
アカンアカン。そんな助けて〜みたいな目で見んでや、岳人。
俺は助けたれへんからな。
結局学校から一番近いマクドまでの道中、岳人は跡部にひたすらマクドの説明をさせられとった。
とりあえず、どの店かは解ったらしい。
そらそうやわな。
なんぼ入ったことあらへん言うても店の前ぐらいは通った事あるやろ。
ほんだら今度はあの謎に満ちたマクドのキャラクターについての質問攻めに合うとる。
ハイハイ、こっち向いて助けて〜って目ぇせんといて。
俺は助けたれへんからな。
「…これがマクドか…」
あぁもう、店の前で仁王立ちせんといてや跡部。
中から店員さん、物凄い視線寄越してるから。
お前は空気だけで目立つんや。頼むから大人しぃしてくれよ…
「跡部、お前東京に住んでんだしマックっつえよ」
……別にそここだわらんでもええやん、岳人。
「だってよー…なーんかキモいっつーか田舎者くせぇじゃん」
それは関西人に対する嫌味か!差別か!!偏見か!!!
ほんま腹立つ子やな。さっきの仕返しかっちゅーねん。
「跡部、先注文せな」
店に入って真っ先に席に座ろうとする跡部を慌てて制止する。
地味に夕食時間と被って、店内はぽっかり空いたアイドルタイムに店員総出で暇そうにしてた。
わざわざ先に席取らんでも大丈夫やろ。
そう思て俺は跡部を注文カウンターに連れて行った。
さぁ、帝王様のマクドデビューや。
久々の客にバイトの女の子が愛想良く笑顔でいらっしゃいませーと挨拶してくれた。
せやけど俺は見てたぞ。跡部が店入る時、にわかに女子スタッフが色めき立ったんを。
はっは〜ん。なるほどなぁ。
せやけどこの男の容姿に騙されてるでオネエサン方。
ホレ見てみぃ。メニューを前にして点になっとるわ、この男は。
「おい忍足…」
「何?」
「これ値段間違ってんじゃねぇのか?」
そこから来よったか…
「何でやねん。マクドいうたら全国一律この値ーやで。ゼロの数間違えてへんよ」
「……何か悪いモンでも入って…」
言い終わる前に足踏んで暴言を阻止した岳人は賢いと思った。
さっきは助けたらんでスマン。次はちゃんと助けたるよってな。
エエ子やな、岳人。
「何しやがんだ向日!!」
「早く決めろよ跡部ー俺腹減ってんだよ!」
「チッ…」
せやけど決めろ言うても初めてやし、実際何食うてええんや解らんねやろな。
さっきからメニュー見て試合中ぐらい険しい顔しとる。
インサイト使てんちゃうか。
そんなんしても何も見えへんて。
「あ、月見あるやん。これにしぃや跡部」
「月見?あぁ、この卵の入ったやつか…」
まんざらでもないって顔したからさっさと注文したろ。
これ以上ここおったら食欲無くなりそうや。胃痛で。
あ、痺れきらせた岳人は隣のレジで一人注文しとる。
ちくしょう、裏切者め。結局俺一人で面倒見るんかぃ。
さっきのエエ子発言は撤回や。
だいたいお前何でハッピーセット頼んどんねん。
「ほな、月見バーガーセットとチキンフィレオセット」
「サイドメニューをお選びください」
「ポテトとナゲット一つずつ」
「ソースはバーベキューとマスタードがございますが?」
「あー…バーベキューで」
「かしこまりました。お飲み物は如何いたしましょう?」
「えーっと…」
せやなぁ…飲み物はホットって決めてるみたいやけど、
どうせやったら普段飲まんようなジャンク飲ませたろ。
「ファンタとアイスカフェオレで」
「かしこまりました」
うわっ、何やコイツ。
淀みなく交わされる俺と店員の会話を、聞いた事ない秘境の民族の言語聞いたーみたいな顔して見とる。
お前絶対変やって。何でギリシャ語解って今の日本語解らんねん。
「お会計1060円になります」
ここでようやく日本語を理解できるようになったんか、俺の後ろでポカンとしとった跡部が前に出てきた。
「俺が奢ってやるよ」
「あ?ええの?」
「あぁ。おい、店員。ここはカード使えるのか?」
ちょっと待てオイコラ。
そのカードて明らか500円のマックカードちゃうやろ。
「1000円ポッチの買い食いにゴールドカード切るなボケ!!」
「アァン?何だ、この店は現金払いしか出来ねぇのか?」
誰か早よこの男を止めてくれ。
頼みの綱の岳人はさっさと席陣取ってもう食うとるし。
あぁこの店員のサムーイ視線俺一人で浴びろっちゅーんかぃ。
「まあいい。ほらよ」
ほんで出すんは諭吉かい。
お前、せやからゼロの単位一個間違えてるから。
「釣はいらねぇ」
「いりますから!!!」
怪訝そうな顔の跡部の代わりにしっかりと釣銭を受け取った。
ドアホ!!こういう飲食店では釣銭合わんかったら事やねんぞ。
しっかり協力したれボケ!!
店員さんが商品を取りにカウンター離れた瞬間、俺の体に疲労が一気に襲ってきた。
あーこの男にマクドはフランス料理屋より敷居高いんかもしれへん…
「オイ忍足」
「今度は何や?」
「このスマイルってのは何だ?」
……。
「何で0円なんだ?」
流石はインサイトや。いらんもんに気付きよった。
さぁどないしたもんか。
「いっぺん頼んでみたら?」
その冗談半分の言葉を、俺は0.7秒後に激しく後悔した。
この男に冗談は通じんねや…
「おい、そこの店員!!スマイルを1つだ!!!」
うわっ…言いよったコイツ……