Helpless

*謙也が色んな意味でアホです
*そのアホが故の時差両思い
*千歳は決して間男ではない



光は可愛い後輩やった。
俺には特別懐いてたし、言葉ではキツい事言うとっても、根本では俺を信頼してくれてた。
そして俺に特別な気持ちを、他の誰相手でも抱いてない思いを俺に捧げてくれとると思ってた。
何キモい事言うとんねんって思われるかもしれんけど、何自惚れてんやって言われるやろけど、これは確信出来てて、そして事実やった。
光は俺との触れ合いを拒まんし、ちょっと過剰な、キスなんかも受け入れてくれてた。
冗談みたいにキモいとは言うとったし、流石にそれ以上の事は出来んかったけど、光が俺を好きなんは確実やった。
けど俺は光を受け入れられへんかった。
今のままでええと思ってた。
今の、ちょっと過度に仲のええ先輩後輩でええと思ってた。
せやから、何度か光は俺に気持ちを打ち明けようとしてくれたけど、俺はそれをやんわりと拒み続けた。
はぐらかしてそれ以上言えんようにしとった。
卑怯やった。
ほんまは光が欲しい。
けど今の関係も好きで、そんでそこから一歩踏み出す勇気もなかった。
それでも光は俺から離れていくなんて思ってなかった。
だって光はいっつも俺だけを見てくれてて、俺だけに気持ちを向け続けてくれてた。
俺からは何も返せんというのに。
せいぜい気まぐれにキスするぐらいで、けどその度光はめっちゃ幸せそうな顔してくれてたから、それでええんやと思ってたんや。
そんな幸せな顔に出来るんはこの世で俺だけなんやって。
だから光が俺から離れていくなんて、思いもせんかった。
せやのに、いつからやったやろう。
光が俺ではなく、あいつについて回るようになったんは。
何でや。
光、お前俺の事好きなんちゃうん?
だってずっと一緒におったやんか。
せやのに、何で、何でお前、俺にだけ向けとった笑顔そいつに向けんねん。
転校生やって、いきなり現れて、何で俺と光の間引き裂くんや!
それがどんだけ理不尽で筋の通らん言い分かは解ってる。
光は俺の恋人でも何でもない。
ただの後輩で、せいぜいある繋がり言うたらダブルスパートナーって事ぐらいや。
けど俺はどうしても許せんかったんや。
光が俺に向けてた笑みを、千歳に向けてる今のこの状況を。
それでも俺は信じてた。
光が入部してから一年とちょっと、ずっと俺を好きでいてくれた事は紛れもない事実で、勝手や言われても光は俺のもんやと思ってた。
せやからしばらくは静観しとったんやけど、決定的瞬間を見てしもたんや。
放課後、誰もおらんようなった部室で、二人がキスしてる姿を目撃してしもた。
ショックで目の前真っ白になって、心の中は真っ黒になった。
千歳がでっかい体屈めて、顔突き出したところに、光が自分から腕絡めて、光からキスしていっとった。
千歳に無理矢理されたんやって、とてもやないけどそうは思えん。
あの唇は俺だけのもんやったのに、千歳に取られてしもたなんて、そんなん言えるわけない。
そうや、俺は恋人やないんやから、あの唇を独占する権利なんかない。
解ってても心はついていけへん。
俺はもう体が凍り付いてしもて、窓の隙間から二人の事覗いたポーズのまま動かれへん。
顔寄せたまましばらくボソボソ何や話してたみたいやったけど、光は一瞬めっちゃ幸せそうな、ふやけた甘い表情見せて、もう一回、今度は深いキスをした。
その瞬間頭鈍器で殴られたような感覚に陥った。
もうショックで立ってられへんようなって、俺は部室の扉から死角になる場所で座り込んだ。
光が、俺の知らん顔をしとった。
俺としてない事を千歳としとった。
何で?お前、俺の事好きやったんやろ?
しばらく膝抱えて俯いてたら、千歳だけが先出ていって、光だけが部室に残った。
俺はフラフラする足何とか前に出して、部室の扉を開いた。
中には着替えてる途中の光がおって、いきなり開いた扉にびっくりしてる。
「何や…謙也さんか…あービビった。誰か思ったし」
光は俺の方一瞬見た後、何でもないって顔して制服のボタン留めとる。
さっきまで千歳に見せとった甘い顔でない、部活の時誰にでも見せる表情の光を見て、どうしょうもない衝動にかられた。
「…謙也さん?」
いきなり目の前立ちはだかる俺に、流石に不審がられた。
けど俺は自分を抑えれんで、光の手首を掴んだ。
「光……千歳と付き合うとるんか…?」
一瞬青ざめて、けどすぐに冷静になれたみたいで光は静かに呟いた。
「さっきの…見てたんですか?」
俺は何も答えれんかったけど、俺の表情見て察したみたいや。
頷いて肯定した。
「……そうっスよ…」
「何でや!!なんで……だってお前っっ…俺の事…っっ!!」
それ以上は言われへんかった。
その言葉を散々拒んできたんは俺の方なんやから。
けど光は静かに言うた。
ほんまに、何でもない事のように。
「そうですよ。俺、謙也さんの事が好きです」
初めて聞かされるはっきりした言葉に、心臓がせり上がって、血が逆流したか思う程に緊張した。
光は何も映さん顔で俺を見上げる。
「けど、それアンタが拒んだんやないっスか」
「それ、は…けど、俺はお前が……」
「謙也さんは!!……ただ自分に向けられてる好意に…喜んでただけやろ…俺やなくても、別に誰が相手でも…
…ああやって受け入れる振りして、悦入っとったんやろ?」
「違う!!」
「違わんわ!!!」
思いっきり腕振り払われて、呆然と見下ろしてたら、光の泣きそうな目とぶつかった。
「俺もそれで十分やって思とったけど、けど…もう……限界やってん…ほんま…すいませんでした…今まで…
…俺の勝手に付き合うてもうとって…けどもう、同情とか、ええんで…」
同情ちゃう。
同情なんかであんな事出来へん。
何ぼ可愛がっとる後輩やとしてもや。
そう思って否定する言葉探すんやけど見つからん。
ただアホみたいに首横に振る俺に、光は小さい声で呟いた。
「ちゃうって…ほんま、アンタのそれって、子供がおもちゃ独り占めしたがんのと一緒やん……
ほんま、もう…アンタとの事は忘れるから……謙也さんも、早よ…忘れてや……俺はもう、千歳先輩が…」
好きやねんから、という言葉は扉の開く音にかき消されてしもた。
「何?どげんしたと?」
「せんぱ…」
扉から千歳が覗くんを見るや否や、光は荷物かき集めて俺から逃げるように千歳の元に駆け寄っていった。
「帰ろ。先輩…早よ、帰ろ」
「え?ばってん謙也は…」
「ええからっ!」
大きな千歳の手ぇ握って、光は後ろも振り向かんまま部室から出ていってしもた。
開きっぱなしになった扉の彼方には、千歳の腕に自分の腕絡めて寄り添うように歩いていく光の姿が見えた。

俺はアホや。
無条件に、永遠に光は俺に好きって思いを捧げ続けてくれると思ってた。
そう疑わんかった。
ほんまアホで自意識過剰にも程がある。
俺はその場にしゃがみ込んで、勝手に溢れ出てくる涙を堪える事も拭う事も出来んとただ情けないぐらいに嗚咽漏らした。
光はああ言うとったけど、俺はほんまに好きやったんや。
ほんまは好きやったんや、光の事が。
ガキの独占欲なんかやない。
けど、ほんまのその気持ちにやっと気づいた今、光は他の男のもんになってしもとった。

後悔してもし足らん。
自分のバカさ加減に呆れ返る。
俺はもう二度と向けてもらえないであろう光のあの柔らかい特別な笑顔を思い出して、
再び溢れ返る涙を俯き床に落とし続ける事しか出来へんかった。

アホですよ。
でも簡単には認められないよね、同性の後輩を好きだという気持ちは。

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