これぐらいの年の差もいいな。
透明遊戯
人生順風満帆だった。
父親が医者であったが為に他の家庭よりも裕福な暮らしが出来ていて、自由奔放な母親に育てられ、
伸び伸びとした小学生時代を過ごした後は有名な中学高校に進学、父親の診療所を継ぐために医学部を出た後勤務医として実績を積み上げた。
父親もまだまだ現役ではあるが、患者数が増え診療所が忙しくなった事もあってそこを手伝うようになった。
町医者というものに休みなどなく、夜中であれ休日であれ扉を叩く者がいればその人を診る。
そんな父親の背中を見て育ってきた謙也はその体制に何の疑問も持たなかった。
それだけに近所での評判は頗る良く、人生上々でこのまま数多持ち込まれる見合いなどを受けるか、運命の出会いを果たして恋愛結婚するかと思っていた。
その後は子供は三人ぐらい生まれ、などと未来を想像しては日々過ごしてきた。
だがここのところ、それまでの順風満帆など形なく飛ばす大嵐が吹き荒れている。
近所に住む一人の少年が原因で今、謙也は窮地に立たされていた。
それまで自分はいたって普通なのだと思っていた。
普通に女性に恋をして、その女性に対して何か特殊なプレイをしてやろうなど微塵も考えなかった。
だがその少年を前にすると自分ではコントロール出来ない感情が湧いて出て、どうしようもなくなるのだ。
少年特有の柔らかさ―――少女とはまた違う柔らかく弾力のある肌に舌を這わせると、幼い体が小さく震えた。
診察中誰に触れたとてこのような感情にはならない。
それだけは己の名誉の為に言い訳したい。
誰に対するものでもない、己への言い訳でしかないのだが、自尊心を保つ為にそう言い訳し続けている。
この感情は彼にのみ出てくるものなのだと。
「謙也……せん、せ?」
「あ、ああごめん……ボーっとして」
生意気盛りの目の前の少年、光はつまらなそうに謙也の体を押し返す。
体格差は歴然で、長身の謙也を体の上から退かせる事は出来なかったが抗議の意は十分に伝わってくる。
謙也は体を起こすとベッドに横たわっていた光の腕を引き抱き寄せた。
「……何っすか。今日はせえへんの?」
「いや、今日は違う事しよか」
この不埒な関係の始まりは光の精通がきっかけだった。
急激な体の変化を親にも兄にも相談できず、思いつめた光が頼った先が謙也だったのだ。
そんな信用を踏みにじり、早く大人になりたいのだと言う光をこうして騙して良心に呵責を感じないわけはない。
だが本能に逆らうことが出来ず、以来こんな爛れた関係を続けていた。
光は早く大人になりたい、同級生よりも早く、と焦っている節がある。
それだけに騙すことは容易でこれが大人のしている事だと言えばどんな無茶も受け入れた。
元々素質があるのか光が努力しているのかは分からないが、教えたことはすぐに吸収して今や謙也を軽く翻弄するほどにまでなっている。
そんな光だったが、謙也はどうしても最後の一線を越える事が出来ないでいた。
本当は光の中に己の性器を埋め、思う存分にその体を貪り尽くしたかった。
偏に己の根性のなさが原因なのだが、これも光の体がもう少し成長するまでの我慢だと責任転嫁し続けている。
しかしそれもすでに限界寸前で、日々成長していく光の体を前に少しの余裕もなくなってきていた。
今のこの、幼い少年から少し脱皮しようとしている絶妙な頃合いを食べてしまいたい。
そんな気分だった。
「何するん?」
「せやな……まずはいつもの準備、出来るか?」
「そんなん簡単っすわ」
胸に埋めた顔を上げ、得意げにそう言うと光は小さな手を伸ばし謙也の股間に指を這わせた。
教えた通りにじわじわとファスナーを下ろし、中から顔を出す緩く立ち上がった性器を掌で擦り始める。
ある程度硬度を持ち始めるとちらりと謙也の様子を伺った後、口を近づけた。
最初は舌でちろちろと舐めるだけだったがだんだんと大胆な動きになっていき、小さな口いっぱいに頬張った。
薄い頬が鬼頭で押し上げられる様がたまらないと謙也はその形をなぞるように指で頬を撫でる。
「んんっ……」
鼻に抜ける声を上げてくすぐったそうに肩をすくませ、上目使いで触るなと牽制すると喉奥へと導く。
苦しそうに顔を歪める光に大丈夫かと尋ねるが、これぐらい何でもないと強がりをみせ何度も何度も吸い上げられる。
柔らかい口内に締め上げられる動きに耐え切れず、そのまま熱を明けると光は噎せながら顔を上げ思い切り睨みつけられた。
「うえっ……まっず」
「大人の味っちゅーやつや」
そう言えば不満げにしながらも黙り込む。
謙也はよく出来ましたと頭を撫でてやると光の体をベッドに押し付けた。
違う事と言われ何をされるのだろうと不安げに視線を彷徨わせている。
だが謙也は光の腰を掴むといつも通り下半身の衣服を脱がせ、幼い性器を口に含んだ。
まだ成長半ばのそこは刺激に弱く、途端に光は甘い声を上げ腰を跳ね上げた。
「う……ふっ……く……」
恥ずかしいと懸命に声を抑えてはいるが、堪えきれない声が漏れてしまっている。
掌で口を押えようとするのを遮り、片手で両手首を拘束すると光の胸の前に押し付けた。
「あっ……離せ……やっっ」
「ちゃんと声出しや」
「っ……誰がっ!ああっあ!いやっ!それ止めっ……!!」
光の弱いポイントなど研究し尽くした謙也はそこばかりを重点的に舐める。
嫌だ止めろと言っていた声がだんだんと消え、ただ快感を求める声へとすり替わっていく。
「ひぅっ!あっ!けん……や……せんせっ!」
腰を浮かせ、もっともっとと謙也の口へ擦り付けるように動くがそれを抑え込み思うままに吸い上げ、嬲り続けた。
程なく光は甲高い声を上げ、謙也の口内へと精液果てさせた。
まだ色も味も薄く、大した生殖能力もなさそうなそれを美味しそうに嚥下すると光の悔しそうな顔が見える。
だがその余裕もここまでだと謙也は続け様に萎えた性器をもう一度口に含んだ。
「なんっ……いっイヤやっ!!離……っ!」
腰を捩り逃げようとするがそれをがっちりと掴み、逃げ出さないように押さえ込むと片手を伸ばし用意してあったローションを手に取った。
中身を掌に出し、少し体温に馴染ませるとゆっくり光の後孔へと擦り付けた。
「んんっっ?!なっ、何っ」
「"いつもと違う事"やで」
「そんなとこ触んなっ!き、キモいっっ!」
「キモいて……まあちょっとの我慢やで。大人んなったら気持ち良なるよって」
いつもならばそこで黙る光も流石に看過することは出来ないと抵抗を強める。
足をばたつかせ、ともすれば顔に当たればいいとでも思っているのだろう、結構な強さで蹴りを入れてくる。
「うう……あ……あっっ!いやっ……イヤやっ!も……こんなんっ!」
「ひ、光?」
両手で顔を覆い、めそめそと泣き始めた事に思わず青くなる。
強気な光がこうして弱い部分を見せる事はまずない。
謙也は慌てて光の体を引き起こすと胸に顔を押し付けるようにして抱きしめた。
「嫌やった?ごめん。ごめんな光」
しばらくそのままでいると少し気持ちが落ち着いたのか、照れ隠しのような文句が口を割り始める。
「ほんまに……こんなんで大人になれるんっすか?」
「え……えーっと、うん。そうやで。大人んなったら皆やってる事やし」
「……ふーん」
「光がほんまに嫌なんやったらもうせえへんで?」
そんな気は全くないのだが、今恐怖だけが身に残ってしまってはこれ以上の事は望めなくなってしまう。
それは避けなければと優しく問いかけると拗ねた様子で体を押し返される。
「別に……ちょっとびっくりしただけやし、止めんでええっすわ」
「ほんまに?無理しなや」
「無理なんかしてへんわアホ」
今日は出来なかったがまだチャンスはある。
これからゆっくりじっくりと慣らしていき、光の心も体もすっかり溶けきったところを頂けばいい。
何事も急いてしまう性分の謙也だったがこう自身に言い聞かせ、時間をかけて慣らし続けた。
その甲斐あってか、最初こそ涙して嫌がった光も次第に順応し、後ろだけで感じるまでになってきた。
幼い体は従順で、指の太さはあっという間に覚え、徐々に拡張する為に用意した小さなサイズの張型を呑む姿も様になってきた。
そろそろいい頃合いだろうか、いや待て、今失敗してはこれまでの苦労が水の泡となってしまう。
そうして耐えに耐えた冬の時代を越え、ようやく光の口からもっと強い刺激をと強請られた頃にはすでに彼の着る制服はデザインを変え、一つ上の段階へと上がっていた。
入学式を終えたばかりで真新しい制服に身を包んだ光を自宅へと連れ帰ると、今日こそはいよいよ最後までやるぞと決心した。
慣れた前戯を進めていくうちに、いつも以上に息が荒くなっている事に気付き光に嫌がられていないかと様子を伺う。
光も何か感じ取っているのだろう、嫌がっている様子はないがどうにも怯えている雰囲気がある。
だがもう限界だとなるべく優しく声をかけ、ゆっくりと気持ちを溶かしていく。
その甲斐あって十分もしないうちに光から強請るように腰を寄せてきた。
完全に理性が焼切れた謙也は遠慮なく足を大きく広げると、光の後孔へ自身の性器をあてがった。
じっくり時間をかけて慣らし続けたそこは難なく謙也を受け入れていく。
「く、苦しい……?痛ない?」
「ん……あ、あ!だ、いじょ……ぶっ……やから、早ぅ……!」
「痛かったらすぐいうてや……」
早く入れてしまいたい気持ちを何とか抑え、ゆっくりと沈め続け、ようやく光の肌と太腿が合わさった時にはホッと深い息が思わず漏れてしまった。
「なん……?」
「あーやっと光と最後まで出来てんなあーと思て……嬉しいねん」
素直に心の中を見せると光は照れたように頬を赤らめ顔を逸らした。
随分と可愛い仕草を見せてくれると、下半身に熱が集中するのが分かる。
それに抵抗するように尻に力を入れられ、思わず声を上げてしまった。
その反応を見てにやりと笑う姿に少し大人になったと感じ、悔しくなった謙也は限界まで光の足を広げると思い切り腰を打ち付けた。
「ああっ!いっ……いきなり何すっ……んっ!あ!」
「あんまり大人んなりすぎて……俺の事ほってかんといてな?」
「そんなんっっあ!あっあ……はあっ!んっ……」
思わず口をついて出た弱腰に光の視線が一気に鋭くなったが、直後の激しい動きに言葉が消え喘ぎだけが口から漏れる。
がりがりと無遠慮に背中に爪を立てられ感じる痛みも甘く心地よいものと感じられた。
そんな幸せな気持ちを抱いたまま、謙也は光の中へと熱を明けた。
大願を果たし、いよいよ光なしの人生など考えられなくなってしまっていた。
大台を迎える直前となり、親や世話になっている教授などはしきりに結婚を勧めてくるが最早そんなものが無意味にさえ感じる。
光は親子程年が離れていて、それ以前に同性だ。
しかしそれも気にならないほど心の深い場所に棲みついていて今更彼以外の伴侶など必要に感じない。
だがそう思っていたのは謙也だけだったようで、ある日謙也の元に怪文書が届けられた。
切手も宛先もなく、ただ忍足謙也様と大きく書かれた封筒に不信感を抱く。
そのまま捨ててしまってもよかったが、何か嫌な予感がした謙也は封を開いた。
「―――っっ?!」
中から出てきたのは謙也と光が裸で眠っている様子を写したもので、はっきりと行為そのものが写っているわけではないが、誰が見てもそれが事後と解る。
一体誰がこんなものを、と思ったが写る人物のうち片割れが自分ならば犯人は一人しかいない。
謙也は光を呼び出すと何故こんな事をしたのかと問い詰めた。
だが光は悪く思っている風など微塵もなく言い放った。
「俺の事捨てようとか思ても、そうはいきませんから」
「はあ?!」
「人の事こんなエロい体にしといて結婚?ふざけんなって話っすわ」
「何……の……」
何の話か全く解らない。
衝撃のあまり呆然としたまま声が出せなくなった謙也に音もなく近づくと、光は勢いよく床へと押し倒し腹の上へと馬乗りになる。
「絶対に離せへんから……覚悟しといて下さいよ。もし俺から離れようなんて考えたらその時は……この写真ばら撒くから」
「え……?」
「俺かってこんな写真公開して赤っ恥かきたないんで……そんなことさせんといて下さいね……謙也せんせ?」
そうか、自分は脅されているのかと謙也はようやく思考が繋がるのを感じた。
おそらく光は誰かから結婚しろと勧められている事を聞いてこのような事をしたのだろう。
そこまで思ってくれていたのかという歓喜が体中を駆け巡る。
今の地位も名誉も、全てを失う手札が相手の手の内にあるというのに、何と呑気な話なのだろうかと自分自身に呆れてしまった。
だが全てと引き換えにしても一生この目に見えない束縛に囚われ続ける事も悪くない、いや、光の思いであるならその束縛も最高かもしれない。
その倒錯的な快感に体が満たされ、謙也は目の前で睨みつけている光の体をそっと抱きしめた。