サクリファイスメモリー

Side;R



赤也の手により強制的に本性を引き摺り出された翌日、朝早くに横で動く気配があったが動けないでいた。
起きられるはずが無い。
続けては無理だと言って先延ばしにしたものの、赤也はこちらの疲れなどお構いなしに再び襲い掛かってきた。
一度剥がされてしまった仮面は付ける事を許されず、また何か物凄く恥かしい思いをさせられたような気がしてならない。
正直、セックスの最中の記憶が薄いのだ。
途中までは覚えているのだが、己の許容を超えてしまうと頭の中で何かが切れてしまったようになる。
意識の果てにある何か獣じみた赤也のギラついた瞳が印象的で、それ以外の事が頭から抜け落ちている。
否、自分の痴態など思い出したくも無い。
しかし赤也の言い分では『そんな柳さんも大好き』らしいのだが、その言葉に嘘偽りがないのか確かめなければ。

翌朝、目を覚ますと既に日は高く昇った後だった。
枕元にある目覚まし時計を見れば、11時を示している。
明け方眠る前に風呂に入りたかったのだが、凄まじい疲労感でそれどころではなかった。
赤也がある程度後始末を請負ってくれていたおかげで気持ち悪い感触はないが、さっさとシャワーを浴びたい。
起き上がって床に落ちたシャツを羽織ろうとしたが、何やら汚れている。
何で汚れているか、すぐに思い当たったが考えないようにする。
仕方なく自分の持ってきた着替えをバッグから取り出して羽織った。
ふと勉強机の上を見ると赤也の字で綴られたメモを見つけた。
午前中練習があるので行ってくる、とある。
このまま怒った振りをして帰るも一興。
しかし部屋の隅に等閑に置かれたある物を見て、それをしなかった。
俺はまず風呂を借りると体の汚れを一掃した。
そして勝手かと思ったが台所を借りて昼食の用意を始める。
そろそろ出来上がるか、という頃、玄関が騒がしくなった。
「柳さんっっ!!」
「おかえり赤也。台所、勝手に使わせてもらっているぞ」
「よかっ…ったぁー……」
リビングのドアの前でへなへなと一度しゃがみ込んだ後、這うように転がり近付いてきた。
そして腰に巻きついてくる。
「何だ」
「帰っちゃってたらどうしようかと思ったー…」
「帰らないよ。明日まで一緒にいる約束だからな」
「へへっ」
ぎゅっと力を込めて抱きつく姿を見下ろし、それをしなくてよかったと心から思えた。
頭を撫でてやるとますます調子に乗り、尻をまさぐるような仕草を見せる。
その手を振り払い、体を引き剥がした。
「シャワーを浴びて来い。その間に昼の用意をしておいてやるから」
「…ういーっス」
渋々と風呂場に行く後姿を見送り、昼食作りを再開した。
15分後、ダイニングに大皿を並べたところに赤也が風呂から戻ってきた。
「うわー超いい匂い!……あれ?オムライスにケチャップでハートとか赤也ラブとか描いてくんないんっスか?」
オムライスとは名ばかりで、卵で巻く事に失敗した為チキンライスのいり卵乗せになってしまった物体を前に、何を言い始めるかと思えば。
「自分で描け」
「自分で書いても意味ねぇし!!」
「……冷めないうちに召し上がれ」
「いただきまーす!!」
下らない会話を溜息で打ち切ると、腹を空かしている赤也もすぐに態度を切り替える。
見た目はともかく味は問題ないはずだ。
赤也は腹も減っている為か形など気にせず一気に掻き込んでいる。
そして皿の上が空になる頃、そういえば、と話を切り出した。
「明日も練習になったんっスよー…休みだっつーからゆっくりできると思ったのに」
「そうか…なら俺も行こう」
「え?」
「指導に行ってやる、と言ってるんだ」
「マジっスか?!やった!!」
赤也が部を引き継いで以降、何度か見には行ったのだが、本格的に指導するのは初めてだ。
上機嫌になり喜んでいる赤也に、そろそろ、と網を張り始めた。
「今日一日、いい子にしていたらな」
「何っスかそれ!!」
子ども扱いするな、と顔に書いてあるが膨れる表情は子供そのものだ。
俺は笑いながら赤也が空にして皿を手に立ち上がる。
「片付けをしておくから、お前はゆっくりしていろ。練習で疲れているだろう?」
「へーい!ごちそうさまっした!!んじゃ部屋にいるんで」
元気よく部屋に行く後姿を見送り、台所を綺麗に片付ける。
そして赤也の部屋に行くと、部屋の主はベッドに寝転がり雑誌を読んでいるようだ。
「あ!柳さん」
ドアを開ける音に素早く反応し、ベッドに座っておいでおいでと手招きされた。
隣に座ると途端に抱きつかれる。
昨日この家に来た瞬間見せたような獰猛な獣の瞳ではない、どちらかというと愛玩動物のような甘えた目で見上げてくる。
「何だ?…っコラッ」
犬のようにふんふんと首筋を嗅いでくる頭を引き剥がす。
不満そうにしているかと思えば、蕩けそうな顔でデレデレと笑っている。
何が一体そんなに楽しいのだと問いたい。
「あーもう、何でこんな可愛いんっスかー」
「可愛いのはお前の方だ」
犬のくせに、という一言は飲み込む。
「絶・対、柳さんのが可愛い!!」
「根拠が解らん」
「だーって普段は鉄仮面みたいに何あっても関係ねーみたいな顔してんのに、俺の前だけはあんなエッチな顔いっぱい見せてくれるんっスよ?」
赤也の言葉にうっかりと昨日の事を思い出しそうになり、慌てて顔を逸らす。
そんな反応にますます上機嫌になった赤也が調子に乗ってベッドに押し倒そうと体重をかけてきた。
だがこのままやられっ放しは性に合わない。
少し早い気がするが、俺は行動に移す事にした。
本気で抵抗すれば体格差で勝てない相手ではない。
俺はされるがままの振りをして一旦ベッドに倒れた後、すかさず体を入れ替え赤也を組み敷いた。
動けないように両足を膝で押さえ込み、手首を強く握って布団に押し付ける。
こんな展開が待っていようとは予想していなかった赤也は完全に呆けている。
しかし瞬時に状況を理解して暴れ始めた。
「ちょっ…何するんっスか!!」
「赤也」
「な…何っスか」
薄く笑いながら見下ろせば、あっさりと動きを止める。
「男に二言はないな?」
「な…何が……」
「どんな俺でも好きなんだろう?」
「もちろんっス!!」
「だったら、俺にされても何の問題もないわけだな?」
即答した力いっぱいの肯定の返事とは逆に、この質問は上手く理解できなかったらしい。
ぽけっと口を開いて目を丸くしている。
シャワーを浴びた後身に着けていた部屋着のジャージのファスナーを下げ始めると、ようやく意味を理解したらしく、みるみる青ざめる。
「ちょっ、マジ勘弁してくださいよ!!!冗談キツイっス!!」
「冗談?俺が冗談でこんな事をするように思うか?」
「思わないっス…」
完全に前をはだけられ、腹を撫でる感触にますます焦った赤也が自由になった上半身を起こそうとするので肩を押さえ込む。
「いーやーだーっっっ!!俺が柳さんに入れたいっっっ!!!!」
「たまには逆の立場もいいかもしれんぞ?」
言いながら俺もだんだんと楽しくなってきた。
取り立てて加虐嗜好なわけではないが、赤也が相手では違うようだ。
泣きそうになりながら抵抗する赤也が可愛くて仕方ない。
今まで赤也に絆されるまま俺が受身をとっていたわけだが、逆転したって構わないわけだ。
しかし、赤也は受身は絶対に御免だと抵抗をする。
性格的にも受動が性分ではなく、相手を支配したがる傾向にある赤也だ。仕方ないだろう。
だが本気で嫌がる相手を屈させるのはこんなに快感を覚えるものなのだろうか。
えも言われぬ感情に揺さぶられ、暴れる赤也の上半身に馬乗りになり、膝で肩を押さえて見下ろす。
赤也の顔からは怯えのような感情は伺えるものの、軽蔑や嫌悪の感情は見えない。
俺は赤也に圧し掛かったまま羽織っていたカーディガンを脱いだ。
両手をクロスさせ、見せ付けるように中に着ていたTシャツを脱ぐと、体の下で赤也がはっと息を飲んだのが解る。
何故この硬い体に欲情できるのか、未だ不可解ではあるが、赤也の瞳に欲望の火がついたのが見えた。
「赤也…そんなに俺の痴態が好きなら、今日はそこで存分に眺めていればいい」
「へ?!」
「昨日は好き勝手をさせてやったんだ…今日は俺の好きにさせてもらうぞ?」
何か言いたげにぱくぱくと動かす唇をそっと撫でながら言うと、こちらの本気を嗅ぎ取った赤也が再び抵抗を始める。
このまま暴れられては面倒だし、いつ形勢逆転させるやもしれん。
俺は予めベッドの下に用意しておいた結束機を取り出した。
ガリガリと紐を引く音に赤也も何をされるか勘付き、必死で身悶えるが上から押さえつけているから俺に分がある。
両手を頭の上で交差させるとプラスチック製の紐を手首に巻きつけクリップで固定した。
漸く上半身の動きを封じれたので、体をずらして腹の上に馬乗りになる。
「痛くないか?」
「痛いっスよ!!!っつーかそんな風に聞くなら最初っからしないでください!!」
折角仏心で聞いてやったというのに可愛くない態度を返されてしまい、些かむっとする。
「怪我でもしたらと思って聞いてやったというのに…」
「なら外してくださいよ!!」
「外せば暴れて余計に危ないだろう?」
「暴れるような事しないでくださいって!!!」
よく言う。
昨日何をやったかもう忘れたというのか。
「己を省みろ。昨日お前は俺に何をした?」
「…怒ってんっスか?」
「怒っているように見えるか?」
「むしろ楽しそうっス…」
よく解るな、と笑ってやると盛大に顔を歪ませる。
しかし抵抗の意思は若干薄れたのか体の力が抜けた。
その隙を突き、脇腹を撫でるように手を這わせると、さっきまでの嫌そうな様子とは違う顔の歪ませ方をした。
「くすぐったいっス…」
「気持ちいいだろう?」
「良くないっスよ!!何か変な感じっス!!」
いつもとは逆転した立場で戸惑っているのだろうか、思ったような反応がなくて面白くない。
赤也が羞恥に顔を赤くして喘ぐ姿はきっと想像を越える程可愛いに違いない。
好奇心と興奮で目の前が霞みそうになりながら、努めて冷静に尋ねた。
「だったらどうすれば気持ちいいんだ?」
「ど…っ…どうって聞かれても…」
「俺はお前を気持ちよくしてやりたい」
押し返そうとする拘束された両手を胸に押し付け、耳元で囁くと大袈裟なほどに肩を揺らす。
目の周りを真っ赤にして、驚いて上げそうになった悲鳴を必死に飲み込む姿が可愛い。
だがこんな程度で止めるつもりはない。
「なあ赤也、教えてくれ」
わざと吐息混じりに喋って耳に息を吹き込み、その度にびくびくと震える反応を楽しむ。
今までされるがままで赤也をどうこうしてやろうと思わなかったが、存外性分に合っているかもしれない。
「んじゃこれ外してくださいっって!!アンタに触ってんのが一番気持ちいーんっスから!!」
「却下。俺がしてやると言ってるんだ。喜んで受け入れたらどうだ?」
「いーやーだーっっっ!!」
自由にならない腕の代わりに足をばたばたとさせ抵抗してくる。
流石に腹でも蹴られては太刀打ちできない。
俺は床に等閑にしていた結束機をもう一度手に取り、赤也の右足を持ち上げると膝を曲げて思い切り縛り上げた。
腿と脛を固定されて動けなくなり、腹の近くまで足を広げられた状態で股関節が悲鳴を上げているかもしれない。
少し心配だが暴れなければ怪我はしないだろう。
それにこの程度で音を上げるような柔な奴ではない。
強制的に膝を立てた体勢を取らされる赤也を見下ろせば、股間の辺りが薄く盛り上がっている。
まだ自由な左足を擦り合わせて何とか誤魔化そうと試みているが、上手くはいかないようだ。
俺は左脚を大きく広げ、その間に座って揶揄するように熱の中心に視線を落とした。
「どうした?お前だってマゾっ気があるんじゃないか?こんな風にされて感じるとは」
「ちょっ…!!触んな!!」
「触ってくださいの間違いだろう?」
ハーフパンツの上から形に添うように指を這わせると、もぞもぞと腰を引いて逃げようとする。
追いかけるように掌で擦っていると、誤魔化しようのないほどに形を変えてきた。
赤也の意思とは反対に、まるでここだけが別の意思を持っているかのように布を持ち上げ、だんだんと湿り気を帯びてくる。
「赤也、気持ちいいか?」
思い切り首を振って否定しいるが、俺の掌の下にある熱は肯定を示している。
そっと腹を巻くゴムに手をかけ、指を下着の中に入れようとすると、ひっと小さい声が上がった。
拘束した腕で表情を隠そうとしてるが、歯を食いしばり快楽を追いやろうとしているのが手に取るように解る。
少しずつハーフパンツをずらし、焦らすように腹と陰毛の間を撫でていると、ひくひくと足が震え始めた。
この間接的な刺激だけでは足りないのだろう。
そろそろ音を上げるか、と思ったがなかなか赤也は頑固だった。
「う…っ…くっっっ」
だが、しっかり鍛えているとはいえ、まだまだ柔らかい皮膚に唇を寄せると喉で押し殺した声が聞こえる。
ようやく面白くなってきた、と舌を出して撫でるようにチロチロと動かすとビクリと体を跳ね上げた。
さっきまでの威勢の良さは鳴りを潜め、手の甲で口を必死に押さえて声が上がらないようにしている。
こうなれば意地の張り合いのようになってしまうのは自然の流れだろう。
俺は何とかして赤也を陥落させてやりたいと躍起になり、赤也はそれを阻止しようと必死になる。
今のところは拮抗しているが、自由に動ける分俺が有利なのは間違いない。
それは赤也も解っているのかすっかり態度を萎れさせている、
「くっそー…マジ覚えてろよ!!…これ外れたら昨日よりすげー事してやっから!!」
…かと思いきや、意外にも強い調子で睨み上げられてしまった。
「ほう…まだそんな口が叩けるか」
何をするのも俺次第という立場なのが解っているのか。答えは否だろう。
でなければこの様な反抗的な態度は取れまい。
「何っっ何すんっスか!!?」
お前は警戒心の強い猫か何かか。
一挙手一投足にいちいち大仰に反応するくせに、強気の態度を変えるつもりはないらしい。
俺は立場を解らせる為に、ハーフパンツを下着ごと一気に下ろす。
右足の拘束の所為で途中までしか下ろせないが、もうしっかりと反応した赤也の性器は勢いよく飛び出した。
腹に付きそうなほど勃ち上がったそれに直接触れないよう足の付け根をゆっくりと撫でる。
「―――っっうあっ!!」
上擦った声が俺の加虐心をそそるな、と冷静に考えながら、うっかり自らも反応してしまいそうになるのを自制する。
こちらが先に音を上げてしまえば赤也の事だ、鬼の首を取ったかのような態度に翻り何をしてくるやら。
だがつい"そうされる"自分を想像して興奮してきてしまった。
こうなればこちらが落ちるより先に赤也をドロドロに感じさせ、屈服させるが得策だ。
俺は僅かに伸びた爪の先で掻くように内腿の柔らかい部分を撫でた。
「くっ…っっ」
「赤也、どうして欲しい?」
もう間接的な刺激だけでは物足りないはずだ。
限界まで勃ち上がった性器がそれを物語っている。
早く触ってくれとばかりに赤く熟れた先端が揺らめくのを目で追っていると、弱々しく赤也が呟いた。
「っは……っく……ちゃんと触って…もう限界っス…」
「口の利き方には気をつけろ」
「うあああっっ!!」
指先で睾丸を跳ねてやると、面白いぐらいに赤也の体が揺れた。
強い刺激は痛みとして伝わったのか、怯えたように見上げてくる。
「触ってください、お願いします、だろう?」
「なんでっ…!!」
「嫌ならずっとそうしていろ」
「あーっっ!!嘘です!!触ってくださいっっ!!!」
半ばヤケクソ気味なのが気に掛かるが、まあ良しとしよう。
俺は掌全体で赤也の性器を包むように握った。
一瞬息を詰めたが、触れるだけでは物足りないのだと目で訴えてくる。
「それで?どうすればいい?」
初めてだからな、勝手が解らんとしゃあしゃあと言ってのける。
勿論解らないわけがない。
だが日頃の鬱憤を全て晴らすべく意地悪く問いかけてやった。
「アンタ…ほんといい性格してんな…」
どこまでも強気の態度を変えようとしない赤也に些かの焦燥と、真逆の面白みを感じる。
どうして相手を攻略してやろうかなんて、まるで試合中にも繋がる高揚感だ。
「ずっとこのままでいるか?」
「くっ…」
僅かに強弱をつけて握り込んだ指を開閉させると、途端に大きさを増す。
しかし決定的な刺激にはならない程度に力を加減すると、喉を上下にさせて薄く喘ぎ始めた。
少しずつ勿体ぶるように与えられる刺激を必死にかき集めようと、掌に性器を押し付けるような動きをみせるので手を離す。
「勝手な事をするな」
「っ…やっぱ昨日の…復讐っスか?…あんな悦んでたくせにっ…」
相手は思っている以上にタフなようだ。
しかし目の周りは真っ赤で快楽に溺れているのは火を見るより明らか。
「…復讐?褒美と言って欲しいものだな。昨日あんな目に遭わせてくれた、ご褒美だ」
「こんなご褒美いらな……っあああっっっ!!」
否定の言葉など聞きたくないと、俺は離していた手を再び性器に添え、今度はもっと快感が行くように扱いた。
「いらない?お前は俺から与えられるものがいらないのか?」
「くっっ…あっっ!」
「どうなんだ?」
「い…いらなくない…けどっ!!こんな形では…遠慮するっス」
ドクドクと脈打っているのが掌から伝わってくる。
そして時折漏らす小さな喘ぎがたまらなく気持ちいいのだと言っている。
だが恍惚とした表情を浮かべながらも完全に理性を飛ばしてしまう様子はない。
やはり受身ではそこまで興奮しないという事か。
相手の体だけではなく心までも制圧支配してやりたいと思い、そうする事が赤也にとって何よりの快楽の糧となる。
そう考えれば今のこの状況は受け入れ難いものだろう。
しかしそれを打破してしまえば赤也は一体どうなるのか、興味が湧いた。
何でもフラットに受け入れる相手ではなく、難攻不落だからこそやり甲斐があるというもの。
やはり俺の心の奥には加虐性があるのかもしれない。
ただし、赤也相手に限る事だが。
「どんな俺でも受け入れるんだろう?あれは嘘だったというのか?」
「ちっ…違いますって!!」
いたぶる様に言葉をかけると泣きそうな目を向け焦って言い返す。
その様に例えようの無いゾクゾクとしたものが背筋を駆け上がるのが解った。
やはりそうなのだ、と確信して事を進める。
「だったら、ありがたく受け取れ」
「うあっっ!そっ…それヤバいですっって…くっ」
力の抜けたところに不意打ちをかけた。
天井を向いてそそり立つ赤也の性器の先端を口に含みジュッと湿った音を立て吸い上げると、びくっと腰が浮き上がった。
面白い。
もっともっと感じさせてやると断続的に吸うと、頭上で荒れた吐息が聞こえ始めた。
舌を出して先端をくるくると撫でながら赤也の様子を伺うと、欲望全開のキツイ瞳でこちらを見ている。
「マジで…も、イきそ……」
「まだ我慢しろ」
「無理っス…!アンタのエロい顔見てるだけでイっちまいそう…」
はあはあと喘ぎながらもニヤリと見下すように笑う姿が気に食わない。
もっと溺れろ。
指で根元を締め付けた状態で、竿まで口に含み一気に唇で擦り上げる。
「あっ!!ちょっ…!!」
生意気な口から切羽詰った声が上がり、少し胸がすく。
頭を引き剥がそうと、腰を引いて膝で肩を押し返されるがその力は弱々しく、もう限界まできているのだと悟った。
だが簡単にはイかせてやらない。
もっともっと、苦しいぐらいに感じればいいんだ。
昨日された事が頭を過ぎり、沸々と何か怒りにも似た感情が湧いて出てくる。
先程は褒美だと言ったが、本当は意趣返しする気満々だった。
とはいえ、同じ事をしては能がない。
そう思い俺は体を起こすと赤也が100円ショップで買ってきたといっていた袋に入っていたある物を手に取った。
赤也が練習に行っている間に色々と用意しておいたのだ。
「…どしたんっスか?」
急に動きを止めた事を訝り、赤也が不安そうに視線を向けている。
そしてビニールの擦れる音に、ギクリと肩を揺らす。
自分で買ってきた物だ、中身が何かは解っているのだろう。
「な……何…するつもり…っスか?」
「こちらの台詞だ。お前、これで何をするつもりだった?」
俺は手に取った橙色のシューズ用の紐を赤也に見せつけるように指に巻きつける。
「そっ…それは自分で使うつもりにしてたんっス!!」
「テニス用か?」
青くなりながらもぶんぶんと首を縦に振る姿にそれが真実なのだろう事は解った。
しかし、
「だがこれでは細すぎる。試合中に切れたらどうするんだ」
安物らしい細く弱い網目のそれは、スポーツには向かないだろう。
「そうなんっスか?」
「だから俺が有効利用してやる」
「は?!」
自分の置かれている状況をすっかり失念した様子の赤也に、滅多に見せない笑みで言い放つと、
それで何をされるかを理解できたらしい赤也が俄かに身を悶えさせる。
逃げようとしているのだろうが、そうはさせない。
しかも、お前はその想像など遥か超える事をされるのだ。これから。
「ちょっ…勘弁してくださいっっ!!」
「大丈夫大丈夫、少し苦しいだけだ」
経験を踏まえてあやすように優しく言ってやると、ひくっと顔を引きつらせた。
「しかし何故橙なんだ?お前は赤色が好きなのだと思っていた」
「っっ―――…へ?」
少し萎えた性器を指先で扱きながらされる唐突な質問に、赤也は目を白黒させた。
後から赤也を襲うであろう恐怖をより効果的に演出する為に、関係のない話題を振り気をそらせたのだ。
赤也は一瞬逡巡して、へらりとそぐわない笑みを浮かべる。
「最近好きなんっスよ…っ…オレンジって、アンタの名前入ってっから」
意外な切り替えしに思わず指先に力が篭ってしまった。
うわっという赤也の悲鳴に慌てて指を離す。
随分と可愛い事を言ってくれるではないか。
「そうか。ならば…俺に締め上げられさぞや嬉しいだろう?お前のここも…」
「そっそれとこれとは…話がっ―――っっっ!!!」
すっかり元の勢いを取り戻した赤也の性器に紐を巻きつけた。
根元を何重にも巻いて固く縛り、もう一本は先端の括れた部分に巻いて締め上げた。
これで紐を解くまでは絶対にイけないだろう。
「いた…っっ痛いっス!!」
「すぐに良くなる」
「う…あっっ」
真っ赤に充血した丸い先端に再び唇をよせ、軽く口づける。
それだけでも十分な刺激になるらしく、赤也の腰がビクビクと跳ね上がった。
上擦った声を上げながら苦しそうに表情を歪める様はなかなかどうして、見ていて気持ちのいいものだ。
もっと声を上げさせてやろうと、括れに巻いた紐の上から舌を這わせる。
端を指で摘み上げ、引っ張りながら刺激を与えると、我慢ならない様子で声が出そうになるのを堪えていた。
縛り上げた腕を苦しそうに胸の前まで下ろし、手の甲で必死に口を塞いでいる。
それでもやはり抑えきれないのか、時折逼迫した声が上がった。
「苦しいなら声を上げたらどうだ?」
「いっ…いや…っだ!!!」
それはプライドが許さないとばかりに、目の縁に涙を浮かべながらも絶対に大声を上げようとしない。
だがそんな下らないプライドなど、今に俺が崩してやる。
「赤也…ほら、もう我慢ならないんだろう?」
「うーっうーっっく…!!」
あまり色気の無い唸り声は面白くないし、聞いていてもあまり高ぶってこない。
しかし赤也自身の放つ強烈なオスの香りは先程から俺の下半身を直撃している。
これを自分の中に納めたいなど、同じオスとしては考えられない思考に辿り着いてしまう。
赤也によって歪められた性衝動は、こんな状況でも出てきてしまうのかと思うと、
男としては少しショックであり、しかし赤也を思う者としては嬉しくもある。
が、今日はこのままで終わるつもりなど毛頭無い。
俺は体を起こすとベッドサイドに置いてあるローションに手を伸ばした。
「ちょっ…マジで後ろは勘弁っス!!」
何をされるんだと赤也は目を見開き、真剣な表情で訴える。
「どうしても嫌か?」
わざと悲しげな声色を作ったが、頑なな態度の赤也には通じなかった。
「絶・対・嫌・です!!」
「だったらいい子にしていろ。考えてやらなくもない」
「なっ何するつもりっスか?!」
直径2ミリにも満たないだろう紐の端を指でつまみ、赤也に見せつけながら言い放つ。
「後ろが嫌ならこちらに入れてやろうか」
「は?!」
「ここに」
テープで巻かれた紐の端は硬く、簡単に折れるようなものではない。
それで亀頭の先、先程から締め上げられた所為で悲鳴を上げている鈴口にあてがった。
瞬時に状況を理解した赤也の顔がみるみる青ざめる。
「何考えてんっスかアンタ!!信じらんねえ!」
「昨日それと全く同じ事を考えたぞ、俺は」
恐怖で萎えようとする性器を指で刺激し続け、ローションを垂らすとその端を押し進めた。
長さはおそらく1センチほど、尿道を押し開けずぶずぶと中に入っていく。
「うあっ…ああああああああああああっっ!!」
「しっかり濡れているから痛くはないだろう?」
「あっ…ちょっ…抜いてっ…下さいよっっ」
顔を歪めてはいるが、痛いといった様子ではない。
中からじわじわとやってくる快感があるのだろうか。
俺自身未知数な事をしているので、赤也が今何を感じているかが解らない。
しかし口に銜えられ、舌で先端にねじ込むように舐められる時の快感ならば経験済みだ。
それを上回るものなのか、それとも苦痛なのか、しかし一番は恐怖だろう。
赤也はボロボロと涙をこぼし始めた。
「っっぐ…っ」
ああ泣き顔も可愛いな、と思いながら指先でぐりぐりと抉るように紐の先端を動かすと、縛った右足の腿が僅かに震えてきた。
漏れる吐息も熱く甘いもので、感じているのだと解って安心した。
俺は別に赤也を痛めつけたいわけではないのだ。
精神的にいたぶりたい気持ちはあるが。
「やなぎさ……抜いて…っヒモ、外してくださ…っっ」
「気持ちいいのか?」
「っっはっ…イきそう…っス」
素直に認めて快感を追う姿はいじらしくもあり、虐めたくもあるものだ。
このまま開放するのは惜しい。
「もう少し我慢しろ」
「うあっ…も、無理っ…」
すっかり心が折れたのか、いつもの強気を突き通す事もできないらしい。
泣きながら訴える声が震えている。
本当に限界なのだろう。
俺は赤也から手を離し、体を起こして顔を見下ろした。
涙や涎で顔がぐちゃぐちゃに濡れている。
あまり見目はよくない状態なのに心の奥から愛しい感情が生まれてくる。
可愛い。俺の手で汚れてしまった赤也が可愛くてたまらない。
「赤也…」
「あ…う…っ」
頬や目元に口付けると、涙で空ろになった瞳がようやく光を取り戻す。
そして自分の置かれている状況を再び自覚して、拘束された腕をじたばたと動かしながら抵抗を始めた。
「そんなに俺にされるのは嫌か?」
「っっ嫌だ!!」
「ではお前はそんなに嫌な事を俺にしているのか?」
「……え?」
言葉の意味が解らないとぽかんと開く口から腫れた舌が見えた。
舌を出して赤也のそれと絡ませるようにする。
俺の言葉とキスというには乱暴なそれに戸惑い、されるがままにしている。
くちゅっと音を立てて離し、赤也の目を捉えた。
涙でゆらゆらと揺れる眼球が赤く染まりかけている。
だが試合中のような現象ではなく、単に泣きすぎた所為だろう。
涙を舐めるように瞼に口付けると漸く何を言わんとしているか理解できたのか震える声がした。
「……アンタ…ほんとは嫌なんっスか…?俺にされんの…」
「そうではない」
「…でも…」
不安そうに見上げる姿が痛々しく映り、俺はあやすように赤也を抱き締めた。
「本気で嫌がっているのなら、今のお前のようになっていたという事だ」
「え?どゆ…意味っスか?」
「別に俺は今までお前に無理矢理されていたと思った事はない。雰囲気に流されていたわけでもない」
苦しそうに顔を歪ませながらも、相変わらずこちらを不安そうに見ている。
「赤也」
「は…はい…」
「俺はお前に求められて嬉しいし、触れたいと思ってくれているなら受け入れたいと思っている。そこにはちゃんと俺の意思があるんだ」
ここにきて昨日赤也があんな強行に出たのもこちらの心の底が見えないという不安があったからなのかもしれないな、と思いつく。
「やなぎさ…」
「解ったか?相手に流されて出来るような事じゃない。男が男に抱かれるというのは、そういう事だ」
お前が相手でなければ、誰がこんな事を。
そう言えば、漸く赤也はホッと息を吐き、緊張に強張った体から力を抜いた。
「赤也、返事は?」
「はい…っ」
「いい子だ」
様子を伺いながら性器の根元に巻きつけていた紐に指を絡め、一気に引き抜いた。
濡れた紐が肌を擦り、赤也は声を上げて悶えるが先端で堰き止めている為熱を解放する事はできない。
「あぅ…っっふ…っ」
「いい子にはご褒美をやらないとな…」
もう暴れる事はないだろうと、足を縛っていたプラスチックの紐をハサミで切って解放した。
まだ膝の関節が少し違和感があるのか二三度曲げ伸ばしをした後、両足をベッドに投げ出した。
完全に気の抜けた隙に、足に引っかかった状態だったハーフパンツを下着ごと引き摺り下ろし、下肢を丸裸にしてやる。
「なっ…何…っ次何すんっスか!」
「そんなに怯えた顔をするな。気持ちよくしてやるだけだ」
俺は一旦ベッドから起き上がるとズボンを脱いで床に放り出した。
足が自由になったおかげで動きの幅が広がり、上半身を起こして泣きそうになりながらこちらを見ている。
その表情とは不釣合いに反応を示している赤也の性器に再び指を這わせた。
赤也の足の間に跪き、下から表情を伺いながらぎゅっと指に力を込める。
「っぅ…あっ」
「お前のここ、好きだぞ」
「ふっ……はい!?」
まだ紐で縛られた状態のカリに舌を這わせ、ニヤリと挑発的に笑うと、瞠目する赤也が素っ頓狂な声を上げる。
「体はまだ未熟なくせに、ここは一丁前に張り出ていて……俺の中の…いいところを刺激する」
掌の中にある熱がドクドクと血を集めているのが解った。
俺の言葉に翻弄されるのは本位ではないのか、顔を顰めて必死に堪えている。
だがもう限界のはずだ。
さあ早く降伏しろ、と刺さったままの紐の端を舌でぐいぐいと押し込めてやると、細い悲鳴が上がった。
「あ…ぅっ…もー…無理っ…!マジで…限界っス」
「イきたいか?」
答えの解りきった事を尋ねると、首が取れるかと思うほどガクガクと振り必死に訴えてくる。
「このまま手でイくのと、俺の中でイくの、どちらがいい?」
予想外の問いかけなのだろう、ひゅっと息を飲み、一瞬言葉を詰まらせる。
「あ…アンタん中で、イきたい…けど、今入れたら…絶対堪えらんねえ」
掠れた声で、恥ずかしいだろう事を衒いもなく正直に話す姿が可愛い。
何でも聞いてやりたくなる。
「だったら先に一度イけ」
「ああっ!ちょっ…くっ」
口に銜えようとするが、足をバタバタとさせて抵抗を始める。
この期に及んで一体何だというのだ。
足を押さえようとするが、先に腰を捩って逃げてしまった。
「暴れるな、危ないだろう」
「ちょっ、待っ……アンタも一緒にっ」
「何?」
「見えてんっスよ…アンタも限界きてんでしょ?」
先程までの余裕のない様子など微塵も感じさせずニヤリと笑う赤也の視線は俺の下肢にある。
赤也の言う通り、下着の中の俺の性器も赤也程ではないにしろ、形を変え始めていた。
「パンツ脱いで、こっち向いて」
赤也は手首を縛られたままではあるが、器用に体を捻り、クッションを背に横になった。
僅かに上がった視線が挑発的にこちらを見ている。
赤也が何をさせようとしているか、瞬時に理解してカッと顔に血が上るのが解る。
命令されるまま動くのは癪に障る。何より恥ずかしい。
しかしここまでくれば、もうそれもどうでもいいような気がしてきた。
俺は下着を脱ぎ捨て赤也の顔に跨った。
「勝負だ、赤也」
「どっちが先にイかせるかって事っスか?」
「ああ」
「上等っス!絶対負けねえ」
手が自由に使えるからこちらに分があるような気もするが、初めての行為に些かの不安はある。
そして不安は的中してしまった。
赤也の目の前に全てを曝け出すというのは思った以上に羞恥を伴うらしい。
大して触れられないうちに、すでに形が変わり始めてきているのが自分でも解る。
しかも赤也がわざと水音を立てるようしゃぶりつく為、耳から犯されていくような感覚に陥る。
「っっん……あっっあっ」
「ほらほら、負けちゃいますよー?」
そうは言っても腰に力が全く入らないのだ。
赤也を同じようにしてやろうにも、情けない事に指に力が入らない。
だが翻弄されるままは性に合わない。
俺は必死になって赤也に巻きつけていた紐を解いた。
ビクビクっと脈打つ姿に、赤也も口ほどに余裕がない事が解る。
「あっっ!」
先端を堰き止める紐の端を引き抜いた瞬間、甲高く赤也が鳴いた。
しかしまだイっていないようなのでこのまま先にイかせてやると口に銜えた瞬間、思わぬ衝撃を受け俺は前のめりに倒れた。
「ああああっっうあっっ…何…っっやっっやめっっ」
「くっ……アンタこっちのが気持ちいいんだろ?チンコしゃぶられるより」
赤也は俺の尻の間に顔を埋めると、あろう事かその窪みの奥の孔に舌を這わせてきたのだ。
「あっ舐め……るなぁっ…きたな…っっ」
強烈な羞恥と快感でガクガクと腰が崩れ、ますます赤也の顔に埋める結果となる。
「けど入れんだったらちゃんと慣らさないと。俺手ぇ使えねーんだし、こうするしかないっしょ?」
「やめっやっああっっ」
「逃げんな」
「ああっっ赤也ぁっっ駄目だっっ!!ひっっ」
何とか腰を引こうとするが、執拗に舐められ、挙句グッと力を込めて舌先を中に入れられた瞬間、頭の中が真っ白に焼け付いた。
「……アンタの負けっスね」
一拍置いて、赤也のやけに嬉しそうな声が遠くからする。
我に返り慌てて体を離すと、ニヤニヤと笑う赤也の顔に白い液体がかかっていて、手の甲で拭ったかと思うと見せつけるように舐め上げた。
「あ……」
「勝ったら何かしてくれんっスか?」
先にこちらからけしかけたというのに何たる不覚。
そしてニタリと嫌な笑みを浮かべる赤也が憎たらしい。
しかしよく見れば赤也の股間も白く汚れていていつの間にかイっていたようだ。
「…っ互角だろう……お前だって…」
「俺のが後っスよ。だってアンタのイく瞬間の超エロい声聞いてイったんだし」
「……ドローだ」
「アンタのが先」
何だか下らない言い合いをしている気がするが、引き下がれない。
負けを認めれば何をされるか。
体を起こし、向き合うように赤也の腹に乗る。
そして睨むように見下ろすが相手も引く様子を見せない。
「意地っ張りーアンタも頑固っスね」
「そっくりそのまま返してやる」
小憎たらしい事を言う口を塞ぐようにキスを仕掛けると、赤也もすぐにその気になったように舌を突き出し絡めてきた。
一度達して余裕が出てきたのか煽るように口内を弄ってくる。
「ほら、も一回あっち向いてよ。しっかり慣らしてあげるから」
唇を離し、くっと顎をしゃくり偉そうに命じる姿にカチンときた。
誰が言う通りになどするものか。
俺は床に等閑にしていたローションを手に取り指に垂らす。
途端に顔色を変える赤也に僅かな怒りは霧散していく。
「そんな期待に満ちた目で見るな。応えてやりたくなる」
「じょっ…冗談!!」
そんなんじゃねえ、と頭ごと振って勢いよく目を逸らす赤也の顎を掴み、こちらに向き直らせる。
「ならこちらをしっかり見ていろ」
「…へ?」
相手にされるままなのが気に食わないのなら、こちらから飛び込めばいい。
俺は濡れた右手を後ろに回すと、ゆっくりと孔に指を這わせた。
「んあっっ」
思わず声が出てしまう。
自分でこんな場所を触るのは初めてで力加減が解らない。
赤也も予想外のこの行動に目を丸くしていて、もう目は離せないとじっと股間を注視している。
死にそうに恥ずかしい。だがここまでしてしまえば後には引けない。
熱くなる下肢とは対照的に、だんだんと冷静になってくる頭で記憶を呼び戻し、いつも赤也はどうしていたかを思い出す。
「あうっ…っんっんっ」
「もっと中の方も触ってみてよ」
「んっ…あああっっ!!」
言われた通り中指を奥に押し進めると、いい場所を掠ってしまいビクッと腰が跳ね、赤也の腹に俺の性器が当たった。
途端に折角冷静さを取り戻せたというのに、あっという間に思考が鈍ってくる。
ただ一心不乱に指を突き入れ、物足りなさを感じ始めた。
「すっげーエロ……」
その様子を眺め荒い息を隠さず蕩けるような表情を向ける赤也を見ているとこちらまで高ぶってくる。
柔らかくなってくる孔からは止め処なくぐずぐずと濡れた音が漏れ、ひくっと体が震えた拍子に赤也の性器が尻に当たる。
元気を取り戻したそこの熱さにますます欲が湧いて出てくる。
「あ…あか…やっっく…うっっ…も、入れたい…か?」
「うん…入れてよ、もうガマンできねー…」
先に赤也が折れたように装っているが、本当は俺の方が限界だった。
早くこの中を赤也で埋めたい。いっぱいにしたい。
俺はこれ以上刺激しないようゆっくり指を引き抜き、濡れた指で二三度赤也の性器を扱いた。
「…え?…ゴム、つけないんっスか…?」
「いい……このまま…お前のを直に感じたいから…」
いつもなら絶対にしない事だが、もう今はただ赤也の生の熱が欲しかった。
硬さも充分で、天井を向いてそそり立つものに手を添え後ろにあてがう。
気を抜いてしまうと入口に当たる熱さだけで達してしまいそうだ。
慎重に腰を落としていくと、一番太い部分が孔の襞を押し開けるのが解る。
「あっ…ああっ…」
「ちょっ…中途半端なとこで…止めないでよっ…くっ」
「そう…言ってもっああっあんっあっ」
下から押し上げてくる苦しいほどの熱さに頭がくらくらとする。
赤也の言い分も解らないでもない。
だが、自分から入れるなど初めてで、今度は本当に勝手が解らない。
下から赤也を受け入れる事はもう何度もやっている。
だから何とか力を抜いて受け入れようと思うのだが変な風に力を込めてしまい、その度に赤也が苦しそうに喘ぐ。
「っ…柳さ……腕、ほどいて…っ俺が…するから」
「いや、だっっ―――っあんっっ」
赤也の肩に縋りつき、呼吸を整えて腰を進めていくが、まだ半分しか入っていないのかと気が遠くなる。
「意地っ張り…っっくっ」
「何とでも言え…っあぅっ…んっ…んんっ…きょ…うは…俺がっ最後まで…すると決めた…んだっ」
「―――っっあ!!」
「あああっんんっあんっ」
熱い息を吐き、力を抜きながら一気に腰を落として赤也の全てを体の中に納めた。
二人して声を上げた後、同時に長い安堵の溜息を吐き思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「…苦しくないっスか?」
「……気持ちい…」
不似合いなほど優しく聞かれ、思わず本音が漏れてしまう。
それでもすぐに腰を使う余裕などなく、ただ俺の中で鼓動を打っている赤也の性器を感じる事しかできない。
しかしこちらの呼吸が整うのが待ちきれない赤也は早くも下から突き上げるように腰を動かし始める。
「んっんっ…あっ!待てあかや…っっあ」
「無理だって、気持ちいいのアンタだけじゃないんだから。早く動いてっ」
声が掠れて切羽詰ったものとなっている。
よく見れば赤也の瞳がギラギラと閃く赤い色をしていた。
そして皮膚が紐に擦れて赤くなった手首を見せつけながら強い視線で射抜いてくる。
「これ外すつもりないんなら…アンタ自分で動かなきゃイけないの解ってる?」
ゾクリと背筋を快感ではない冷えた何かが駆け上がる。
ああこのままでは食われてしまう。従うしかないのだ。
先刻まで俺の手で情けないほどに泣かされていた相手が今は牙を剥いている。
舌なめずりしながら見上げる赤也の獣の様な瞳に突き動かされ、意を決して腰を引き、もう一度打ち付けるように腰を落とす。
単調に抜き差しをしているだけなのに、いつもと違う体勢だからか、慣れない快感が次々に襲い来る。
「ああああっ…っっ!あうっ…ひっ?!」
更に赤也が手を伸ばし、そろっと乳首を撫でるものだからたまらない。
縛っていたはずなのに何故。
顔を上げて胸元に添わされた手元を見れば、汗で滑ったからか交差させて縛ったはずの赤也の腕が、掌が合わさるように組みかえられている。
上肢の自由度が格段に上がり、赤也は指先で煽るように乳首を撫で続けた。
「やめっ…あっ…うっ…」
「ほらほら、もっと腰振って」
赤也が下から突き上げる度、ベッドのスプリングが変な音を立てながら軋んでいる。
だがもう目の前の快楽を貪るのに必死でそんな事は気にしていられない。
俺は赤也の動きに合わせ、ひたすら腰を振る事しかできないでいた。
「あんっあっあ!っああんっ…う…あっも…う、駄目だ…っ」
「…っ…じゃ…もうちょい、前屈みんなって…よ」
もう意地を張っている余裕など無い。
言われるまま赤也の肩の横に手をつき、起こしていた上体を僅かに前屈みにさせる。
そしてもう一度動こうとした瞬間、電流のような快感が襲った。
「んああああああああああっっあっ…やっ…何っ」
「アンタのお気に入りのとこが、一番好きな場所に当たったんだよ」
「はっ…ああっ…やっっやだっ…あかやっ…」
強すぎる刺激が苦しくて動きを止めようと思うのだが、もうこちらの意思など関係なしに下肢が動く。
もうイきたい。ただその思い一心で只管先端の張りをそこに擦り付ける。
「っ…も…っっイくっ…」
助けを求めるように赤也を見ると、腰を落とした瞬間を狙って突き上げてきた。
脳天を突き抜けるような強烈な感覚が体を襲う。
「あっあ…あ――――っっぅううっん!!!!」
「くっ…あっ」
ぐっと奥に入った瞬間、俺の性器から弧を描き赤也の腹にまで精液が飛ぶ。
息を詰める赤也から吐き出されたものが体の中をじんわりと犯す未知の感覚に、達したばかりだというのに再び欲が頭を出す。
浅ましい底なしの欲に呆れてやしないか、少し不安になったがそれはすぐに打ち消される。
まだ体の中に納まったままの赤也の性器は硬さを保ったまま。
赤也の目からもまだ足りないというサインが出ていた。
「…まだ全然足りねえ」
低く唸るように吐かれる言葉にも色が篭っていて、それだけで耳から犯されているような気分になる。
「…あ…かや…」
「外して。アンタももっとしたいんでしょ?」
反論する隙を与えない絶対的な口調で言われ、考えて拒否する間もなく俺は結束機の横に置いてあったハサミで赤也の手首を拘束していた紐を切る。
ハサミを床に置き、二重に絡んだ紐を外した瞬間、赤也は服を脱ぎ捨て上体を起こし俺の肩を掴んだ。
そして次の瞬間にはもう視界が一回転してベッドに横這いに押し倒される。
「―――あっっ」
赤也がまだ中に入った状態で無理な体勢を取らされ、苦しさのあまり下肢に力が篭る。
その所為で余計に赤也の性器をより生々しく感じる事となり、股間の熱が上がった。
「気持ちイイっしょ?」
赤い目が弧を描き、心底楽しそうに舌なめずりする。
何をされるんだと身構える間もなく、大きく足を広げられた。
そして俺の右足を肩に乗せ、ぐっと奥まで腰を押し進めてくる。
「ま…っ待てあか…やっっ…ぅ…恥ずかし…っっ」
何とか逃れようとシーツの上を這うように空いている左足を動かすが赤也がその上に乗って体重をかけた所為で動けなくなってしまった。
しかも赤也は大きく広がった足の間を注視している。
この体勢では全部見えているだろう。
「うあっ…あっあっやめっ…めろ…見るなぁっっ」
「嫌ーだね!っつーかさっき全部見ちゃってるし」
猛烈に恥ずかしい体勢を取らされているが、動けない。
赤也は抵抗できない俺を見て至極楽しそうに笑うと抱え上げた足に顔を寄せべろりと舌を這わせた。
「ひぁっっ?!」
思わぬ攻撃にぞわりと粟立ち、ぎゅっと赤也を締め付けてしまう。
「あーマジですっげー締め付け…全部持ってかれそ……」
「―――くっ…ああっっ!」
ぐっぐっと先端を押し付けるようにされ、思わず背中が反り返る。
達しそうになる感覚は赤也が肩を押さえる感触により霧散した。
「そのままじっとしてて」
「…え?…な…何?」
腰が反ったままのあまり体によさそうではない体勢のまま、赤也は右足を抱え直すと一気に最奥まで突き入れてきた。
「ひっ…ああああああああっっんあっあっ…やあっっ」
「あっ…くっ」
「やめっ…あっあっ!!」
体を反らした所為で中の様子もいつもと変わってしまったのか、襲い来る感覚が全く覚えの無いものになっている。
未知の領域を味わわされ、どんどんと体中の熱が上がり、肌のぶつかる音と、汗や体液の濡れる音が混ざり耳を塞ぎたくなる。
だが上半身は肩を押さえつけられシーツに押し付けられた状態で動く事ができない。
下半身は右足が赤也の肩にかかり股間を串刺しにされ、強すぎる刺激に徐々に足先の感覚が消え、体中全てが抜き差しされる部分に集中する。
「ふか…いっ…あか…やあ…」
「あんま締めないで…って、イっちまいそ…」
「も……イけっ…」
限界なのは俺も同じなのだ。
俺は更に上体を反らせ、中に入った赤也をより締め付ける。
「うわっ…」
「はあっ…んっ…あかやっ…あかや…あ…」
シーツに上半身を押し付けているので顔を上げる事はできない。
横目で表情を伺うと、赤也の喉が上下して唾を飲み込む様子が見えた。
「その目見てるだけでイきそー…もう何されても文句言えないっスよ…!!」
「…え?」
ぐるりと視界が回り、天井と自分の爪先が視界に入った。
一瞬何が起きたか解らず、深く赤也の性器が突き入れられる感覚に我に返る。
「…っっあっ…あああっ!んんっあっ!」
仰向けにされたかと思うと両足首を掴まれ、天井向けて引き上げられそのまま下から突き上げるように奥を抉られる。
「あっああっだめだっ…っっあっあか…っっ」
不安定に腰を浮かせた状態が余計に感覚を鋭くさせ、よりリアルに赤也を感じてしまう。
「柳さん…イくよ」
赤也は掠れた声で何やら不気味な宣言をして足首を掴んでいた手を膝裏にずらし、ぐっと力を込めて上半身に押し付けてきた。
「やっ…あかやっ…ひぃっ」
音を立てながらより深く突き入れられ、もう思考が霞み始めてきた。
ただ馬鹿みたいに声を上げて揺すられるまま感じる事しかできない。
「あっ…も、イくっっ」
「ああっんっああああああああっっあっ…!!!!!」
ぶるっと体を震わせた赤也がぐいぐいと性器を押し入れながら中に精液を注ぎ込み、その熱い感覚に触発されるように俺も達してしまった。



遠い意識の先で何やらごそごそと動いているようだが、体を動かす事がままならない。
されるがままに身を委ねているうちに、徐々に意識が浮上してきた。
「……ん…」
「あ、気がついた?」
薄っすらと瞼を上げると、天井と嬉しそうに笑う赤也が目に飛び込んできた。
赤也、と呼ぼうとするが喉に引っ掛かって音にならない。
「…あ、…かや?」
ようやく出た声は酷く掠れている。
あれだけ声を張り上げていれば当然か。
悲鳴を上げているのは喉だけではない。
腰も、足も、大きな声では言えない場所も痛い。
しかしドロドロに濡れていたはずのそこに気持ち悪い感触がない。
まさか、と赤也の方を伺えば満面の笑みが返される。
「気ぃ失ってる間にやっちゃいました、後処理」
羞恥より先に、何だか申し訳ない気分になってしまう。
一時の感情で突っ走り、避妊具を付けずにやろうと言ったのは俺だ。
それなのにその後始末を赤也にさせてどうするのだ。
「……すまん…」
「へ?何で謝るんっスか?勝手にやっちゃって恥かしいって怒られると思ってた」
「え?ああ…いや、恥かしいのは…そうなんだが……」
それより何だか今日はもっと恥かしい事を色々としたような気がする。
初めはある程度までこちらの好きにして気が済めばいつものように赤也に主導権を与えるつもりでいたのだが、
思いもよらず楽しくなって調子に乗ってしまった。
記憶を呼び起こさないようにするが、不思議そうにこちらを見る赤也の姿に次々と湧いて出てくる。
顔がどんどんと赤くなっていくのが自分でも解る。
俺はそれを見られないよう寝返りを打って壁際の方に体を向けた。
「あっ!ちょっと!!そっち向かないでよ、淋しいっス!!」
「淋しがっていろ」
「そんな事言わないでこっち向いてって。顔見ないようにするからー」
俺の心の内などお見通しだと言わんばかりに、赤也は強引に体を自分の方へと向き直らせると、ぎゅっと胸に顔を押し付けるように抱き締めてくる。
「これで見れないっス」
「……ああ」
激しく抱き合うのもいいが、こうしてゆったりと身を委ねるのもいいものだ。
ゆっくりと鼓動を打つ赤也の心臓音に合わせて呼吸をすると波立った心が不思議な程に落ち着いてくる。
俺はゆっくりと赤也の背中に腕を回し抱きつく形となった。
途端に腕の力を更に込められる。
「…っ…苦しいぞ赤也」
「もー俺マジで嬉しいんですって。昨日と今日でアンタの心ん中いっぱい見れたし」
やはりそうだったのだ。
これからは余計な事は考えず、素直に赤也には全て曝け出してしまえばいいのかもしれない。
どんな俺でも受け入れてくれるという言葉に嘘偽りはなかったのだから。
「ね、ね、俺いい子だったでしょ?明日練習見に来てくれるんっスよね?」
「……今のところはマイナスポイントだらけだ」
「何でっっ!」
「自分で考えろ」
気を失うまで攻め立てて、どの口がそう言うのだ。
「いーっス。んじゃどうせ悪い子ならもっと凄い事させてもらいますから」
「待て!!いい子だ!ちゃんといい子だった!!」
これ以上されては本当に身が持たない。
慌てて体を離し言葉を撤回する。
「なーんか腑に落ちないけど…ま、いっか」
再び身を寄せて緩く抱き締める赤也に些かささくれた感情が出てくる。
いつの間にか主導権を握られている。面白くない。
平然とどの辺がいい子だった、などと甘えるように尋ねてくる姿が癪に障る。
可愛い態度を見せればどんな強請り事も通ると思ったら大間違いだぞ、赤也。
「そうだな…意外と虐められるのが好きだった、というところか」
「は?!」
「お前の性根はサディスティックなものばかりかと思っていたが…攻めたてられて泣く姿もなかなかだったぞ」
「ちょっ…何っスかそれ!!ありえねえ!!!っつーか趣味悪すぎっス!!」
胸に埋めていた顔を上げてニヤリと笑みを作り、耳元で囁いてやる。
「癖になってしまいそうだ」
「―――っっ?!」
途端に青褪める赤也を見て、昨日今日に蓄積した鬱憤が全て晴れる思いがした。

これがおれのげんかいです…色んなおれの。
れんじさんもげんかい。あかやもげんかい。なによりおれがげんかい。
限りなく攻蓮二と限りなく受赤也の赤柳書くつもりが、
やっぱり最後は紛う事なく赤柳になってしまう不思議。
何でや。
あんまり赤也啼かせれんかったし。残念。
もっとあんあん言ってもよかったんじゃないか。
というか、君ら真っ昼間から何やっとんねーん
けどドS蓮二は素晴しき紙一重。表裏一体でドM蓮二。
本当にすばらしい生き物ですね。
それにしても拘束の解けた赤目モード赤也は暴走しすぎ。
何かちょっと上手く書けなくて、この時ほど文才のなさを恨んだ事はねえ…!
松○崩し→つ○め返し→深○→理○知らずの、変形Ver.だと思ってください。
ね、やりすぎですよ。
けど蓮二さんもたいがいやけど。
突っ込むって、そっちのが辛くないか?
まあさぞや楽しかったんだろうよ。
さて、この目覚めた蓮二さんをどうすればよいものやら…

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