白妙蓮寺
白六花【はくりっか】と呼ばれる風土病にかかり、命があと半年と解った時、蓮二の頭には一人の少年が過ぎった。
年は一つ二つほど下で、最近使用人として蓮二の住む屋敷へとやってきた。
名は赤也といい、活発そうな印象の生意気な少年だった。
辛い仕事も文句を言いつつだが、きちんとこなしていて、年の離れた他の使用人達と楽しそうにしている姿がよく見かけられた。
気に食わない。憎い。何の悩みもなさげに能天気に笑っている姿を見るたびに、息が詰まりそうな程の激情が蓮二の身を焦がした。
そしてその出所不明の激情は蓮二を苦しめた。赤也の顔を見る度に膨れ上がる己の醜い感情を直視する事ができない。
(中略)
未来を無くし、先の見えなくなった蓮二は見る見る生きる気力を失った。
それまで己を律し、厳しく生きていた事が嘘のように自堕落な生活となり、一日中布団から出ない日もあった。
本を読んでいても内容は頭に入らず素通りしてゆく。
ただ流れる時間に身をゆだねるだけの毎日、その側にはいつも赤也の姿があった。掃除をしていたり、蓮二の世話をする事が主だったが、時折庭を眺めながらダラダラと居眠りをする事もあった。
だが何をしている時も赤也は蓮二から離れる事はなかった。
一日の仕事の始まりは朝食を蓮二のいる離れに運ぶ事から。そして夜、蓮二が眠りに就くまでの間は用がある時以外は必ず離れに赤也の姿があった。
夏の盛りの頃から感染を恐れ、家の者ですら近寄らなくなったというのに、赤也は義務的に蓮二の側に居続けている。
そんな様子にますます蓮二の心は掻き乱されていくばかりだ。
〜続〜